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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 梅見月の彩り 梅の花今盛りなり 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

三条夫人[武田信玄の正室、黄梅院の母]、菊姫[武田信玄の四女]、

油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「梅の花 今盛りなり 思ふどち かざしにしてな 今盛りなり」

「万葉集 第五巻 八二〇番」より

作者:葛井大夫(ふじいたいう)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、二十八の月を数える。

暦は二月。



暦は春になる。



ここは、甲斐の国。



厳しい寒さを感じる日は少なくなり、過ごしやすい春の日へと近付いているのが分かるようになった。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



菊姫と松姫が居る。



松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上と過ごす時間が少し減って寂しいです。でも、姉上の学ぶ姿を見ると、私もしっかり学ばなければと思います。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私もお松と過ごす時間が少し減って寂しいわ。でも、お松が私の学ぶ姿を見て、しっかりと学びたいと思ってくれるのは嬉しいわ。学ぶ時の励みになるわ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上が更に励んで学ぶと、更に姉上と過ごす時間が減ってしまいます。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松が更に励んで学んでも同じよ。」

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松と過ごす楽しみも充分に残したいわ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「私も姉上と過ごす楽しみを充分に残したいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お互いに無理しないように学びましょうね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



油川夫人が部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は油川夫人を微笑んで見た。

菊姫も油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様からお松宛の文とお松への贈り物が届いたの。お松の部屋に文と贈り物を持って行くわ。お菊。お松。三人でお松の部屋に行きましょう。」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫と菊姫微笑んで見た。



油川夫人は部屋を微笑んで出て行った。

松姫は部屋を笑顔で出て行った。

菊姫は部屋を微笑んで出て行った。



それから少し後の事。



ここは、松姫の部屋。



油川夫人、菊姫、松姫が居る。

油川夫人の脇には、小箱と文が置いてある。



油川夫人は松姫の前に小箱と文を微笑んで置いた。

松姫は小箱と文を笑顔で取った。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。文から先に読んだ方が良いのでしょうか?」

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様からは、文を先に読むか贈り物を先に見るかの伝言はなかったそうなの。今回は文を先に読みましょう。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は小箱と文を持ちながら、油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は小箱と文を持ちながら、油川夫人に笑顔で話し出す。

「母上! 奇妙丸様からの贈り物を見て頂きたいです! 部屋に暫く居てください!」

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで頷いた。

松姫は小箱を脇に置くと、文を微笑みながら丁寧に広げた。

菊姫は松姫と文を微笑んで見た。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



お松へ

甲斐の国は厳しい寒さを感じる日が続いているのだろうか。

それとも、厳しい寒さを感じる日が少なくなる頃だろうか。

岐阜は厳しい寒さを感じる日が少なくなった。

私は元気に過ごしている。

安心してくれ。

突然だが、お松に新年の祝いの贈り物を用意したいと考えていた。

最初は、お松が笑顔になる贈り物、お松が笑顔で利用してくれる贈り物、と考えていた。

気付いたら、正室になるお松に喜んでもらえる物、正室になるお松が利用して恥ずかしくない物、と考えていた。

知らぬ間に気負っていたと気付いて恥ずかしくなった。

気持ちを落ち着けて、私がお松に贈りたい物を考えた。

お松と花にちなんだ贈り物を用意した。

贈り物は小箱の中に入っている。

今回は、小箱の中の贈り物と歌の贈り物を用意した。

梅の花 今盛りなり 思ふどち かざしにしてな 今盛りなり

小箱の中の贈り物も歌の贈り物も受け取ってもらえると嬉しい。

お松が今回の小箱の中の贈り物を気に入ったら、別な種類の花の贈り物も用意したいと思う。

細やかな物に関しては疎いので、望みがあれば遠慮なく教えてくれ。

今回の件で未熟な面がたくさんあると気付いた。

これからも更に精進したいと思う。

少しの間は寒さや暖かさなどの様々な気候が続くと思う。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

奇妙丸より



菊姫は小箱を見ると、松姫に微笑んで話し出す。

「お松と花にちなんだ贈り物が小箱の中に入っているのね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで頷いた。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は文を脇に置くと、小箱を微笑んで開けた。

