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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 初見月 松の末葉に降る雪は 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
三条夫人[武田信玄の正室、黄梅院の母]、菊姫[武田信玄の四女]、
油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「池の辺の 松の末葉に 降る雪は 五百重降りしけ 明日さへも見む」
「万葉集 第八巻 一六五〇番」より
作者:詠み人知らず
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、二十七の月を数える。
暦は一月。
新しい年になっている。
季節は春になる。
松姫は、十歳になっている。
奇妙丸は、十四歳になっている。
ここは、甲斐の国。
朝も夜も寒さを感じる日が続いているが、天気の良い日は僅かに寒さが和らぐ時がある。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
油川夫人の部屋。
油川夫人、菊姫、松姫が居る。
油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様からお松に宛てて新年のお祝いを兼ねた文が届いたの。お松。奇妙丸様に新年のお祝いを兼ねた文を早く書くように。お菊。いつも通りお松の文を書く相談に乗ってあげなさい。ただし、お菊もお松も焦ったために、奇妙丸様に失礼な内容の文にならないように気を付けなさい。」
松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。
「はい!」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。三条のお方様がお菊とお松に逢いたいそうなの。明日は予定があるから気を付けて過ごしなさい。」
松姫は油川夫人に不思議そうに話し出す。
「はい。」
菊姫は油川夫人に不思議そうに話し出す。
「はい。」
油川夫人は机から文を取ると、松姫に微笑んで差し出した。
松姫は油川夫人から文を笑顔で受け取った。
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は文を持ちながら、部屋を笑顔で出て行った。
菊姫は部屋を微笑んで出て行った。
お松へ
新しい年が始まったね。
岐阜は、朝も夜も寒さを感じる日が続いているが、僅かに寒さが和らいだと感じる時がある。
僅かだが春の季節を感じる。
寒い時は、お松が元気に過ごしているか気になる。
僅かでも寒さが和らいだと感じる時は、お松も寒さが和らいだと感じているか気になる。
正月にちなんだ歌について考えていたら、松を詠んだ歌を思い出した。
池の辺の 松の末葉に 降る雪は 五百重降りしけ 明日さへも見む
受け取ってくれると嬉しい。
文に歌を書いた直後に、お松の元に幾重にも雪が積もり苦労する姿を想像してしまった。
その直後に、お松と元に松の末葉に幾重にも積もる雪をずっと見ている姿を想像した。
お松。
松の末葉に幾重にも積もる雪を同じ地で共に見よう。
お松と逢える日を楽しみにしている。
今年もお松が元気に過ごせるように、今年もお松にとって良い年になるように、岐阜で祈る。
奇妙丸より
奇妙丸様へ
新しい年になりましたね。
新年の挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。
いつもお気遣いありがとうございます。
甲斐の国も朝も夜も寒さを感じる日が続いていますが、僅かですが寒さが和らいだと感じる時があります。
僅かですが春の季節を感じます。
岐阜と似ていますね。
奇妙丸様の文を読んで嬉しくなりました。
奇妙丸様が元気に過ごされているのが分かり安心しました。
正月にちなんだ歌の贈り物をありがとうございます。
贈り物の歌を詠んで嬉しい気持ちになりました。
私も奇妙丸様のお傍で松の末葉に幾重にも積もる雪をずっと見ている姿を想像しました。
一日も早く奇妙丸様と逢いたいです。
奇妙丸様と松の末葉に幾重にも積もる雪を同じ地で見たいです。
奇妙丸様の文を読んでたくさんの嬉しい気持ちに包まれています。
本当にありがとうございます。
今年も奇妙丸様が元気に過ごせるように、今年も奇妙丸様にとって素敵な年になるように、甲斐の国から祈ります。
松より
その翌日の事。
ここは、躑躅ヶ崎館。
三条夫人の部屋。
三条夫人、菊姫、松姫が居る。
三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。緊張せずに話しましょう。」
菊姫は三条夫人に微笑んで軽く礼をした。
松姫も三条夫人に微笑んで軽く礼をした。
三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お館様からの頼み事があるの。お菊とお松と楽しく話したいから、お館様の頼み事から先に話しても良いかしら。」
松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫も三条夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お館様からお菊にお経などについて教えるように頼まれたの。」
松姫は三条夫人と菊姫を不思議そうに見た。
菊姫は三条夫人に不思議そうに話し出す。
「よろしくお願いします。」
三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。暫くの間になるけれど、私とお菊は会う時間が増えます。寂しいと思うけれど、お松は母からたくさんの内容をしっかりと教わるように。」
松姫は三条夫人に不思議そうに話し出す。
「はい。」
三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊とお松は仲が良いわよね。お菊だけでなく、お松にも伝えたくて呼んだの。」
松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「お気遣いありがとうございます。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「お気遣いありがとうございます。早く覚えるように努力します。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。気負い過ぎないように。」
菊姫は三条夫人に微笑んで軽く礼をした。
三条夫人は菊姫を微笑んで見た。
松姫は三条夫人と菊姫を微笑んで見た。
三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お館様からの頼み事を伝えたら、気持ちが落ち着いたわ。お菊。お松。楽しく話しましょう。」
松姫は三条夫人に微笑んで軽く礼をした。
菊姫も三条夫人に微笑んで軽く礼をした。
三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お松。奇妙丸殿から文がたくさん届いているわね。」
松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様から新年の挨拶を兼ねた文が届きました。松が登場する歌が文に書いてありました。」
三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「差し支えなければ、どのような歌か教えてくれるかしら?」
