このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

PROFILE─あの頃─

ずいぶん前、西野は自家発電装置用の強力なエンジンの設計に関わったことがある。
6シリンダで総排気量18㍑、毎分1800回転で600馬力を出す、というエンジンだった。 鉄道車両用に製作していたエンジンが、DMH17H(総排気量17㍑)で180馬力、出力アップ した新系列といわれるDMF15HS(総排気量15㍑)でさえ300馬力だから、600馬力という出力 がいかに大きいか分かるであろう。
1シリンダあたり3㍑という燃焼室に大量の空気と燃料を供給するために吸、排気弁は それぞれ2個ずつ備えた4弁式、大きな開口をあけた吸気ポート、巨大な燃料噴射ポンプを 側面に抱いていた。

夏の暑い日、各部のマッチング試験、性能試験、耐久試験を実施した。燃料噴射ノズルの 孔数や角度、ターボチャージャ(過給機)のノズル、ディフューザをあれこれ交換しては、 データ収集をやった。
セルクランキングして始動する。600回転のアイドリングからガバナのスピードレバーを 調整して回転を上げていく。所定の1800回転に達すると、足元の水バルブを開く。水動力計 に水が供給されると、動力計の針が大きく振れると同時に一瞬、過給機がキューンと音を 上げる。水動力計のハンドルをゆっくり回していくと、エンジンが唸りを上げる。過給機が キーンという独特の高周波音を響かせる。騒音は100dBを越える。耳栓をしていても、 エンジンの音、過給機の音は聞こえる。冷却用の水タンクからはもうもうと湯気があがる。
各部の温度が一定すると、計測を始める。過給機のブースト圧は水銀柱で測っても1.5mを 越える。燃料消費量を計測するフラスコはまたたく間に空になってしまう。

頭から水をかぶったように全身汗にまみれ、事務所に戻ってもしばらくキーンと耳鳴りが していたが、今思えば、充実していた。

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください