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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 愛逢月 彦星と織女と 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも」

「万葉集 第十巻 二〇五二番」より

作者:詠み人知らず



「天の川 楫の音聞こゆ 彦星と 織女と 今夜逢ふらしも」

「万葉集 第十巻 二〇二九番」より

作者:柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、九つ目の月となった。

暦は七月となった。



ここは、甲斐の国。



暦が夏から秋に移ったが、暑い日が続いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



松姫は菊姫の部屋を訪れている。



松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。暑いですね。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「暑いわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「もう直ぐ七夕ですね。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「七夕の当日に、夜空に輝く織姫星と彦星に宛てて歌を詠みませんか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。良い事を思い付いたわね。」

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「母上に、七夕について詠んだ歌を教えて欲しいと、お願いをしに行きましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



菊姫と松姫は、油川夫人の部屋へ行くために、部屋を出て行った。



その翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



武田信玄が訪ねてきた。



菊姫と松姫は、武田信玄に笑顔で話し出す。

「父上! こんにちは!」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊もお松も元気そうだな。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「七夕の夜に、姉上と一緒に織姫星と彦星に宛てて、七夕の歌を詠みたいと思います! 母上に七夕について詠んだ歌を教えて頂いている最中です!」

武田信玄は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「七夕について詠んだ歌は多いから、気に入った歌を見つけるのは大変だろ。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「お松とお菊には、落ち着いて歌を覚えて欲しいと思っています。今回は、私の気に入っている七夕について詠んだ歌の中から選ぶように話をしました。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「七夕が近づいてくるが、落ち着いて覚えるように。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

武田信玄は松姫に文を差し出すと、微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸殿から文が届いた。いつも通り、落ち着いて文を読んで返事を書くように。」

松姫は武田信玄から笑顔で文を受け取った。

武田信玄は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。一緒に文を読んでください。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。



松姫は文を持ちながら、自分の部屋へ向かうために、その場を後にした。

菊姫は松姫と一緒に部屋に向かうために、その場を後にした。



ここは、松姫の部屋。



松姫と菊姫は、一緒に居る。



松姫は微笑みながら文を読み始めた。

菊姫は松姫の横で、微笑んで文を読み始めた。



お松様へ

暦が夏から秋へと移ろうとしています。

こちらでは、暦は夏の終わりとなっていますが、暑い日が続いています。

暦は秋へと移っても、もう少しだけ暑い日が続くように思います。

お松様は、お元気にお過ごしでしょうか。

私は元気に過ごしています。

七夕が近づいてきました。

お松様と一緒に七夕を過ごす事が出来なくて残念です。

七夕の夜に、お松様が綺麗な星を見る事が出来るように祈っています。

七夕を詠んだ歌で、珍しいけれど素敵な歌を見つけました。

受け取って頂けると嬉しいです。

この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも

もし、七夕の夜に雨が降ったとしても、この歌のような出来事が天の川で起きているならば、雨の降る七夕も趣があると思うようになりました。

今回は、この歌を書いた短冊を文に同封しました。

七夕に役立つ事があれば嬉しいです。

良い七夕をお過ごしください。

奇妙丸より



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「“この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも”。素敵な歌ね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様はお松に素敵な歌を選んで贈ったのね。羨ましいな。」

松姫は机に文を置くと、文の中に同封されていた短冊を微笑みながら手に取った。

菊姫は短冊を微笑んで見た。

松姫は短冊を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「松も奇妙丸様に素敵な七夕の歌を贈りたいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「父上に、七夕までに奇妙丸様への文の返事を届けてもらう事が出来るのか、確認を取りましょう。」

松姫は短冊を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。



菊姫と松姫は、武田信玄と油川夫人の居る部屋へ行くために、部屋を出て行った。



その翌日の事。



松姫の書いた文は、武田信玄が一旦預かった。



使者は、武田信玄と松姫からの願いを受けて、奇妙丸の元へと急いで文を届けた。



それから何日か後の事。



七夕の夜となった。



ここは、甲斐の国。



夜空には、数え切れない程の星が綺麗に輝いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



屋敷の縁。



菊姫と松姫は、縁に座りながら、微笑んで星空を見ている。



菊姫は松姫を見ると、微笑んで話し出す。

「綺麗な星空ね。」

松姫は二枚の短冊を持ちながら、菊姫を見ると、微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様も綺麗な七夕の星空を見ていると良いわね。」

松姫は二枚の短冊を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松が奇妙丸様のために選んだ七夕の歌を、気に入ってくださると良いわね。」

松姫は二枚の短冊を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「彦星は天の川を渡り終えて、織姫星と一緒に過ごしている頃かしら?」

松姫は二枚の短冊を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「たくさんの星が綺麗に輝いているので、織姫星と彦星は既に逢っていると思います。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は二枚の短冊を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は星空を微笑んで見た。

松姫は二枚の短冊を持ちながら、星空を微笑んで見た。



菊姫と松姫の上には、数え切れない程の星が綺麗に輝いている。



菊姫は星空を微笑んで見ている。

松姫が寄りかかってきた。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は二枚の短冊を持ちながら、菊姫に寄りかかって眠っている。

菊姫は松姫を微笑んで見た。



油川夫人が菊姫と松姫の傍に微笑んできた。

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫は二枚の短冊を持ちながら、菊姫に寄りかかって眠り続けている。

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「織姫星と彦星が、綺麗な星を見ながら一緒に過ごす事が出来て良かったですね。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「甲斐の国の織姫星と岐阜の国の彦星が出逢うのは、もう少し先の事でしょうか?」

