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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 桃の節句 毛桃の下に月夜さし 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「わが屋前の 毛桃の下に 月夜さし 下心良し うたてこの頃」

「万葉集 第十巻 一八八九番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸との婚約が調ってから、初めての桃の節句を迎えようとしている。



ここは、甲斐の国。



春の花が咲き始めた。

暖かさを感じる日が増えてきた。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



菊姫は松姫の部屋に向かって、縁を静かに歩いている。



ここは、松姫の部屋。



菊姫は部屋を訪れると、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。父上がいらっしゃったの。奇妙丸様からの文と贈り物を渡したいとお話しされていたわよ。」

松姫は菊姫に笑顔で話し出す。

「本当ですか?! 直ぐに行きます!」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は障子を開けると、縁を急いで歩き出した。

菊姫は障子を閉めると、松姫の後を慌てた様子で追い掛けた。



ここは、武田信玄と油川夫人が居る部屋。



松姫は部屋の中に向かって元気良く声を掛けた。

「松です!」

菊姫は松姫に少し遅れて部屋の前に来ると、微笑んで声を掛ける。

「菊です。」

障子が開いて、油川夫人の姿が現れた。

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「遅れてすいませんでした!」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。元気良く歩きすぎですよ。もう少し落ち着いて歩くようにしなさい。」

武田信玄の穏やかな声が、油川夫人の後ろから聞こえてきた。

「お松は、私が突然に訪ねてきたから焦ったのだろう。許してやれ。」

油川夫人は後ろを見ると、武田信玄に申し訳なさそうに話し出す。

「お松は奇妙丸様と婚約をしている身です。常に落ち着いて行動をしないと・・・」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お松は年を越して八歳になったばかりだ。もう少し長い目でみてやれ。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「わかりました。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「父上! 松はたくさん努力をします!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。焦る事なく落ち着いて努力をするように。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「立ち話をしいると、奇妙丸殿からの文と贈り物を渡す事ができないぞ。早く部屋の中に入りなさい。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫と松姫は、部屋の中へと入っていった。



武田信玄は木箱と文を差し出しながら、松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿からの贈り物は桃の木だと聞いた。桃の節句に間に合うように届けさせたそうだ。」

松姫は武田信玄から木箱と文を笑顔で受け取った。

武田信玄は松姫を微笑んで見た。

松姫は木箱と文を自分の横に丁寧に置くと、武田信玄に笑顔で話し出す。

「桃の木のお礼と文の返事を、直ぐに書きたいと思います!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿からの伝言では、文の返事は桃の節句が終わってからで良いと話をしていたそうだ。」

松姫は武田信玄を不思議そうに見た。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿が松姫の桃の節句のために用意した桃の花だ。奇妙丸殿はお松が桃の節句を楽しんだ後の文の返事が欲しいのかも知れない。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「わかりました! 桃の節句が終わってから奇妙丸様への返事を書きます!」

武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「部屋に戻ります!」

武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は武田信玄に笑顔で礼をすると、木箱と文を大事そうに持ちながら部屋を出て行った。



ここは松姫の部屋の中。



松姫は机の上に木箱と文を丁寧に置くと、木箱のふたをゆっくりと開けた。



木箱の中には、小さな桃の木が小さな植木鉢に植わっている姿があった。



松姫は桃の木を見ながら笑顔で呟いた。

「綺麗。」

桃の木には、綺麗な花と今にも咲きそうなつぼみをたくさん見る事が出来る。

松姫は机の上に置いた文を手に取ると、笑顔で読み始めた。



松姫様へ

暖かい日が続いているように思います。

桃の節句が近いという事で、松姫様に桃の木を贈る事にいたしました。

桃の節句に彩を添える事が出来れば嬉しいです。

松姫様はどのような雛人形を飾られるのでしょうか?

