このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 睦月 君がため 若菜つむ 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄(文だけの登場)、菊姫[武田信玄の四女]、

油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ」

「小倉百人一首 第十五番」、及び、「古今集」より

作者:光孝天皇(こうこうてんのう)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、十五の月を数えた。

暦は一月となった。



ここは、甲斐の国。


季節は春だが、寒い日が続いている。

寒さの中にも、物凄く寒い時、僅かに寒い時など、変化が現れ始めた。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人、菊姫、松姫は、一緒に居る。



油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「父上が忙しいために、私達とゆっくりと過ごせない日が続いています。父上がお菊とお松を気遣って、二人に文を書いてくださいました。どちらかの部屋で一緒に読みなさい。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫に微笑んで文を差し出した。

菊姫は油川夫人から微笑んで文を受け取った。

松姫は油川夫人と菊姫を笑顔で見た。



菊姫は文を持ちながら、微笑んで部屋を出て行った。

松姫は菊姫の後に続いて、笑顔で部屋を出て行った。



それから少し後の事。



ここは、菊姫の部屋。



菊姫と松姫は、一緒に居る。



菊姫は微笑みながら、丁寧に文を広げた。

松姫は菊姫と文を笑顔で見た。



お菊とお松へ

二人共に元気に過ごしているか。

年末の頃から、お菊やお松とゆっくりと過ごせない日々が続いて申し訳ないと思っている。

私は元気に過ごしているから心配するな。

私が細かく話しをしなくても、二人は毎日をしっかりと過ごしていると信じている。

同時に、私を気に掛けて普段と違う生活を過ごしていたらという思いも抱いてしまった。

念のために一言だけ書いておく。

お松は奇妙丸殿の許婚だ。

私よりも奇妙丸殿の心配を先にしなさい。

お菊はしっかりとした良い子だ。

今まで通り、母上を助けてお松の相談に乗ってあげるように。

お菊もお松も母上に心配を掛けないように、普段どおりに笑顔で過ごすように。

落ち着いたら直ぐに逢いに行く。

たくさん話しをして過ごそう。

父より



その翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷に在る庭。



松姫と菊姫は、一緒に居る。



松姫は菊姫に寂しそうに話し出す。

「やはり父上が心配です。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「父上と母上から、周りに心配掛けないように笑顔で過ごしなさいと言付けられているのよ。お松は奇妙丸様にも心配掛けないように過ごさないといけないのよ。暗い顔をしていると、お松にも奇妙丸様にも良い出来事が訪れなくなるわよ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。その調子。」

松姫は菊姫を笑顔で見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。



油川夫人が菊姫と松姫の元に微笑んで来た。



菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫は油川夫人を笑顔で見た。

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「お松。お菊。明日は屋敷の者の何人かと一緒に、若菜を摘みに行く予定です。摘んだ若菜は、みんなでお粥にして食べましょう。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



その翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷の近くに在る草原。



油川夫人、菊姫、松姫、数名の従者で、若菜を摘んでいる。



松姫と菊姫は、隣り合って若菜を摘んでいる。



松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「私が摘んだ若菜を父上に食べて頂きたいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。大切な人を忘れているわよ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様を忘れていた訳ではありません。奇妙丸様は岐阜に住んでいます。だから、父上に一番に食べて頂きたいと思いました。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松は、奇妙丸様を一番に、父上は二番目に、気遣わないといけないのよ。だから、奇妙丸様が一番で、父上は二番目に、食べて欲しいと思わないとね。」

松姫は菊姫に心配そうに話し出す。

「母上は、私が父上の心配に時間を割いていて、奇妙丸様への心配に割く時間が少ないと、心配していますか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「気に掛けているとは思うけれど、私は何も聞いていないわ。」

松姫は菊姫を安心した表情で見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「私の摘んだ若菜でお粥を作って、奇妙丸様と父上に食べて頂きたいです。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は菊姫を微笑んで見た。



油川夫人が菊姫と松姫の傍に微笑んで来た。



松姫は油川夫人を笑顔で見た。

菊姫は油川婦人を微笑んで見た。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。若菜を摘む手が止まっていますよ。屋敷の者達がしっかりと若菜を摘んでいるのに、お菊とお松が休んでばかりいたら、父上の評判が悪くなりますよ。特にお松は、父上だけでなく奇妙丸様の評判も悪くなりますよ。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「分かりました。気を付けます。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私も気を付けます。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。

