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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 愛逢月 天の川浮津 我が待つ君 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、三条夫人[武田信玄の正室、黄梅院の母]、菊姫[武田信玄の四女]、

油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「天の川 浮津の波音 騒くなり 我が待つ君し 舟出すらしも」

「万葉集 第八巻 一五二九番」です。

作者:山上憶良(やまのうえのおくら)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、三十三の月を数える。

暦は七月。



季節は初秋。



ここは、甲斐の国。



日中も夜も暑さを感じる日が続いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は微笑んで居る。

机の上には、文と紙が置いてある。



菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。

松姫も部屋の中に微笑んで入ってきた。



油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。奇妙丸様から文が届いたの。」

松姫は油川夫人を笑顔で見た。

菊姫は油川夫人と松姫を微笑んで見た。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。奇妙丸様に七夕の歌を贈る予定はあるの?」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「姉上と相談しましたが、良い歌が見付かりませんでした。七夕が近付いているので、母上に急いで相談しようと話していました。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「三条様が、お松とお菊が奇妙丸様に贈る七夕の歌を選ぶのに困っていたらと心配して、七夕の歌を選んでくださったの。」

松姫は油川夫人を微笑んで見た。

菊姫も三条夫人を微笑んで見た。

油川夫人は紙を取ると、松姫に微笑んで差し出した。

松姫は油川夫人から紙を微笑んで受け取った。

菊姫は油川夫人と松姫を微笑んで見た。

松姫は紙を持ちながら、紙を微笑んで見た。

菊姫は紙を微笑んで見た。

松姫は紙を持ちながら、油川夫人を見ると、微笑んで話し出す。

「“天の川 浮津の波音 騒くなり 我が待つ君し 舟出すらしも”。三条様が選んだくださる歌は、素敵な歌ばかりです。今回の七夕を詠んだ歌も素敵です。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「“織姫星が彦星を待っている様子を描いた歌”ね。お松の言う通り、素敵な歌ね。」

松姫は紙を持ちながら、油川夫人を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「三条様は体調の優れない日が続く中で、お菊とお松を気遣ってくださったの。三条様のためにも、今日中に奇妙丸様宛の七夕の贈り物の歌と文を用意しなさい。」

松姫は紙を持ちながら、緊張した様子で話し出す。

「はい。」

菊姫は三条夫人に緊張した様子で話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。緊張して奇妙丸様に失礼な内容の文を書かないように、気持ちを落ち着けてから文を書きなさい。」

松姫は紙を持ちながら、緊張した様子で話し出す。

「はい。」

菊姫は三条夫人に緊張した様子で話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。気持ちを楽にしなさい。」

松姫は紙を持ちながら、軽く息をはいた。

菊姫は軽く息をはいた。

油川夫人は文を取ると、松姫に文を微笑んで差し出した。

松姫は紙を持ちながら、油川夫人から文を受け取った。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。奇妙丸様への文を書いた後に、三条様のお見舞いに行きなさい。」

菊姫は油川夫人に考え込みながら話し出す。

「三条様は体調が悪くなり、寝込む日々が続いています。私とお松がお見舞いに行って、三条様の迷惑になりませんか?」

松姫は文と紙を持ちながら、油川夫人を心配そうに見た。

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「三条様がお菊とお松に逢いたいと話しているそうなの。三条様はお菊とお松に逢えたら喜ぶと思うわ。」

菊姫は油川夫人を安心した様子で見た。

松姫も油川夫人を安心した様子で見た。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。三条様に心配を掛けないように。三条様の前で、不安や気持ちや心配な気持ちを表さないように。」

松姫は油川夫人に緊張した様子で話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に緊張した様子で話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。緊張し過ぎよ。再び気持ちを落ち着けなさい。」

松姫は文と紙を持ちながら、軽く息をはいた。

菊姫は軽く息をはいた。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は文と紙を持ちながら、油川夫人に微笑んで軽く礼をした。

