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鎌倉夢語り 〜 大姫 編 〜


〜 舞扇 涙の舞い 〜


まず、はじめに。

この物語の時点での、主な登場人物の年齢についてです。

大姫は、九歳。

海野小太郎幸氏は、十四歳。

静御前は、十九歳。




では、物語の世界へどうぞ・・・




静御前が鶴岡八幡宮の舞殿で奉納した舞は、鎌倉では有名な出来事となった。

静御前の名前は、鎌倉では知らない者はいないくらいに有名になった。


静御前が安達新三郎清経の家に預けられている。

理由は、源義経との間の子を身籠っていたから。

静御前が鎌倉の外に出られる日は、少なくともまだ先の事になる。


源頼朝は、源義経と静御前との子供が生まれた時の事について、指示を出している。

「女だったら捨て置け、男だったら生かしておくな。」

子供の命も将来も、男に生まれるか、女に生まれるかで、全く違ってしまう。

静御前は源頼朝の命令を、驚く様子もなく、普通の表情のまま黙って聞いている。


静御前は、大姫や海野小太郎幸氏と会って話しはしたものの、鎌倉の町を歩く気にならない。

鎌倉の町に出掛けようとすると、安達新三郎清経の家の者か家臣が着いてくる事になる。

一緒に歩く相手の事を考えると、楽しめる状況ではない。

静御前はため息を付きながら呟いた。

「なんだか詰まらない。楽しい事もないし、とても暇。」


そんなある日の事。

海野小太郎幸氏が静御前を訪ねてきた。

静御前は海野小太郎幸氏を不思議そうに見ている。

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「お久しぶりです。」

静御前を見ながら軽く礼をした。

静御前は海野小太郎幸氏に不思議そうに話し出す。

「お久しぶりです。」

海野小太郎幸氏を見ながら軽く礼をした。

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「家の中にずっと居ると、落ち着きませんよね。差し支えなければ、外に出ませんか?」

静御前は海野小太郎幸氏に不思議そうに話し掛ける。

「外に出るのは構いませんが、誰か付いてくると思いますよ。」

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「こちらを訪ねた時に、大姫様のお名前を出しました。何かをしたら、後々面倒になる可能性もあります。ですから、心配する必要はないと思います。」

静御前は海野小太郎幸氏に不思議そうに話し出す。

「源頼朝様の嫡女となると、名前だけでも威力があるのね。」

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「今のお話しについての否定はしませんが、一番怖いのは別な方だと思います。」

静御前は海野小太郎幸氏を不思議そうに見た。

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「では参りましょう。」

静御前は海野小太郎幸氏に不思議そうに話し出す。

「はい。」

海野小太郎幸氏と静御前は、外へと出掛けて行った。


海野小太郎幸氏と静御前は、日差しを避けるように木の下へとやってきた。

静御前は辺りを確認するように見回したが、誰かが居る気配は無い。

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「大姫様から、静殿が出掛けたい場所があれば、案内するようにとの話がありました。これから出掛けても間に合う場所であれば、私が案内いたします。遠い場所ならば、ご都合の付く日に私が案内いたします。」

静御前は海野小太郎幸氏に普通に話し出す。

「鎌倉で出掛けたい場所なんてありません。暇を持て余してはいるけれど、何かをやりたいという気持ちも起こらないの。」

海野小太郎幸氏は静御前を普通の表情で黙って見ている。

静御前は海野小太郎幸氏に普通に話し掛ける。

「大姫様のお気遣いは大変嬉しいのですが、体調が優れない事もあり、今回の申し出はお断りさせて欲しいとお伝えください。」

海野小太郎幸氏は静御前に素っ気無く話し出す。

「では、大姫様には、静殿は大姫様からの申し出を、体調も悪くないのに嘘を付いて断ったと伝えます。」

そう言うと立ち上がった。

静御前は海野小太郎幸氏に不機嫌そうに話し出す。

「今の言い方は何なの?!」

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「少しは静殿のお立場を考えてください。ただし、義経様のご正室の真澄様が、静殿のようなお答えをするなら話は別です。でも、真澄様は静殿のような言い方をされる方ではないので、無駄な話をしてしまいました。」