松姫は笑顔で若菜を摘み出した。

菊姫は微笑んで若菜を摘み出した。



油川夫人は松姫と菊姫を一瞥しながら、微笑んで若菜を摘み出した。



松姫は笑顔で若菜に手を伸ばした。

松姫の採ろうとした若菜の上に、雪がゆっくりと落ちてきた。

松姫は若菜を摘むのを止めると、笑顔で空を見た。



空からゆっくりと雪が降る様子が見える。



松姫は雪の降る様子を見ながら、笑顔で呟いた。

「君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ」

菊姫は若菜を摘むのを止めると、微笑んで空を見た。

油川夫人は若菜を摘むのを止めると、菊姫と松姫を微笑んで見た。



雪は直ぐに止んでしまった。



松姫は油川夫人と菊姫を見ると、微笑んで話し出す。

「今の歌を奇妙丸様への文に書いて贈っても良いですか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「良いと思うわ。」

油川夫人は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は笑顔で若菜を摘み出した。

菊姫は微笑んで若菜を摘み出した。

油川夫人は菊姫と松姫を一瞥しながら、微笑んで若菜を摘み出した。



奇妙丸様へ

新年明けましておめでとうございます。

岐阜の国は寒い日が続いていると思います。

奇妙丸様は元気に過ごされているのでしょうか。

甲斐の国は、寒い日がありますが、私は元気に過ごしています。

新年のご挨拶が遅れた事をお許しください。

私は奇妙丸様に相応しい正室になるために、学ぶ事がたくさんあると実感しながら過ごしています。

奇妙丸様の正室に相応しい人と言われるように更に努力をします。

母上、姉上、屋敷の者達と一緒に、若菜を摘みました。

みんなで若菜を摘んでいる最中に、少しだけ雪が降りました。

雪の降る様子を見ながら、歌を思い出しました。

君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ

受け取って頂けると嬉しいです。

摘んだ若菜でお粥を作って食べました。

母上が作ったお粥は美味しかったです。

母上から若菜を使ったお粥の作り方を教えてもらいました。

奇妙丸様のために若菜を摘んでお粥を作りたいです。

奇妙丸様と二人で若菜の入ったお粥を食べたいです。

奇妙丸様と逢える日を楽しみにしています。

末永くよろしくお願いいたします。

松より



それから何日か後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫と菊姫は、一緒に居る。



菊姫は松姫に心配そうに話し出す。

「屋敷の者達から聞いた話しだけど、北条の家に嫁いでいる姉上が、甲斐の国に戻ってくるらしいの。」

松姫は菊姫に心配そうに話し出す。

「姉上に何か遭ったのでしょうか?」

菊姫は松姫に心配そうに話し出す。

「姉上に何か遭ったのではなく、戦が関係しているらしいの。」

松姫は菊姫を心配そうに見た。

菊姫は松姫に心配そうに微笑んで話し出す。

「噂話で終わるかも知れないから、父上か母上が話しをするまで、私達は質問しないようにしましょう。」

松姫は菊姫に心配そうに頷いた。



油川夫人が文を持ちながら、微笑んで部屋の中に入ってきた。



松姫は油川夫人を笑顔で見た。

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は松姫に文を差し出すと、微笑んで話し出す。

「奇妙丸様からお松に宛てた文が届きました。いつものようにお菊と一緒に読みなさい。」

松姫は油川夫人から文を受け取ると、微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



油川夫人は微笑みながら部屋を出て行った。



松姫は笑顔で丁寧に文を広げた。

菊姫は松姫と文を微笑んで見た。



お松へ

新年明けましておめでとう。

お松が元気に過ごしていると分かりとても嬉しい。

私は元気に過ごしている。

安心して欲しい。

私も新年の挨拶が遅れて申し分けないと思っている。

私も学ぶ事がたくさんある。

二人共にたくさん学んでいこう。

私も供の者と若菜を摘んだ。

若菜を摘んでいる最中に僅かに雪が降った。

私もお松と同じ歌を直ぐに思い出した。

お松に新年の歌を贈りたくて、いろいろと考えていた。

若菜を摘んでいる最中に思い出した歌を贈ろうと考えた。

お松からの文を受け取った時に、これから贈ろうとしている歌が書いてあったので驚いた。

最初は別な歌を贈ろうと考えた。

直ぐ後に、離れて住んでいるからこそ、同じ歌を贈り合うのも良いかと考えた。

私からの歌も受け取ってもらえると嬉しい。

君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ

お松と一緒に過ごせる日が一日も早く訪れるように、私も日々精進したいと思っている。

こちらこそ末永くよろしくお願いします。

奇妙丸より



年を越して新しい年を迎えた。

松姫は九歳、奇妙丸は十三歳、となった

甲斐の国に住む松姫。

岐阜の国に住む奇妙丸。

いろいろな出来事が複雑に絡みながらも、松姫と奇妙丸の重ねていく時間は穏やかに流れている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は、「小倉百人一首 第十五番」、及び、「古今集」からです。

