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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 愛逢月の頃 織女 我が待ち恋ひし 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

黄梅院[武田信玄の長女(※仮名:初瑠<はる>)](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「秋風の 吹きにし日より いつしかと 我が待ち恋ひし 君ぞ来ませる」

「万葉集 第八巻 一五二三番」より

作者:山上憶良(やまのうえのおくら)



「秋風の 吹きただよはす 白雲は 織女の 天つ領巾かも」

「万葉集 第十巻 二〇四一番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、二十一の月を数えようとしている。

暦は七月になろうとしている。



ここは、甲斐の国。



秋が近付いているが、暑さが続いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人と菊姫が居る。



油川夫人は菊姫に心配そうに話し出す。

「初瑠様が亡くなり、お松が寂しそうな表情をする時間が増えたわね。初瑠様とお松は似ている状況が幾つかあるから、お松は更に寂しくなると思うの。」

菊姫は油川夫人の心配そうに話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「お松は奇妙丸様の許婚なの。お松は歳に関係なく、奇妙丸様を助ける役目や武田と織田を繋ぐ役目を担っているの。お松は奇妙丸様を心配させてはいけないの。お菊。お松を支えてあげてね。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫を微笑んで見た。



その翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



松姫と菊姫が居る。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。初瑠姉上は、お松と奇妙丸様の行く末をとても心配していたわよね。お松が寂しく過ごしていたら、奇妙丸様が心配するわ。奇妙丸様はお松が心配でも、甲斐の国に来られないのよ。お松は奇妙丸様の許婚だから、奇妙丸様に心配を掛けてはいけないのよ。」

松姫は菊姫に寂しそうに話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



油川夫人が文を持ちながら、部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は油川夫人に寂しそうに軽く礼をした。

菊姫は油川夫人に微笑んで軽く礼をした。

油川夫人は松姫に文を差し出すと、微笑んで話し出す。

「初瑠様がお菊とお松に宛てた文よ。お松に宛てた文章が多いそうだけど、二人で一緒に読みなさい。」

松姫は油川夫人から不思議そうに文を受け取った。

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「七夕が近付いているわね。奇妙丸様に七夕のための歌や文を贈るのなら、急いで書かないと間に合わないわよ。父上は、お松の書いた文を奇妙丸様の元に早く届けられるように手配しているの。今日中に文を書いたら、父上に直ぐに連絡するわ。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に考え込みながら話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人に微笑んで軽く礼をした。



油川夫人は微笑んで部屋を出て行った。



松姫は文を不思議そうに広げた。

菊姫は文を不思議そうに見た。



お菊とお松へ

私が甲斐の国に戻った頃から体調の悪い日が続いていたのは、知っていたと思うの。

私の体調が数日ほど前から更に悪くなったの。

お菊とお松に話しが出来ないと困るから、念のために文を書いたの。

お菊とお松には、私の想いは既に伝えたから、緊張しないで文を読んでね。

七夕が近付いてきているわね。

お松は奇妙丸様のために七夕にちなんだ歌を書いた文を書くのかしら。

素敵な七夕の歌がないかと考えていたの。

七夕の歌だとはっきりと感じないけれど、七夕の織女の気持ちが伝わる歌を見付けたの。

お松もお菊も気に入ると感じたの。

私が見付けた歌を書くわね。

秋風の 吹きにし日より いつしかと 我が待ち恋ひし 君ぞ来ませる

作者は、山上憶良。

掲載は、万葉集。

意味も書くわね。

秋風が吹いた日から、いつかいつかと、私が待ち恋していたあなたがやってこられました。

以上のようになるわ。

七夕の日に織女と牽牛がゆっくりと逢えるように、お菊もお松も祈ってあげてね。

夜空に輝く星や月と共に、お菊もお松も七夕の夜を明るく照らしてね。

お菊、お松。

必ず幸せになってね。

初瑠より



松姫は文を詠み終わると、菊姫を見て、微笑んで話し出す。

「初瑠姉上の書いた通り、七夕らしくないけれど、七夕らしい歌だと思います。今回の奇妙丸様の文には、初瑠姉上が選んだ歌を書きます。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「今日の間に文を書けば、七夕までに奇妙丸様の元に文は届きますよね。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「私は文を書くために部屋に戻ります。姉上。今回も文を書く相談に乗ってもらえると嬉しいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「もちろん相談に乗るわ。お松の部屋に一緒に行きましょう。」