油川夫人は菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お松が奇妙丸様のために選んだ歌は、“天の川 楫の音聞こゆ 彦星と 織女と 今夜逢ふらしも”です。岐阜の国も綺麗な七夕の星空になっていて、織姫星と彦星が一緒に過ごす様子を見る事が出来ると良いですね。」

油川夫人は菊姫に微笑んで頷いた。

松姫は二枚の短冊を持ちながら、菊姫に寄りかかって眠り続けている。



奇妙丸様へ

暑い日が続いています。

お元気にお過ごしでしょうか。

素敵な文と素敵な七夕の歌と七夕のための短冊が届きました。

松はとても嬉しいです。

ありがとうございます。

私も奇妙丸様に七夕を詠んだ歌を贈りたいと思いました。

でも、七夕の歌について勉強を始めたばかりなので、不慣れな事があると思います。

今の松に出来る範囲となりますが、奇妙丸様のために七夕について詠んだ歌を選びました。

受け取って頂けると嬉しいです。

天の川 楫の音聞こゆ 彦星と 織女と 今夜逢ふらしも

今回は松が選んだ歌を短冊に書いて、文に同封しました。

松は奇妙丸様と一緒に過ごす七夕が、早く訪れると良いなと思っています。

そして、奇妙丸様と一緒に、織姫星と彦星が出逢う姿や一緒に過ごす姿を見て、彦星が天の川を渡るための楫の音を聞きたいです。

奇妙丸様のお住まいの所から見る七夕の夜空に、たくさんの綺麗な星が輝く事を祈っています。

松より



油川夫人、菊姫、松姫の上には、数え切れない程の星が綺麗に輝き続けている。



松姫が大事に持っている二枚の短冊には、二首の歌が書いてある。

一首は、奇妙丸様が松姫に宛てて書いた“この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも”。

もう一首は、松姫が奇妙丸に宛てて書いた“天の川 楫の音聞こゆ 彦星と 織女と 今夜逢ふらしも”。



油川夫人と菊姫は、松姫の想いが一日も早く叶う事を願いながら、七夕の夜空に輝く星を見た。



七夕の夜空に輝く天の川の中で、織姫星と彦星は逢う事が出来たようです。

甲斐の織姫星の松姫と岐阜の彦星の奇妙丸は、別々な場所で七夕を過ごしています。

甲斐の織姫星の松姫と岐阜の彦星の奇妙丸が出逢うのは、もう暫く先の事になるようです。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

「七夕(たなばた)」についてです。

旧暦の七月十五日の夜に戻って来る先祖の霊に着せる衣服を機織して棚に置いておく風習があり、棚に機で織った衣服を備える事から「棚機(たなばた)」という言葉が生まれたそうです。

その後、仏教が伝来すると七月十五日は仏教上の行事の「盂蘭盆(うらぼん)」となり、棚機は盆の準備をする日ということになって、七月七日に繰り上げられたそうです。

これに中国から伝わった織女・牽牛の伝説が結び付けられ、天の川を隔てた織姫(織姫星・琴座のベガ)と彦星(牽牛星・鷲座のアルタイル)が年に一度の再開を許される日となったそうです。

元は宮中行事だったそうです。

現在の様に一般的に行われるようになったのは、江戸時代からだそうです。

そして、現在の「七夕」の形に近くなってきたのも江戸時代からだそうです。

笹などを飾り付ける風習は、江戸時代頃から始まり、日本だけに見られる風習だそうです。

物語の時期設定は、「七夕」の少し前から当日の夜までとなっています。

「陰暦」を基にして物語を書いているので、現在の暦と少しずれています。

陰暦の「七夕」は、現在の暦で七月下旬から八月下旬の頃になるので、落ち着いた天気になっている事が多いかと思います。

現在の暦の「七夕」は、天気の悪い日や雨が降る日が多いかと思います。

武田信玄の正室の三条夫人は公家の人です。

織田信長も京の都を意識していたと思います。

そういう事もあり、「七夕」の行事の内容や規模など、詳しい事は分かりませんが、「七夕」の行事を行っていた可能性はあると思います。

今回の物語は、時期に関しては、陰暦の七月七日を元にして書きましたが、行事の内容は、現在の「七夕」を少し元にして書きました。

今回の物語に登場する歌は、二首あります。

一つは、「万葉集 第十巻 二〇五二番」です。

「この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも」

ひらがなの読み方は、「このゆうへ ふりくるあめは ひこほしの はやこぐふねの かいのちりかも」です。

作者は、「詠み人知らず」です。

意味は、「この夕べに降る雨は、彦星が急いで漕いでいる舟の櫂のしずくなのかも」となるそうです。

原文は、「此夕 零来雨者 男星之 早滂船之 賀伊乃散鴨」です。

「櫂(かい)」は、舟を進めるために水をかくための道具です。

もう一つは、「万葉集 第十巻 二〇二九番」です。

「天の川 楫の音聞こゆ 彦星と 織女と 今夜逢ふらしも」

ひらがなの読み方は、「あまのがわ かぢのおときこゆ ひこぼしと たなばたつめと こよひあふらしも」です。

作者は、「柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より」です。

意味は、「天の川にかじの音が聞こえます。彦星と織女は、今夜逢うようです。」となるそうです。

原文は「天漢 梶音聞 孫星 与織女 今夕相霜」です。

七夕の夜の当日を詠んだ歌だそうです。

楫を漕いでいるのは彦星になるそうです。

彦星が天の川を舟で渡って織姫星に逢いにゆく様子を歌っているそうです。

「愛逢月(あいぞめづき)」は、「陰暦七月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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