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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 晩夏 なでしこがその花にもが 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「なでしこが その花にもが 朝な朝な 手に取り持ちて 恋ひぬ日なけむ」

「万葉集 第三巻 四〇八番」より

作者:大伴家持(おおとものやかもち)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十四の月を数える。

暦は六月。



季節は晩夏。



ここは、甲斐の国。



暑い日が増えている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床に辛い様子で横になっている。



部屋の外から、松姫の足音と菊姫の足音が聞こえた。



油川夫人は床の上に微笑んでゆっくりと体を起こした。



松姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。

菊姫も部屋の中に微笑んで入ってきた。



油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人に心配して話し出す。

「母上。横になって休んでください。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松が訪ねてくると分かったら、突然に元気になったの。お菊とお松のために早く治りたいから、横になって休む時間は増やしているわ。安心しなさい。」

松姫は油川夫人に心配して話し出す。

「母上。暑い日が増えています。辛いですよね。」

油川夫人は床の上に体を起こし、松姫に微笑んで話し出す。

「暑さが辛く感じるのは、お菊もお松も同じよね。」

菊姫は油川夫人に心配して話し出す。

「私は大丈夫です。母上。無理をしないでください。」

松姫は油川夫人に心配して話し出す。

「私も大丈夫です。母上。無理をしないでください。辛い時は横になって休んでください。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。暑さのために倒れる人がいるのよ。暑さが辛く感じた時は、無理をせずに休みなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



菊姫の部屋。



菊姫は考え込んで居る。

松姫も考え込んで居る。



松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「母上は部屋の中で過ごす時間が増えています。母上の部屋に季節の花を飾りたいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。良い考えだと思うわ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「手に入り難い花を用意すると、母上は私とお松が周りの者達に迷惑を掛けたと思って心配します。手に入り易い花をたくさん用意する方が、母上は季節を感じながら花を愛でて過ごせると思います。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「今は撫子が咲いているわ。撫子は可愛くて気持ちが和む花が咲くわ。撫子は手に入り易い花だと思うの。撫子の花をたくさん用意して、母上の部屋に飾ってもらいましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「少し経ったら出掛けましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



机の上に、文が置いてある。



油川夫人は床に辛い様子で横になっている。



部屋の外から、松姫の足音と菊姫の足音が聞こえた。



油川夫人は床の上に、微笑んでゆっくりと体を起こした。



菊姫は撫子の花を挿した器を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。

松姫も撫子の花を挿した器を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。



油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は撫子の花を挿した器を油川夫人の前に微笑んで置いた。

松姫も撫子の花を挿した器を油川夫人の前に微笑んで置いた。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私とお松で、撫子の花を見たいと話しました。母上にも撫子の花を見て頂きたいと話しました。私とお松で撫子の花を摘みました。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「可愛い撫子の花をたくさん用意したのね。ありがとう。一人だけで楽しむのは、お菊とお松に悪いわ。一つの器だけ受け取るわ。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私とお松は、母上の笑顔が見たくて撫子の花を摘みました。私とお松は、母上の笑顔がたくさん見たいです。撫子の花は一人で楽しんでください。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「撫子は、母だけが愛でるのではなく、お菊とお松にも愛でて欲しい、と思っているように感じるの。お菊とお松が、母のために可愛い撫子の花をたくさん用意した気持ちは、しっかりと受け取るわ。一つの器の撫子は受け取って、しっかりと愛でるわ。一つの器の撫子は、お菊とお松でしっかりと愛でてあげて。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様からお松に宛てた文が届いたの。お松。今回もお菊と相談して文の返事を書きなさい。お菊。今回もお松の文の返事を書く相談にのってあげなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人と松姫を微笑んで見た。

松姫も油川夫人と菊姫を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は文を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。

