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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 梅初月 梅の花 ふふめらずして 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「十二月には 淡雪降ると 知らねかも 梅の花咲く ふふめらずして」
「万葉集 第八巻 一六四八番」より
作者:紀少鹿女郎(きのをしかのいつらめ)
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、二十六の月を数える。
暦は十二月。
季節は冬になる。
ここは、甲斐の国。
朝も夜も寒さを感じる日が続いている。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
庭。
菊姫と松姫が居る。
松姫は梅の木を微笑んで見た。
梅の木につぼみが見える。
松姫は菊姫を見ると、微笑んで話し出す。
「姉上。梅の木につぼみが有ります。」
菊姫は梅の木を微笑んで見た。
松姫は菊姫と梅の木を微笑んで見た。
菊姫は松姫を見ると、微笑んで話し出す。
「梅の花が咲くには暫く掛かる様子だけれど楽しみね。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様に梅のつぼみを見て嬉しくなったと文を書きます。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「今は十二月だから、梅のつぼみを話題にした文を書くのは良いと思うわ。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「私は、奇妙丸様の許婚で、父上の娘です。私が奇妙丸様のためにしっかりと文が書ければ、奇妙丸様も父上も安心して過ごせますよね。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様、父上、母上が、今のお松の話を聞いたら喜ぶわよ。」
松姫は菊姫に僅かに慌てた様子で話し出す。
「私は未熟なところがたくさんあります。たくさんの人達からたくさんの内容を教わっている最中です。先程の私の話は、目標の一つです。私が先程の話をしっかりと実行できない内に周りの人達に伝えたら、奇妙丸様、父上、母上が悪く言われます。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「父上も母上も私から聞くよりお松から聞いた方が喜ぶわ。奇妙丸様には私からは伝えられないけれど、奇妙丸様もお松から聞いた方が喜ぶわ。お松が先程の話を自信を持って言えると思った時に、お松から周りの人達に言いなさい。」
松姫は菊姫を微笑んで見た。
油川夫人が菊姫と松姫の傍に微笑んで来た。
菊姫は油川夫人を微笑んで見た。
松姫も油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。外は寒いわ。どちらかの部屋で話をしなさい。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「私が梅の木のつぼみを見て嬉しい気持ちになったので、奇妙丸様に文を書きたいと話しました。姉上は良い考えだと褒めてくれました。」
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お菊の言う通り良い考えだと思うわ。」
松姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
菊姫も油川夫人と松姫を微笑んで見た。
油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「十二月と梅のつぼみが登場する歌があるの。奇妙丸様は文と歌の両方を受け取ったら喜ぶと思うわ。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。奇妙丸様宛ての文に歌を書きたいです。歌について教えてください。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「私にも歌について教えてください。」
油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。外で歌の勉強をするには寒い時期よね。部屋の中で歌の勉強をしましょう。」
菊姫は油川夫人に恥ずかしそうに話し出す。
「はい。」
松姫も油川夫人に恥ずかしそうに話し出す。
「はい。」
油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。
油川夫人は微笑んで歩き出した。
菊姫も微笑んで歩き出した。
松姫も微笑んで歩き出した。
奇妙丸様へ
お元気に過ごされているのでしょうか。
甲斐の国は朝も夜も寒い日が続いています。
岐阜も朝も夜も寒い日が続いているのでしょうか。
私は元気に過ごしています。
安心してください。
今日は姉上と庭に植わっている梅の木を見ました。
梅の木につぼみがありました。
つぼみが開くのは暫く先になります。
つぼみを見ながら梅の花の咲く姿を想像していたら嬉しくなりました。
母上に梅のつぼみを見て嬉しくなったと話したら、今月の暦の十二月と梅のつぼみが登場する歌があると教えてくれました。
姉上と一緒に教わりました。
一年の最後の月と梅のつぼみが登場する歌を贈ります。
十二月には 淡雪降ると 知らねかも 梅の花咲く ふふめらずして
受け取って頂けると嬉しいです。
一年の終わりの月が、早く訪れたようにも感じるし、ゆっくりと訪れたようにも感じます。
今年も奇妙丸様とたくさんの文を交わせて嬉しかったです。
奇妙丸様にとって来年が良い年になるように祈っています。
松より