菊姫は油川夫人に微笑んで軽く礼をした。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



菊姫は部屋を微笑んで出て行った。

松姫は文と紙を持ちながら、微笑んで部屋を出て行った。



お松へ

七夕の話題を何度も聞く頃になった。

暑さの残る日が続いている。

お松は元気に過ごしているだろうか。

私は元気に過ごしている。

安心してくれ。

お松に七夕の歌を贈りたくて調べていたが、素敵な歌がたくさん有るので選べなかった。

お松に七夕の歌が贈れないので、お松に文だけでも届けたいと思った。

岐阜と甲斐という離れた所で過ごしているが、七夕の日は共に天の川を見よう。

お松と天の川を通じて繋がっていると思うと、楽しい七夕が過ごせる。

私は、一年に一度だけでも織姫星に逢える彦星が物凄く羨ましい。

お松と共に過ごす日が待ち遠しい。

お松。

素敵な七夕を過ごそう。

暫くは暑い日が続くと思う。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

素敵な七夕が過ごせるように岐阜から祈っている。

奇妙丸より



奇妙丸様へ

奇妙丸様がお元気に過ごされていると分かり安心しました。

私も元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

こちらも暑い日が続いています。

七夕が話題になる機会が増えました。

奇妙丸様と同じと分かり、嬉しいです。

奇妙丸様の文は、七夕の前に届きました。

七夕を楽しく過ごせるように気遣って頂いてありがとうございます。

嬉しいです。

私は奇妙丸様に七夕に贈る歌が決められなくて悩んでいました。

そのような時に、七夕の歌を教えで頂きました。

織姫星の様子と彦星の様子が想像できる素敵な歌だと思います。

奇妙丸様に贈ります。

天の川 浮津の波音 騒くなり 我が待つ君し 舟出すらしも

受け取って頂けると嬉しいです。

七夕の夜は、天の川の浮津の波音を聞きながら、彦星を待つ織姫星の姿を探します。

奇妙丸様。

素敵な七夕をお過ごしください。

私も奇妙丸様と共に素敵な七夕を過ごせるように、甲斐の国から祈ります。

暫くは暑い日が続くと思います。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



それから何日か後の事。



ここは、躑躅ヶ崎館。



三条夫人の部屋。



三条夫人は床の上に微笑んで体を起こしている。

菊姫は考え込む様子でいる。

松姫も考え込む様子でいる。



菊姫は三条夫人に申し訳なさそうに話し出す。

「三条様の体調が悪い日が続いていると聞いて、心配していました。三条様に迷惑を掛けないお見舞いの日を考えていたら、お見舞いに来る日が遅くなってしまいました。」

松姫は三条夫人に申し訳なさそうに軽く礼をした。

三条夫人は床の上に体を起こしながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「お見舞いの相手によっては、お見舞いが仰々しくなる時があるわよね。お菊とお松が悩む気持ちは分かるわ。」

菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

松姫は三条夫人に微笑んで軽く礼をした。

三条夫人は床の上に体を起こしながら、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松の元気な姿が見られて安心したわ。」

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫も油川夫人を微笑んで見た。

三条夫人は床の上に体を起こしながら、菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。私の体調が悪くなったために、勉強が中断しているわね。ごめんなさい。」

菊姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「私のためにお気遣い頂いてありがとうございます。」

三条夫人は床の上に体を起こしながら、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は三条夫人を微笑んで見た。

三条夫人は床の上に体を起こしながら、松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿からお松宛の文が届いたそうね。お松は奇妙丸殿に返事を書いたそうね。」

松姫は三条夫人に微笑んで話し出す。

「三条様から教えて頂いた歌を、奇妙丸様宛ての文に書きました。私は奇妙丸様に贈る七夕の歌が決まらなくて悩んでいました。三条様から七夕を詠んだ素敵な歌を教えて頂いて、とても嬉しかったです。奇妙丸様に七夕までに文が届けられたのは、三条様のおかげです。嬉しいです。ありがとうございます。」

三条夫人は床の上に体を起こしながら、松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿がお松に七夕を詠んだ歌を贈る場合、奇妙丸殿から七夕を詠んだ歌を含めて贈り物が無い場合、奇妙丸殿から文が届いた場合。幾つかの状況を考えて、七夕を詠んだ歌を選んだの。お松の役に立って嬉しいわ。」

松姫は三条夫人を微笑んで見た。

菊姫は三条夫人と松姫を微笑んで見た。



それから数日後の事。



今日は七夕になる。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



菊姫は微笑んで居る。



松姫が部屋の中に微笑んで入ってきた。



菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。天の川の浮津の波音を聞きましょう。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。



