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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 春待月 冬過ぎて春し来れば 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「冬過ぎて 春し来れば 年月は 新たなれども 人は古りゆく」
「万葉集 第十巻 一八八四番」より
作者:詠み人知らず
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、三十八の月を数える。
暦は十二月。
季節は季冬。
ここは、甲斐の国。
一日中の寒い日が続いている。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
一室。
武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫、が居る。
机に文が置いてある。
武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊の笑顔とお松の笑顔を見ると、私も笑顔になる。これからも周りの者達が笑顔で過ごせるように、笑顔で過ごしなさい。」
菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「はい。」
松姫も武田信玄に微笑んで話し出す。
「はい。」
武田信玄は菊姫と松姫を微笑んで見た。
油川夫人は、武田信玄、菊姫、松姫を微笑んで見た。
武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。奇妙丸殿から文が届いた。今回もお菊と相談して文の返事を書きなさい。」
菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「はい。」
松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。
「はい。」
武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。
油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。
菊姫は武田信玄と油川夫人を微笑んで見た。
松姫も武田信玄と油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人は机から文を取ると、松姫に文を微笑んで差し出した。
松姫は油川夫人から文を笑顔で受け取った。
武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。
松姫は文を持ちながら、部屋を笑顔で出て行った。
菊姫は部屋を微笑んで出て行った。
油川夫人は武田信玄を微笑んで見た。
武田信玄は油川夫人に心配して話し出す。
「体調の悪い日が続いていないか? 隠し事をせずに教えてくれ。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。
「隠し事は出来ませんね。正直に言います。時折ですが目眩になる時、寒さを厳しく感じる時、があります。少し疲れているのかも知れません。」
武田信玄は油川夫人に心配して話し出す。
「医師に診てもらっていないのだろ。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。
「はい。」
武田信玄は油川夫人に心配して話し出す。
「お菊とお松の教育を任せている。お菊とお松が立派に成長するまで、お菊とお松には支えが必要だ。お菊とお松が立派に成長した後も、私とお菊とお松の支えになって欲しい。いつまでも元気に過ごして欲しい。無理をせずに過ごして欲しい。良い正月を迎えて欲しい。早い内に医師に診てもらおう。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。
「お気遣いありがとうございます。医師には年内に診てもらいます。」
武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。
油川夫人は武田信玄を微笑んで見た。
僅かに後の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
松姫の部屋。
松姫は文を持ちながら、部屋の中に微笑んで入ってきた。
菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。
松姫は文を広げると、文を微笑んで読み始めた。
菊姫は松姫と文を微笑んで見た。
お松へ
岐阜は寒い日が続いている。
甲斐の国も寒い日が続いていると思う。
お松は元気に過ごしているのだろか。
気にしながら過ごしている。
私は元気に過ごしている。
安心して過ごして欲しい。
一年の終わりの月になったね。
冬の終わりになったね。
一年の終わりの月と冬の終わりを想像できる歌を調べた。
条件に合う歌を見付けた。
冬過ぎて 春し来れば 年月は 新たなれども 人は古りゆく
贈り物にする歌に相応しいのか質問されたら、答えに悩む。
いろいろと考えてしまった。
私なりの答えを見付けた。
古い、が悪い訳ではない。
努力や成長を続ければ、古いは、立派、尊敬、などの言葉に置き換えられる。
季節も日々も幾重にも積み重なっている。
努力も成長も幾重にも積み重なっている。
お松のためにも、努力も成長も積み重ねたい。
以上が、私なりの答えだ。
お松と今年も文を無事に交わせた。
お松と共に嬉しい一年を過ごせた。
来年も良い年を過ごせるように祈っている。
奇妙丸より
松姫は文を読み終わると、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「“冬過ぎて 春し来れば 年月は 新たなれども 人は古りゆく”。贈る相手を選ぶ必要がある歌ね。奇妙丸様はお松と想いが通じていると信じているから選んだ歌なのね。」
松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様に信じて頂けて嬉しいです。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「私も、お松と奇妙丸様のように、父上と母上のように、信じ合える人と過ごしたいわ。」
松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。
「姉上は私より立派です。姉上も想いが通じ合う方と過ごせます。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は文を持ちながら、菊姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様が、文の返事が遅いと心配すると困ります。文の返事を早く書きます。」
菊姫は松姫に微笑んで頷いた。
松姫は文を持ちながら、菊姫を微笑んで見た。
奇妙丸様へ
甲斐の国も寒い日が続いています。
奇妙丸様が元気に過ごしていると分かり嬉しいです。
私も元気に過ごしています。
安心してお過ごしください。
歌の贈り物をありがとうございます。
私は奇妙丸様に信じて頂けて嬉しいです。
私は更なる努力を続けていきたいと思います。
奇妙丸様にとって良い一年と分かり嬉しいです。
私も良い一年を過ごせました。
来年も良い一年になるように祈っています。
松より
数日後の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。
一室。
武田信玄と油川夫人が居る。
武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。
「奇妙丸殿からお松に贈った歌に繋げて、学ぶ努力を続けるように話したら、お菊とお松は、勉強すると話して直ぐに居なくなってしまった。私の話した内容のために、お菊とお松と過ごす時間を少なくしてしまった。帰る時に話せば良かったと後悔している。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで軽く礼をした。
武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。
「二人で過ごす時間が増えたから、由とするか。」
油川夫人は武田信玄に微笑んで話し出す。
「はい。」
武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人も武田信玄を微笑んで見た。
「冬過ぎて 春し来れば 年月は 新たなれども 人は古りゆく」
一年の終わりの月を迎えようとしている。
奇妙丸、菊姫、松姫は、日々の努力を続けている。
武田信玄、油川夫人、菊姫、松姫にとって、大切な一年を迎えようとしている。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第十巻 一八八四番」
「冬過ぎて 春し来れば 年月は 新たなれども 人は古りゆく」
ひらがなの読み方は「ふゆすぎて はるしくれば としつきは あらたなれども ひとはふりゆく」
作者は「詠み人知らず」
原文は「寒過 暖来者 年月者 雖新有 人者舊去」
歌の意味は「冬が過ぎて、春が来れば、年月(としつき)は新しくなるけれど、人は古くなってゆきます。」となるそうです。
武田家についての補足です。
油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。
武田軍の関連についてです。
元亀元年(1570年)十二月は、大きな動きはないようです。
「季冬(きとう)」は「冬の終わり。晩冬。陰暦十二月の異称」です。
「“春待月”、または、“春待ち月”(はるまちづき)」は「陰暦十二月の異称」です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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