それから何日か後の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
一室。
武田信玄、油川夫人、松姫、菊姫が居る。
武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫に微笑んで話し出す。
「みんなの笑顔は何度も見ても嬉しくなる。」
松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「私も父上の笑顔は何度も見ても嬉しくなります。」
菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「私もお松と同じく何度も嬉しくなります。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。
武田信玄は、油川夫人、菊姫、松姫に微笑んで話し出す。
「話は変わるが、今川の主が城から居なくなったのに、城に残って戦った武将が居た。今回の戦で亡くなるには惜しい武将なので、私に仕えるように説得していた。やっと相手の武将が納得した。みんなと会う機会があると思う。誤った噂や評価を聞く前に、私から先に話したくて訪ねてきた。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。
「お気遣いありがとうございます。」
武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「戦の相手がとても優秀な武将でも、戦の相手を絶対に許さない武将がいる。人格の優れている武将でも、戦の相手を許せない状況がある。戦は複雑で難しい。私はどちらが正しくてどちらが間違いか答えられない。」
松姫は武田信玄を真剣な表情で見た。
菊姫も武田信玄を真剣な表情で見た。
武田信玄は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。
「一国一城の主になれば、たくさんの優秀な家臣が仕えている。主も家臣も正室には頻繁に相談しないと思う。しかし、主や家臣が正室に相談する可能性がある。正室として相談を受けたら、しっかりと意見を述べなければならない。お菊の年齢やお松の状況を考えると、相談を受ける可能性は日を重ねるごとに高くなる。これからは更に学ぶ内容が増えると思う。私もお菊やお松に出来る範囲で話をする。お菊。お松。母上から更にしっかりと学びなさい。」
松姫は武田信玄に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
菊姫は武田信玄に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「話しは変わるが、奇妙丸殿から文が届いた。いつも通りに二人で文を読んで返事を書きなさい。」
松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。
「はい!」
菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「はい。」
武田信玄は松姫に文を微笑んで差し出した。
松姫は武田信玄から文を笑顔で受け取った。
菊姫は武田信玄と松姫を微笑んで見た。
松姫は文を持ちながら、武田信玄と油川夫人に笑顔で軽く礼をした。
菊姫は武田信玄と油川夫人に微笑んで軽く礼をした。
油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。
武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。
松姫は文を持ちながら、部屋を笑顔で出て行った。
菊姫は部屋を微笑んで出て行った。
お松へ
岐阜も朝も夜も寒い日が続いている。
甲斐の国も同じならば、お松が寒さで体調を悪くしていないか心配していた。
元気に過ごしていると分かり安心した。
岐阜でも梅のつぼみを見付けた。
ゆっくりと春が近付いていると思った。
お松。
十二月、梅の花、つぼみが登場する歌は、今月の贈り物に相応しいと思う。
この歌を選んだお松を凄いと思った。
私もお松と歌について話が出来るようにしっかりと学びたい。
今年もお松とたくさんの文を交わせて嬉しかった。
お松にとって来年が良い年になるように祈っている。
奇妙丸より
「十二月には 淡雪降ると 知らねかも 梅の花咲く ふふめらずして」
今は冬の終わり。
翌月は新しい年になる。
季節は冬から春になる。
梅の花を見る機会が少しずつ増えてくる季節になる。
松姫の想いと奇妙丸の想いは、季節を重ねるごとに強まっていく。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第八巻 一六四八番」です。
「十二月には 淡雪降ると 知らねかも 梅の花咲く ふふめらずして」
ひらがなの読み方は「しはすには あわゆきふると しらねかも うめのはなさく ふふめらずして」です。
作者は「紀少鹿女郎(きのをしかのいつらめ)」です。
意味は「十二月には淡雪が降るということをしらないのでしょうか。梅の花が咲いています。つぼみのままではいないで。」となるそうです。
原文は「十二月尓者 沫雪零跡 不知可毛 梅花開 含不有而」です。
武田軍の関連についてです。
永禄十二年(1569年)十二月は、蒲浦城を攻略、今川氏真が居なくなった後も駿河城で防戦していた岡部正綱を誘降、甲斐に帰陣、という経過の出来事がありました。
岡部正綱は武田信玄に武勇を評価されて、武田信玄に仕えます。
ちなみに、武田信玄が亡くなってから暫く後の事になりますが、徳川家康に仕えます。
「梅初月(うめはつづき)」は「陰暦十二月の異称」です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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