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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 睦月 千年寿くとぞ 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「あしひきの 山の木末の ほよ取りて かざしつらくは 千年寿くとぞ」

「万葉集 第十八巻 四一三六番」より

作者:大伴家持(おおとものやかもち)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、三十九の月を数える。

暦は一月。



季節は初春。



ここは、甲斐の国。



寒い日が続いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は微笑んで居る。

菊姫は心配な様子で居る。

松姫も心配な様子で居る。



松姫は油川夫人に心配して話し出す。

「医師が母上は静養の必要があると見立てたと聞きました。」

菊姫は油川夫人に心配して話し出す。

「母上。早く静養してください。」

油川夫人は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「武田家は戦が続いているわ。お正月は祝い事や挨拶があるわ。お正月の直前もお正月の間も落ち着いて静養できないわ。お正月の全ての行事が終わったら、ゆっくりと静養するわ。」

菊姫は油川夫人に申し訳なく話し出す。

「私が至らないので、母上の名代を務められません。申し訳ありません。」

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊はしっかりとしているわ。普段は自慢できないけれど、全ての人達に自慢できるわ。」

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。素敵な笑顔よ。お正月は笑顔で過ごしなさい。」

松姫は油川夫人を心配して見ている。

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松も笑顔でお正月を過ごしなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松も素敵な笑顔よ。お正月は笑顔で過ごしなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫に微笑んで話し出す。

「お松が一番に考える人は、奇妙丸様。お松は、父上、武田家、家臣、甲斐の国に住む者達など、母より先に考える人達がいるの。何が起きても忘れずに過ごしなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は松姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