松姫は文を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。



松姫は文を持ちながら、部屋を微笑んで出て行った。

菊姫は部屋を微笑んで出て行った。



奇妙丸様へ

七夕が近付いてきています。

甲斐の国は暑い日が続いています。

奇妙丸様はいかがお過ごしでしょうか。

私は元気に過ごしています。

心配しないでください。

初瑠姉上から、一見すると七夕らしくないけれど、意味などを知ると、七夕らしい歌を教えてもらいました。

私も菊姉上も初瑠姉上と同じように感じました。

奇妙丸様へ贈る七夕の歌として書きます。

秋風の 吹きにし日より いつしかと 我が待ち恋ひし 君ぞ来ませる

織女と牽牛が素敵な七夕の時間を過ごせるように、甲斐も岐阜も綺麗な夜空になって欲しいです。

もう少しだけ暑い日が続くと思います。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



それから何日か後の事。



暦は七月になり、季節は秋へと移っている。



七夕は翌日となっている。



ここは、甲斐の国。



油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫と菊姫が居る。



松姫は文を微笑んで読んでいる。

菊姫も文を微笑んで読んでいる。



お松へ

私の書いた文でお松が寂しい想いをしていないか心配していた。

お松が元気に過ごしていると知り安心した。

私には至らないところがたくさんあると感じた。

これからもたくさんの出来事を学んで、気配りの出来るしっかりとした人物になりたい。

七夕の歌の贈り物をありがとう。

私もお松に七夕にちなんだ歌を贈りたくて調べていた。

お松からの文が届き、私もお松に七夕までに歌を届けたいと思った。

差し支えなければ受け取って欲しい。

秋風の 吹きただよはす 白雲は 織女の 天つ領巾かも

お松も気に入ってくれると嬉しい。

私も織女と牽牛が素敵な七夕を過ごせるように祈る。

季節は秋になったが、少しの間は暑い日が続く。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

私は岐阜で、お松は甲斐と、別々な所からになるが、七夕の夜空を一緒に見よう。

奇妙丸より



松姫は文を読み終わると、菊姫に微笑んで話し出す。

「七夕の歌を書いた私の文が届いてから、奇妙丸様は歌を選ばれたのですね。奇妙丸様は凄い方ですね。」

菊姫は松姫を見ると、微笑んで話し出す。

「お松が文に書いた歌は万葉集に掲載されていて、奇妙丸様が文に書いた歌も万葉集に掲載されているわね。どちらの歌も“秋風”から始まっているわね。奇妙丸様が選んだ歌は、“織女”の他に“白雲”も詠み込まれているから、七夕の歌だけど夜空だけでなく青空も想像するわね。奇妙丸様が“白雲”を詠み込んでいる歌を選んだのは、初瑠姉上への敬意や感謝をさり気なく表したと思うの。さすが奇妙丸様ね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。



その翌日の事。



七夕の当日となる。



ここは、甲斐の国。



夜空には満天の星が綺麗に輝いている。



ここは、油川夫人、松姫、菊姫の住む屋敷。



松姫の部屋の前に在る縁。



松姫と菊姫が居る。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「綺麗な星空で良かったわね。」

松姫は菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。七夕の夜に満天の星が見られるように祈った場所は、甲斐と岐阜の他に、更に一ヵ所あります。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私も甲斐と岐阜の他に、更に一ヶ所を増やして祈ったの。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「私と姉上が希望した場所も満天の星が見られると良いですね。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は夜空を笑顔で見た。

菊姫は夜空を微笑んで見た。



「秋風の 吹きにし日より いつしかと 我が待ち恋ひし 君ぞ来ませる」

「秋風の 吹きただよはす 白雲は 織女の 天つ領巾かも」

松姫はたくさんの想いを抱きながらも、たくさんの想いに包まれて、七夕を過ごしている。

松姫と奇妙丸の想いは、七夕を通じて更に強く結び付いていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

「七夕(たなばた)」についてです。

旧暦の七月十五日の夜に戻って来る先祖の霊に着せる衣服を機織して棚に置いておく風習があり、棚に機で織った衣服を備える事から「棚機(たなばた)」という言葉が生まれたそうです。

