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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 藤の波 花は盛りになりにけり 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「藤波の 花は盛りに なりにけり 平城の京を 思ほすや君」

「万葉集 第三巻 三三〇番」より

作者:大伴四綱(おおとものよつな)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、初めての藤の花の咲く頃の事。



ここは甲斐の国。



油川夫人、菊姫、松姫の住んでいる屋敷。



庭には、今にも咲きそうな藤の花が植わっている。



ここは、屋敷の庭。



菊姫と松姫は、今にも咲きそうな藤の花を見ている。



松姫は菊姫を見ると、微笑んで話し出す。

「姉上。藤の花は、“ふじ”から“富士”や“不死”を連想するので、縁起が良い花だと聞きました。」

菊姫は松姫を見ると、微笑んで頷いた。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様に藤の花を贈りたいのですが、育てる手間を考えると、迷惑になるかも知れませんよね。何か良い方法を知りませんか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「藤の花を詠んだ歌を贈るというのはどうかしら?」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。藤の花で良い歌を知っていますか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私も詳しくは知らないの。母上に教えてもらいましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



松姫と菊姫は、油川夫人の部屋へと向かうために庭を後にした。



ここは油川夫人の部屋。



油川夫人、菊姫、松姫は、部屋の中に一緒に居る。



松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。藤の花は縁起が良いと聞きました。奇妙丸様に藤の花を贈りたいのですが、育てる手間を考えると、迷惑が掛かるかも知れません。姉上から藤の花を詠んだ歌を贈れば、奇妙丸様に迷惑も掛からず喜んで頂けると教えてもらいました。母上に藤の花を詠んだ歌を教えて頂きたくて、部屋に来ました。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「松姫が奇妙丸様に贈りたいと思う歌が、一番良い歌だと思います。藤の花を詠んだ歌をいくつか用意しましょう。気になる歌があったら質問をして構いません。お菊と一緒にゆっくりと選びましょう。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様に喜んで頂ける良い歌を一緒に選びましょうね。」

松姫は油川夫人と菊姫に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



それから少し後の事。



ここは、油川夫人の部屋の中。



油川夫人、菊姫、松姫の三人は、部屋の中に居る。



油川夫人は藤の花を詠んだ歌が書かれた紙を、松姫に微笑んで手渡した。

松姫は油川夫人から紙を受け取ると、微笑んで歌を選び始めた。

菊姫は松姫の見ている紙を微笑んで見た。



松姫は油川夫人と菊姫に、微笑んで話し出す。

「母上。姉上。松は、“藤波の 花は盛りに なりにけり 平城の京を 思ほすや君”という歌が気になります。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。良い歌を選んだと思うわ。」

松姫は菊姫を微笑んで見た。

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「今回は歌を少し変えて奇妙丸様に贈りましょう。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫に微笑んで頷いた。



その翌日の事。



松姫が奇妙丸に宛てて書いた文は、武田信玄が一旦預かり、奇妙丸の元へ届けられる事となった。



奇妙丸様へ

甲斐は暖かい日が続いています。

一重の桜が散り始め、藤の花が今にも咲き始めようとしています。

松の住む屋敷の藤の花は、明日にも咲きそうに見えます。

藤の花が咲く日が楽しみです。

藤の花は、ふじ、から、富士や不死を連想するので、縁起の良い花だと聞きました。

藤の花を贈ると、奇妙丸様に迷惑が掛かるかも知れないので、藤の花を詠んだ歌を贈る事にしました。

受け取って頂けると嬉しいです。

藤波と 岐阜は盛りに なりにけり 妙の京を 思ほすや我

奇妙丸様は毎日お忙しく過ごされていると思います。

お体に気を付けてお過ごしください。

松より



それから何日か後の事。



ここは甲斐の国。



藤の花は、咲き始め、見頃、散り始めなど、いろいろな姿を見せ始めている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住んでいる屋敷。



庭の藤の花は、散り始める様子がなく、見頃のような綺麗さを保っている。



武田信玄が屋敷を訪ねてきた。

油川夫人と菊姫は、武田信玄を微笑んで出迎えた。

松姫は武田信玄を笑顔で出迎えた。

武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫を微笑んで見た。



ここは屋敷の中の一室。



武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫の四人が部屋の中に居る。



武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸殿からお松宛の文が届いた。」

松姫は武田信玄を笑顔で見た。

武田信玄は松姫に微笑んで文を差し出した。

松姫は武田信玄から笑顔で文を受け取った。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「部屋でゆっくりと文を読みなさい。文の返事を書いたら、母上に預けなさい。明日か明後日に文を取りに来よう。」

松姫は文を大事そうに抱えながら、武田信玄に笑顔で話し出す。

「分かりました!」

武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を大事そうに抱えながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。返事を書く時のために、文を一緒に読んでください。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を大事そうに抱えながら、元気良く部屋を出て行った。

菊姫は松姫の後を慌てた様子で追いながら、部屋へと出て行った。

武田信玄と油川夫人は、菊姫と松姫の様子を微笑んで見た。



お松様へ

岐阜では藤の花が綺麗な姿で咲いています。

お松様が書いた文と藤の花を詠んだ歌を、とても楽しく読む事が出来ました。

私が書いた文もお松様に藤の花の咲く中で読んで欲しいと思いました。

直ぐに返事を書き、急いで届けるように頼みました。

この文が届いた時は、甲斐の国でも藤の花を見る事が出来るのでしょうか。

藤の花が綺麗に咲いている事を祈りながら、藤の花を詠んだ歌を贈ります。

喜んで受け取って頂けると嬉しいです。

藤波と 甲斐は盛りに なりにけり 妙の松を 思ほすや我

松姫様と二人で藤の花を見る日を、楽しみに待っています。

奇妙丸より



「藤波の 花は盛りに なりにけり 平城の京を 思ほすや君」

松姫が藤の花を見ながら想い出すのは、岐阜に住む奇妙丸の事。

奇妙丸が藤の花を見ながら想い出すのは、甲斐に住む松姫の事。



松姫と奇妙丸が生まれるよりずっと前から、藤の花をいろいろな姿と重ね合わせています。



藤の花が、松姫と奇妙丸の想いを、僅かではありますが強く紡いだようです。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

藤の花は、「藤(ふじ)」から、「富士(ふじ)」や「不死(ふじ)」を連想するという事で、縁起が良い花とも言われています。

この物語に登場する歌は、「万葉集 第三巻 三三〇番」です。

「藤波の 花は盛りに なりにけり 平城の京を 思ほすや君」

ひらがなの読み方は、「ふじなみの はなはさかりに なりにけり ならのみやこを おもほすやきみ」です。

作者は、「大伴四綱(おおとものよつな)」です。

意味は、「藤の花がいっぱいに咲きましたね。これを見ていると奈良の都のことを思ってしまいますでしょ。」となるそうです。

原文は、「藤浪之 花者盛尓 成来 平城京乎 御念八君」です。

大宰府で「大伴旅人(おおとものたびと)」に贈った歌だそうです。

「万葉集」では「藤」は「藤波」と表される事が多いそうです。

この物語では歌の一部を変えて詠んでいます。

歌を贈る時についての話しですが、原文のまま歌を贈る事は余りないと思います。

歌の一部を変えたり、歌の一部や特徴を使用したりして、歌を詠みます。

歌を受け取る相手は、元歌を理解して返歌をしたり、感想を述べたりします。

歌の数は多いので、かなりの勉強が必要だったと思います。

私のサイトでは、ほとんどの歌を変えずに使用しています。

歌の世界が奥深い事も理由になりますが、元の歌を知って頂きたいという思いもあります。

この点について、ご了承ください。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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