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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 弥生 菫 懐かしみ 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「春の野に すみれ摘みにと 来しわれそ 野を懐かしみ 一夜寝にける」

「万葉集 第八巻 一四二四番」より

作者:山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十一の月を数える。

暦は三月。



季節は晩春。



ここは、甲斐の国。



温かさを感じる時間が増えている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の中で静かに横になっている。



菊姫が部屋の中に微笑んで入ってきた。

松姫が文を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。



油川夫人は床の上に体を起こすと、菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ち、油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様から頂いた文に、歌の贈り物が書いてありました。姉上と私で文の内容と歌について話しました。姉上と私が話した結論は、私と母上に贈った歌になりました。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上に私とお松の考えが正しいか確認するために来ました。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「歌だけで確認が出来ない時は、文を読む必要があるわ。奇妙丸様がお松に宛てた大切な文よ。母親が文を読んでも大丈夫なの?」

松姫は文を持ち、油川夫人に微笑んで話し出す。

「姉上も私も、母上が文を読んで大丈夫だと判断しました。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上が文を読んで、私とお松の考えが違うと分かった時は、遠慮なく教えてください。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松を信じて文を読むわ。お菊とお松の考えが違う時は、遠慮なく言うわ。」

松姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

松姫は油川夫人に文を微笑んで差し出した。

油川夫人は床の上に体を起こして、松姫から文を微笑んで受け取った。

菊姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、文を微笑んで読んだ。

松姫は油川夫人を微笑んで見た。

菊姫も油川夫人を微笑んで見た。



お松へ

春の月が終わりに近付いているね。

岐阜は、暖かさを感じる時間が増えて、たくさんの花が咲いている。

お松がたくさんの花と共に笑顔で過ごす日々を幾度も想像する。

お松に花を贈りたくなった。

お松に花の贈り物が出来るかも知れないと思い出掛けた。

たくさんの菫の花が咲く場所を見付けた。

辺りが菫色に染まって綺麗だった。

たくさんの菫の花が咲く様子を見る間に、お松に一輪や一枝を贈り物にするより、お松と共に自然の中で咲く姿で見たいと思った。

たくさんの菫の花が咲く様子を見ていたら、長い時間が過ぎていた。

お松。

菫の花を贈る替わりに、菫の花が登場する歌を贈る。

受け取ってくれると嬉しい。

春の野に すみれ摘みにと 来しわれそ 野を懐かしみ 一夜寝にける

お松もたくさんの菫の花を見て過ごしていると思いながら過ごす。

たくさんの菫の花が咲く場所に再び出掛けた時は、お松と共に見る姿を想像しながら、たくさんの菫の花が咲く様子を見る。

お松は母上と共にたくさんの菫の花を笑顔で見て過ごしてくれ。

私の分も、母上と共に過ごせる日々を大切に想い過ごしてくれ。

奇妙丸より



油川夫人は床の上に体を起こして、文を持ち、菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「“春の野に すみれ摘みにと 来しわれそ 野を懐かしみ 一夜寝にける”。歌の意味は“春の野にすみれを摘もうと思ってやってきたのに、懐かしくて一晩寝てしまいました。”、で良いのでしょうか?」

油川夫人は床の上に体を起こして、文を持ち、菊姫と松姫に微笑んで頷いた。

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫も油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、文を持ち、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は、お松への贈り物に出来る花を探す途中で、菫の花がたくさんの咲く場所を見付けたのね。たくさんの菫の花が咲く様子が綺麗だったから、菫の花の贈り物ではなく、菫の花が登場する歌の贈り物に代えたのね。奇妙丸様のお松への想い、お松の母を想う気持ち、奇妙丸様の母を想う気持ち、たくさんの想いも重ねて歌を選んだのね。奇妙丸様の優しさと気遣いが伝わるわ。奇妙丸様は素敵な歌を選んだわね。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は母上を既に亡くされていると聞きました。私は奇妙丸様の分も母上を大切にします。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人と松姫を微笑んで見た。