静御前は海野小太郎幸氏を不機嫌そうに見ている。

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「私は鎌倉の頼朝様に仕えています。大姫様にも仕えています。静殿は義経様の愛妾です。今の義経様のお立場から、静殿本人のお立場も考えてください。」

静御前は海野小太郎幸氏に不機嫌そうに話し出す。

「この前と物凄く態度が違うわよ。もしかして、自分は鎌倉側の人間だと思って、自惚れているんじゃないの?」

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し出す。

「現在の静殿の置かれている立場と状況を、ご理解されていますか? 義経様の愛妾という事で自惚れていませんか? さすが義経様の選んだ方だと言われる事を、何かされていますか? 舞に詳しくない私が見ても、鶴岡八幡宮での静殿の舞は、とても素晴らしかったです。でも、それ以外には、何もされていないように思いました。都人の静殿から見れば、鎌倉の人達は、粗雑で荒っぽいと思います。でも、鎌倉では、これが普通です。鎌倉の人達は、静殿の事を邪険にはしていません。」

静御前は海野小太郎幸氏を不思議そうに見た。

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し掛ける。

「私は大姫様が静殿の事を心配されていたので、安達様の家を尋ねました。政子様も静殿の事を心配されています。鎌倉を別な気持ちで見てください。」

静御前は海野小太郎幸氏を普通の表情で見ている。

海野小太郎幸氏は静御前に普通に話し掛ける。

「私の話しは終わりました。安達様の家へお送りいたします。」

静御前は海野小太郎幸氏に普通に話し出す。

「お願いします。」

海野小太郎幸氏と静御前は、話をする事も無く、安達新三郎清経の家へと戻っていった。


海野小太郎幸氏は静御前を安達新三郎清経の家へ送り届けると、直ぐに小御所に戻ってきた。

休む事もなく、大姫の部屋を訪れた。


大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「小太郎。思ったより早かったわね。」

海野小太郎幸氏は大姫に軽く礼をした。

大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「静さんはご機嫌斜めなのかしら?」

海野小太郎幸氏は大姫に軽く礼をした。

大姫は海野小太郎幸氏に心配そうに話し掛ける。

「小太郎。もしかして、静さんに怒られたの?」

海野小太郎幸氏は大姫を見ながら、微笑んで首を横に振った。

大姫は海野小太郎幸氏に申し訳なさそうに話し出す。

「小太郎には、嫌な思いをさせてしまったのね。ごめんなさい。」

海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで話し出す。

「大姫様。私は大丈夫です。悩まないでください。」

大姫は海野小太郎幸氏を心配そうに見ている。

海野小太郎幸氏は大姫を微笑んで見ている。

大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し出す。

「後は、静さん次第ですね。」

海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで軽く礼をした。


それから数日も経たない頃の事。

鎌倉の町で僅かではあるが、静御前の姿を見掛けるようになった

静御前が出掛ける事を、安達新三郎清経の家の人達も引き止めない。

さすがに一人で出掛けられないため、安達新三郎清経の家臣が一緒に付いてくるが、詮索される事はない。

静御前にとっては、一人で出掛けて何か起こっても困るので、半分は鬱陶しいが、半分は安心する気持ちになっている。

少しずつではあるが、鎌倉の町へと気持ちが向き始めたのかもしれない


そんな日々が続いている、ある日の事。

静御前は部屋から空を見上げた。

青色の空に白い雲がゆっくりと動いている。

静御前は空を見上げながら呟いた。

「のどかだな。」

理由はわからないが、源義経に関する質問もされず、一日を自由に使える日々が続いている。

静御前にとっては、穏やかな時間が過ぎていく。


日々を重ねていくという事は、静御前の出産の日が近づくという事になる。

普通だと不安な気持ちを抱えて落ち着かなくなるが、静御前の心の中には、不安という気持ちが湧き上がってこない。

静御前は不思議そうに呟いた。

「この子が男の子だったらと考えても、なぜ怖くならないの? この子が生まれる事が、なぜ幸せだと思えるの? この子が男の子だったらと考えた事なんて、なかったのかもしれない。不思議な事ばかり。何故なの?」


