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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 卯月 卯の花 霍公鳥 君は 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
三条夫人[武田信玄の正室、黄梅院の母]、菊姫[武田信玄の四女]、
油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや」
「万葉集 第十巻 一九七六番」より
作者:詠み人知らず
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、三十の月を数える。
暦は四月。
季節は初夏になる。
ここは、甲斐の国。
躑躅ヶ崎館。
三条夫人の部屋。
三条夫人と菊姫が居る。
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「今日の勉強は終わりよ。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「ありがとうございました。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊は覚えが良いから、教える時に張り切ってしまうわ。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「褒めて頂けて嬉しいです。三条様のご期待に副えるように更に勉強に励みます。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。辛い時は、無理をせずに言ってね。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
三条夫人は菊姫を微笑んで見た。
菊姫も三条夫人を微笑んで見た。
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。興味や質問のある歌や物語はあるかしら?」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「卯の花が咲き始めています。卯の花を詠んだ歌を知りたいです。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お松のために卯の花を詠んだ歌が知りたいのかしら?」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「お松のために知りたい気持ち。私のために知りたい気持ち。両方の気持ちがあります。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「万葉集に掲載されている卯の花と霍公鳥を詠んだ歌を教えるわね。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「ありがとうございます。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「“卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや”。歌の意味は、“卯の花が咲き散る岡を通って、霍公鳥が鳴き渡りましたよ。あなたは聞きましたか?”となるそうよ。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「“卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや”。“卯の花が咲き散る岡を通って、霍公鳥が鳴き渡りましたよ。あなたは聞きましたか?”」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。直ぐに覚えたのね。凄いわね。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「歌と意味を教えて頂いた直後なので復唱できました。何度も復唱しないとお松に伝える時に忘れてしまうと思います。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。謙遜するのが上手ね。」
菊姫は三条夫人に僅かに慌てた様子で話し出す。
「謙遜していません。」
三条夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「以前に今の歌と意味を紙に書いたの。直ぐに用意するから、持って帰ってね。」
菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。
「ありがとうございます。」
三条夫人は菊姫を微笑んで見た。
菊姫は三条夫人を微笑んで見た。
それから暫く後の事。
油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
油川夫人の部屋。
油川夫人、松姫、菊姫が居る。
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「今日は、三条様から勉強の他に卯の花と霍公鳥を詠んだ歌を教えて頂きました。」
油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。差し支えなければ、今回の学んだ歌を教えてくるかしら。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「姉上。私にも教えてください。」
菊姫は油川夫人と松姫に微笑んで話し出す。
「“卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや”。歌の意味は、“卯の花が咲き散る岡を通って、霍公鳥が鳴き渡りましたよ。あなたは聞きましたか?”」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「姉上。今の歌を奇妙丸様宛ての文に書いても良いですか?」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「三条様は、お松が奇妙丸様に文を書くのを知っているし、私がお松に教えるのも知っているわ。お松は奇妙丸様宛ての文に遠慮せずに書けるわよ。」
松姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊は三条様からどのようにして歌を学んだのかしら?」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「最初は口頭で教えて頂きました。私が歌や意味を忘れて困らないように、以前に歌と意味を書いた紙を頂きました。」
油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。
「お菊。三条様から頂いた紙を持っているかしら?」
菊姫は懐から紙を取り出すと、油川夫人に微笑んで差し出した。
油川夫人は菊姫から紙を微笑んで受け取った。
松姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
油川夫人は紙を微笑んで見た。
菊姫は油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人は紙を持ちながら、菊姫を見ると、微笑んで話し出す。
「三条様が歌や意味を紙に書いたのは最近のようね。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「私も母上と同じように思います。」
油川夫人は紙を持ちながら、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「霍公鳥は冥土に往来する鳥といわれているの。霍公鳥の別名の一つに、“魂迎鳥”があるの。」
松姫は油川夫人と菊姫を僅かに心配そうに見た。
菊姫は油川夫人を心配そうに見た。
油川夫人は紙を持ちながら、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「三条様はお菊とお松のために、先程の歌や意味を書いた紙を渡したと思うの。お菊。お松。三条様に感謝して笑顔で過ごしなさい。」
菊姫は油川夫人に複雑な様子で話し出す。
「はい。」
松姫も油川夫人に複雑な様子で話し出す。
「はい。」
油川夫人は紙を持ちながら、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「霍公鳥はたくさんの別名があるの。三条様から教えて頂いた歌の復習の他に、霍公鳥と卯の花について勉強しましょう。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
松姫も油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は菊姫に紙を微笑んで差し出した。
菊姫は油川夫人から紙を受け取ると、懐に丁寧に仕舞った。
松姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
菊姫も油川夫人と松姫を微笑んで見た。
油川夫人も菊姫と松姫を微笑んで見た。
奇妙丸様へ
お元気に過ごされているのでしょうか。
私は元気に過ごしています。
安心してお過ごしください。
甲斐の国では卯の花の咲く姿を見るようになりました。
卯の花がたくさん咲く姿を早く見たいです。
今日は姉上が三条の方から卯の花と霍公鳥を詠んだ歌を教えて頂きました。
姉上から歌を教えて頂いた直後に、奇妙丸様に贈りたいと思いました。
姉上から教えて頂いた歌を文に書きます。
卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや
受け取って頂けると嬉しいです。
姉上から歌を教えて頂いた時に、霍公鳥が卯の花を咲き散る岡を飛ぶ姿を、霍公鳥が卯の花の咲き散る傍で鳴く姿を、直ぐに想像しました。
想像するのと同時に、奇妙丸様に歌のように質問したくなりました。
奇妙丸様。
卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや
甲斐の国が今回の歌に合う様子になるのは、少し時期が早いようです。
甲斐の国で卯の花が咲き散る頃に、奇妙丸様を想いながら、今回の歌を詠みたいです。
甲斐の国は過ごしやすい日が続いていますが、暑さを感じる日が少しずつ近付いているのが分かる時があります。
体調に気を付けてお過ごしください。
松より
お松へ
文をありがとう。
元気に過ごす様子が文を読んで伝わってきた。
私も元気に過ごしている。
安心して過ごしてくれ。
お松が素晴らしい方達に囲まれて過ごしているのが伝わってきた。
お松を羨ましく想った。
素敵な歌の贈り物をありがとう。
卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや
私も文を読みながら素敵な歌だと思った。
私がお松より先に知ったとしても、お松宛ての文に直ぐに書きたいと思ったはずだ。
今回もお松と同じ想いだと分かり、とても嬉しくなった。
岐阜も今回の歌の合う様子になるには少し早いように感じる。
岐阜で卯の花の咲き散る頃に、お松を想いながら、今回の歌を詠む。
お松。
共に過ごす日が訪れてから最初の卯の花の咲き散る頃に、今回の歌を詠もう。
お松と今回の歌が共に詠める日を楽しみに待っている。
岐阜も過ごしやすい日が続いているが、暑さを感じる気配が少しずつ近付いているのが分かる。
体調に気を付けて過ごしてくれ。
奇妙丸より
それから何日か後の事。
ここは、甲斐の国。
卯の花の咲き散る姿が見られる。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
庭。
卯の花が綺麗に咲いている。
油川夫人、菊姫、松姫が居る。
霍公鳥の鳴く声が聞こえた。
松姫は卯の花を見ながら、微笑んで呟いた。
「“卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや”」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様も同じ日に同じ歌を詠んでいると良いわね。」
油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。
松姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。
松姫は油川夫人と菊姫に微笑んで話し出す。
「卯の花の咲き散る岡で歌を詠んでいませんが、奇妙丸様は卯の花の咲き散る岡で霍公鳥の鳴き渡る声を聞けるでしょうか?」
菊姫は松姫に微笑んで頷いた。
油川夫人も松姫に微笑んで頷いた。
松姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
ちょうど同じ頃。
ここは、躑躅ヶ崎館。
三条夫人の部屋の前に在る庭。
卯の花が綺麗に咲いている。
三条夫人が居る。
三条夫人は卯の花を微笑んで見ている。
霍公鳥の鳴く声が聞こえた。
三条夫人は空を微笑んで見た。
綺麗な青空が広がっている。
三条夫人は青空を見ながら、微笑んで呟いた。
「“卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや”」
優しい風が吹いた。
三条夫人は卯の花を微笑んで見た。
「卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや」
松姫が卯の花が咲く中で、卯の花を見ながら歌を詠んだ相手は、奇妙丸。
三条夫人が卯の花の咲く中で、青空を見ながら歌を詠んだ相手は、誰なのか?
卯の花と霍公鳥だけが知っているのかも知れない。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第十巻 一九七六番」です。
「卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや」
ひらがなの読み方は「うのはなの さきちるおかゆ ほととぎす なきてさわたる きみはききつや」です。
作者は「詠み人知らず」です。
意味は「卯の花が咲き散る岡を通って、霍公鳥が鳴き渡りましたよ。あなたは聞きましたか?!」となるそうです。
原文は「宇能花乃 咲落岳従 霍公鳥 鳴而沙度 公者聞津八」です。
「卯の花(うのはな)」についてです。
ユキノシタ科ウツギ属の落葉低木です。
「空木(うつぎ)」の白い花の別名です。
「空木」の別名でもあります。
空木の別名には、「雪見草(ゆきみぐさ)」、「垣見草(かきみぐさ)」があります。
夏の季語です。
日本原産です。
幹の部分が空洞になっているところから空木と呼ぶようになったといわれています。
「霍公鳥(ほととぎす)」についてです。
カッコウ科の鳥です。
全長は27〜28cmほどです。
冬は東南アジアに渡り、初夏に日本に来ます。
夏の季語です。
「霍公鳥」、「時鳥」、「不如帰」、「杜鵑」、「子規」、「郭公」など、たくさんの書き方があります。
別名は、「文目鳥(あやめどり)」、「妹背鳥(いもせどり)」、「黄昏鳥(たそがれどり)」、「卯月鳥(うづきどり)」、「魂迎鳥(たまむかえどり)」など、他にもたくさんあります。
冥土に往来する鳥ともいわれるそうです。
万葉集では、卯の花や橘などの花と一緒に詠まれる事が多いです。
武田軍の関連についてです。
元亀元年(1570年)四月は、駿河、伊豆に進攻します。
その後、吉原、沼津で北条軍と戦うそうです。
「卯月(うづき)」は「陰暦四月の異称」です。
「卯の花月(うのはなづき)」ともいいます。
夏の季語です。
「卯の花の咲く月」という意味、「稲穂を植える植月(うつき)」という意味、といわれています。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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