松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「“池の辺の 松の末葉に 降る雪は 五百重降りしけ 明日さへも見む”です。」
三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「贈り物の歌を直ぐに詠めるのね。凄いわね。」
松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様から頂いた歌は、早く覚えたいと思っています。歌の意味などが分からない時は、母に直ぐに確認して歌を覚えています。」
三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「良い心掛けね。これからも精進しなさい。」
松姫は三条夫人に微笑んで軽く礼をした。
三条夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。
菊姫は三条夫人と松姫を微笑んで見た。
三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「“池の辺の 松の末葉に 降る雪は 五百重降りしけ 明日さへも見む”。万葉集に掲載されている歌ね。“松”で“正月”を表現したのね。“雪”から“白色”を連想させて、“新年”と“お松”を表現したのね。“五百重”で“新年”と“お松への想い”を表現したのね。“明日”で“お松と共に過ごす日”を表現したのね。奇妙丸殿はたくさんの想いを表現できる歌を選んだのね。噂通りしっかりとした人物ね。」
松姫は三条夫人に笑顔で話し出す。
「ありがとうございます!」
三条夫人は松姫を微笑んで見た。
松姫は三条夫人に恥ずかしそうに話し出す。
「騒ぎ過ぎました。次からは気を付けます。」
三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「想い人が褒められると、誰でも嬉しい気持ちになるわ。喜び過ぎるのは良くないけれど、お松の喜び方は、喜び過ぎにはならないわ。」
松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「お気遣いありがとうございます。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。想い人が現れたら、想い人を褒めた相手へ感謝の気持ちとお礼をしっかりと伝えるように。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
三条夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。
その翌日の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
油川夫人の部屋。
油川夫人、菊姫、松姫が居る。
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。三条のお方様にお経などを教わってきます。」
油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「三条のお方様に迷惑を掛けないようにしっかりと学びなさい。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。行ってくるわね。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「姉上。行ってらっしゃいませ。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「私も母上からたくさんの内容を学びたいです。私が帰ってきたら、お松の学んだ内容を教えてください。」
油川夫人は菊姫に微笑んで頷いた。
菊姫は油川夫人を微笑んで見た。
松姫は油川夫人と松姫を微笑んで見た。
菊姫は部屋を微笑みながら出て行った。
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。今日は何を学びたい?」
松姫は真剣な表情で考え込んだ。
油川夫人は松姫を微笑んで見た。
松姫は油川夫人に恥ずかしそうに話し出す。
「私だけ母上からたくさん学ばない内容が思い浮かびません。」
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お松もお菊も素敵な人になるために、たくさんの内容を学んでいるの。お菊に遠慮せずに、お松が学びたい内容を言いなさい。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様に綺麗な字の文を読んで頂きたいです。母上のような綺麗な字が書きたいです。」
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「お松の字は綺麗よ。更に綺麗な字を書きたいと学ぶ気持ちを持つのは良いわよ。」
松姫は油川夫人を笑顔で見た。
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「今日は文や歌を綺麗な字で書くための勉強をしましょう。」
松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。
「はい!」
油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。
「綺麗な字を書くためには、字を書くための準備をしっかりとする必要があるの。今日は字を書くための準備から始めましょう。」
松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。
「はい!」
油川夫人は松姫を微笑んで見た。
「池の辺の 松の末葉に 降る雪は 五百重降りしけ 明日さへも見む」
松姫は奇妙丸の想いがたくさん込められた歌を受け取った。
松姫には詳しい事情が分からないが、菊姫は三条夫人からお経などを学び始めた。
穏やかに、ゆっくりと、時が動いていく。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第八巻 一六五〇番」です。
「池の辺の 松の末葉に 降る雪は 五百重降りしけ 明日さへも見む」
ひらがなの読み方は「いけのへの まつのうらばに ふるゆきは いほへふりしけ あしたさへもみむ」です。
作者は「詠み人知らず」です。
意味は「池のほとりの松の葉先に降る雪は、幾重にも積もるといい。明日までも見ましょう。」となるそうです。
原文は「邊乃 松之末葉尓 零雪者 五百重零敷 明日左倍母将見」です。
この歌の題詞に「(平城京の)西の池で(聖武天皇が)宴を催されたときの歌一首」とあるそうです。
この歌の左注に「この歌の作者ははっきりとしていませんが、堅子(じゅし:天皇のお世話をする人)の安倍虫麻呂(あべのむしまろ)が伝誦(でんしょう)したものです。」とあるそうです。
松は昔から、神の憑り代、神様が天から降りてこられる木として考えられてきたそうです。
今でもお正月の門松などに残っています。
武田軍の関連についてです。
元亀元年(1570年)一月は、四日に武田軍が花沢城を包囲し、同月の一月の間に攻略し、花沢城主は高天神城の城主の元に落ち延びます。
松姫と菊姫の兄の仁科五郎盛信が高天神城の城主になるのは更に後の事です。
今回の物語から武田信玄の正室の三条夫人が登場します。
三条夫人については、当サイトの登場人物の項目に簡単ですが説明を掲載しました。
「初見月(はつみづき)」は「陰暦正月の異称」です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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