菊姫は撫子の花を挿した器を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は文を微笑んで丁寧に広げた。

菊姫は撫子の花を挿した器を微笑んで傍に置いた。

松姫は文を持ち、文を微笑んで読み始めた。

菊姫は松姫を一瞥しながら、文を微笑んで読み始めた。



お松へ

甲斐の国は暑い日が続く頃だろうか。

お松は元気に過ごしているだろうか。

私は元気に過ごしている。

安心して過ごして欲しい。

撫子の花を出掛ける最中に見た。

撫子の花を見て、お松と共に過ごす日を想像した。

部屋に撫子の花を飾りたいと思った。

今は部屋に撫子の花を飾っている。

お松に撫子の花を詠んだ歌を贈りたいと思った。

今回は撫子の花を詠んだ歌を贈る。

歌を受け取ってくれると嬉しい。

なでしこが その花にもが 朝な朝な 手に取り持ちて 恋ひぬ日なけむ

作者だけでなく、たくさんの人達が撫子の花を見ながら想う気持ちだと感じる。

お松と共に撫子の花を愛でる日を楽しみにしている。

奇妙丸より



奇妙丸様へ

甲斐の国は暑さを感じる時間が増えています。

撫子の花もたくさん咲いています。

奇妙丸様が元気に過ごされていると分かり安心しました。

奇妙丸様。

素敵な歌の贈り物ありがとうございます。

撫子の花を見て、私を想像されたのですね。

恥ずかしい気持ちになりました。

撫子の花に申し訳ない気持ちになりました。

奇妙丸様が私に逢って落胆しないために、撫子の花が私に喩えられて残念に思わないために、可愛く素敵な女性になりたいです。

姉上と私は、母上に撫子の花を愛でて欲しいと考えて、撫子の花を摘みました。

母上が、姉上と私にも撫子の花を愛でて欲しいと話しました。

撫子の花は、母上の部屋、姉上の部屋、私の部屋と、分けて愛でると決めました。

暑い日が続きます。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の上に微笑んで体を起こしている。

菊姫は微笑んで居る。

松姫も微笑んで居る。



油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「“なでしこが その花にもが 朝な朝な 手に取り持ちて 恋ひぬ日なけむ”。奇妙丸様がお松を想う気持ちが伝わるわ。奇妙丸様は今回も素敵な歌を贈り物に選ばれたわね。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様はお松にたくさんの歌を贈っているわ。来月は七夕の行われる月ね。七夕を詠んだ歌は、幾首もあるわ。お松から奇妙丸様に七夕を詠んだ歌を贈りなさい。七夕に間に合うように歌の贈り物を用意するのは大変だと思うから、母とお菊とお松と相談して決めましょう。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



武田信玄は微笑んで居る。

油川夫人は床に微笑んで横になっている。



武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿からお松へ贈る歌が続くから、お松から奇妙丸殿に七夕の歌を贈るのか。」

油川夫人は床に横になり、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿の性格だと、お松に贈る七夕の歌を決めているように感じる。」

油川夫人は床に横になり、武田信玄に微笑んで話し出す。

「七夕を詠んだ歌ならば、届いた文の内容に関係ない歌を選んでも、違和感を抱き難いです。お松は歌を焦らず選べると思います。お菊とお松が悩んだ時のために、奇妙丸様に贈る歌の候補を数種ほど用意したいと考えています。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「さすがだな。」

油川夫人は床に横になり、武田信玄に微笑んで話し出す。

「褒めて頂いてありがとうございます。」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床に横になり、武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「七夕を詠んだ歌を贈るための相談相手に、私が含まれていなかった。私も相談相手に含めて欲しいと思ったが、今回は遠慮する。」

油川夫人は床に横になり、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床に横になり、武田信玄を微笑んで見た。



「なでしこが その花にもが 朝な朝な 手に取り持ちて 恋ひぬ日なけむ」

撫子の花は、可愛い花。

奇妙丸は松姫の姿を知らないが、撫子の花と松姫を重ねた。

菊姫と松姫は、油川夫人のために撫子の花を摘んだ。

撫子の花はたくさんの想いを繋いでいる。

夏の終わりは近付いているが、暑さは暫く続く。

様々な想いと共に、夏がゆっくりと過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第三巻 四〇八番」

「なでしこが その花にもが 朝な朝な 手に取り持ちて 恋ひぬ日なけむ」

ひらかなの読み方は「なでしこが そのはなにもが あさなあさな てにとりもちて こひぬひなけむ」

作者は「大伴家持(おおとものやかもち)」

歌の意味は「あなたが撫子の花だったらなあ。そうしたら毎朝、手に取って愛でるのに。」となるそうです。

原文は「石竹之 其花尓毛我 朝旦 手取持而 不戀日将無」

大伴家持が「坂上大譲(さかのうえのおおいつらめ)」に贈った歌です。

「撫子(なでしこ)」についてです。

ナデシコ科の多年草です。

現在の暦で6月〜8月頃に花が咲きます。

夏の季語です。

秋の七草の一つです。

撫子を読んだ歌は、万葉集には二十六首登場するそうです。

撫子の古名に「常夏(とこなつ)」があります。

夏から秋にかけて咲くところから付いた名前だそうです。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀二年(1571年)六月は、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

元亀四年七月二十八日に天正元年に改元するため、1573年は「元亀四年」と「天正元年」の二つの年号があります。

詳細な月が分からない場合は、「元亀四年」と「天正元年」が混在する可能性があります。

ご了承ください。

「晩夏(ばんか)」は、「夏の終わり。夏の末。」(夏の季語)、または、「新暦六月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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