菊姫は部屋を微笑んで出て行った。

松姫も部屋を微笑んで出て行った。



それから少し後の事。



ここは、躑躅ヶ崎館。



三条夫人の部屋



縁の傍。



障子が開いている。



武田信玄が微笑んで居る。

三条夫人が微笑んで居る。



武田信玄は三条夫人に微笑んで話し出す。

「横にならなくて良いのか?」

三条夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「横になったら、天の川が見えません。」

武田信玄は三条夫人に微笑んで話し出す。

「辛くなったら無理をせずに直ぐに言いなさい。」

三条夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は三条夫人を微笑んで見た。

三条夫人は天の川を微笑んで見た。

武田信玄は三条夫人を微笑んで見ている。

三条夫人は天の川を見ながら、微笑んで呟いた。

「“天の川 浮津の波音 騒くなり 我が待つ君し 舟出すらしも”」

武田信玄は三条夫人に微笑んで話し出す。

「“天の川 浮津の波音”。素晴らしい表現だな。」

三条夫人は武田信玄を見ると、微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は三条夫人を微笑んで見た。

三条夫人は天の川を微笑んで見た。

武田信玄も天の川を微笑んで見た。



「天の川 浮津の波音 騒くなり 我が待つ君し 舟出すらしも」

元亀元年七月二十八日。

三条夫人は永久の眠りに就いた。

三条夫人は、美しく、信仰が篤く、温かで穏やかな女性、との記録が残っている。

三条夫人の望みを受けて、甲斐の国で永久の眠りに就いている。

三条夫人は、幾重もの日々を重ねる後も、甲斐の国で永久の眠りに就いている。



菊姫にとって、松姫にとって、奇妙丸にとって、新たな時の流れがゆっくりと近付き始めた。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第八巻 一五二九番」です。

「天の川 浮津の波音 騒くなり 我が待つ君し 舟出すらしも」

ひらがなの読み方は「あまのがわ うきつのなみおと さわくなり わがまつきみし ふなですらしも」です。

作者は「山上憶良(やまのうえのおくら)」です。

歌の意味は「天の川に浮かんでいる船着き場の波音が騒がしくなって・・・ 私が待っている、あなたが舟を漕ぎ出しになったのでしょう。」となるそうです。

原文は「天河 浮津之浪音 佐和久奈里 吾待君思 舟出為良之母」

七夕の夜に織姫星(おりひめぼし)が彦星(ひこぼし)を待っている様子を描いた歌です。

「浮津(うきつ)」は、空に浮かんでいる船着き場という意味と思われるそうです。

「津(つ)」は、港・船着場の事だそうです。

そこから、「天の川の港」という意味で「浮津」という言葉を使ったと思われているそうです。

「七夕(たなばた)」についてです。

旧暦の七月十五日の夜に戻って来る先祖の霊に着せる衣服を機織して棚に置いておく風習があり、棚に機で織った衣服を備える事から「棚機(たなばた)」という言葉が生まれたそうです。

その後、仏教が伝来すると七月十五日は仏教上の行事の「盂蘭盆(うらぼん)」となり、棚機は盆の準備をする日ということになって、七月七日に繰り上げられたそうです。

これに中国から伝わった織女・牽牛の伝説が結び付けられ、天の川を隔てた織姫(織姫星・琴座のベガ)と彦星(牽牛星・鷲座のアルタイル)が年に一度の再開を許される日となったそうです。

元は宮中行事だったそうです。

現在の様に一般的に行われるようになったのは、江戸時代からだそうです。

そして、現在の「七夕」の形に近くなってきたのも江戸時代からだそうです。

笹などを飾り付ける風習は、江戸時代頃から始まり、日本だけに見られる風習だそうです。

「陰暦」を基にして物語を書いているので、現在の暦と少しずれています。

陰暦の「七夕」は、現在の暦で七月下旬から八月下旬の頃になるので、落ち着いた天気の日が増えていると思います。

現在の暦の七月七日の「七夕」は、天気の悪い日や雨が降る日が多いかと思います。

武田信玄の正室の三条夫人は公家の人です。

織田信長も京の都を意識していたと思います。

そういう事もあり、「七夕」の行事の内容や規模など、詳しい事は分かりませんが、「七夕」の行事を行っていた可能性はあると思います。

今回の物語は、時期に関しては、陰暦の七月七日を元にして書きましたが、行事の内容は、現在の「七夕」を少し元にして書きました。

武田家、及び、武田軍の関連についてです。

元亀元年(1570年)七月は、大きな動きはありません。

武田家の関連についてです。

三条夫人は、元亀元年七月二十八日(1570年8月29日)に亡くなったそうです。

享年は五十歳と伝わっています。

三条夫人は「美しく、信仰が篤く、温かで穏やかな人柄。武田信玄との仲は睦まじかった。」などと記された記録があるそうです。

現在では、武田信玄との夫婦仲は良かったという説が増えています。

「愛逢月(あいぞめづき)」は「陰暦七月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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