松姫も油川夫人と菊姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

甲斐の国はたくさんの花が咲いています。

暫くの間はたくさんの花が咲く日々が続きます。

楽しみです。

奇妙丸様の傍で、たくさんの菫の花が咲く様子が見たいです。

奇妙丸様の傍で暮らす日が訪れた時に、奇妙丸様が見付けられたたくさんの菫が咲く場所を教えてください。

奇妙丸様と共にたくさんの菫の花が咲く姿を見たいです。

奇妙丸様。

素敵な歌の贈り物を受け取りました。

ありがとうございます。

母上が素敵な歌の贈り物だと笑顔で話していました。

母上の喜ぶ姿が見られました。

私も笑顔になりました。

母上も私も、奇妙丸様に感謝しています。

ありがとうございます。

奇妙丸様と共に暮らす日が訪れるまで、母上の傍で、母上を大切に想い過ごします。

母上と離れて暮らす日が訪れても、母上を大切に想い過ごします。

奇妙丸様。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



幾日か後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の上に体を起こして、微笑んで居る。

武田信玄は微笑んで居る。



油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様がお松と私に贈った歌です。“春の野に すみれ摘みにと 来しわれそ 野を懐かしみ 一夜寝にける”。歌の意味は、“春の野にすみれを摘もうと思ってやってきたのに、懐かしくて一晩寝てしまいました。”、となります。奇妙丸様は私に歌を贈る理由がないので、お松への想いに重ねて歌を贈ったと思います。お松は奇妙丸様に宛てた文に、私の分のお礼も加えて書いたそうです。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「“春の野”、“すみれ”、“来しわれそ”、“野を懐かしみ”。奇妙丸殿は、二人を重ねて歌を選んで贈ったのだな。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お菊とお松が、父と話す時間を楽しみに待っています。お菊とお松を呼んでも良いですか?」

武田信玄に微笑んで話し出す。

「私もお菊とお松と話す時間を楽しみにしている。四人で楽しく話そう。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「四人でたくさんの菫の花が咲く様子を見たい。早く元気になってくれ。」

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄に微笑んで軽く礼をした。

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、武田信玄を微笑んで見た。



「春の野に すみれ摘みにと 来しわれそ 野を懐かしみ 一夜寝にける」

たくさんの菫の花が辺りを菫色に染めている。

松姫は、奇妙丸と母を想いながら、菫色に彩られる地で、たくさんの想いと共に、春の季節を過ごしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

今回の物語に登場する歌は「万葉集 第八巻 一四二四番」

「春の野に すみれ摘みにと 来しわれそ 野を懐かしみ 一夜寝にける」

ひらがなの読み方は「はるののに すみれつみにと きしわれそ のをなつかしみ ひとよねにける」

作者は「山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)」

歌の意味は「春の野にすみれを摘もうと思ってやってきたのに、懐かしくて一晩寝てしまいました。」となるそうです。

原文は「春野尓 須美礼採尓等 来師吾曽 野乎奈都可之美 一夜宿二来」

「菫(すみれ)」についてです。

スミレ科スミレ属の多年草、または、スミレ科スミレ属の植物の総称、をいいます。

「菫」の名前の由来は、花の形が墨入れ(“墨壷[すみつぼ]”とも言う)に似ているところから付いた名前だそうです。

春の季語です。

日本には万葉集にも登場するほど古くからある花です。

現在の暦で3月から5月頃に掛けて咲きます。

別名は「相撲取草(すもうとりぐさ)」です。

スミレ科スミレ属の植物の総称として見ると、世界にはたくさんの種類があります。

黄色い菫は実在します。

日本原産種の黄色い菫もあります。

着物関係で「菫」というと、襲の色目の一つの名前にあります。

菫の襲は、「表は、紫色。裏は、薄紫色。」になるそうです。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀二年(1571年)三月は、高天神城を包囲します。

物語の設定当時前から物語の設定頃に、高天神城の搦手門を徳川の武将の渡辺金太郎が護っていたそうです。

渡辺金太郎は武田軍の攻撃から高天神城を護っていたそうです。

物語の設定時間以降の出来事になります。

武田信玄の死後の、天正二年(1574年)に、武田勝頼が高天神城を攻撃します。

天正三年(1575年)十二月に、高天神城は遂に落城します。

渡辺金太郎は武田軍に投降する事を決めました。

更に後の、天正十年(1582年)に、仁科五郎盛信と共に高遠城に籠城し討ち死にします。

高天神城は、仁科五郎盛信と渡辺金太郎が討ち死にする前の、天正九年(1581年)三月に落城しています。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

「晩春(ばんしゅん)」は「春の終わり。春の末。陰暦三月の異称。」です。

「春の終わり。春の末。」の意味の時は、春の季語です。

「弥生(やよい)」は「陰暦三月の異称」です。

春の季語です。

「弥生(いやおい)」は「草木がますます生い茂ること。陰暦三月の異称。」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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