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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 夏越しの月 紅に衣染めまく 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「紅に 衣染めまく 欲しけども 着てにほはばか 人の知るべき」

「万葉集 第七巻 一二九七番」より

作者:柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、八つ目の月を数えた。

暦は六月となっている。



ここは、甲斐の国。



梅雨が明けたのか、晴れ間の時が多くなり、暑さを感じるようになった。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



松姫は菊姫の部屋を訪れている。



松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。ここ数日は、天気が良くて暑いですね。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「梅雨が明けたのかも知れないわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「これからは奇妙丸様にたくさん文を書く事が出来ます。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様も武芸の稽古で忙しい方だから、負担にならないよう文を書きましょうね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



その翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



武田信玄が屋敷を訪ねてきた。



菊姫と松姫は、武田信玄の前に笑顔で現れた。

武田信玄は松姫と菊姫を微笑んで見た。

油川夫人は、武田信玄と菊姫と松姫の様子を微笑んで見た。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸殿から文と贈り物が届いた。」

松姫は武田信玄を笑顔で見た。

武田信玄は松姫に文と小さな木箱を、微笑みながら差し出した。

松姫は武田信玄から小さな木箱と文を、笑顔で受け取った。

武田信玄は松姫を微笑んで見た。

松姫は小さな木箱と文を持ちながら、武田信玄に笑顔で話し出す。

「直ぐに贈り物と文の確認をします!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「贈り物についての説明は、開ける楽しみがなくなるから後にしよう。」

松姫は小さな木箱と文を持ちながら、菊姫に笑顔で話し出す。

「姉上! 一緒に文を読んでください! お願いします!」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は小さな木箱と文を持ちながら、武田信玄に微笑んで軽く礼をした。

菊姫は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。



松姫は小さな木箱と文を持ちながら、自分の部屋へと戻っていった。

菊姫は松姫の後に続いて、松姫の部屋へと去っていった。



ここは、松姫の部屋。



松姫は小さな木箱を、微笑みながら丁寧に開けた。

菊姫は松姫の横で、小さな木箱を微笑んで見た。



小さな木箱の中には、乾燥させた紅花の切り花が入っていった。



松姫は菊姫を見ると、微笑んで話し出す。

「鮮やかな色をした紅花ですね。」

菊姫は松姫を見ると、微笑んで頷いた。

松姫は文を丁寧に開けると、微笑みながら読み始めた。

菊姫は松姫の横で、微笑みながら文を読み始めた。



お松様へ

甲斐の国では、梅雨が明けて夏の暑さを感じる頃でしょうか。

それとも、梅雨が終わる頃でしょうか。

この時期は、気候の安定しない日が続きますが、お元気でお過ごしでしょうか。

私の住む所では、梅雨が明けたのか、暑い日が続くようになりました。

お松様に贈り物を贈ろうと、いろいろと考えました。

色鮮やかな紅花を贈りたいと思いました。

しかし、紅花をそのまま贈ると、背が高く棘がります。

切花にして贈ると、届くまでに枯れてしまいます。

何より、松姫様に紅花の棘に刺さって怪我をするかも知れません。

いろいろと考えて、お松様に届ける前に紅花を乾燥させて贈る事にしました。

紅花の種も一緒に贈る事にしました。

受け取って頂けると嬉しいです。

色鮮やかな紅花と種と一緒に歌も贈る事にしました。

紅に 衣染めまく 欲しけども 着てにほはばか 人の知るべき

歌も受け取って頂けると嬉しいです。

梅雨が明けると、暑い日が続きます。

お体に気を付けてお過ごしください。

奇妙丸より



菊姫は松姫を見ると、微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様から素敵な贈り物と歌を頂いたわね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫を不思議そうに見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「紅花で紅色に衣を染めて、お松に贈ろうと思ったけれど、紅色の着物を着たお松が目立った時の事を考えて悩んでしまった、という意味の歌だと思うわ。だから、紅花と種を贈り物にしたのだと思うわ。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様への返事の文に、紅色の衣が欲しいと書いた方が良いのですか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は、今回は衣を贈るのを止めたわよね。文と歌の返事は、紅色の衣の似合う女性になるように努力をしますと書くか、紅色の衣は今のお松には早いから後で贈って欲しいと書くか、奇妙丸様の選んだ着物が着たいですと書くか、この中のどれかが良いと思うわ。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様がお松に紅花の種を贈ったのは、今回の贈り物の紅花の種が育って、たくさんの花が咲くようになった頃に、紅花で染めた衣を着て嫁いで欲しいという意味も込めたかも知れないわね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。庭で紅花を育てたいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「父上と母上に話しをしてみましょう。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を丁寧に仕舞うと、紅花の入った小さな木箱を持った。



菊姫は部屋を出て行った。

松姫は小さな木箱を持ちながら、菊姫の後に続いて部屋を出て行った。



ここは、武田信玄と油川夫人の居る部屋。



菊姫と松姫は、部屋に戻ってきた。



武田信玄と油川夫人は、菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は木箱を横に置くと、武田信玄と油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様から乾燥した紅花と種を頂きました。松は奇妙丸様から頂いた紅花で染めた衣で嫁ぎたいです。庭で紅花を育てても良いですか?」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「お松の着物を紅花で染めようとしたら、たくさんの紅花が必要になる。庭だけで着物を染めるのに必要な紅花を咲かせようとしたら、庭が紅花で覆われてしまうかも知れないぞ。」

松姫は武田信玄を不思議そうに見た。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿から頂いた大切な紅花の種だ。お松も綺麗に咲いた紅花を見たいだろ。半分は庭で育てて、残りの半分は私が別な場所で育てさせよう。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「ありがとうございます!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「紅花が無事に育つと良いな。」

松姫は武田信玄を笑顔で話し出す。

「はい!」

武田信玄は松姫を微笑んで見た。



その翌日の事。



松姫が奇妙丸に書いた文は、武田信玄が預かった。

武田信玄を通じて、奇妙丸の元へと届けられる事となった。



奇妙丸様へ

暑い日が続くようになったと文に書いてありました。

お元気でお過ごしでしょうか。

松の住む所は、梅雨が明けたかも知れません。

暑い日が増えてきました。

綺麗な紅花と種の贈り物が届きました。

ありがとうございます。

奇妙丸様から頂いた紅花の種を、半分は庭に植えて、半分は父に預けて育ててもらう事にしました。

奇妙丸様から頂いた紅花の種で染めた衣を着て、奇妙丸様の元に嫁ぎたいと思っています。

奇妙丸様から頂いた歌を詠んでいたら、とても嬉しいと思うと同時に恥ずかしくなりました。

松は奇妙丸様に相応しい女性になりたいです。

そして、奇妙丸様から頂いた歌に相応しい女性になりたいとも思っています。

これから暑い日が続きます。

お体に気を付けてお過ごしください。

松より

奇妙丸が贈った紅花。

紅花で染めた鮮やかな紅の衣。



松姫は鮮やかな紅色の着物に負けない女性になるために努力を続けています。



暑い日は続きますが、暦は夏から秋に移ろうとしています。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は、「万葉集 第七巻 一二九七番」です。

「紅に 衣染めまく 欲しけども 着てにほはばか 人の知るべき」

ひらがなの読み方は、「くれないに ころもそめまく ほしけども きてにほはばか ひとのしるべき」です。

作者は、「柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集」からです。

意味は「紅に衣を染めようと思うけれども、着て目立ったら、人に知られてしまうでしょう。」となるそうです。

原文は「紅 衣染 雖欲 著丹穗哉 人可知」です。

この歌は、素敵な女性のことを「紅(くれない)」に譬えている歌のようです。

「紅(くれない)」は「紅花(べにばな)」の事です。

「薊(あざみ)」に似た花を咲かせます。

「紅花」は、昔から衣料などの染料や薬草として使われていました。

紅花で染めた布は、鮮やかな赤色になります。

現在では、「紅花」は種子からリノール酸を含む良質の油が採れるので、「紅花油」として食用で利用されています。

「紅花」は、「万葉集」では、「紅」の他に「末摘花(すえつむはな)」でも登場するそうです。

「紅花」の栽培地として有名なのは、現在の山形県の最上川周辺です。

「夏越しの月(なごしのつき)」は、「夏越の祓の行われる月。陰暦六月の異称。」という意味です。

この物語では「陰暦六月の異称」として題名にしました。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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