北条政子は、源義高と静御前の子供を助けようと、いろいろと画策をしているらしい。

侍女達が大姫のもとに、北条政子の行動や話の内容を伝えてくる。

一人の侍女が大姫に静かに話し掛ける。

「政子様が、何の罪も無い子が殺されそうになっているのを、黙って見ているのは耐えられない。何としてでも助けたい。このようにお話しをされていました。」

大姫は侍女の話を普通の表情で聞いている。


北条政子は忙しそうに動き回っている。

大姫は北条政子の様子を気にする事もなく、海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「小太郎。八幡宮の大銀杏が見たいな。緑色の葉が繁って綺麗な頃よね。」

海野小太郎幸氏は大姫を見ながら微笑んで軽く礼をした。

大姫と海野小太郎幸氏は、鶴岡八幡宮へと出掛けて行った。


そんなある日の事。

北条政子が大姫の部屋を訪れた。

大姫は北条政子を普通の表情で見た。

北条政子は大姫に真剣な表情で話し出す。

「私は義経殿と静殿の子供を助けたいのです。大姫も一緒に手伝ってくれませんか?」

大姫は北条政子の話を無表情のまま黙って聞いている。

北条政子は大姫を真剣な表情で見ている。

大姫は北条政子に僅かに不機嫌そうに話し出す。

「お母様。頭が少し痛くなりました。お話しは後でも良いですか?」

北条政子はため息を付くと、大姫を寂しそうに見た。

大姫は北条政子を冷めた表情で見ている。

北条政子は大姫を寂しそうに見ていたが、静かに部屋から出て行った。


それから少し後の事。

海野小太郎幸氏が大姫の部屋を訪れた。

大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「お母様のお話を聞いていたら、急に疲れてしまいました。」

海野小太郎幸氏は大姫に不思議そうに話し掛ける。

「大姫様。政子様のお話しに、なぜ加わらないのですか? 大姫様が加わっている事がわかれば、周りの方も出方が変わるかもしれません。」

大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「確かに、私が表立って動けば、お父様に義高様の事を思い出させる事が出来るわね。しかも、義高様のお父様を討った義経様の子を助けるという心の広さを、見せ付ける事にもなるわね。」

海野小太郎幸氏は大姫に申し訳なさそうに話し出す。

「大姫様のお気持ちを考えずに、勝手な事を言ってしまいました。大変申し訳ありませんでした。」

大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「小太郎。私は大丈夫。気にしないで。」

海野小太郎幸氏は大姫を僅かに安心した表情で見た。

大姫は海野小太郎幸氏に切なそうに話し出す。

「お父様は義高様を殺せと命じました。もし、義高様を生かすように命じていたら、義経様と静さんの子供を助けたかもしれません。お父様は何としてでも、静さんの子供が男の子だったら殺せと命じるはずです。だって、そうしないと、義高様を殺せと命じた事と矛盾するもの。」

海野小太郎幸氏は大姫を心配そうに見ている。

大姫は海野小太郎幸氏に切なそうに話し掛ける。

「お母様がどう動いても状況は変わらない。だって、義高様の時がそだったもの。私は無駄な事をする気にはなれないの。」

海野小太郎幸氏は大姫に心配そうに話し出す。

「大姫様。私の話しで辛い事を思い出させてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。」

言い終わると深く頭を下げた。

大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「小太郎は変な事は言っていないわ。だから、大丈夫よ。安心して。」

海野小太郎幸氏は大姫の様子を見ると、僅かに安心した表情になった。

大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「泣く人が増えないといいわね。」

海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで軽く礼をした。


そして、閏七月二十九日を迎えた。

静御前が源義経との間の子供を出産した。

男の子だった。

その日のうちに、源義経と静御前の子供の命は、どこかへと消えていった。


大姫は静御前と子供に起った話しを、無表情のまま黙って聞いている。

海野小太郎幸氏も無表情のまま黙って聞いている。


それから暫く後の事。

海野小太郎幸氏のもとに静御前からの文が届いた。

不思議に思いながら文の内容を確認すると、大姫と海野小太郎幸氏に宛てた文となっていた。

静御前の立場上、大姫に文を送るのは難しかったのか、海野小太郎幸氏の名前で文が届いたらしい。

海野小太郎幸氏は文を懐に隠すように仕舞うと、大姫のもとへと向かった。


大姫と海野小太郎幸氏は、静御前からの文を読み始めた。

「大姫様と小太郎殿のお気遣い感謝いたします。いろいろな事がありましたが、鎌倉が少しだけ好きになれました。でも、鎌倉に来る事は、二度と無いと思います。私は、鎌倉になんか絶対に負けません。大姫様、そして、小太郎殿。以前のお話しの通り、三人で幸せになりましょう。そろそろ京に戻ろうと思います。これから私の身に何が起こっても、お二人の事は絶対に忘れません。」

大姫と海野小太郎幸氏は、静御前からの文を微笑んで読んでいる。


大姫と海野小太郎幸氏は、静御前からの文を読み終わった。

大姫は海野小太郎幸氏に微笑んで話し掛ける。

「小太郎。八幡宮の大銀杏を見に行きたいな。」

海野小太郎幸氏は大姫に微笑んで軽く礼をした。

大姫と海野小太郎幸氏は、鶴岡八幡宮へと出掛けて行った。


その後の静御前の行方は誰も知らない。

もちろん、大姫も海野小太郎幸氏の二人も知らない。


鎌倉の空は青い日が広がっている。

白い雲がゆっくりと動いている。


すると、どこかから囁くような声が聞こえてきた。

「義高様・・・」

「静さんが鎌倉を去っていきました・・・」

「でも、鎌倉を好きになってくれたようです・・・」

「少しだけ嬉しくなりました・・・」

「義高様・・・」

「鎌倉に居る人が、再び悲しい涙を流す事になってしまいました・・・」

「鎌倉の町が笑顔だけになる日が、くるといいなと思っています・・・」




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語ですが、時間設定では、「鎌倉夢語り 大姫 編 舞扇 二つの想いが重なって」より後の出来事となります。

静御前が源義経との間の子供を生んだのは、鎌倉へ連れて来られた年の事です。

閏七月二十九日との事といわれています。

源頼朝は二人の間の子が男の子だったら殺せと命じました。

正室である北条政子は、二人の子供を助けようとして、いろいろと動いていたと言われています。

しかし、源義経と静御前の間に生まれたのは、男の子でした。

生まれて直ぐに海に投げ捨てられたと言われています。

出産をして鎌倉を出て行ってから後の静御前の行方は、不明だそうです。

一説には、京都に戻って若くして亡くなったとも言われています。

その後の記録がないのは、静御前の身分からすると、仕方のない事かもしれません。

史実の大姫は、静御前の身に起きた出来事を、どのような気持ちで見ていたのかと考えました。

源義高の死に傷ついて、静御前の身に起きた事を考える余裕はなかたのかもしれません。

源義高の父親である源義仲を討った源義経の子供なので、最初から興味を持っていない事も考えられます。

大姫が静御前に会ってゆっくりと話す事があったとしたら、どんな気持ちになったのでしょうか?

助けたいと思ったかもしれません。

どうせ無理だからと冷めた目で見たかもしれません。

そもそも最初から助ける気もなく、どうでもいいと思ったかもしれません。

いろいろと考えてみても、良くわかりませんでした。

でも、いろいろと考えて、物語にしました。

この時の三人の年齢ですが、大姫は九歳くらい、海野小太郎幸氏は十四〜十五歳くらい、静御前は十九歳くらいと思われます。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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