その後、仏教が伝来すると七月十五日は仏教上の行事の「盂蘭盆(うらぼん)」となり、棚機は盆の準備をする日ということになって、七月七日に繰り上げられたそうです。

これに中国から伝わった織女・牽牛の伝説が結び付けられ、天の川を隔てた織姫(織姫星・琴座のベガ)と彦星(牽牛星・鷲座のアルタイル)が年に一度の再開を許される日となったそうです。

元は宮中行事だったそうです。

現在の様に一般的に行われるようになったのは、江戸時代からだそうです。

そして、現在の「七夕」の形に近くなってきたのも江戸時代からだそうです。

笹などを飾り付ける風習は、江戸時代頃から始まり、日本だけに見られる風習だそうです。

物語の時期設定は、「七夕」の少し前から当日の夜までとなっています。

「陰暦」を基にして物語を書いているので、現在の暦と少しずれています。

陰暦の「七夕」は、現在の暦で七月下旬から八月下旬の頃になるので、落ち着いた天気になっている事が多いかと思います。

現在の暦の「七夕」は、天気の悪い日や雨が降る日が多いかと思います。

武田信玄の正室の三条夫人は公家の人です。

織田信長も京の都を意識していたと思います。

そういう事もあり、「七夕」の行事の内容や規模など、詳しい事は分かりませんが、「七夕」の行事を行っていた可能性はあると思います。

今回の物語は、時期に関しては、陰暦の七月七日を元にして書きましたが、行事の内容は、現在の「七夕」を少し元にして書きました。

今回の物語に登場する歌は二首あります。

一首目の歌は「万葉集 第八巻 一五二三番」です。

「秋風の 吹きにし日より いつしかと 我が待ち恋ひし 君ぞ来ませる」

ひらがなの読み方は、「あきかぜの ふきにしひより あがまちこひし きみぞきませる」です。

作者は「山上憶良(やまのうえのおくら)」です。

意味は「秋風が吹いた日から、いつかいつかと、私が待ち恋していたあなたがやってこられました。」となるそうです。

原文は「秋風之 吹尓之日従 何時可登 吾待戀之 君曽来座流」です。

「私」は「織女(しょくじょ・おりひめ)」で、「あなた」は「牽牛(けんぎゅう・ひこぼし)」だそうです。

山上憶良の詠んだ七夕の歌だそうです。

天平二年(730年)七月八日の夜に、「大宰帥(だざいのそち)」である「大伴旅人(おおとものたびと)」の邸宅で詠まれた歌だそうです。

二首目の歌は「万葉集 第十巻 二〇四一番」です。

「秋風の 吹きただよはす 白雲は 織女の 天つ領巾かも」

ひらがなの読み方は、「あきかぜの ふきただよはす しらくもは たなばたつめの あまつひれかも」です。

作者は「詠み人知らず」です。

意味は「秋風が吹きただよはす白雲は、織女の空飛ぶ領巾でしょうか。」となるそうです。

原文は「秋風 吹漂蕩 白雲者 織女之 天津領巾毳」です。

「織女(たなばたつめ)」は、七夕の「織女(しょくじょ・おりひめ)」です。

「領巾(ひれ)」は、女性が肩からかける長い布(ショールのようなもの)です。

「雲」のイメージは、人の死や魂と関係が深いそうです。

「雲」を詠んだ歌の中には、死を悼む非常に多く掲載されているそうです。

「黄梅院」は、永禄十二年六月十七日(1569年7月30日)に亡くなっています。

今回の物語の時間設定は、黄梅院が亡くなった月の下旬頃から七夕当日までです。

今回の物語の設定月の七夕は、黄梅院が亡くなった翌月になります。

菊姫と松姫は、黄梅院が亡くなった後に、二人に宛てた文を読んでいる設定になります。

「愛逢月(あいぞめづき)」は、「陰暦七月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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