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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 桜月 我れは寂しも君としあらねば 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「桜花 今ぞ盛りと 人は言えど 我れは寂しも 君としあらねば」

「万葉集 十八巻 四〇七四番」より

作者:大伴池主(おおとものいけぬし)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五つ目の月を数えた。

今は三月を迎えている。



ここは甲斐の国。



寒さを感じる日は少なくなり、暖かい日が増えてきた。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住んでいる屋敷。



屋敷の庭に植わっている桜の木は、今にもつぼみが開きそうに見える。

屋敷の周りでは、桜の花が咲いている姿を見る事が出来る。

明日には庭の桜の花が咲いている姿を見る事が出来るかも知れない。



ここは屋敷の庭。



菊姫と松姫は、桜の花を微笑んで見ている。

松姫は菊姫を見ると、微笑んで話し出す。

「姉上。奇妙丸様の居る所の桜は、既に綺麗に咲いているのでしょうか?」

菊姫は松姫に考え込みながら話し出す。

「岐阜は甲斐より南にあるから、桜は早く咲くのかしら? それとも同じなのかしら?」

松姫は菊姫を微笑んで見ている。

菊姫は松姫に苦笑しながら話し出す。

「分からないわ。母上に確認してみるわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。気にしないでください。確認する時は、松も一緒に行きたいです。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。



その翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫が住んでいる屋敷。



庭では、僅かだが桜の花が咲き始めた。



武田信玄が屋敷を訪れた。

菊姫と松姫は、武田信玄の前に笑顔で現れた。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。こんにちは。」

菊姫と松姫は、武田信玄に笑顔で話し出す。

「父上! こんにちは!」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「少しよろしいでしょうか?」

武田信玄は油川夫人を見ると、微笑んで頷いた。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。庭の桜を一緒に見ましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫と松姫は、庭に咲いている桜の花を見るために、その場を後にした。

武田信玄と油川夫人は、屋敷の一室へと入っていった。



ここは武田信玄と油川夫人の居る部屋。



武田信玄は油川夫人に、微笑んで話し出す。

「お菊もお松も元気で何よりだ。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「お松は奇妙丸様との縁談が調ってから、笑顔で元気に過ごしています。お菊もお松につられたのか、笑顔でいる事が多くなりました。でも最近は、元気過ぎるのではないかと心配に思うようになりました。二人には、少し落ち着いて行動するように話をしようかと思っています。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お菊もお松も女の子だが、元気で過ごしていても良い年齢だと思う。当面は今のままで構わない。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄に油川夫人に微笑んで話し出す。

「お松は奇妙丸殿との文のやり取りを、とても楽しんでいるようだな。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「お松はまだ幼いので、私がお松の書く文の内容の確認をしようと思いました。でも、お松の良さが無くなるような気がして、お菊に頼む事にしました。お菊は分からない事があると、私に質問をしてきます。お松は奇妙丸様の文の内容の話しは余りしませんが、お松自身の書いた文の内容は、私に楽しそうに話をしてくれます。二人の話を聞く限りでは、奇妙丸様は政など含めた難しい話は書いてないようです。当面はこのままの状態を続けようと思っています。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様への贈り物や文を書く事について、何か気を付ける事はありますか?」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お松が文をたくさん書くと、奇妙丸殿も返事を書くのが大変になると思う。ほどほどになるように様子をみてくれ。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。



それから数日後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫が住んでいる屋敷。



庭の桜の花は満開になっている。



武田信玄が屋敷を訪ねてきた。

菊姫と松姫は、武田信玄の前に笑顔で来た。

武田信玄は菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫と松姫は、武田信玄に笑顔で話し出す。

「父上! こんにちは!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿から文が届いた。」

松姫は武田信玄を笑顔で見た。

武田信玄は松姫に微笑んで文を差し出した。

松姫は武田信玄から笑顔で文を受け取った。

武田信玄は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を大事そうに持ちながら、菊姫に笑顔で話し出す。

「姉上! 一緒に文を読んでください!」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は大事そうに文を持ちながら、武田信玄と油川夫人に微笑んで軽く礼をした。