妹の五徳の部屋に飾ってあった雛人形を思い出しながら、松姫様の雛人形を想像しています。

五徳が桃の節句を行っていた時の様子を思い出しながら、松姫様が桃の節句を行っている姿を想像しています。

五徳は既に徳川家に嫁いでいるので、雛人形を見る事も桃の節句を行っている姿も見る事が出来ません。

五徳の雛人形や桃の節句を行っている姿を、しっかりと確認しておけば良かったと後悔しています。

先日の事ですが、桃の花を詠んだ歌を勉強しました。

受け取って頂けると嬉しいです。

わが屋前の 毛桃の下に 月夜さし 下心良し うたてこの頃

松姫様、そして、菊姫様。

良い桃の節句をお迎えください。

奇妙丸より



松姫は文を胸に抱きながら、桃の木を笑顔で見た。



それから何日か後の事。



桃の節句の前日の夜となった。



夜空では月が淡い光を放っている。



ここは松姫の部屋。



松姫は部屋の前の縁に立ちながら、夜空を笑顔で見ている。

月の光は松姫を淡く照らしている。

松姫は淡く輝く月を見ながら、微笑んで呟いた。

「わが屋前の 毛桃の下に 月夜さし 下心良し うたてこの頃。奇妙丸様。明日が桃の節句の日です。楽しみです。」

月の光は松姫を淡く照らし続けている。

松姫は微笑んで視線を戻すと、部屋の中へと戻っていった。



それから暫く後の事。



桃の節句の当日となった。



ここは松姫の部屋の中。



松姫の前には雛人形が飾ってある。

雛人形の傍には、奇妙丸が松姫に贈った桃の花が綺麗な姿で咲いている。

松姫はお内裏様とお雛様を見ながら、笑顔で呟いた。

「お内裏様とお雛が見ている桃の花は、奇妙丸様から頂き物です。綺麗ですよね。」

お内裏様とお雛様は、松姫と桃の花を微笑んで見ているように感じる。

松姫は桃の花を笑顔で見た。

桃の花は雛人形の傍で綺麗な姿で咲いている。

松姫はお内裏様とお雛様を見ると、笑顔で呟いた。

「お内裏様とお雛様のように、奇妙丸様と松も早くなりたいです。」

お内裏様とお雛様は、松姫を微笑んで見ているように感じる。

松姫はお内裏様とお雛様を笑顔で見ている。



桃の節句の翌日の事。



松姫は武田信玄に奇妙丸に宛てた文を預けた。



奇妙丸様へ

暖かい日が続いています。

甲斐の国でも春の花がたくさん咲き始めています。

綺麗な桃の木と桃の花を詠んだ素敵な歌をありがとうございます。

桃の木は、お内裏様とお雛様の傍に飾りました。

お内裏様とお雛様も桃の花を喜んで見ているように感じました。

とても楽しい桃の節句でした。

突然ですが、奇妙丸様に一つだけお願いがあります。

奇妙丸様と松は、婚約をしました。

差し支えなければ、私の事を松と呼んでください。

お嫌でなければお願いいたします。

暖かい日は続きますが、陽が落ちると僅かに寒さを感じます。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



お内裏様とお雛様。

奇妙丸が松姫に贈った桃の木と桃の花を詠んだ歌。

最初は何色にも色付いていなかった想いが、少しずつ色付き始めました。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

「桃の節句」や「雛祭り」の前後の頃の物語です。

「上巳の節句(じょうしのせっく)」、「桃の節句(もものせっく)」についてです。

「上巳の節句」は五節句の一つで、元々は三月上旬の巳の日でしたが、後に三月三日に行われるようになったそうです。

旧暦では三月三日は桃の花が咲く季節であることから「桃の節句」とも言われています。

古来中国では、上巳の日に川で身を清め不浄を祓う習慣があったそうです。

これが平安時代に日本に取り入れられたそうです。

後に紙で小さな人の形(形代[かたしろ])を作って、それに穢れを移し、川や海に流して不浄を祓うようになったそうです。

この風習は、現在では「流し雛(ながしびな)」として残っています。

「雛祭り(ひなまつり)」についてです。

女の子の健やかな成長を願う伝統行事です。

女の子のいる家庭では、雛人形を飾り、白酒・菱餅・あられ・花などを供に祀ります。

「上巳の日」には、人形に穢れを移して川や海に流していましたが、その人形が次第に精巧なものになって流さずに飾っておくようになり、「雛祭り」として発展して行うようになったそうです。

「雛祭り」は、始めは宮中や貴族の間で行われていましたが、やがて武家社会でも行われるようになり、江戸時代には庶民の行事となったそうです。

元々は、五月五日の端午の節句とともに男女の別なく行われていましたが、江戸時代頃から豪華な雛人形は女の子に属するものとされて、端午の節句は菖蒲の節句とも言われることから、「尚武(しょうぶ)」にかけて男の子の節句とされるようになったそうです。

現在に近い「雛祭り」になったのは、庶民の間でも行うようになった江戸時代からだそうです。

雛人形を飾る時期ですが、二十四節気の「雨水(うすい)」(現在の暦では、二月十八日〜十九日頃)に飾り付けをすると、良縁に恵まれると言われています。

簡単な説明ですが、このような感じになります。

物語の設定同時の雛祭りは、武家社会でも桃の節句を行っていたとは思いますが、現在とは少し様子が違っていたと思います。

武田信玄の正室の「三条の方」は、京都の貴族の出身です。

武田信玄の当時の力関係などを考えると、「桃の節句」を行っていても不思議ではないと考えました。

松姫は武田信玄と側室との間の子供ですが、「桃の節句」や「雛祭り」を行っていると考えました。

織田信長も当時の立場や力関係を考えると、「桃の節句」や「雛祭り」を行っているか知っていると考えて、奇妙丸の文の中に登場しています。

この物語の中に「奇妙丸」の妹の「五徳姫(ごとくひめ)」[※徳姫と紹介されている事が多いです]の話しが出てきます。

「五徳姫」の母親は、「奇妙丸」と同じ「生駒吉乃」です。

永禄二年(1559年)十月の生まれと言われています。

永禄十年(1567年)に「徳川家康」の嫡男の「徳川信康」に嫁ぎます。

「松姫」と「奇妙丸」の婚約が調ったのは、永禄十年(1567年)の十一月と言われています。

この物語は年を越したので、永禄十一年(1568年)となります。

この物語の時点では、「五徳姫」は既に「徳川信康」の元に嫁いでいます。

この物語に登場する歌は、「万葉集 第十巻 一八八九番」の歌です。

「わが屋前の 毛桃の下に 月夜さし 下心良し うたてこの頃」

ひらがなの読み方は、「わがやどの けもものしたに つくよさし したごころよし うたてこのころ」です。

作者は「詠み人知らず」です。

歌の意味は、「家の庭先の毛桃に月の光がさして、とても心地が良いこの頃です」となるそうです。

原文は、「吾屋前之 毛桃之下尓 月夜指 下心吉 菟楯項者」です。

桃は、バラ科の落葉高木です。

四月頃に葉よりも先に桃色の花が咲きます。

現在は中国といわれています。

日本にはかなり古い時代に渡って来たようです。

昔は、桃は鬼や悪霊をやっつける木だと考えられていたそうです。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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