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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 長月 十三夜 有明の月 〜


登場人物

武田信玄(文だけの登場)、

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな」

「小倉百人一首 第二十一番」、及び、「古今集」より

作者:素性法師(そせいほうし)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、二十三の月を数えている。

暦は九月になっている。

季節は秋になる。



ここは、甲斐の国。



日中も夜も過ごしやすい日が続いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人、菊姫、松姫が居る。



油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「父上は更に忙しい日が始まったために、お菊とお松とゆっくりと過ごせなくて寂しいと話していたの。お菊もお松も不安や寂しさを感じると思うけれど、周りの者達に心配や迷惑を掛けないように、しっかりと過ごしなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「父上はお松が奇妙丸様に十三夜のための文を書くか気にしていたの。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「十三夜までに奇妙丸様に文が届くように書きたいと思っています。文の内容は姉上と相談中です。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「十三夜までに奇妙丸様に届けたい文にも歌を添えるの?」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「歌が決まらないので、文が書けません。母上に相談しようと思っていました。」

油川夫人は文を手に取ると、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「父上から、お松が奇妙丸様に十三夜のための文を書きたいけれど、歌が決まらないと返事をしたら、お菊とお松に渡すように頼まれた文があるの。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「父上からの文を早く読みたいです。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私も父上からの文が早く読みたいです。」

油川夫人は松姫に文を差し出すと、微笑んで話し出す。

「文を読んだ後に質問があるかも知れないから、この場で文を読みなさい。」

松姫は油川夫人から文を受け取ると、微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は文を微笑んで読み始めた。

菊姫も文を微笑んで読み始めた。



お菊とお松へ

奇妙丸殿に十三夜のための文を書きたいが、歌が決まらないのだね。

十三夜を詠んだ歌について考えていたら、一首の歌を思い出した。

今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな」

作者は男性だが、女性側から見て詠んだ内容の歌になっている。

有明の月 と詠んでいるから、十三夜の有明の月と考えて贈れば、更に季節感のある文になると思った。

お菊とお松。

十三夜のために文を書くのが難しいのなら、十三夜までに届ける文には歌を書くのを止めて、長月の間に届くように歌を添えた文を書く、と考えを替えてみなさい。

奇妙丸殿とお松は逢えない月日をたくさん重ねている。

奇妙丸殿はお松からの文がたくさん届いて喜ぶと思う。

私は十三夜のための文の参考になれば良いと思って文を書いた。

二人で相談しても分からない時は、母上に相談しなさい。

お菊とお松の笑顔が早く見たい。

母に心配を掛けないように過ごすように。

父より



大姫は文を持ちながら、油川夫人に不思議そうに話し出す。

「母上は父上の書いた文の内容をご存知ですか?」

菊姫は油川夫人を不思議そうに見た。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「文の内容は聞かずに預かったわ。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に不思議そうに話し出す。

「父上は十三夜を詠んだ歌について考えていたら、“今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな”を思い出したそうです。十三夜のための文の参考になれば良いと思って今回の文を書いたそうです。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「父上がお松のために選んだ歌だから、今回の文に書くように努力してみなさい。文を書くための日数は限られているけれど、お菊と相談しながら落ち着いて書きなさい。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



松姫は文を持ちながら、部屋を微笑んで出て行った。

菊姫は部屋を微笑んで出て行った。



奇妙丸様へ

甲斐の国は過ごしやすい日が続いています。

奇妙丸様は元気にお過ごしでしょうか。

私は元気に過ごしています。

安心してください。

奇妙丸様に十三夜のために文を書きたいと思いました。

歌や文の内容を考えていたら、悩んでしまいました。

父上から長月と月を詠んだ歌を教えてもらいました。

今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな

歌の中の人達は逢える距離に居ると思いますが、私は奇妙丸様と逢える距離に居ません。

でも、私は歌の中の人達を羨ましいと思いません。

私は奇妙丸様の正室として傍で過ごす日が訪れます。

歌の中の人達は私と奇妙丸様を羨ましく思うと想像しました。

十三夜までに奇妙様の元に文が届くように、父上が手配してくれました。

私は至らないところがたくさんあります。

私は、奇妙丸様、父上、母上、姉上と、たくさんの人達に守られて過ごしています。

焦らずに、でもゆっくりではない速さで、奇妙丸様の正室に相応しい人になりたいです。

奇妙丸様が十三夜と有明の月が見られるように、甲斐の国から祈っています。

松より



それから何日か後の事。



今は十三夜。



ここは、甲斐の国。



夜空には綺麗な月が輝いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



縁。



松姫は文を持ちながら、月を微笑んで見ている。



菊姫は松姫の傍に微笑んで来た。



松姫は文を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。月に祈っている様子に見えたわよ。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様と父上が、元気で無事に過ごせるように祈っていました。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ちながら、何かを思い出した表情になった。

