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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 夏初月 夏まけて咲きたるはねず 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「夏まけて 咲きたるはねず ひさかたの 雨うち降らば 移ろいひなむか」

「万葉集 第八巻 一四八五番」より

作者:大伴家持(おおとものやかもち)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、六つ目の月を数えた。

暦は四月となっている。



ここは、甲斐の国。



一日の中で暑さを感じる時が増えてきたが、陽が落ち始めると涼しく感じる。

もう少しだけ過ごしやすい日が続く様に感じる。

梅雨が始まるのも少し先の様に感じる。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



武田信玄が屋敷を訪れた。

菊姫と松姫は、武田信玄の前に笑顔で現れた。

油川夫人は武田信玄の前に微笑んで現れた。

武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫を微笑んで見た。



ここは、屋敷の中の一室。



武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫は、一緒に居る。



武田信玄は油川夫人と松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「今日の事だが、庭梅が綺麗に咲いている姿を見た。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「この時期に庭梅が綺麗に咲いているというのは珍しいですね。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。

松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「松も庭梅が咲いている姿を見たいです。」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「三人を庭梅の咲いている場所に連れて行こうと思ったが、無理みたいなんだ。だから、代わりと言っては何だが、三人に庭梅を少しだけ持ってきた。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「ありがとうございます!」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで庭梅を差し出した。

油川夫人は武田信玄から微笑んで庭梅を受け取った。

武田信玄は菊姫に微笑みながら庭梅を差し出した。

菊姫は武田信玄から微笑みながら庭梅を受け取った。

武田信玄は松姫に微笑みながら庭梅を差し出した。

松姫は武田信玄から笑顔で庭梅を受け取った。

武田信玄は油川夫人と菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は庭梅を持ちながら、武田信玄に笑顔で話し出す。

「松は奇妙丸様に文を書きたいと思います! 父上! 今日はお待ち頂く事が出来ますか?!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「私が待ちながら文を書いていても、落ち着いて書く事は出来るのか?」

松姫は庭梅を持ちながら、武田信玄に笑顔で話し出す。

「松は焦って文を書きません! 落ち着いて書きます! 大丈夫です!」

油川夫人は庭梅を持ちながら、松姫に微笑んで話し出す。

「父上はお忙しい方です。何より、奇妙丸様へ宛てる大切な文です。日を改めるのが良いと思います。」

松姫は庭梅を持ちながら、困惑した表情になった。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿に文を早く届けたいお松の気持ちは分かる。今日は時間に余裕がある。時間の許す限り待っている。もし間に合わない時は、明日また来る。これで良いかな?」

松姫は庭梅を持ちながら、武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は庭梅を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上! 今日も文の確認をお願いします!」

菊姫は庭梅を持ちながら、松姫に微笑んで話し出す。

「部屋に庭梅を飾ったら、直ぐにお松の部屋に行くわね。」

松姫は庭梅を持ちながら、菊姫に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は庭梅を持ちながら、武田信玄と油川夫人に微笑んで礼をした。

松姫は庭梅を持ちながら、武田信玄と油川夫人に笑顔で礼をした。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。

油川夫人は庭梅を持ちながら、菊姫と松姫を微笑んで見た。



菊姫と松姫は、庭梅を持ちながら、嬉しそうに部屋を出て行った。



武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お松は庭梅をもらって嬉しい事を、奇妙丸殿に早く伝えたいのだな。寂しい気もするが、嬉しい気もする。不思議な感じだな。」

油川夫人は庭梅を持ちながら、武田信玄に申し訳なさそうに話し出す。

「忙しい時間を割いて庭梅を持って来て頂いて、四人で楽しく過ごそうと思われたのですね。それなのに、お菊とお松は、ほとんど話しをする事なく部屋に戻ってしまいました。私も直ぐに気が付きませんでした。お松には後でしっかりと話しをしておきます。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お松は奇妙丸殿の許婚だ。私に気を遣う事も大事だが、奇妙丸殿に気を遣う事も大事だ。良い心掛けだと思う。お菊もその事が分かっているから、一緒に部屋を出たと思う。だから何も言う必要は無い。」

油川夫人は庭梅を持ちながら、武田信玄に微笑んで話し出す。

「分かりました。何も言わない事にします。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お菊もお松もしっかりとしている。」

油川夫人は庭梅を持ちながら、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お松とお菊に後で話しを伝えます。とても喜ぶと思います。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。



ここは、松姫の部屋。



松姫の机には、庭梅が飾ってある。



松姫は文を書く用意をしながら、庭梅を笑顔で見ている。



菊姫は自分の部屋に庭梅を飾り終えたので、松姫の部屋を訪れた。

松姫は菊姫を笑顔で見た。

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は机に向かうと、笑顔で文を書き始めた。



奇妙丸様へ

一日の中で僅かですが暑さを感じる時が増えてきました。

梅雨はまだ始まっていません。

奇妙丸様はお元気にお過ごしになられているのでしょうか。

松は元気に過ごしています。

ご安心ください。

今日は父上から庭梅を頂きました。

遅い時期に咲いて見頃を迎えた庭梅なので、とても綺麗に咲いています。

この時期に綺麗な見頃の庭梅を見る事が出来て、松はとても嬉しいです。

奇妙丸様に嬉しい気持ちを伝えたくて文を書きました。

梅雨か始まると、気候のはっきりとしない日が続きます。

お体に気をつけてお過ごしください。

松より



それから何日かが過ぎた。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住んでいる屋敷。



武田信玄が松姫と菊姫に贈った庭梅の花は、少しずつ散り始めている。



武田信玄が屋敷を訪れた。

松姫は武田信玄の前に笑顔で現れた。

菊姫は武田信玄の前に微笑んで現れた。

油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。



武田信玄は文を差し出すと、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸殿から文が届いた。」

松姫は武田信玄から笑顔で文を受け取った。

武田信玄は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。部屋に一緒に来て頂いても良いですか?」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ちながら、武田信玄と油川夫人に笑顔で軽く礼をした。

菊姫は武田信玄と油川夫人に微笑みながら軽く礼をした。

武田信玄は松姫と菊姫に微笑んで頷いた。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



松姫と菊姫は、松姫の部屋へと向かった。



ここは、松姫の部屋。



松姫は文を丁寧に開いた。

菊姫は松姫の横で文を微笑んで読み始めた。



お松様へ

お元気にお過ごしですか。

信玄公から頂いた庭梅がとても綺麗に咲いている様子が、お松様の文を読んで伝わってきました。

私もお松様と一緒に見たいと思いました。

この文が届く頃も庭梅は綺麗に咲いているのでしょうか。

今日は岐阜では雨が降っています。

お松様から頂いた文を読んた後に、雨の降る様子を見ていたら、ある歌を思い出しました。

ご存知かも知れませんが、受け取って頂けると嬉しいです。

夏まけて 咲きたるはねず ひさかたの 雨うち降らば 移ろいひなむか

お松様の庭梅が咲いている事を願いながら、急いで文を届けてもらうように頼みました。

雨が降っても色あせる事なく、庭雨が咲き続けている事を願っています。

岐阜や甲斐で雨が降り続いても、お松様の笑顔が続く事を願っています。

お体に気を付けてお過ごしください。

奇妙丸より



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿は素敵な歌をご存知なのね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は、離れていても松への想いは変わらないという内容の事を、されげなく文に書いたと思うの。」

松姫は文を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「後で母上に確認してみましょう。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。



松姫と奇妙丸の想いは、朱華色の布を洗う時とは違い、色あせる事は無い様です。

松姫と奇妙丸の想いは、僅かずつではありますが、庭梅の花の様な色濃く綺麗な花を、たくさん咲かせていく予感がしてきました。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は、「万葉集 第八巻 一四八五番」です。

「夏まけて 咲きたるはねず ひさかたの 雨うち降らば 移ろいひなむか」

ひらがなの読み方は、「なつまけて さきたるはねず ひさかたの あめうちふらば うつろひなむか」です。

作者は、「大伴家持(おおとものやかもち)」です。

意味は、「夏になって咲いたはねずの花は、雨が空から降れば、色あせてしまわないでしょうか。」となるそうです。

原文は、「夏儲而、開有波祢受、久方乃、雨打零者、将移香」です。

「朱華(はねず)」は「庭梅」だと言われているそうです。

中国原産でバラ科の花です。

現在の暦で、三月から四月に掛けて咲きます。

枝に濃いピンク色の花がびっしりと咲くので、遠くから見ても綺麗で映えます。

別名は「林鐘梅(りんしょうばい)」と言うそうです。

「林鐘(りんしょう)」は、「陰暦六月の異称」です。

はねず色に染色された衣服は、灰で洗うと色落ちするそうです。

その事から、はねず色は移ろいやすい心を導く枕詞として使われるようになったと考えられているそうです。

この物語に登場する「庭梅」は、一ヶ月ほど遅れて咲いたと思ってください。

「夏初月(なつはづき)」は、「陰暦四月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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