このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 十三夜 ささら愛壮士天の原 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「山の端の ささら愛壮士 天の原 門渡る光 見らくしよしも」
「万葉集 第六巻 九八三番」より
作者:坂上郎女(さかのうえのいつらめ)
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、十一の月を数えた。
暦は九月となった。
ここは、甲斐の国。
日中は涼しい日が続いている。
夜になると僅かだが肌寒さを感じる時がある。
そんな月の綺麗な夜の事。
肌寒さは感じずに、心地良さを感じる。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
松姫の部屋の前の縁。
松姫は縁に立って微笑んで月を見ている。
夜空には、丸い形になるには暫く掛かる月が、ほのかな光を放ちながら浮かんでいる。
松姫は月を見ながら、微笑んで呟いた。
「今夜の月も綺麗だから、十三夜には更に綺麗になるわね。奇妙丸様も同じ月を見ていらっしゃると良いな。」
松姫は視線を戻すと、自分の部屋の中へと入っていった。
その翌日の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
油川夫人の部屋。
菊姫と松姫が、笑顔で訪れた。
油川夫人は松姫と菊姫を微笑んで見た。
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様が十五夜に間に合うように、月を詠んだ素敵な歌を松に贈ってくださいました。松は十三夜に間に合うように、奇妙丸様に月を詠んだ歌を贈りたいです。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「月を詠んだ歌はたくさんあります。私も松と一緒に勉強させてください。」
油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊は月を詠んだ歌で勉強したい歌はありますか?」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「不勉強なので、詳しい事が分かりません。」
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お松は奇妙丸様に、どのような内容の月を詠んだ歌を贈りたいですか?」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「月の綺麗な様子と奇妙丸様への想いを、共に表す事の出来る歌を贈りたいです。」
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お松は歌の勉強を始めたばかりです。お松が気に入った歌を、奇妙丸様に贈りましょう。」
松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。
「はい!」
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「十三夜に間に合うように奇妙丸様に歌を贈るとなると、時間的に余裕がありません。焦るかも知れませんが、良い歌を贈る事が出来るように、落ち着いて学びましょう。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は松姫を微笑んで見た。
奇妙丸様へ
お元気にお過ごしでしょうか。
松は元気に過ごしています。
甲斐の国は過ごしやすい日が続くようになりました。
岐阜の国も過ごしやすい日が続いているのでしょうか。
十五夜の頃から、綺麗な月を見る事が出来るようになりました。
月を詠んだ素敵な歌を贈って頂いて、ありがとうございました。
十五夜の夜に、奇妙様から頂いた歌を何度も詠み返しながら月を見ました。
松も十三夜のための歌を奇妙丸様に贈りたいと思いました。
松は歌の勉強中なので、今の松が素敵だと感じた歌を贈る事にしました。
呆れずに受け取って頂けると嬉しいです。
山の端の ささら愛壮士 天の原 門渡る光 見らくしよしも
十三夜の日も、父上と一緒に過ごす事は出来ないようです。
母上と姉上と松と屋敷の者達で過ごす事になりそうです。
奇妙丸様と一緒に十三夜を過ごす事は出来ませんが、十三夜の月を一緒に見る事が出来ると良いなと思っています。
素敵な十三夜をお過ごしください。
松より
十三夜が近づいてきた。
そんなある日の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
武田信玄が微笑みながら訪れた。
菊姫と松姫は、武田信玄の前に笑顔で訪れた。
油川夫人は武田信玄の前に微笑んで現れた。
ここは、屋敷に在る一室。
武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫は、一緒に居る。
武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。
「十三夜の行事の準備は進んでいるか?」
油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。
「はい。」
武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。
「お松とお菊のために、十三夜の行事をしっかりと行なってくれ。お松が奇妙丸殿の元に嫁いだ時に困る事のないように、甲斐に居る間に十三夜に関する事を教えてくれ。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く例をした。