菊姫は武田信玄と油川夫人に、微笑んで軽く礼をした。

松姫と菊姫は、松姫の部屋へと向かった。



ここは松姫の部屋。



松姫と菊姫は、一緒に部屋の中に居る。

松姫は大事そうに文を広げると、笑顔で読み始めた。

菊姫は松姫の横で、微笑んで文を読み始めた。



お松様へ

松姫様という呼び名ではなく、違う呼び名にして欲しいとの文を頂きました。

いろいろと考えたのですが、これからは、お松様という名前で呼びたいと思います。

もしご都合が悪ければ、お教えください。

こちらでは、桜の花が咲いている姿を見る事が出来るようになりました。

早く咲き始めた場所では、たくさんの桜が咲います。

この文が届く頃は、お松様の近くでは、桜の花が綺麗に咲いている頃でしょうか。

甲斐に咲く桜を想像しながら文を書いています。

今回も歌をお贈りします。

桜を詠んだ歌はたくさんあるので悩んでしまいました。

桜花 今ぞ盛りと 人は言えど 我れは寂しも 君としあらねば

気に入って頂けると嬉しいです。

お松様と一緒に岐阜の桜を見る事が出来る日を、楽しみにお待ち申し上げています。

桜の花の綺麗な季節ですが、寒さを感じる日があるかと思います。

お体に気を付けてお過ごしください。

奇妙丸より



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様のお住まいの場所では、桜は盛りに早いみたいね。甲斐の国に文が届く頃の事を考えて歌を贈ったのね。」

松姫は文を大事そうに持ちながら、菊姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

いつもお気遣いありがとうございます。

松は元気に過ごしています。

松の住んでいる屋敷の桜は、綺麗な姿で咲き始めました。

この文が奇妙丸様の元に届く頃には、桜の花は見頃か散り始めになるのでしょうか。

松も奇妙丸様と桜を一緒に見たいと心から思っています。

いつも素敵なお歌をありがとうございます。

奇妙丸様もお体に気をつけてお過ごしください。

松より



「桜花 今ぞ盛りと 人は言えど 我れは寂しも 君としあらねば」

松姫と奇妙丸。

甲斐と岐阜。

桜は盛りと咲いていても、一緒見たい相手は遠くに居ます。

いつの日か一緒に桜の花を見る事が出来る日を、お互いに楽しみに待っています。

今はまだこの歌ほどの寂しは感じていないようです。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

母親の油川夫人は、松姫の縁談が調った頃から、菊姫と松姫に歌や行儀作法などを教えているという設定になっています。

現在は姉の菊姫が松姫の文の内容と相談や奇妙丸の書いた歌の解説をしています。

油川夫人は菊姫と松姫の行動を、さり気なく見ながら確認していると思ってください。

武田信玄と油川夫人は、確認と言うか、報告を兼ねて、松姫の文について話をしていると思ってください。

甲斐(現在の山梨県)と岐阜(現在の岐阜県)の「染井吉野」などを含めた桜の開花は近いです。

文を届ける期間を考えると、一回から二回ほどの文のやり取りしか出来ないのかなと思いました。

現在は良く見る「染井吉野」は、「染井」という東京の地名にちなんで名前が付いています。

江戸末期から明治時代の初期の頃から広まったと言われています。

比較的新しい桜になると思います。

「染井吉野」は、戦国時代には見る事の出来なかった桜だと思います。

松姫と奇妙丸が見ている桜の様子は、現在とは違う雰囲気だったと思います。

この物語に登場する歌は、「万葉集 十八巻 四〇七四番」です。

「桜花 今ぞ盛りと 人は言えど 我れは寂しも 君としあらねば」

ひらがなの読み方は、「さくらばな いまぞさかりと ひとはいえど われはさみしも きみとしあらねば」です。

作者は、「大伴池主(おおとものいけぬし)」です。

意味は、「桜の花が今盛りですよ、と人は言うけれど、私は寂しく思います。あなた様がいらっしゃらないので。」となるそうです。

原文は、「櫻花 今曽盛等 雖人云 我佐不之毛 支美止之不在者」です。

「桜月(さくらづき)」は、「陰暦三月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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