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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 雪消え月 春菜摘まむと 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「明日よりは 春菜摘まむと 標めし野に 昨日も今日も 雪は降りつつ」

「万葉集 第八巻 一四二七番」より

作者:山部赤人(やまべのあかひと)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十の月を数える。

暦は二月。



季節は仲春。



ここは、甲斐の国。



一日中の寒い日が続く中に、僅かに温かさを感じる時間が現れた。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の上に微笑んで体を起こしている。

菊姫は微笑んで居る。

松姫は微笑んで居る。

机の上には、文が乗っている。



菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上の笑顔を見ると、楽しくなって笑顔になります。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私も姉上と同じです。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊の笑顔とお松の笑顔を見ると、私も笑顔になるわ。お菊の笑顔とお松の笑顔をたくさん見るために、早く元気になるわね。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私も母上が心配しないように笑顔で過ごします。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私は、奇妙丸様のために、母上のために、笑顔で過ごします。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。ありがとう。お松の、奇妙丸様を常に想う気持ち、母も常に想う気持ち、が伝わるわ。嬉しいわ。」

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫も油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様からお松宛の文が届いているの。今回もお菊と相談して文の返事を書きなさい。」

松姫は油川夫人と菊姫を考え込んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「母上とたくさん話したいけれど、母上が疲れると困るし、奇妙丸様は文の返事を待っているわ。文の返事を書きましょう。」

松姫は油川夫人と菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。母上の部屋で文を読んでも良いですか?」

油川夫人は床の上に体を起こして、松姫に微笑んで頷いた。

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様からお松に宛てた文は、机の上に置いてあるわ。」

松姫は机から文を微笑んで取った。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を丁寧に広げると、文を微笑んで読み始めた。

菊姫は松姫を見ながら、文を微笑んで読み始めた。

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫を微笑んで見た。



お松へ

春になってから、幾日も過ぎたね。

岐阜では、寒さは続くが、温かさを僅かに感じる時が現れている。

甲斐の国も同じだろうか。

私は元気に過ごしている。

お松。

安心して過ごしてくれ。

先日の出来事になるが、春菜を摘もうとした。

私とお松は、離れて過ごしている。

私がお松のために春菜を摘んでも、お松に春菜を直接は届けられない。

私がお松へ春菜を届けようとすると、幾人もの人に無理をさせてしまう。

私はお松へ春菜の贈り物の代わりに春菜が登場する歌を贈りたいと思った。

春菜が登場する歌を贈るならば、早く調べた方が良いと思い、急いで調べた。

急いで調べながらも、お松を想いながら選んだ。

歌の贈り物を受け取ってもらえると嬉しい。

明日よりは 春菜摘まむと、標めし野に、昨日も今日も 雪は降りつつ

私はお松と元気に逢うために、春菜を摘んだ。

私は母上を既に亡くしている。

お松の母上は、私にとっても大切な母上だ。

私の代わりに、私の想いも含んで、母上を大切にしてくれ。

雪が消える温かさを感じる時間があるが、雪が降る寒さを感じる時間の方が多い。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

奇妙丸より



奇妙丸様へ

甲斐の国も、寒さは続きますが、温かさを僅かに感じる時が現れています。

私も元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

歌の贈り物をありがとうございます。

奇妙丸様の文を読んで、母上を更に大切に想います。

姉と私で春菜を摘んで、母上に春菜入りの食事を食べてもらいます。

奇妙丸様の想いを重ねて、私と姉で精一杯に春菜入りの食事を作ります。

いつもお気遣いありがとうございます。

寒さと温かさが入り混じる日々が増える時季になろうとしています。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の中に静かに横になっている。



菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。

松姫も部屋の中に微笑んで入ってきた。



油川夫人は床の上に体を起こすと、菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「姉上と春菜を摘みました。姉上と春菜を入れたお粥を作りました。体調が悪くなければ、食事の時にお粥を食べてください。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。ありがとう。お菊とお松の作った春菜入りのお粥を食べられるのね。食事まで待てないわ。早く食べても良いかしら?」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫を微笑んで見た。



幾日か後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の上に微笑んで体を起こしている。

武田信玄は微笑んで居る。



武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「元気な姿が見られて安心した。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お菊とお松が、たくさん気遣ってくれます。お松には奇妙丸様を一番に考えるように話しています。お松は私を気遣いながらも、奇妙丸様を一番に考える時間が増えています。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お菊やお松が頻繁に訪れて疲れる時、お菊やお松に勉強を教えて疲れる時は、無理せずに言いなさい。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お菊の笑顔とお松の笑顔を見る時は、疲れを感じません。大丈夫です。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私が訪ねて疲れる時も、無理せずに言いなさい。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お館様の笑顔を見る時も、疲れを感じません。大丈夫です。」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「体調が悪いと不便に感じる時が増えるだろ。頼み事がある時は、私やお菊やお松に、遠慮せずに言いなさい。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「たくさんの方々に気遣って頂けるので、頼み事はありません。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「困らずに過ごしていると分かり安心したが、頼み事がないと分かると寂しい。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「突然ですが、確認したい内容があります。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「遠慮せずに言いなさい。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に心配して話し出す。