菊姫は小箱を微笑んで見た。

油川夫人は、菊姫、松姫、小箱を微笑んで見た。



小箱の中には、松と梅を思わせる彩りの長い組紐が入っている。



松姫は組紐を持つと、油川夫人と菊姫に笑顔で話し出す。

「母上! 姉上! 綺麗な組紐の彩りの贈り物を頂きました!」

菊姫は組紐を見ると、松姫に微笑んで話し出す。

「綺麗ね。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。

松姫は組紐を持ちながら、油川夫人と菊姫を笑顔で見た。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「今回の贈り物の組紐は、作り終えるまでに相当の日数が必要だと思うの。新年や梅の花の咲く季節の贈り物にするために、かなり前から準備していたと思うの。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「昨年の春や夏の間に、組紐の贈り物の準備を始めていたかも知れないのですね。文には新年のお祝いに間に合わなかったと書いてありましたが、歌の内容から想像すると、梅の花の咲く季節に贈るために準備をしていたと思いました。」

油川夫人は菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。松と梅の花を思わせる彩りの組紐を梅の花の咲く季節に贈ったら、今年の着物には使えませんよね。奇妙丸様は、お松と一緒に過ごす初めての梅の花の咲く季節に組紐を使ってもらいたくて贈ったのでしょうか?」

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「今回の奇妙丸様の文の内容から想像すると、お菊の考えは合っていると思うわ。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は、お松と一緒に過ごす日が分からないから、先に組紐を贈ったのね。早く一緒に過ごしたい気持ちを文と組紐で表したのね。さすが奇妙丸様ね。」

お松は組紐を持ちながら、油川夫人と菊姫を笑顔で見た。

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。組紐を頂いた喜びと感謝の気持ちをしっかりと文に書きなさい。お松の望みの組紐が欲しいと思うのならば、奇妙丸様に無理のないように頼みなさい。奇妙丸様はお松からの返事を楽しみに待っているはずだから、お菊と相談して早く文を書きなさい。」

松姫は組紐を持ちながら、油川夫人に笑顔で話し出す。

「はい!」

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。今回もお松の文の相談に乗ってあげなさい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫を微笑んで見た。

松姫は組紐を小箱に丁寧に笑顔で仕舞った。

菊姫は松姫を微笑んで見た。



油川夫人は部屋を微笑んで出て行った。



奇妙丸様へ

いつもお気遣いありがとうございます。

奇妙丸様がお元気に過ごされていると分かり安心しました。

甲斐の国は厳しい寒さを感じる時が減ってきました。

私は元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

歌と組紐の贈り物をありがとうございます。

松と梅の花を思わせる彩りの組紐はとても綺麗です。

とても嬉しいです。

奇妙丸様に今回の贈り物の組紐を身に付けた姿を早く見て頂きたいです。

今回の贈り物の組紐を身に付けて、奇妙丸様と今回の贈り物と歌を一緒に詠みたいです。

今回の贈り物の組紐を身に付けて、奇妙丸様と梅の花の咲く季節を幾度も過ごしたいです。

文を読んだ途端に、梅の花以外の彩りの組紐も欲しいと思いました。

我がままを言って良いのなら、梅の花以外の彩りの組紐も頂けると嬉しいです。

私はたくさんの花の種類を知りません。

奇妙丸様に全てお任せしたいと思います。

もう少しだけ寒さを感じる時があると思います。

お体に気を付けてお過ごしください。

松より



それから数日後の事。



ここは、躑躅ヶ崎館。



三条夫人の部屋。



三条夫人、菊姫、松姫が居る。

お松の脇には、布に包んだ小箱が置いてある。



三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様から組紐の贈り物と文が届いたそうね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「彩りの綺麗な組紐です。文には梅の花を詠んだ歌が書いてありました。三条様に組紐を見て頂きたくてお持ちしました。」

三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。気遣いをありがとう。」

松姫は布を丁寧に広げると、小箱を丁寧に開けた。

三条夫人は松姫を微笑んで見た。

松姫は三条夫人の前に小箱を丁寧に置いた。

三条夫人は小箱の中を微笑んで見た。

松姫は三条夫人を微笑んで見た。

菊姫も三条夫人を微笑んで見た。

三条夫人は菊姫と松姫を見ると、微笑んで話し出す。

「松と梅の花を思わせる綺麗な彩りの組紐ね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「褒めて頂けて嬉しいです。ありがとうございます。」

菊姫は三条夫人を微笑んで見た。

三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「今回の贈り物の歌を教えてくれるかしら。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「“梅の花 今盛りなり 思ふどち かざしにしてな 今盛りなり”」

三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「かなり前から組紐と歌を考えていたのね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「姉上は三条夫人と似た話しをしていました。」

三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。細かい状況まで察して考えられるのね。しっかりと成長しているわね。嬉しいわ。」

菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「褒めて頂けて嬉しいです。」

松姫は三条夫人と菊姫を微笑んで見た。

三条夫人は松姫の前に小箱を丁寧に置くと、微笑んで話し出す。

「綺麗な彩りの組紐を見せてくれてありがとう。」

松姫は三条夫人を微笑んで見た。

三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様に組紐と歌のお礼の文は書いたのよね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は新たな彩りの組紐を、既に用意しているか用意している最中かも知れないわね。楽しみね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

三条夫人は松姫を微笑んで見た。

松姫は小箱を丁寧に微笑みながら包んだ。

三条夫人は松姫を微笑んで見ている。

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「三条様。私はこれで失礼します。」

三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「また遠慮なく来てね。楽しみに待っているわ。」

松姫は三条夫人に微笑んで軽く礼をした。

三条夫人は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

三条夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



松姫は小箱を持ちながら、部屋を微笑んで出て行った。



三条夫人は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「三条様。本日もよろしくお願いします。」

三条夫人は菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は三条夫人を微笑んで見た。



「梅の花 今盛りなり 思ふどち かざしにしてな 今盛りなり」

梅の花の咲く季節に届いた文。

梅の花が咲く季節に届いた歌。

梅の花が咲く季節に届いた松と梅の花を思わせる綺麗な彩りの組紐。

梅見月に届いた素敵な贈り物は、松姫の想いと奇妙丸の想いを更に鮮やかに彩っていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第五巻 八二〇番」です。

「梅の花 今盛りなり 思ふどち かざしにしてな 今盛りなり」

ひらがなの読み方は「うめのはな いまさかりなり おもふどち かざしにしてな いまさかりなり」です。

作者は「葛井大夫(ふじいたいう)」です。

歌の意味は「梅の花が今満開ですよ。さぁ、友よ、髪かざりにしましよう。今が盛りですよ。」となるそうです。

原文は「烏梅能波奈 伊麻佐可利奈理 意母布度知 可射之尓斯弖奈 伊麻佐可利奈理」です。

「思ふどち」は「お互いに気の合った友達」のことだそうです。

天平二年正月十三日(730年2月4日)に、大宰府の長官である大伴旅人(おおとものたびと)の邸宅で宴会をした時に、参加者がそれぞれに詠んだ梅の花の歌32首の一つだそうです。

「組紐(くみひも)」について簡単に説明します。

組紐の歴史は古いです。

縄文式土器の紐の跡で確認できるそうです。

古墳時代の組紐は、埴輪で刀剣の下緒や衣服を縛って使用するための紐として使用されていた事が分かるそうです。

飛鳥・奈良時代になると、唐や隋から組紐の技術が渡来したそうです。

飛鳥・奈良・平安時代になると、現在の組紐と変わらないような組紐や完成までに数年も掛かるような組紐が作られていたそうです。

奈良・平安時代になると、貴族の装束の束帯に用いられるようになったそうです。

平安・鎌倉時代になると、伝来の技術の他に独自の技術も加わり、芸術性の高いものになっていったそうです。

鎌倉末期・室町時代になると、戦などのために鎧や兜などに使用するなど実用的な組紐が作られるようになっていったそうです。

安土桃山時代になると、戦などが少し落ち着いた頃と重なるので、装飾性の高い組紐や庶民のための組紐が作られるようになったそうです。

江戸時代になると、戦が落ち着いたので、武具、印籠、羽織の紐、根付など、組紐の用途が広がっていくそうです。

江戸時代には、武士も組紐の作成や組紐の修理をするのが素養の一つと考えるようになっていったそうです。

江戸時代から専門職としての組紐技術者が登場するようになるそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀元年(1570年)二月は、大きな動きはありません。

「梅見月(うめみづき)」は「陰暦二月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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