「君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪はふりつつ」

ひらがなの読み方にすると、「きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに、ゆきはふりつつ」となります。

作者は、「光孝天皇(こうこうてんのう)」です。

歌の意味は、「あなたのために、春の野に出かけて若菜を摘んでいる私の袖に、雪は降り続いていますよ。」となるそうです。

「若菜(わかな)」は、「早春に芽生えたばかりの、食用になる草の総称。春の七種をさす言葉。」です。

七種をお粥などにして食べる事を宮中で行っています。

厄除けなどの意味があるそうです。

どちらの意味の若菜を採りに行ったとしても、この歌が詠んでいる季節は「早春」と考えて良いかと思いました。

当時は陰暦なので、早春といっても現在の時期と少し違います。

現在の暦にすると二月頃になると思います。

一般的な話しになりますが、「七草」はいう字は「秋の七草」に使います。

「春」の場合は「七種(ななくさ)」と書くそうです。

ただ、「春の七草」という書き方もあるそうです。

「七種粥(ななくさがゆ)」は、「春の七種を刻んで入れた七種粥を作って、万病を除くおまじないとして食べる」お粥を言います。

呪術的な意味ばかりでなく、おせち料理で疲れた胃を休め、野菜が乏しい冬場に不足しがちな栄養素を補うという効能があるそうです。

「春の七種」は次の七種類を言います。

「(名前)、(現在の名前)、(科名)」の順番でいきます。

「(芹[せり])、(芹[せり])、(セリ科)」、

「(薺[なずな])、(なずな[別名・ぺんぺん草])、(アブラナ科)」、

「(御形[ごぎょう])、(母子草[ははこぐさ])、(キク科)」、

「(繁縷[はこべら])、(繁縷[はこべら])、(ナデシコ科)」、

「(仏の座[ほとけのざ])、(田平子[たびらこ][シソ科のホトケノザとは別な物だそうです])、(キク科)」、

「(菘[すずな])、(蕪[かぶ])、(アブラナ科)」、

「(蘿蔔[すずしろ])、(大根[だいこん])、(アブラナ科)」、

以上が「春の七種」となります。

婚約が整ってから二度目の年を越したので、松姫は九歳、奇妙丸は十三歳、となりました。

武田信玄は、松姫と奇妙丸が婚約をする前もしてからも、戦いを続けています。

武田信玄が出陣したという記録があったしても、日付を特定しなければ、松姫や菊姫と会っても問題は余り起こらないだろうと考えて書いています。

物語の中には、どうしても特定の日に登場する事があります。

出陣していない事や何かの事情で戻ってきている事も考えられます。

そういう状況になっているとご了承のうえ、お読みください。

今回の物語の設定時期(永禄十二年[1569年]一月)の前月の永禄十一年(1568年)十二月から、駿河攻略のために戦などをしています。

今川義元は既に亡くなっていますが、今川家は存続しています。

永禄十一年(1568年)十二月中旬に駿河を占領します。

そのため、今川氏真は掛川城に逃げるようにして行くそうです。

その直後に徳川家康が遠江に進入します。

徳川家康も途中から絡んでくる事や、戦や駆け引きなどがあり、複雑に展開しています。

ただし、「戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編」は、松姫が主役のため、今回の戦には直接関係していないため、詳細についてはほとんど登場しません。

織田家もこの時期は気になるところはあったと思いますが、今までと変わらない対応をしているという設定になっています。

この時期に何か探りを入れようとしたら、警戒される事や、松姫の文の内容から誰かに見せていると考えられる事などにより、無理な行動は止めたと思ってください。

織田信長と奇妙丸が探りを入れる話しをしたかどうかについては、ご想像お任せします。

今回の駿府の関連する戦によって、三国同盟が終わりを迎えます。

そのため、松姫の姉の黄梅院(武田信玄の長女、母親は正室の三条夫人、名前不明)が、今回の物語の設定月に北条家から武田家へと戻されてしまいます。

黄梅院の悲しみや苦しみは深かったそうです。

三国同盟から亡くなるまでの出来事によって、武田信玄の娘の中で松姫と並んで知られています。

「睦月(むつき)」は、「陰暦正月の異称」です。

「睦」は、他の字と一緒に使われます。

意味は、「親しい」という意味です。

「睦まじい」という字もこの字を使用しています。

楽しんで頂けると嬉しいです。





←前            目次            次→


このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください