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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 麦雨 猶し恋しく想ひかねつも 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

三条夫人[武田信玄の正室、黄梅院の母]、菊姫[武田信玄の四女]、

油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「馬柵越しに 麦食む駒の 罵らゆれど 猶し恋しく 想ひかねつも」

「万葉集 第十二巻 三〇九六番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、三十一の月を数える。

暦は五月。



季節は仲夏になる。



ここは、甲斐の国。



躑躅ヶ崎館。



三条夫人の部屋。



三条夫人、菊姫、松姫が居る。



三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「昨年の今頃に奇妙丸殿から麦が登場する歌が贈られたそうね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「はい。私も奇妙丸様に麦が登場する歌を贈りたいと思っていたので、奇妙丸様から麦が登場する歌を頂いた時は驚きました。」

三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松は奇妙丸殿に麦が登場する歌を贈ったの?」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様に麦が登場する歌は贈っていません。」

三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松は、麦が登場する歌について以前に学んでいたわよね。」

菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫も三条夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿から贈られた麦が登場する歌は、万葉集掲載の歌よね。今回は、お松から奇妙丸殿に麦が登場する歌を贈るのはどうかしら?」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

菊姫も三条夫人に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「では麦が登場する歌を詠むわね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

菊姫も三条夫人に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「“馬柵越しに 麦食む駒の 罵らゆれど 猶し恋しく 想ひかねつも”。歌の意味は、“柵越しに麦を食べる駒がしかられるように怒られても、なおいっそう恋しく思うのです。”となるそうよ。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「素敵な歌を教えて頂いてありがとうございます。」

菊姫も三条夫人に微笑んで話し出す。

「私にも素敵な歌を教えて頂いてありがとうございます。」

三条夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「万葉集掲載の麦が登場する歌は、三首共に“馬柵越しに 麦食む駒の”となっていますね。」

三条夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「本当ね。」

菊姫は三条夫人と松姫を微笑んで見た。

三条夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「歌についてもう少しだけ説明するわね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

三条夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



それから暫く後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人と松姫が居る。



松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「三条様は、昨年の今頃に私が奇妙丸様から万葉集掲載の麦が登場する歌を頂いたのを覚えていました。三条様は、今年は私から奇妙丸様に麦が登場する歌を贈る提案をされました。私は直ぐに了承の返事をしました。三条様は麦が登場する歌を直ぐに教えてくださいました。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「三条様がお松に説明した歌は、“馬柵越しに 麦食む駒の 罵らゆれど 猶し恋しく 想ひかねつも”かしら?」

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「母上! 私の話を聞くだけで、直ぐに歌が分かったのですね! 凄いです!」

油川夫人は松姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。

「母上! 奇妙丸様に麦が登場する歌を早く贈りたいです!」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。良い心掛けね。奇妙丸様も喜ぶと思うわ。」

松姫は油川夫人を笑顔で見た。

油川夫人は松姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人を考え込みながら見た。

油川夫人は松姫を不思議そうに見た。

松姫は油川夫人に考え込みながら話し出す。

「母上。私が奇妙丸様に文を書く時は、姉上がいつも相談に乗っています。姉上は三条様の元で勉強中なので、帰りが遅くなるかも知れません。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お菊が帰るまでに、奇妙丸様宛ての文の内容を考えて、文を書く準備も進めなさい。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫を微笑んで見た。



松姫は部屋を微笑んで出て行った。



それから暫く後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



玄関。



菊姫が微笑んで帰ってきた。



松姫は菊姫の前に笑顔で現れた。

油川夫人は菊姫の前に微笑んで現れた。



松姫は菊姫に笑顔で話し出す。

「姉上! 奇妙丸様に麦が登場する歌を早く贈りたいです! 相談に乗ってください!」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。お菊は勉強を終えて帰ってきたばかりなのよ。お菊が休んだ後に、文を書く相談に乗ってもらいなさい。」

松姫は油川夫人と菊姫を恥ずかしそうに見た。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。私は大丈夫です。奇妙丸様宛ての文の相談が終わってから休みます。」

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。無理をしないようにね。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。お菊に無理をさせないように気を付けなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。まだ挨拶をしていません。今から挨拶をしても良いですか?」

油川夫人は菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は油川夫人と松姫に微笑んで話し出す。

「母上。ただいま。お松。ただいま。」

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お帰りなさい。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。お帰りなさい。」

菊姫は油川夫人と松姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

麦秋の季節になりました。

奇妙丸様はお元気に過ごされていますか。

私は元気に過ごしています。

安心してください。

昨年の今頃に、奇妙丸様から麦が登場する歌を頂きました。

嬉しさに包まれた想いを、今でもはっきりと覚えています。

今回は、私から奇妙丸様に麦が登場する歌を贈りたいと思いました。

受け取って頂けると嬉しいです。

馬柵越しに 麦食む駒の 罵らゆれど 猶し恋しく 想ひかねつも

奇妙丸様の傍で麦雨が見たいです。

一日も早く奇妙丸様と麦雨が見られるように、たくさんの物事を学びます。

気候など落ち着かない日がたくさんあると思います。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



それから何日か後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は文を微笑んで読んでいる。

菊姫は松姫を見ながら、文を微笑んで読んでいる。



お松へ

再び麦秋の季節が巡ってきたね。

私は元気に過ごしている。

安心して過ごしてくれ。

私とお松は、幾度も文や歌を交わしている。

昨年の今頃に贈った歌を覚えていてくれたんだね。

とても嬉しい気持ちに包まれた。

更に歌の勉強に励みたいと思った。

お松。

麦が登場する歌の贈り物をありがとう。

更に更に歌の勉強を励みたいと思った。

お松。

私もお松の傍で一日も早く麦雨が見たい。

私も一日も早くお松の傍で麦雨が見られるように、たくさんの物事を学びたい。

これから暫くは気候の落ち着かない日があると思う。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

奇妙丸より



松姫は文を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様は喜んでいるわね。良かったわね。」

松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上に文を書く相談に乗ってもらったおかげです。ありがとうございます。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。



「馬柵越しに 麦食む駒の 罵らゆれど 猶し恋しく 想ひかねつも」

麦秋の季節。

松姫は奇妙丸をなおいっそう恋しく想う。

松姫に奇妙丸の想いが文を通して伝わってくる。

松姫は奇妙丸の傍で一日も早く麦雨が見られるように、たくさんの物事を学び続けている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十二巻 三〇九六番」です。

「馬柵越しに 麦食む駒の 罵らゆれど 猶し恋しく 想ひかねつも」

ひらがなの読み方は「ませごしに むぎはむこまの のらゆれど なほしこひしく おもひかねつも」

作者は「詠み人知らず」

意味は「柵越しに麦を食べる駒がしかられるように怒られても、なおいっそう恋しく思うのです。」となるそうです。

原文は「■(木+巨)★(木+若)越尓 麦咋駒乃 雖詈 猶戀久 思不勝焉」

「■」と「★」は、文字変換が出来ない字でした。

「麦」というと、一般的には「大麦」を差します。

日本には四世紀頃に朝鮮半島から伝わったそうです。

麦は「五穀(ごこく)(一般的には、米、麦、粟[あわ]、黍[きび]、豆)」の一つで、昔から重要な作物だったそうです。

万葉集には三首だけしか掲載されていないそうです。

三首共に「麦食む駒」と詠まれているそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀元年(1570年)五月は、大きな動きはありません。

今回の物語の補足についてです。

「雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 短編 22 文紡ぎ 麦秋 あひ見し子らしあやにかなしも」に登場する歌が関係しています。

「仲夏(ちゅうか)」は「夏のなかば。陰暦五月の異称。」です。

夏の季語です。

「麦秋(ばくしゅう)」は「麦の取入れをする季節」を表す言葉です。

初夏の頃になります。

夏の季語です。

「麦雨(ばくう)」は、「麦が熟する頃に降る雨。五月雨。」を表す言葉です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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