このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 躑躅の花 わが来るまでに 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「山越えて 遠津の浜の 岩つつじ わが来るまでに 含みてあり待て」

「万葉集 第七巻 一一八八番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、初めて晩春の月の事



ここは甲斐の国。



暑さも余り感じない過ごしやすい日が続いているが、暦が春から夏へと変わろうとしている事を感じる事が増えてきた。



辺りには、たくさんの季節の花が咲いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住んでいる屋敷。



庭にもたくさんの季節の花が咲いている。

庭には季節の花の一つである、つつじの花が咲いている姿も見える。



ここは屋敷の庭。



菊姫と松姫は、つつじの花を楽しそうに見ている。



松姫は菊姫を見ると、微笑んで話し出す。

「姉上。屋敷の庭のつつじの花は、いつも長く綺麗に咲いていますね。」

菊姫は松姫を見ると、微笑んで話し出す。

「父上がお住まいの躑躅ヶ崎館にちなんで、母上が植えたつつじだから、長く咲いているのかしら?」

松姫は菊姫に笑顔で頷いた。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「綺麗に咲いているつつじの花を見るのは、とても楽しいわね。」

松姫は菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様の住む岐阜にも、つつじの花が綺麗に咲いているのかしら? つつじを詠んだ歌を母上に教えてもらって、気に入った歌があったら奇妙丸様に贈るというのはどうかしら?」

松姫は菊姫に笑んで話し出す。

「良い考えだと思います。松は奇妙丸様に喜んで頂ける歌を、しっかりと選びたいと思います。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



菊姫と松姫は、油川夫人の部屋に行くために庭を後にした。



ここは油川夫人の部屋。



菊姫と松姫は、油川夫人の部屋に微笑みながら入ってきた。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「姉上と一緒に、庭に咲いているつつじの花を見ました。姉上からつつじを詠んだ歌があると聞きました。母上につつじを詠んだ歌を教えて頂きたいと思って、姉上と一緒に来ました。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。花を見て楽しみながら勉強をしようと思う心掛けは、とても良いと思います。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「ありがとうございます!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「今日は父上が見えられる日です。歌の用意をしてから勉強を始めると、途中になるかも知れません。明日ゆっくりと勉強しましょう。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



それから少し後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住んでいる屋敷。



武田信玄が微笑みながら訪れた。

菊姫と松姫は、武田信玄の前に笑顔で現れた。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。元気で過ごしているようだね。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「庭につつじの花が咲いていました。父上のお住まいの館の名前も、躑躅ヶ崎館と言います。今日は、姉上と一緒につつじを詠んだ歌を教えて欲しいと、母上にお願いしました。母上は父上が来るので、明日にしようと言いました。明日はつつじを詠んだ歌を勉強します。」

武田信玄は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「二人の勉強の邪魔をしてしまったようだね。」

松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「父上とお話し出来るのは嬉しいです。邪魔だと思った事はありません。」

油川夫人は武田信玄を申し訳なさそうに見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「歌の内容を決めた勉強は、準備を含めると時間が掛かる。気にする必要は無い。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿からお松宛の文が届いた。」

松姫は武田信玄を笑顔で見た。

武田信玄は松姫に微笑んで文を差し出した。

松姫は武田信玄から微笑んで文を受け取った。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。文を一緒に読んでください。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ちながら、武田信玄と油川夫人に微笑んで礼をした。

菊姫は武田信玄と油川夫人に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄は松姫と菊姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を大事そうに持ちながら、自分の部屋へと戻っていった。

