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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 時雨月 しぐれの雨に濡れつつか 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「十月 しぐれの雨に 濡れつつか 君が行くらむ 宿か借るらむ」

「万葉集 第十二巻 三二一三番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、二十四の月を数える。

暦は十月。

季節は冬になる。



ここは、甲斐の国。



日中は過ごしやすい状態が続いているが、陽が落ちると僅かに寒さを感じるようになった。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人、菊姫、松姫が居る。



油川夫人は菊姫と松姫に真剣な表情で話し出す。

「お菊。お松。歌の勉強をする前に、大事な話しをするわね。」

松姫は油川夫人を心配そうに見た。

菊姫も油川夫人を心配そうに見た。

油川夫人は松姫と菊姫に真剣な表情で話し出す。

「父上が峠を撤退中に戦が始まったそうなの。戦の相手は、引き続き北条だそうよ。」

松姫は油川夫人に心配そうに話し出す。

「父上はご無事なのですか?」

菊姫は油川夫人を心配そうに見ている。

油川夫人は松姫と菊姫に真剣な表情で話し出す。

「使いの者の様子と連絡を受けた内容では、父上はご無事で指揮を執っているそうよ。」

松姫は油川夫人を心配そうに見た。

菊姫は油川夫人を心配そうに見ている。

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。私達が不安な気持ちで過ごしていたら、周りの者達は更に不安になるわ。私達が周りの者達を不安にしたら、父上が安心して政が出来なくなるわ。父上に迷惑を掛けないように、私達はしっかりと過ごしましょう。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「今は十月だから、今日は十月を詠んだ歌について勉強をしましょう。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「“十月 しぐれの雨に 濡れつつか 君が行くらむ 宿か借るらむ”。万葉集に掲載されている歌よ。作者は分からないそうなの。歌の意味は“十月のしぐれの雨に濡れながらあなたは旅をしているのでしょうか。宿を借りているのでしょうか。”となるそうよ。」

松姫は複雑な表情で考え込んだ。

菊姫も複雑な表情で考え込んだ。

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「お松。お菊。しっかりとしなさい。」

松姫は油川夫人に複雑な表情で話し出す。

「母上の詠んだ歌を聞いたら、父上や初瑠姉上について考えてしまいました。」

菊姫は油川夫人に複雑な表情で話し出す。

「私もお松と同じく父上と初瑠姉上について考えてしまいました。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松が、父上や初瑠姫様を考える気持ちは分かるわ。父上と初瑠姫様は、お菊とお松が不安な思いで過ごすのを望んでいないはずよ。お松の場合は、奇妙丸様にも心配を掛けてしまうのよ。奇妙丸様もお松が心配して過ごすのを望んでいないはずよ。お松は奇妙丸様の正室になったら、たくさんの者達に気を配らなければならないの。奇妙丸様や周りの者達が不安になっている時は、お松が励まして支えなければならないの。お松が不安になっていたら、奇妙丸様や周りの者達が、お松のために更に気を配る状況になるの。お松が奇妙丸様や周りの者達の苦労や仕事を増やしてはいけないの。お菊も嫁いだら今の話を踏まえて過ごさなければならないの。お松。お菊。私達はたくさんの人達に迷惑を掛けないようにしっかりと過ごしましょう。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。今日の教えて頂いた歌を奇妙丸様に贈っても良いですか?」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。私はいつも通りお松の文の相談に乗ります。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。

松姫は油川夫人に微笑んで瀬話し出す。

「母上。歌について更に詳しく教えてください。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。お願いします。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。



それから少し後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



縁。



菊姫は微笑んで歩いている。

松姫も微笑んで歩いている。



時雨が降り始めた。



松姫は立ち止まると、庭を心配そうに見た。

菊姫も立ち止まると、庭を心配そうに見た。



松姫は時雨の降る様子を見ながら、菊姫に心配そうに話し出す。

「姉上。時雨が降り始めました。」

菊姫は松姫を見ると、微笑んで頷いた。

松姫は時雨を降る様子を見ながら、寂しそうに呟いた。

「“十月 しぐれの雨に 濡れつつか 君が行くらむ 宿か借るらむ”」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。父上も奇妙丸様も無事に過ごしていると信じましょう。」

松姫は菊姫を見ると、微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様への文を早く書きましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」



菊姫は微笑んで歩き出した。

松姫も微笑んで歩き出した。



奇妙丸様へ

甲斐の国は、日中は過ごしやすいですが、陽が落ちると寒さを感じるようになってきました。

暦が冬になったと感じる日が増えてきました。

私は奇妙丸様に相応しい正室になれるように、たくさんの出来事を学んでいます。

今日は母上から十月を詠み込んだ歌について教えてもらいました。

歌について勉強しながら、母上から為になる話しも教えてもらいました。

更にしっかりと過ごそうと思いました。

母上から教えてもらった歌を文に書きます。

受け取って頂けると嬉しいです。

十月 しぐれの雨に 濡れつつか 君が行くらむ 宿か借るらむ

母上から歌を教えてもらった後に時雨が降りました。

時雨が降る様子を見ながら、母上に教えてもらった歌を思い出しました。

母上から教えてらった歌を思い出した直後に、奇妙丸様と父上を思い出しました。

奇妙丸様や父上が出掛けている最中に、時雨に濡れないように、時雨をしのげる館などが近くに在りますように、と思いました。

次の月は、奇妙丸様と婚約を交わした月ですね。

私が幼いために、別々に過ごす状況が続いてしまい申し訳なく思います。

奇妙丸様と逢えないのは寂しいですが、奇妙丸様と逢える月が一月近付いたと考えられると気付きました。

奇妙丸様と私にとって、たくさんの楽しい出来事が見付かりますようにと思いました。

松より



それから何日も後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



玄関。



松姫は笑顔で居る。

菊姫は微笑んで居る。



松姫は菊姫に笑顔で話し出す。

「父上はいつ来られるのでしょうか?! 待ちきれません!」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「確かに待ちきれないわね。」

