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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 十三夜 わが身一つの秋にはあらねど 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

三条夫人[武田信玄の正室、黄梅院の母](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「月みれば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど」

「小倉百人一首 第二十三番」、及び、「古今集」

作者:大江千里(おおえのちさと)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、三十五の月を数える。

暦は九月。

季節は晩秋。



ここは、甲斐の国。



陽が落ちると僅かに寒さを感じる時があるが、日中は過ごしやすい日が続いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人、菊姫、松姫が居る。

机の上には、文が載っている。



油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「今月は十三夜が行なわれるわね。奇妙丸様からお松に十五夜の贈り物の歌を頂いたから、十三夜の贈り物の歌は、お松から奇妙丸様に贈りなさい。お菊は今回もお松の文を書く相談に乗ってあげなさい。」



松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「三条様から、お松が十三夜に歌を贈る時の参考として書いた文を預かったの。文や歌の質問があった時のために、文を直ぐに読みなさい。文や歌の質問に、分かる範囲で答えるわ。文と歌の質問が終わったら、お菊とお松は、奇妙丸様宛ての文を直ぐに書きなさい。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に不思議そうに話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に不思議そうに話し出す。

「はい。」

油川夫人は文を取ると、松姫に文を微笑んで差し出した。

松姫は油川夫人から文を不思議そうに受け取った。

菊姫は油川夫人と松姫を不思議そうに見た。

松姫は文を不思議そうに読み始めた。

菊姫も文を不思議そうに読み始めた。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



お菊へ、そして、お松へ、

元気に過ごしているかしら。

十五夜が過ぎた後で、十三夜に余裕のある間に読んで欲しと思い、文を書いたの。

直ぐに本題に入るわね。

お松から奇妙丸殿への十三夜の贈り物の参考になればと、と思い歌を選んだの。

月みれば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど

出典は、古今集。

作者は、大江千里。

十三夜の贈り物の歌として考えると、贈り方が難しいけれど、お菊とお松ならば、素敵な十三夜の歌の贈り物に出来ると思うの。

私はお菊とお松の質問に答えられない可能性が高いと思うの。

お菊とお松には、素敵な先生が居るわ。

お菊とお松が選んだ歌、お菊とお松が相談しながら文を書く様子、お菊とお松が書く文の内容、幾つもの出来事を笑顔で想像して過ごすわ。

三条より



松姫は文を読み終わると、考え込んだ。

菊姫も文を読み終わると、考え込んだ。

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見ている。

松姫は文を持ちながら、油川夫人に考え込んで話し出す。

「母上。三条様が参考として選ばれた歌は、“月みれば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど”です。」

菊姫は油川夫人に考え込んで話し出す。

「難しいです。」

油川夫人は松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「歌の意味は、“月を見ていると、とりとめもなく物事を悲しく思われるものですね。私一人だけの秋というわけではないのに。”となるわね。作者は、男性ね。お松は、女性。許婚の奇妙丸様への十三夜の贈り物の歌。三条様は、素敵な歌を、選んだわね。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人を考え込んで見た。

菊姫は油川夫人を考え込んで見た。

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「織田信長様の嫡男の奇妙丸様が、お松に女性が作者の歌を贈った時があるわね。お松も奇妙丸様を想って過ごしているわよね。お松も、三条様が選ばれた歌を、十三夜の贈り物に相応しい歌にして、奇妙丸様に贈りなさい。」

松姫は文を持ちながら、油川夫人に考え込んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に考え込んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は菊姫と松姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

お元気ですか。

私は元気に過ごしています。

安心してください。

十三夜が近付いていますね。

綺麗な月が見られる日が増えて嬉しいです。

奇妙丸様がお住まいの所からも、綺麗な月が見られる日が増えているのでしょうか。

奇妙丸様に楽しんで十三夜を過ごして頂きたいと思い、十三夜までに歌の贈り物が届くように文を書きました。

月みれば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど

月は私達に様々な姿を見せてくれます。

様々な月の姿を見ながら、楽しさ、嬉しさ、穏やかさ、寂しさ、悲しさ、たくさんの想いを抱きます。

月は不思議ですね。

月みれば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど

奇妙丸様が歌のような気持ちにならないように、私はたくさんの出来事を学び立派な女性になりたいです。

十三夜が終わると、秋から冬へ移る気配や出来事が増えていきますね。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



お松へ

元気に過ごしているようだね。

私は元気に過ごしている。

安心して過ごしてくれ。

お松。

十三夜の歌の贈り物を受け取った。

ありがとう。

お松が私のために歌を選んで文を書いた気持ちが、文を読むだけで伝わってきた。

私は一日も早く立派な人物と言われるように精進する。

お松に早く礼を伝える気持ちが強まり、更に、十三夜までに文を届ける気持ちも強まり、短い文になってしまった。

分かり難い内容があれば、遠慮なく質問してくれ。

十三夜が過ぎると、秋から冬へと移る気配と出来事が少しずつ増えていくね。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

奇妙丸より



数日後の事。



ここは、甲斐の国。



夜空には、十三夜の月が浮かんでいる。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



縁。



菊姫と松姫が居る。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「三条様は、お松の想いの他に、奇妙丸様の立場と想いも考えて、十三夜の贈り物の歌を選んだのね。母上は三条様の気持ちを理解して、私とお松に的確な助言をしてくれたのね。奇妙丸様にお松が歌を贈った気持ちが伝わったわね。さすが、三条様。さすが、奇妙丸様。さすが、母上ね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私も一日も早く立派な人物と言われるように努力するわ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「私も一日も早く立派な人物と言われるように努力します。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。

菊姫は十三夜の月を微笑んで見た。

松姫も十三夜の月を微笑んで見た。



「月みれば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど」

月を詠んだ歌は幾首もある。

お松は幾人もの人達に守られながら、日々を過ごしている。

お松は幾人もの人達の想いに感謝しながら、日々を過ごしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は、「小倉百人一首 第二十三番」、及び、「古今集」。

「月みれば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねど」

ひらがなの読み方は「つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど」

作者は「大江千里(おおえのちさと)」

歌の意味は「月を見ていると、とりとめもなく物事を悲しく思われるものですね。私一人だけの秋というわけではないのに。」となるそうです。

作者についてです。

生没年未詳です。

学才の誉れは高かったそうですが、官人としては生涯を通じて不遇だったそうです。

「中古三十六歌仙」の一人です。

武田軍の関連についてです。

元亀元年(1570年)九月は、上野に出陣し、沼田城の上杉輝虎と対峙したそうです。

「十三夜(じゅうさんや)」は「陰暦十三日の夜。または、陰暦九月十三日の夜。」です。

「十五夜(じゅうごや)」は「陰暦十五日の夜。または、陰暦八月十五日の夜。」です。

「十五夜」に対しての「十三夜」の場合は、どちらの意味で取る事も出来ます。

この物語は、「陰暦九月十三日の夜」という意味で使用しています。

陰暦八月十五日に次いで月が美しいとされています。

別名は、「後の月(のちのつき)」、「豆名月(まめめいげつ)」、「栗名月(くりめいげつ)」があります。

「十五夜」は中国から渡来した風習ですが、「十三夜」は日本独自の風習になります。

十三夜の基となる風習は、戦国時代より前からありました。

江戸時代になってから、町民の間などに広まったそうです。

「十三夜」の時期に食べ頃の大豆や栗を供えるそうです。

「十五夜」だけ、「十三夜」だけ、などと片方しか行なわないのは、「片見月(かたみづき)」といって嫌われたそうです。

「十三夜」は、現在の暦にすると毎年十月頃になります。

毎年のように日付が違います。

2009年の十三夜は、2009年10月30日です。

ご確認ください。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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