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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 季冬 草を冬野に踏み枯らし 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「道の辺の 草を冬野に 踏み枯らし 我れ立ち待つと 妹に告げこそ」
「万葉集 第十一巻 二七七六番」より
作者:柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、十四の月を数えた。
暦は十二月となった。
ここは、甲斐の国。
一日を通して寒い日が続いている。
一部の木に葉は残っているが、多くの木は枝だけになっている。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
武田信玄が訪れた。
ここは、屋敷に在る一室。
武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫は、一緒に居る。
武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫に、微笑んで話し出す。
「期間は分からないが忙しくなると思う。少し経てば、簡単な内容になるが説明できると思う。みんなに逢う時間が少なくなるかも知れないから、今日は時間を作って逢いに来た。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。
「私達はご心配をお掛けしないように過ごします。」
菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「私も父上に心配を掛けないように元気に過ごします。」
松姫は武田信玄を心配そうに見た。
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。父上と早く話しをしなさい。」
松姫は油川夫人を僅かに心配そうに見た。
武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。心配や寂しい気持ちを抱いたのなら、隠さずに言って構わない。二人共に元気に過ごすと直ぐに笑顔で言われると、安心するが寂しくもある。お松のように心配や寂しい表情を見ると、心配にもなるが安心もする。人の気持ちと言うのは不思議なものだな。」
油川夫人は武田信玄を心配そうに見た。
武田信玄は油川夫人を見ると、微笑んで頷いた。
松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「父上に会えないのは、心配で寂しいです。父上が私の心配をしたために、他の方達に迷惑を掛けると困ります。私も父上に心配を掛けないように元気に過ごします。父上。安心してお過ごしください。」
武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。
松姫は武田信玄を微笑んで見た。
武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。私への気遣いは大事だが、奇妙丸殿への気遣いは更に大事だ。奇妙丸殿への気遣いを第一に、私への気遣いを第二にして過ごしなさい。」
松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「分かりました。私は、父上の娘で、奇妙丸様の許婚です。父上と奇妙丸様に心配を掛けないように元気に過ごします。」
武田信玄は松姫に微笑んで頷いた。
油川夫人は武田信玄と松姫を微笑んで見た。
それから何日か後の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
松姫の部屋。
菊姫と松姫は、一緒に居る。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「父上や家臣や領民達が、心配や不安な気持ちにならないように、私達は常に笑顔で過ごしましょうね。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。父上の言い付けどおり、笑顔で過ごしています。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
油川夫人が文を持ちながら、部屋の中に微笑んで入ってきた。
松姫は油川夫人を笑顔で見た。
菊姫は油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人は松姫に文を差し出すと、微笑んで話し出す。
「奇妙丸様からお松宛の文が届きました。」
松姫は油川夫人から笑顔で文を受け取った。
菊姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。奇妙丸様への文の返事は、普段どおりに書きなさい。」
松姫は文を持ちながら、油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松からの相談には、しっかりと聞いて答えてあげなさい。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。
松姫は文を持ちながら、油川夫人と菊姫を笑顔で見た。
油川夫人は部屋から微笑みながら出て行った。
松姫は文を丁寧に広げた。
菊姫は松姫の横に微笑んで来た。
松姫は笑顔で文を読み始めた。
菊姫は松姫の横で、微笑んで文を読み始めた。
お松へ
岐阜は寒い日が続いています。
甲斐の国も寒い日が続いていると思います。
お松は元気に過ごしているでしょうか。
私は元気に過ごしています。
安心してください。
冬を詠んだ歌をお松に贈りたいと思い、学び直していました。
冬の歌には、物悲しさや寂しさを詠んだ内容と、春を待つ気持ちを詠んだ内容が多いように感じました。
冬の寒さが、寂しさや悲しさや春を待つ気持ちなどを募らせていくように思いました。
冬を詠んだ歌ではないのですが、気になる歌がありました。
お松に贈るには相応しくない歌だと思ったのですが、気になる歌なので文に書きます。
道の辺の 草を冬野に 踏み枯らし 我れ立ち待つと 妹に告げこそ
道端の草の上に立ち女性を待ち続けたために、長く踏みつけられた草が、冬の季節のように見えるようになってしまった。
女性は訪れたのか、訪れなかったのか、気になります。
私とお松は、離れて暮らしています。
道で待っていてもお松は現れません。
逢えるかも知れない女性を待ち続けている作者が、羨ましく感じました。
お松と一緒に過ごせる日を楽しみに待っています。
良い年をお迎えください。
奇妙丸より
菊姫は松姫を見ると、微笑んで話し出す。
「お松に贈るのに相応しくない歌だと言いながら、お松を想う気持ちをしっかりと書いているから気にならないわね。さすが奇妙丸様ね。」
松姫は文を大事そうに持ちながら、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「新年までに文の返事が届くように、早く書きましょう。」
松姫は文を大事そうに持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。
奇妙丸様へ
お元気に過ごされていると文に書いてあるのを読みました。
とても安心しました。
私は元気に過ごしています。
安心してください。
歌の贈り物ありがとうございます。
私は奇妙丸様が草の上で待っていたら、何をおいても逢いに行きたいと想っています。
私は、草の上で待っていた作者が、想う女性に逢えたと信じたいです。
二人は逢った後に、幸せになったと信じたいです。
今は一年の終わりの月となっています。
次の月は、新年になり春になります。
春の歌は、勉強するのも選ぶのも大変な程に多くの歌があります。
私が幼いために、奇妙丸様に心配や気遣いを掛けてしまい申し訳ありません。
奇妙丸様とお逢い出来る日が一日も早く訪れるように、たくさん学んで努力もしたいと思います。
良い年をお迎えください。
松より
岐阜の国に住む、奇妙丸。
甲斐の国に住む、松姫。
文の中では穏やかな時間が流れている。
今の月は一年の終わりで、次の月は新しい年になる。
静かにゆっくりと時が動いている。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は、「万葉集 第十一巻 二七七六番」です。
「道の辺の 草を冬野に 踏み枯らし 我れ立ち待つと 妹に告げこそ」
ひらがなの読み方は、「みちのへの くさをふゆのに ふみからし われたちまつと いもにつげこそ」です。
意味は、「道端の草を冬の野のように踏み枯らして、私が待っているって、あの娘に伝えて」となるそうです。
作者は、「柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より」です。
原文は、「道邊 草冬野丹 覆千 吾立待跡 妹告乞」です。
この歌は、冬に詠んだ訳ではなくて、道端で草の上に立って、長いこと女性を待っている様子を詠んだ歌だそうです。
長く踏みつけられた草は、まるで冬の枯れ野のようになってしまいそうです、という事を歌で表しているそうです。
武田信玄は、松姫と奇妙丸が婚約をする前もしてからも、戦いを続けています。
そのため、戦に参加している場合、松姫に手紙を届けられるのかという疑問を持つ方はいたと思います。
ただ、武田信玄が出陣したという記録があったしても、日付を特定しなかったりすれば問題も余り起こらないだろうと考えて書いています。
物語の中には、どうしても特定の日に登場する事があります。
出陣していない事も考えられますし、何かの事情で戻ってきている事も考えられます。
そういう状況になっているとご理解のうえ、お読みください。
この物語の設定月の永禄十一年(1568年)十二月は、駿河攻略のために戦などをします。
今川義元は既に亡くなっていますが、今川家は存続しています。
十二月中旬に駿河を占領します。
そのため、今川氏真は掛川城に逃げるようにして行くそうです。
その直後に徳川家康が遠江に進入します。
徳川家康も途中から絡んでくる事や、戦や駆け引きなどがあり、複雑に展開しています。
織田家もこの時期は気になるところはあったと思いますが、今までと変わらない対応をしているという設定になっています。
この時期に何か探りを入れようとしたら、逆に警戒されてしまうし、松姫の文の内容からすると、誰かに見せている事が分かるので、無理な行動は止めたと思ってください。
織田信長と奇妙丸が探りを入れる話しをしたかどうかについては、ご想像お任せします。
この駿府の関連する戦によって、三国同盟が終わりを迎えます。
そのため、松姫の姉の黄梅院(武田信玄の長女、母親は正室の三条夫人、名前不明)が北条家から武田家へと戻されてしまいます。
黄梅院の悲しみや苦しみは深かったそうです。
三国同盟から亡くなるまでの出来事によって、武田信玄の娘の中で松姫と並んで知られています。
「季冬(きとう)」は、「冬の終わり。陰暦十二月の異称」という意味です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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