松姫は菊姫を笑顔で見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。父上には素敵な笑顔を見て安心してもらうと話していたわよね。今から満面の笑顔で大丈夫なの?」

松姫は菊姫に笑顔で話し出す。

「父上が来られたら、更に満面の笑顔になります!」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



油川夫人が菊姫と松姫の傍に微笑んで来た。



松姫は油川夫人を笑顔で見た。

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。父上と逢えるから嬉しくなるのは分かるけれど、はしゃぎ過ぎると父上が来た時には疲れてしまって心配を掛けてしまうわよ。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

油川夫人は松姫を微笑んで見た。



武田信玄が、油川夫人、菊姫、松姫の傍に、笑顔で現れた。



松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「父上! お帰りなさい!」

菊姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「父上! お帰りなさい!」

油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「お帰りなさいませ。」

武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫に、微笑んで話し出す。

「みんな元気に過ごしていたんだな。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「父上は強い方です! 父上を信じて元気に過ごしていました!」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「私もお松と同じく、父上を信じて元気に過ごしていました。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松から信じていると言ってもらえて嬉しい。お菊とお松の期待に応えられるように、更に励みたいと思う。」

菊姫は武田信玄を笑顔で見た。

松姫も武田信玄を笑顔で見た。

武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫、に微笑んで話し出す。

「今日は少し余裕がある。四人で話しながら過ごそう。」

菊姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

松姫も武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。先に部屋に行ってもらって良いかな?」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫も武田信玄に笑顔で話し出す。

「はい!」

武田信玄は菊姫と松姫を微笑んで見た。



松姫は笑顔で歩き出した。

菊姫も笑顔で歩き出した。



武田信玄は油川夫人に微笑んで囁いた。

「奇妙丸殿から、私宛ての文とお松宛ての文が届いた。私宛ての文には、奇妙丸殿の文を優先してもらい感謝している、今回は私との時間を優先して欲しい、などと書いてあった。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで囁いた。

「奇妙丸様は素晴らしい方ですね。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。

油川夫人は武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで囁いた。

「今日は奇妙丸殿の言葉に甘えて、お松に奇妙丸殿の文が届いたと伝えるのを遅らせようと思った。だが、今までの言葉と一致しなくなるのは、親としてもたくさんの者達をまとめる立場としても困る。奇妙丸殿の文が届いた事実は直ぐに伝える。」

油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。



武田信玄は微笑んで歩き出した。

油川夫人も微笑んで歩き出した。



お松へ

岐阜も、日中は過ごしやすいが、陽が落ちると寒さを感じるようになってきた。

私は元気に過ごしている。

お松も元気に過ごしていると分かり安心した。

十月 しぐれの雨に 濡れつつか 君が行くらむ 宿か借るらむ

月を詠み込んだ歌をありがとう。

お松の文が届いてから、岐阜にも時雨が降った。

お松の文に書いた歌を実感できるように時雨が降ったのかと思った。

私もお松が出掛けている最中に、時雨に濡れないように、時雨をしのげる館が近くに在るように、と思った。

次の月は、お松と婚約を交わした月だな。

お松と婚約を交わしてから、時が早く過ぎるように感じたり、時が遅く過ぎるように感じたりする。

不思議に感じる。

私もお松と逢えないのは寂しいが、お松を見習って、お松と逢える月が一月近付いたと考えるようにする。

これからもお松から元気を受け取りながら過ごしたい。

これから先も私とお松にとってたくさんの楽しい出来事が見付かるように祈る。

奇妙丸より



「十月 しぐれの雨に 濡れつつか 君が行くらむ 宿か借るらむ」

時雨に濡れないように心配する想い。

時が早く過ぎるような、時が遅く過ぎるような、不思議な想い。

松姫と奇妙丸は、逢える月が一月近付いたと明るく考えながら過ごしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十二巻 三二一三番」です。

「十月 しぐれの雨に 濡れつつか 君が行くらむ 宿か借るらむ」

ひらがなの読み方は「かむなづき しぐれのあめに ぬれつつか きみがいくらむ やどかるらむ」です。

作者は「詠み人知らず」です。

意味は「十月のしぐれの雨に濡れながらあなたは旅をしているのでしょうか。宿を借りているのでしょうか。」となるそうです。

原文は「十月 鐘礼乃雨丹 沾乍哉 君之行疑 宿可借疑」です。

武田軍の関連についてです。

永禄十二年(1569年)十月は、一日に小田原城の攻撃を開始、四日には撤退(退却と表現している場合もあります)を開始、六日には三増峠で合戦が始まります。

武田側は三増峠の合戦で北条側に勝利して甲斐の国に戻っているそうです。

「時雨(しぐれ)」は、幾つか意味がありますが、今回の物語では「秋の末から冬の初めにかけて、ぱらぱらと通り雨のように降る雨。」になります。

この意味の場合の「時雨」は、冬の季語になります。

「時雨月(しぐれづき)」は、「陰暦十月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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