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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 十五夜 夜渡る月にあらませば 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「ぬばまたの 夜渡る月に あらませば 家なる妹に 逢ひて来ましを」

「万葉集 第十五巻 三六七一番」

作者:詠み人知らず(遣新羅使[けんしらぎし])



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、十の月を数えた。

暦は八月となった。



ここは、甲斐の国。



日中は暑い日が多いが、夜になると暑さも和らぐ事が多くなった。

もう少し経つと、過ごしやすい日が増えるように感じる。



そんなある日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



菊姫と松姫は、油川夫人の部屋を笑顔で訪れた。



油川夫人は松姫と菊姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。十五夜より前にお月見のお団子を作りたいです。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「十五夜の当日の早い内に作れば間に合うので、焦る必要はないと思います。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様のために美味しいお月見のお団子を作りたいです。十五夜の当日だとゆっくりと教わる事ができません。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松には、何年か前から十五夜のお月見団子を作る時の手伝いを頼んでいます。作り方も教えました。心配する必要はないと思います。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様にいつ嫁いでも良いように、お月見のお団子の作り方を確認の意味も込めて、母上に教えて頂きたいと思いました。十五夜の当日では母上にも姉上にも屋敷の者達にも迷惑が掛かるかも知れません。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お松から今の話しを聞いて、私もいつ嫁いでも良いように、母上からお月見団子や十五夜について事前に教えて頂きたいと思いました。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。良い心がけですね。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「褒めて頂いてありがとうございます!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「褒めて頂いて嬉しいです。」

油川夫人は松姫と菊姫に、微笑んで話し出す。

「近い内に、十五夜にちなんだ話しや、お月見団子の作り方などを、確認を込めて勉強しましょう。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「今年の内に覚えきれない事があったとしても、来年があります。仮に来年に嫁ぐ話しが出たとしても、今までに覚えた事があります。ゆっくりと落ち着いて覚えましょう。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



それから数日後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



菊姫と松姫は、油川夫人から、十五夜にちなんだ事とお月見団子の作り方を、確認の意味も込めて教えてもらっている。



奇妙丸様へ

お元気にお過ごしでしょうか。

松は元気で過ごしています。

十五夜が近づいてきました。

奇妙丸様と一緒に十五夜を過ごす事が出来なくて寂しいです。

こちらの十五夜当日は、父上も兄上もお忙しい方なので、母上と姉上と松と屋敷の者達と一緒に過ごす事になると思います。

少し早いのですが、姉上と一緒に、十五夜にちなんだ話しや、お月見団子の作り方を、母上から確認の意味も込めて教わりました。

今日は、母上に教えて頂きながら、姉上と二人で作りました。

奇妙丸様に美味しいお月見のお団子を食べて頂きたいと思いながら作りました。

今回の作ったお月見のお団子は、母上、姉上、私、屋敷の者達と食べました。

みんなは美味しいと言って食べていました。

私は母上が作ったお月見のお団子の方が美味しいと思いました。

来年は母上と同じくらいに美味しいお月見のお団子を作りたいと思っています。

松は至らないところがたくさんあります。

奇妙丸様に相応しい女性になれるように、日々努力をしています。

奇妙丸様と一緒に過ごす十五夜を楽しみにしています。

素敵な十五夜をお過ごしください。

松より



それから数日後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



武田信玄が穏やかな表情で訪れた。



菊姫と松姫は、笑顔で武田信玄の前に現れた。

油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄は油川夫人と菊姫と松姫に微笑んで頷いた。



ここは、屋敷に在る一室。



松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「母上にお月見のお団子の作り方を教わりました。姉上と一緒に作りました。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松が、お月見の団子を作ると知っていれば、何としてでも都合を付けて食べにきたのに。残念だな。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「母上の作るお月見のお団子は、美味しいです。来年は母上と同じような美味しいお月見団子を作りたいと思います。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「来年を楽しみに待つ事にしよう。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「松は、奇妙丸様にも父上にも、美味しいお月見のお団子を食べて頂けるように努力します!」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。精進する事はとても良い事だ。母上からは学ぶ事がたくさんある。焦らずにゆっくりと学ぶように。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸殿から文が届いた。」

松姫は武田信玄を笑顔で見た。

武田信玄は松姫に微笑んで文を差し出した。

松姫は武田信玄から笑顔で文を受け取った

武田信玄は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を抱きながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。今日も一緒に文を読んでください。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を抱えながら、武田信玄と油川夫人に微笑んで軽く礼をした。

菊姫は武田信玄と油川夫人に微笑んで軽く礼をした。

松姫は文を抱えながら、嬉しそうに部屋を出て行った。

菊姫は松姫に続いて部屋を出て行った。



ここは松姫の部屋。



松姫は丁寧に文を開いた。

菊姫は松姫の横で微笑んで様子を見ている。

松姫は文を微笑んで読み始めた。

菊姫は松姫の横で文を微笑んで読み始めた。



お松様へ

文が届きました。

お元気にお過ごしとの事。

安心しました。

私も元気に過ごしています。

お松様が作られたお月見団子が食べたいと思いました。

私の事を考えて作られたとの事。

とても嬉しく思いました。

私もお松様に相応しい武士となるために、日々精進しています。

十五夜が近づいたという事で、良い歌はないかと調べていました。

月を詠んだ一首の歌を見つけました。

ぬばまたの 夜渡る月に あらませば 家なる妹に 逢ひて来ましを

遣新羅使の方が詠んだ歌だそうです。

夜空に浮かぶ月を見ていたら、私もこの歌を詠んだ方の気持ちが分かるように感じました。

夜空に浮かぶ月を見ながら、この歌が現実となれば良いのにと思いました。

お松様と逢える日が一日も早く訪れる事を願っています。

良い十五夜をお過ごしください。

奇妙丸より



それから何日か後の夜の事。



十五夜の当日。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



屋敷から見る夜空には、綺麗な丸い月が輝きながら浮かんでいる。



松姫は夜空に浮かぶ丸い月を笑顔で見ている。

菊姫は夜空に浮かぶ丸い月を微笑んで見ている。

松姫は菊姫を見ると、微笑んで話し出す。

「姉上。松も奇妙丸様と同じように、“ぬばまたの 夜渡る月に あらませば 家なる妹に 逢ひて来ましを”という歌を詠んだ方の気持ちが分かるように思います。」

菊姫は松姫を見ると、微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は素敵な歌をご存知よね。さり気なくお松への想いを伝えているところも素敵よね。お松も奇妙丸様のように、さり気なく感じながらも、しっかりと想いを伝える事が出来るように勉強をしていきましょうね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「覚える事がたくさんあって大変だけど、父上と母上に言われた通り、焦らずに落ち着いていきましょうね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



「ぬばまたの 夜渡る月に あらませば 家なる妹に 逢ひて来ましを」

甲斐に住む松姫と岐阜に住む奇妙丸。

遣新羅使が、家族や大切な人を思いながら詠んだ歌ほど、松姫と奇妙丸の距離は離れていないかも知れません。

簡単に逢う事の出来ない状況と戦いの続く中での暮らしは、遣新羅使の状況と通じるかも知れません。

奇妙丸も松姫も歌に込めた思いを同じように感じたのかも知れません。



過去も未来も現在も、月の光はたくさんの想いを受けながら、綺麗に輝き続けています。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は、「万葉集 第十五巻 三六七一番」です。

「ぬばまたの 夜渡る月に あらませば 家なる妹に 逢ひて来ましを」

ひらがなの読み方は、「ぬばまたの よわたるつきに あらませば いえなるいもに あひてきましを」です。

作者は、「詠み人知らず(遣新羅使[けんしらぎし])」です。

意味は、「(もし私が)夜を渡ってゆく月だったら、家にいる妻に逢って来るんだけれどなぁ・・・」となるそうです。

原文は、「奴婆多麻乃 欲和多流月尓 安良麻世婆 伊敝奈流伊家尓 安比■許麻之乎」です。

「■」は文字変換が出来ませんでした。

「弓」の下に「一」という字です。

新羅(しらぎ)に遣わされた船団が筑前國(ちくぜんのくに)志摩郡(しまりこほり)の韓亭(からとまり)の停泊して三日経った夜に、月が明るく照らしていたそうです。

これを見て、遣新羅使(けんしらぎし)達が詠んだ歌の一つだそうです。

「ぬばまたの」は、黒、夜、黒を想像させる言葉、などを導く枕詞として使われています。

「十五夜(じゅうごや)」と「中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)」についてです。

別名は「芋名月(いもめいげつ)」ともいいます。

「陰暦の八月十五日の夜の月」の事をいいます。

この時期は、古来より観月に最も良い時節とされています。

秋や冬は空気が乾燥して月が鮮やかに見える事、それに、夜でもそれほど寒くないために、名月として観賞されるようになったそうです。

中国にも同様の風習が唐の時代に確認されているそうです。

もしかしたら、更に古くからある事も考えられます。

日本には九世紀から十世紀の頃に渡来したそうです。

貴族を中心に行なっていたそうですが、後に武士や町民にも広まったそうです。

酒宴を開いたり、詩や歌を詠んだり、薄を飾ったり、月見団子・里芋・枝豆・栗などを持ったり、お酒を供えて月を眺めたそうです。

お月見料理というらしいです。

中国では「月餅」を作ってお供えするそうです。

「月餅」が日本に来て「月見団子」に変わったそうです。

お月見が一般的に行なわれるようになったのは、江戸時代からだそうです。

お月見団子は一般的には自分の家庭で作るそうです。

お月見団子の数は、その年の月の数だけ供えるそうです。

今年(2007年)は、「2007年9月25日」が、「中秋の名月・十五夜」だそうです。

ご確認ください。

ちなみに、風習の関係から今回の「十五夜」の他に「十三夜」の物語も掲載する予定です。

この物語では、松姫は、自分の屋敷で十五夜を行なっています。

松姫の現在の立場から考えると、「躑躅ヶ崎館」で「十五夜」を行なう可能性が高いと思います。

松姫は、武田信玄などの都合で、自分の屋敷で「十五夜」を行なったと想像してください。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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