菊姫は松姫を不思議そうに見た。

松姫は文を持ちながら、菊姫に申し訳なさそうに話し出す。

「母上、姉上、岐阜に住む人達、甲斐の国に住む人達が、元気に無事で過ごせるように祈っていませんでした。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松は直ぐに気付いたのだから、悩まないで。」

松姫は文を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「母上が、今夜は寒くないから遅くまで起きていても良いと話していたわ。十三夜の綺麗な月を見ながら、大切な人達の無事を祈りましょう。」

松姫は文を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「遅くまで起きていたら、有明の月が見られるわね。眠くならなければ、有明の月を見ましょう。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「明日になったら、母上に長月の終わり頃の有明の月が見られるように頼みましょう。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ちながら、月を微笑んで見た。

菊姫は月を微笑んで見た。



お松へ

岐阜も過ごしやすい日が続いている。

私も元気に過ごしている。

安心してくれ。

お松の文を読むと、お松が元気に過ごしている様子が伝わってくる。

私もお松と同じように安心して過ごせる。

私もお松のように元気に過ごしたいと思う。

お松の文を読んで、信玄公の優しさが伝わってきた。

私も信玄公のように優しくしっかりとした人物になりたい。

私もお松や岐阜に住む人達や家臣に慕われる人物になりたい。

更に精進したい。

お松。

共に、焦らずに、でもゆっくりではない速さで、たくさんの出来事を学んでいこう。

お松が綺麗な十三夜と綺麗な有明の月が見られるように祈っている。

冬が近付いてきている。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

奇妙丸より



「今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな」

逢おうと連絡をしたのに、有明の月が出ても来なかった人。

松姫と奇妙丸は、共に有明の月を見る日が、共に過ごせる日が、一日も早く訪れるように日々の努力をしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に掲載されている歌は、「小倉百人一首 第二十一番」、及び、「古今集」です。

「今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな」

ひらがなの読み方は「いまこむと いひしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな」です。

作者は「素性法師(そせいほうし)」です。

意味は「今から来ましょうとあなたが言ってきたばかりに、九月の夜長を有明の月が出るまで待ち続けてしまいましたよ。」となるそうです。

「今来む(いまこむ)」についてですが、男性側が来ると言って、待つ女性の側から見て「来む」と言っています。

「長月(ながつき)」は「陰暦九月の異称」です。

「有明の月(ありあつけのつき)」は、「夜遅く出て、明け方の空にまで残っている月。陰暦二十二日以降の月を言います。」です。

秋の季語です。

この歌は秋の終わり頃を詠んでいる事になります。

作者は三十六歌仙の一人です。

作者の父親は小倉百人一首に掲載されている「僧正遍昭」です。

「十三夜(じゅうさんや)」は、「陰暦十三日の夜。または、陰暦九月十三日の夜。」をいいます。

「十五夜(じゅうごや)」は、「陰暦十五日の夜。または、陰暦八月十五日の夜。」をいいます。

「十五夜」に対しての「十三夜」の場合は、どちらの意味にも取る事が出来ます。

今回の物語は「陰暦九月十三日の夜」という意味で使用しています。

陰暦八月十五日に次いで月が美しいとされています。

別名には、「後の月(のちのつき)」、「豆名月(まめめいげつ)」、「栗名月(くりめいげつ)」があります。

「十五夜」は中国から渡来した風習ですが、「十三夜」は日本独自の風習になります。

十三夜の基となる風習は、戦国時代より前からありました。

江戸時代になってから、町民の間などに広まったそうです。

「十三夜」の時期に食べ頃の大豆や栗を供えるそうです。

「十五夜」だけ、「十三夜」だけ、などと片方しか行なわないのは、「片見月(かたみづき)」といって嫌われたそうです。

「十三夜」は、現在の暦にすると毎年十月頃になります。

毎年のように日付が違います。

2008年の十三夜は、10月11日です。

ご確認ください。

武田軍の関連についてです。

永禄十二年(1569年)九月は、武田信玄が碓氷峠を越えて上野に侵入、小山田信茂が小仏峠を越えて武蔵に侵入、鉢形城を包囲、滝山城を包囲、という順番で以上の出来事が十三夜までに起きていたそうです。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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