新しい年です。

元気にお過ごしでしょうか。

私は元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

今年もたくさんの出来事を学びます。

一日も早く奇妙丸様に相応しい正室と呼ばれるようになりたいです。

奇妙丸様の傍で幾月幾年も過ごしたいです。

寒い日が続きます。

体調に気を付けてお過ごしください。

奇妙丸様にとって今年も良い一年になるように祈っています。

松より



幾日か後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。

松姫は文を持ちながら、部屋の中に笑顔で入ってきた。



松姫は文を笑顔で読み始めた。

菊姫は文を読みながら、松姫を微笑んで見た。



お松へ

新しい年だね。

私は元気に過ごしている。

安心してくれ。

お松も元気に過ごしていると分かり安心した。

私もたくさんの出来事を学ぶ。

新年の贈り物に合う歌を調べた。

贈り物に良いと思う歌を見付けた。

あしひきの 山の木末の ほよ取りて かざしつらくは 千年寿くとぞ

受け取ってくれると嬉しい。

新しい一年を、幾月幾年を、共に元気に過ごそう。

お松にとって今年も良い一年になるように祈っている。

奇妙丸より



僅かに後の事。



ここは、油川夫人の部屋。



油川夫人は文を微笑んで見ている。



母上へ

新しい年を迎えました。

新年の挨拶が遅くなり申し訳なく思っています。

突然に母上と呼ぶ失礼を許してください。

私は母を既に亡くしています。

お松の文を読むと、お松が母上の傍で穏やかに暮らす様子が伝わります。

安心、楽しさ、嬉しさ、羨ましさ、などの様々な気持ちで文を読みます。

お松の文を読むと、更に精進したいと思います。

母上に新年の挨拶と共に歌を贈りたいと思いました。

諸事情からお松と同じ歌を贈ります。

失礼をお許しください。

あしひきの 山の木末の ほよ取りて かざしつらくは 千年寿くとぞ

更に失礼と知りながらも、我がままな頼みがあります。

今回の文に憤る内容が無ければ、お返事は要りません。

今回の文に憤る内容が有れば、お返事をお願いします。

母上。

お松のために、私のために、末永く元気でお過ごしください。

母上にとって今年も良い一年になるように、岐阜から祈っています。

奇妙丸より



油川夫人は文を閉じると、微笑んで呟いた。

「信玄公のため、お松のため、お菊のため、五郎のため、十郎のため、奇妙丸様のため、しっかりと静養して早く元気にならないといけないわね。」



「あしひきの 山の木末の ほよ取りて かざしつらくは 千年寿くとぞ」

大切な人が幾月幾年も末永く過ごして欲しいと想う。

大切な人のために幾月幾年も末永く過ごしたいと想う。

お菊、お松、油川夫人、奇妙丸。

様々な想いを抱えながら、大切な人を想い、大切な人に想われ、新しい年を過ごしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十八巻 四一三九番」

「あしひきの 山の木末の ほよ取りて かざしつらくは 千年寿くとぞ」

ひらがなの読み方は「あしひきの やまのこぬれの ほよとりて かざしつらくは ちとせほくとぞ」

作者は「大伴家持(おおとものやかもち)」

歌の意味は「山の梢に生えているほよを取って、髪飾りにしたのは、千年も続く長寿を祈ってのことです。」となるそうです。

原文は「安之比奇能 夜麻能許奴礼能 保与等理天 可射之都良久波 知等世保久等曽」

天平勝宝(てんぴょうほうしょう)二年(750年)正月二日に行われた宴の席で詠んだ歌だそうです。

「寄生(ほよ)」についてです。

ヤドリギ科の常緑低木の「やどりぎ」です。

「ほよ」は、「やどりぎ」の古名や別名です。

「やどりぎ」は、「宿木」、「宿り木」、「寄生木」、などと書きます。

榎(えのき)、栗、桜、欅(けやき)、水楢(みずなら)、小楢(こなら)、撫(ぶな)、などに寄生します。

冬の間にも鮮やかな緑色のため、万葉の人々は強い生命力を感じたようです。

万葉集には、一首だけ登場します。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀二年(1571年)一月は、興国寺城、深沢城、を包囲します。

興国寺城は、北条早雲が初めて城主となった城、北条早雲の旗揚げの城、として知られています。

武田軍は、以前に馬場信春と高坂昌信らに興国寺城を攻めるように命じましたが、城を落とせませんでした。

武田軍は、元亀二年(1571年)の一月の早い頃に興国寺城を再び攻めますが、興国寺城は落とせませんでした。

後の出来事になりますが、元亀二年(1571年)中に北条氏康が亡くなり、同盟が復活して、武田側の城になり、穴山梅雪の持城となります。

更に後の出来事になりますが、武田勝頼が亡くなった後は、徳川側の城になります。

更に後の後の出来事になりますが、徳川家康の関東移封後は、豊臣秀吉側の武将が城主になります。

深沢城は、今川氏が築城したと伝わっています。

後に北条氏が占拠します。

元亀元年(1570年)に武田信玄が深沢城を包囲します。

北条綱成が守備を任されます。

元亀二年(1571年)一月三日に、深沢城に矢文を送り開場を迫ります。

この矢文が影響したと思われますか、北条綱成は玉縄城に退きます。

武田家が深沢城を支配します。

北条家は奪還を試みますが、奪還出来ず、武田家の重臣が城主となります。

後の出来事になりますが、武田勝頼が亡くなった後に、当時の城主は城を焼いて退却します。

更に後の出来事になりますが、徳川家康が織田信雄に加勢して豊臣秀吉と戦う時に、北条側の抑えとして味方に城を任せます。

この戦いで城を任せた時を最後に、廃城になります。

織田家の関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

「睦月(むつき)」は「陰暦正月の異称」です。

「睦」は、他の字と一緒に使われます。

「睦」は「親しい」という意味です。

「睦まじい」もこの字を使います。

「初春」は、「はつはる」と「しょしゅん」の読み方があります。

「初春(はつはる)」は「春の初め。新春。新年。」です。

新年の季語です。

今回の物語は「はつはる」と読んでいます。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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