菊姫は松姫の様子を微笑んで見ながら、松姫の部屋へと出掛けて行った。



ここは松姫の部屋。



松姫は文を大事そうに広げた。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を嬉しそうに読み始めた。

菊姫は松姫の横で、文を微笑んで読み始めた。



お松様へ

お元気でお過ごしでしょうか。

こちらでは穏やかな気候が続いています。

甲斐の国も穏やかな気候が続いているのでしょうか。

穏やかな気候の中で過ごしているお松様を想像しながら文を書いています。

岐阜でつつじの咲いている姿を見かけました。

つつじを見ていて、信玄公がお住まいの躑躅ヶ崎館という名前が思い浮ぶと同時に、お松様の名前も思い浮かびました。

お松様の姿が分からないので、名前だけしか思い浮かべる事が出来ないのが、残念でなりません。

つつじを詠んだ歌について、直ぐに勉強しました。

一つ気になる歌がありました。

お松様に受け取って頂けると嬉しいと思い、文に書く事にしました。

山越えて 遠津の浜の 岩つつじ わが来るまでに 含みてあり待て

歌に詠み込んである花は、岩つつじなので、季節的には少し早いかと思います。

少し季節は早いのですが、二つの季節を楽しんで頂こうと思い贈る事にしました。

いつか岐阜と甲斐の国の両方のつつじを、お松様と一緒に見たいと思っています。

躑躅ヶ崎館でお松様と一緒に見るつつじの花は、どの様な色をしているのでしょうか。

ずっとつぼみのままというのは無理だと思いますが、同じ場所に綺麗なつつじがずっと咲いていて欲しいと思いました。

暦が春から夏に移ろうとしています。

お体に気を付けてお過ごしください。

奇妙丸より



菊姫は松姫を見ると、微笑んで話し出す。

「父上の住んでいらっしゃる館の名前が躑躅ヶ崎館で、季節柄つつじの花も咲いているから、つつじを詠んだ歌を文に書いたのね。」

松姫は文を大事そうに持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様が書いたつつじの歌について、姉上と一緒に勉強する事が出来ます。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「はっきりとは分からないけれど、奇妙丸様はお松と逢うためには距離と時間が遠いという事を思って、この歌を文に書いたと思うの。」

松姫は文を大事そうに持ちながらも、菊姫を不思議そうに見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「母上に確認すると、分かるかも知れないわね。父上が帰ったら、母上に文の歌のお話しをして、明日はこの歌を最初に勉強したいと言いましょう。」

松姫は文を大事そうに持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。



それから数日後の事。



松姫が書いた文は、武田信玄が一旦預かり、使者を通じて奇妙丸の元へと届けられる事となった。



奇妙丸様へ

お元気にお過ごしとの事。

松はとても嬉しく思っています。

松も元気に過ごしています。

つつじを詠んだ素敵な歌をありがとうございました。

松の住む屋敷でも、つつじの花が綺麗に咲いています。

姉上とつつじを詠んだ歌を勉強したいと話しをしている時に、奇妙丸様からつつじを詠んだ歌を頂きました。

驚くと同時に嬉しい気持ちにもなりました。

松も奇妙丸様と逢いたいです。

奇妙丸様と逢うには、時も場所も遠いです。

松は奇妙丸様の許婚として、恥ずかしくないように日々努力をしていきます。

奇妙丸様とお逢いして、添いとげる事が出来る日を楽しみにしています。

奇妙丸様もお体に気を付けてお過ごしください。

松より



「山越えて 遠津の浜の 岩つつじ わが来るまでに 含みてあり待て」

松姫と奇妙丸。

八歳と十二歳。

甲斐と岐阜。

逢うためには時間も距離も遠い二人。



二人の想いを繋いだつつじの花と共に、ゆっくりと時が過ぎていきます。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

当時の暦で晩春から梅雨の前に咲く花の物語を考えていたら、「つつじ」を思い出しました。

武田信玄の住んでいる屋敷の名前は「躑躅ヶ崎館」と言います。

そこから「つつじ」を詠んだ歌を調べて物語を考えました。

この物語に登場する歌は、「万葉集 第七巻 一一八八番」です。

「山越えて 遠津の浜の 岩つつじ わが来るまでに 含みてあり待て」

ひらがなでの読み方は、「やまこえて とほつのはまの いわつつじ わがくるまでに ふふみてありまて」です。

作者は、「詠み人知らず」です。

意味は、「遠津の浜の岩つつじよ、私が帰るまではつぼみのままで待っていて。」となるそうです。

原文は「山超而 遠津之濱之 石管自 迄吾来 含而有待」です。

「万葉集」では、「つつじ」は、「岩つつじ」「白つつじ」などと詠んでいる事が多いそうです。

語感を整えるためではないかという話しがあります。

「岩つつじ」は、岩場などに生えています。

「さつき」の原種と言われています。

「遠津」ですが、地名だとすると、現在の三浦市になるようです。

「遠津」で「遠い」という言葉を連想させているという話しもあるそうです。

「岩つつじ」が咲くのは、この物語と照らし合わせると、もう少し後の事になります。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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