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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 十五夜 星離り行き月を離れて 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「北山に たなびく雲の 青雲の 星離り行き 月を離れて」

「万葉集 第二巻 一六一番」

作者:持統天皇(じとうてんのう)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、二十二の月を数えている。

暦は八月になっている。

季節は秋になる。



ここは、甲斐の国。



日中は暑くても夜になると過ごしやすい日が増えてきた。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人、菊姫、松姫が居る。



油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「十五夜が近付いてきたわね。私達は屋敷の者達と十五夜を行なう予定なの。お菊とお松に準備を頼む時があると思うの。その時は一緒に準備をしましょう。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様から文が届いたの。」

松姫は油川夫人を笑顔で見た。

油川夫人は松姫に微笑んで文を差し出した。

松姫は油川夫人から笑顔で文を受け取った。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「十五夜が近付くと、準備などで慌しく感じる時があると思うの。お松。奇妙丸様への文の返事は早く書きなさい。お菊。今まで通り、お松の文の返事の相談に乗ってあげなさい。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



松姫は文を持ちながら、部屋を笑顔で出て行った。

菊姫は部屋を微笑んで出て行った。



それから少し後の事。



ここは、松姫の部屋。



菊姫と松姫が居る。



松姫は笑顔のまま、文を丁寧に開いた。

菊姫は松姫と文を微笑んで見た。



お松へ

岐阜は、日中は暑さを感じても、陽が落ちると涼しさを感じるようになってきた。

甲斐の国も同じ気候ならば、お松も過ごしやすさを感じ始めているのだろうか。

甲斐の国で一日中の暑さが続いていたら、お松は辛さを感じているのだろうね。

お松が、辛さを感じていないか、元気に過ごしているか、気になる日が続いている。

十五夜が近付いてきたね。

お松に月を詠んだ歌を贈りたいと思った。

月を詠んだ歌はたくさんあるから、お松に贈る歌が決まらなくて悩んだ。

月を詠んだ歌を調べている時に、気になる歌があった。

北山に たなびく雲の 青雲の 星離り行き 月を離れて

お松の笑顔を見たいと何度も思う。

お松が暑さなどで辛さを感じずに過ごしていて欲しいと思う。

お松が元気に過ごせるように、月に何度も祈っている。

お松が十五夜の綺麗な月を見られるように、私は月に祈る。

私は岐阜で十五夜を迎える。

お松は甲斐の国で十五夜を迎える。

別々な場所で十五夜を迎えるが、楽しい十五夜を過ごそう。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

奇妙丸より



松姫は文を持ちながら、菊姫を不思議そうに見た。

菊姫は松姫に考え込みながら話し出す。

「お松は初瑠姉上と話した内容を何度か文に書いたから、奇妙丸様はお松が寂しさや悲しさを感じていないか心配なのね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に心配そうに話し出す。

「私は奇妙丸様に心配を掛けているのでしょうか?」

菊姫は松姫に考え込みながら話し出す。

「私の気付く範囲では、お松は奇妙丸様に心配を掛ける文を書いていないと思うの。私には、奇妙丸様はお松が無理していないか心配で書いた文に感じるの。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に不思議そうに話し出す。

「奇妙丸様が文に書いた“北山に たなびく雲の 青雲の 星離り行き 月を離れて”には、特別な意味があるのでしょうか?」

菊姫は松姫に考え込みながら話し出す。

「奇妙丸様の文の内容から考えると、特別な意味がありそうね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に不思議そうに話し出す。

「母上に歌について質問しても良いのでしょうか?」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。



菊姫は部屋を微笑んで出て行った。

松姫は文を持ちながら、部屋を微笑んで出て行った。



それから少し後の事。



ここは、油川夫人の部屋。



油川夫人、菊姫、松姫が居る。



松姫は手紙を持ちながら、油川夫人に不思議そうに話し出す。

「奇妙丸様から頂いた文に、私への十五夜の贈り物として、月について詠んだ歌が書いてありました。奇妙丸様から頂いた歌は、“北山に たなびく雲の 青雲の 星離り行き 月を離れて”でした。奇妙丸様から頂いた文には、私を心配して月に何度も祈っていると書いてありました。奇妙丸様から頂いた歌に特別な意味があるように思いました。姉上と相談して、母上に歌について教えて頂きたくて訪ねてきました。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。よろしくお願いします。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様がお松に宛てた文の内容は分からないから、お松の話しから想像できる範囲で話しをするわね。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「“北山に たなびく雲の 青雲の 星離り行き 月を離れて”。作者は、持統天皇なの。歌の詳細な意味については分かっていないそうなの。天武天皇を雲に喩えて、月や星に喩えた持統天皇や皇子達から離れていったように詠んだ歌と考えられているそうなの。分かる範囲での歌の意味は、“北山にたなびいている青雲が、遠くへ離れていってしまいます。星たちから離れて、月からも離れて遠くに・・・”となるそうなの。」

松姫は文を持ちながら、考え込んだ。

菊姫は油川夫人を見ながら考え込んだ。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は、お松が悲しみながら過ごしていないか心配しているようね。奇妙丸様は、お松ではないし、お松と離れて過ごしているけれど、お松の気持ちを理解したいと想ったのね。奇妙丸様はご自分がお松だったらと考えて、持統天皇という女性の作者で、詳細な意味が分かっていない歌を選んだと思うの。」

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫は文を持ちながら、油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お松が七夕の頃に奇妙丸様に宛てた文には、初瑠様の選んだ歌を文に書いたわよね。今回の歌は、お松を想いながらも初瑠様に感謝や尊敬も込めて選んだと思うの。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。今回の歌に返歌をしたいです。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「十五夜が近付いているわ。返歌のための歌を調べるには、ある程度の時間が必要になるわ。今回の文は、十五夜までに奇妙丸様に届けるのを一番に考えましょう。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

甲斐の国も日中は暑くても夜になると涼しさを感じる時があります。

私は元気に過ごしています。

十五夜の歌の贈り物をありがとうございます。

奇妙丸様は、優しくて、気配りが出来て、素敵で、立派な方だと、改めて想いました。

私は、奇妙丸様に相応しい正室になれるように、たくさんの出来事を学びながら、一日を大切に過ごしたいと思います。

奇妙丸様が元気で過ごせるように、奇妙丸様が素敵な十五夜を過ごせるように、月に祈ります。

奇妙丸様と初瑠姉上への想いも込めて、奇妙丸様から頂いた歌を十五夜の月に詠みます。

体調に気を付けてお過ごしください。

素敵な十五夜をお過ごしください。

松より



それから何日か後の事。



十五夜となっている。



ここは、甲斐の国。



夜空には綺麗な月が浮かんでいる。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫が住む屋敷。



縁。



松姫が居る。



松姫は月を見ながら、微笑んで呟いた。

「“北山に たなびく雲の 青雲の 星離り行き 月を離れて”。綺麗な十五夜の月が見られて嬉しいです。奇妙丸様も綺麗な月を見ていますよね。奇妙丸様、初瑠姉上。お気遣いありがとうございます。私も奇妙丸様や初瑠姉上のように優しくて気遣いの出来る人になりたいです。」



菊姫が松姫の傍に微笑んで来た。



松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。母上が呼んでいるわよ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



松姫は微笑んで歩き出した。

菊姫も微笑んで歩き出した。



「北山に たなびく雲の 青雲の 星離り行き 月を離れて」

松姫は奇妙丸を想い、奇妙丸は松姫を想う。

松姫も奇妙丸も星と月が離れないで欲しいと想う。

たくさんの人達の想いを受けて、十五夜の月は輝いている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

今回の物語に登場する歌は、「万葉集 第二巻 一六一番」です。

「北山に たなびく雲の 青雲の 星離り行き 月を離れて」

ひらがなの読み方は、「きたやまに たなびくくもの せいうんの ほしさかりいき つきをはなれて」です。

作者は「持統天皇(じとうてんのう)」です。

意味は「北山にたなびいている青雲が、遠くへ離れていってしまいます。星たちから離れて、月からも離れて遠くに・・・」となるそうです。

原文は「向南山 陳雲之 星雲之 星離去 月矣離而」です。

この歌は、天武天皇が亡くなったのを悲しんで詠んだ歌だそうです。

意味は、はっきりとわかっていないそうです。

天武天皇を雲にたとえて、月や星にたとえた持統天皇や皇子たちから離れていったように詠んだ歌と考えられているそうです。

「十五夜(じゅうごや)」と「中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)」についてです。

「陰暦の八月十五日の夜。満月の夜。」をいいます。

別名には「芋名月(いもめいげつ)」があります。

この時期は、古来より観月に最も良い時節とされています。

秋や冬は空気が乾燥して月が鮮やかに見える事、それに、夜でもそれほど寒くないために、名月として観賞されるようになったそうです。

中国にも同様の風習が唐の時代に確認されているそうです。

もしかしたら、更に古くからある事も考えられます。

日本には九世紀から十世紀の頃に渡来したそうです。

貴族を中心に行なっていたそうですが、後に武士や町民にも広まったそうです。

酒宴を開いたり、詩や歌を詠んだり、薄を飾ったり、月見団子・里芋・枝豆・栗などを持ったり、お酒を供えて月を眺めたそうです。

お月見料理というそうです。

中国では「月餅」を作ってお供えするそうです。

「月餅」が日本に来て「月見団子」に変わったそうです。

お月見が一般的に行なわれるようになったのは、江戸時代からだそうです。

お月見団子は一般的には自分の家庭で作るそうです。

お月見団子の数は、その年の月の数だけ供えるそうです。

今年(2008年)の「中秋の名月・十五夜」は、「2008年9月14日」だそうです。

ご確認ください。

ちなみに、風習の関係から今回の「十五夜」の他に「十三夜」の物語も掲載する予定です。

今回の物語では、松姫は自分の屋敷で十五夜を行なっています。

松姫の現在の立場から考えると、躑躅ヶ崎館で十五夜を行なう可能性が高いと思います。

松姫は、武田信玄などの都合で、自分の住む屋敷で十五夜を行なったと想像してください。

今回の物語の設定月は、黄梅院[武田信玄の長女(※仮名:初瑠<はる>)]が亡くなった翌々月になります。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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