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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 時雨月 紅葉 見せむがために 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「このしぐれ いたくな降りそ 我妹子に 見せむがために 黄葉取りてむ」

「万葉集 第十九巻 四二二二番」より

作者:久米広縄(くめひろつな)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、十二の月を数えた。

暦は十月となった。



ここは、甲斐の国。



夜になると肌寒さを感じる日が増えてきた。



色の変わる葉の色が、紅色や黄色に色付いている。

辺りを色鮮やかに染め上げている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



菊姫は松姫の元を訪れている。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。明日は父上と一緒に紅葉狩りに行けるわね。楽しみね。」

松姫は菊姫に笑顔で話し出す。

「父上に一緒に紅葉狩に行きたいとお願いしていたのが叶って嬉しいです! 明日がとても楽しみです!」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を笑顔で見た。



その翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



武田信玄が屋敷を笑顔で訪れた。



油川夫人は武田信玄を微笑んで出迎えた。

菊姫と松姫は、武田信玄を笑顔で出迎えた。



武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫を微笑んで見た。



それから僅かに後の事。



ここは、屋敷の中に在る一室。



武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫は、一緒に居る。



武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫に微笑んで話し出す。

「今日は約束どおり紅葉狩りに出掛ける日だ。楽しみだな。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「紅葉狩りに出掛ける準備は終わったのか?」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。



それから少し後の事。



武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫、数人の供の者達は、紅葉狩りへと出掛けて行った。



奇妙丸様へ

甲斐の国では、日中でも肌寒さを感じる日が増えてきました。

お元気にお過ごしでしょうか。

松は元気に過ごしています。

今日は父上と母上と姉上と私で、屋敷の近くに在る紅葉の綺麗な場所に、紅葉狩りに行きました。

辺りが紅色に彩られていて、とても綺麗でした。

奇妙丸様と一緒に見たら、更に素敵な景色になると何度も思いました。

紅葉狩に行った場所で、綺麗な紅色に染まっている紅葉を一枚だけ採ってきました。

文に添えてお贈りします。

受け取って頂けると嬉しいです。

奇妙丸様と婚約をしてから一年が経ちました。

松にとっては、とても早い一年でした。

松は未熟者なので、母上から教わる事がたくさんあります。

奇妙丸様に相応しい正室になれるように日々精進します。

これからも末永くよろしくお願いします。

松より



それから何日か後の事。



ここは、甲斐の国。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



武田信玄が微笑んで訪れた。

油川夫人は武田信玄を微笑んで迎えた。

武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。

松姫は武田信玄の前に笑顔で現れた。

菊姫は武田信玄の前に微笑んで現れた。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。元気だな。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は松姫に文を差し出すと、微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿からお松宛の文が届いた。」

松姫は武田信玄から笑顔で文を受け取った。

武田信玄は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ちながら、武田信玄に笑顔で話し出す。

「奇妙丸様へ文の返事を書きます!」

武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ちながら、菊姫に笑顔で話し出す。

「姉上! 奇妙丸様への文の返事の確認をお願いします!」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ちながら、武田信玄と油川夫人に笑顔で軽く礼をした。

菊姫は武田信玄と油川夫人に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ちながら、嬉しそうに自分の部屋へと戻って行った。

菊姫は松姫の後を付いていきながら、微笑んで去って行った。



それから僅かに後の事。



ここは、松姫の部屋。



菊姫と松姫は、一緒に居る。



松姫は嬉しそうに文を広げた。



文の中に、一枚の綺麗な紅色の紅葉も入っている。



松姫は文と紅葉を嬉しそうに見た。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「綺麗な紅葉ね。」

松姫は文と紅葉を持ちながら、菊姫に嬉しそうに話し出す。

「はい!」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は紅葉を机に置くと、嬉しそうに文を読み始めた。

菊姫は松姫の横で、微笑んで文を読み始めた。



お松様へ

紅葉狩りに出掛けられたとの事。

楽しい時間を過ごされた様子が伝わってくると同時に、お松様の笑顔や紅色に彩られた景色を見たいと思いました。

お松様と一緒に紅葉狩りをする日が楽しみです。

岐阜でも紅葉が紅色に染まっています。

先日の事になりますが、私も紅葉狩りに出掛けました。

私もお松様と一緒に紅葉狩りに行けたら良いのにと想いました。

このしぐれ いたくな降りそ 我妹子に 見せむがために 紅葉取りてむ

紅葉狩りの時に見つけた、綺麗な紅色に染まった紅葉を添えて文を贈ります。

歌と一緒に受け取って頂けると嬉しいです。

私も至らないところがたくさんあります。

日々精進しています。

お松様と共に末永く過ごせる日を楽しみに待っています。

奇妙丸より



松姫は文を持ちながら、菊姫に不思議そうに話し出す。

「奇妙丸様は紅葉狩りの最中に時雨が降ったのでしょうか?」

菊姫は松姫に考え込みながら話し出す。

「時雨の降った可能性はあると思うわ。でも、文の内容と父上の様子から判断すると、お元気に過ごされていると思うの。文を書いて、さり気なく様子を確認してみたらどうかしら?」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

素敵な歌と綺麗な紅色の紅葉の贈り物をありがとうございます。

松はとても嬉しいです。

今は時雨の降る季節です。

紅葉狩りの最中に時雨が降ったのでしょうか。

今の季節に雨に濡れると、更に肌寒さを感じると思います。

お体に気を付けください。

屋敷の庭に綺麗な黄色に色付いていた葉を見つけました。

文に添えて贈ります。

受け取って頂けると嬉しいです。

松より



「このしぐれ いたくな降りそ 我妹子に 見せむがために 黄葉取りてむ」

今の季節は、紅葉や黄葉が、綺麗に色付いています。

松姫と奇妙丸の想いも綺麗に彩られています。



松姫と奇妙丸との縁談が調ってから、次の月は十三の月を数えます。

楽しい想いで彩りながら、日々が過ぎていきます。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は、「万葉集 第十九巻 四二二二番」です。

「このしぐれ いたくな降りそ 我妹子に 見せむがために 黄葉取りてむ」です。

ひらがなの読み方は、「このしぐれ いたくなふりそ わぎもこに みせむがために もみちとりてむ」です。

作者は、「久米広縄(くめひろつな)」です。

意味は、「このしぐれ、あまりひどく降らないで。私の妻に見せるために紅葉を取っていこう(と思うのに)。」だそうです。

原文は、「許能之具礼 伊多久奈布里曽 和藝毛故尓 美勢牟我多米尓 母美知等里■牟」です。

「■」は現在には使用していない文字か、変換できない字のようです。

天平勝宝二年(750年)九月三日に行なわれた宴で詠まれた歌の一つだそうです。

「時雨(しぐれ)」は、いくつか意味がありますが、雨に関する言葉で使用する時は、「秋の終わりから冬に掛けて、通り雨のように降る雨」となります。

「万葉集」の中に詠まれている「もみじ」は、「黄葉」と書かれているのが圧倒的で、「紅葉」と書かれているのはごく僅かだそうです。

「紅葉狩り(“紅葉狩”とも書きます)(もみじがり)」は、一般的には「山野に紅葉を見に出掛けること」を言います。

「時雨月(しぐれづき)」は、「陰暦十月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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