「新年以降に届く奇妙丸様からお松に宛てた文に、私を大切にするように、私に永く元気に過ごして欲しい、などの内容が書いてあるそうです。奇妙丸様は、私の体調について何か知っているのでしょうか?」

武田信玄は油川夫人に不思議な様子で話し出す。

「織田家に体調について伝える命令していない。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に心配して話し出す。

「奇妙丸様に何か遭ったのでしょうか?」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿とお松が婚約を交わしてから、三度目の新年を迎えている。お松が奇妙丸殿の元に嫁ぐ日が近付く状況になる。奇妙丸殿は母親を既に亡くしている。お松が母と離れて過ごしながら、母を心配して過ごさないように気遣っていると思う。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「無理はしないでくれ。早く良くなってくれ。永く元気で過ごしてくれ。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄を微笑んで見た。



「明日よりは 春菜摘まむと 標めし野に 昨日も今日も 雪は降りつつ」

雪が降るように感じる寒い日。

雪が消えるような温かさを感じる日。

今は、寒さを感じる時と温かさを感じる時が雑じる。

少しずつ、春の気配が増えていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第八巻 一四二七番」

「明日よりは 春菜摘まむと 標めし野に 昨日も今日も 雪は降りつつ」

ひらがなの読み方は「あすよりは はるな(または、“わかな”)つまむと しめしのに きのうもけふも ゆきはふりつつ」

作者は「山部赤人(やまべのあかひと)」

歌の意味は「明日からは春菜を摘もうと、野に標(しめ)を張っておいたのに、昨日も今日も雪が降っています。」となるそうです。

原文は「従明日者 春菜将採跡 標之野尓 昨日毛今日母 雪波布利管」

「標(しめ)」は、大きく二つの意味があります。

「場所の領域を示し、立ち入りを禁止するためのしるし。縄を張ったり木をたてたりする。」

「山道などの道しるべとするためのしるし。草の葉や木の枝を引き結んだりする。」

この歌は「場所の領域を示し、立ち入りを禁止するためのしるし。縄を張ったり木をたてたりする。」の意味で使用していると思われます。

「春菜(はるな)」、もしくは、「若菜(ほかな)」は、「春になって芽を出す類」をいいます。

昔の人は、春に「若菜摘み」をし、不老不死を願って食べたようです。

万葉集には、七首に登場します。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀二年(1571年)二月は、大きな動きがありませんが、元亀二年(1571年)一月の戦が関係すると思われます。

元亀二年(1571年)一月の武田軍の関連を書きます。

元亀二年(1571年)一月は、興国寺城、深沢城、を包囲します。

興国寺城は、北条早雲が初めて城主となった城、北条早雲の旗揚げの城、として知られています。

武田軍は、以前に馬場信春と高坂昌信らに興国寺城を攻めるように命じましたが、城を落とせませんでした。

武田軍は、元亀二年(1571年)の一月の早い頃に興国寺城を再び攻めますが、興国寺城は落とせませんでした。

後の出来事になりますが、元亀二年(1571年)中に北条氏康が亡くなり、同盟が復活して、武田側の城になり、穴山梅雪の持城となります。

更に後の出来事になりますが、武田勝頼が亡くなった後は、徳川側の城になります。

更に後の後の出来事になりますが、徳川家康の関東移封後は、豊臣秀吉側の武将が城主になります。

深沢城は、今川氏が築城したと伝わっています。

後に北条氏が占拠します。

そして、元亀元年(1570年)に武田信玄が深沢城を包囲します。

北条綱成が守備を任されます。

元亀二年(1571年)一月三日に、深沢城に矢文を送り開場を迫ります。

この矢文が影響したと思われますか、北条綱成は玉縄城に退きます。

武田家が深沢城を支配します。

北条家は奪還を試みますが、奪還出来ず、武田家の重臣が城主となります。

後の出来事になりますが、武田勝頼が亡くなった後に、当時の城主は城を焼いて退却します。

更に後の出来事になりますが、徳川家康が織田信雄に加勢して豊臣秀吉と戦う時に、北条側の抑えとして味方に城を任せます。

この戦いで城を任せた時を最後に、廃城になります。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

「仲春(ちゅうしゅん)」は、「陰暦二月の異称。」です。

春の三ヶ月の真ん中の意味から付いた異称です。

春の季語です。

「雪消え月(ゆきぎえづき)」は「陰暦二月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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