武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。
「十三夜の行事に必要な物があったら、遠慮せずに言ってくれ。直ぐに用意をする。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。
「お気遣いありがとうございます。必要な物を気が付いた時には、直ぐに連絡をしたいと思います。」
武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。
油川夫人は武田信玄を微笑んで見た。
武田信玄は松姫を見ると、微笑んで話し出す。
「お松の書いた文は、預かった当日に、奇妙丸殿の元に届けるように頼んだ。」
松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。
「ありがとございます!」
武田信玄は松姫を微笑んで見た。
松姫は武田信玄を笑顔で見た。
武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸殿から文も贈り物も届いていない。」
松姫は武田信玄を寂しそうに見た。
武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸殿も忙しい方だ。落ち込まずに、気長に待つように。」
松姫は武田信玄を微笑んで見た。
武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。
それから何日か後の事。
十三夜となった。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
屋敷の庭。
松姫と菊姫は、庭に居る。
松姫は微笑んで月を見上げた。
丸くなりかけた月が、夜空にゆったりと浮かんでいる。
松姫は菊姫を見ると、微笑んで話し出す。
「綺麗な月ですね。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様も素敵な月を見ていると良いわね。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
油川夫人が松姫と菊姫の元に微笑んで現れた。
菊姫と松姫は、油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「十三夜の行事を始めようと思います。」
松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。
「はい!」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。
油川夫人、菊姫は、松姫は、庭を後にした。
お松様へ
お元気に過ごされている事が文を読みながら伝わってきました。
私は元気に過ごしています。
安心してください。
信玄公と一緒に十三夜を過ごせない事は寂しいと思います。
信玄公もお松様と同じ気持ちだと思います。
私もお松様と一緒に十五夜も十三夜も共に過ごせない事が寂しいです。
十五夜も十三夜も二人で一緒に過ごす事が出来る日が、早く訪れて欲しいと思いました。
十三夜のための歌を贈って頂いてありがとうございます。
甲斐の国で見る、ささら愛壮士の姿を想像しました。
綺麗に輝くささら愛壮士を想像しました。
お松様が羨ましいです。
お松様から頂いた歌を詠みながら、岐阜の十三夜のささら愛壮士を見たいと思います。
十五夜の頃に贈った歌を褒めて頂けてとても嬉しいです。
これからも歌について学び続けたいと思います。
お松様に更に喜んで頂ける歌をたくさん贈る事が出来るようになりたいと思います。
お体に気を付けてお過ごしください。
奇妙丸より
甲斐の国に住む松姫。
岐阜の国に住む奇妙丸。
ささら愛壮士は、松姫と奇妙丸の想いを受けて、十三夜に綺麗な姿を見せているようです。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は、「万葉集 第六巻 九八三番」です。
「山の端の ささら愛壮士 天の原 門渡る光 見らくしよしも」
ひらがなの読み方は、「やまのはの ささらえをとこ あまのはら とわたるひかり みらくしよしも」です。
作者は「坂上郎女(さかのうえのいつらめ)」です。
意味は、「山に上った月が、空を渡ってゆく光を見るのは素敵なことです。」となるそうです。
原文は、「山葉、左佐良榎壮子、天原、門度光、見良久之好藻」です。
「ささら愛壮士」は、「月」の事を言うそうです。
「山の端」は、「山の稜線」の事を言うそうです。
「十三夜(じゅうさんや)」は、「陰暦十三日の夜。または、陰暦九月十三日の夜。」を差します。
「十五夜(じゅうごや)」は、「陰暦十五日の夜。または、陰暦八月十五日の夜。」を差します。
「十五夜」に対しての「十三夜」の場合は、どちらの意味で取る事も出来ます。
この物語は、「陰暦九月十三日の夜」という意味で使用しています。
陰暦八月十五日に次いで月が美しいとされています。
別名には、「後の月(のちのつき)」、「豆名月(まめめいげつ)」、「栗名月(くりめいげつ)」があります。
「十五夜」は中国から渡来した風習ですが、「十三夜」は日本独自の風習になります。
十三夜の基となる風習は、戦国時代より前からありました。
江戸時代になってから、町民の間などに広まったそうです。
「十三夜」の時期に食べ頃の大豆や栗を供えるそうです。
「十五夜」だけ、「十三夜」だけ、などと片方しか行なわないのは、「片見月(かたみづき)」といって嫌われたそうです。
「十三夜」は、現在の暦にすると毎年十月頃になります。
毎年のように日付が違います。
今年(2007年)は、2007年10月23日となります。
ご確認ください。
楽しんで頂けると嬉しいです。
←前
目次
次→
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |