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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 愛逢月 彦星の楫の音聞こゆ 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「天の川 霧立ちわたり 彦星の 楫の音聞こゆ 夜の更けゆけば」

「万葉集 第十巻 二〇四四番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十五の月が近付いている。

暦は七月が近付いている。



季節は初秋が近付いている。



ここは、甲斐の国。



暑い日が続いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床に辛い様子で横になっている。

油川夫人の傍には、幾冊もの歌集が置いてある。



武田信玄は部屋の中に微笑んで入ってきた。



油川夫人は床の上にゆっくりと体を起こすと、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お迎えが出来なくてすいません。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私もお菊もお松も、早く治って欲しいと思っている。無理をするな。」

油川夫人は床の上に体を起こし、武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「歌集がたくさん置いてあるな。」

油川夫人は床の上に体を起こし、武田信玄に微笑んで話し出す。

「七夕が近付いています。お松が奇妙丸様に七夕を詠んだ歌を贈りたいと話しました。お菊が今回はお松から奇妙丸様に贈る七夕の歌を選びたいと話しました。私もお菊の願いとお松の願いを受けて、お松を贈り主に想定して七夕の歌を探す考えです。七夕を詠んだ歌は幾首もあります。お松が歌の贈り主なので、彦星側から詠んだ歌は除きたいと考えています。悩みながら歌を選んでしまいます。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「贈り主は、お松。贈る相手は、奇妙丸殿。既に贈り合った歌は選べない。確かに難しい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私も手伝って良いかな?」

油川夫人は床の上に体を起こし、武田信玄に微笑んで話し出す。

「来年の七夕は、お松が奇妙丸様の傍で過ごしているかも知れません。来年の七夕は、お菊が甲斐から離れた土地に嫁いでいるかも知れません。来年の七夕は、私がお菊とお松に歌に関する説明が出来ないかも知れません。今年の七夕は、私が歌を選んで説明させてください。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「分かった。」

油川夫人は床の上に体を起こし、武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私のために、五郎のために、十郎のために、お菊のために、お松のために、無理はするな。」

油川夫人は床の上に体を起こし、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。



翌日の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の上に体を起こし、微笑んで居る。

油川夫人の傍に、紙が置いてある。

菊姫は微笑んで居る。

松姫は微笑んで居る。



油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「贈り主は、お松。贈る相手は、奇妙丸様。以前に贈り合った歌を除く。以上の条件で歌を選んだの。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「楽しみです。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私も楽しみです。」

油川夫人は床の上に体を起こし、紙を取ると、松姫に微笑んで渡した。

松姫は油川夫人から紙を微笑んで受け取った。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は紙を持ち、紙を微笑んで見た。

菊姫は紙を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は紙を持ち、油川夫人を見ると、油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。“天の川 霧立ちわたり 彦星の 楫の音聞こゆ 夜の更けゆけば”。素敵な歌です。奇妙丸様に贈りたいです。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊が選んだ歌を教えて。」

菊姫は油川夫人を見ると、油川夫人に微笑んで話し出す。

「お松から奇妙丸様に贈る七夕の歌です。私もお松が選ぶ歌が一番に良いと思います。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見ている。

「“天の川 霧立ちわたり 彦星の 楫の音聞こゆ 夜の更けゆけば”。掲載は、“万葉集 第十巻 二〇四四番”。作者は、“不明”。歌の意味は、“天の川に霧が立ち渡って夜がふけてゆくと、彦星が漕ぐかじの音が聞こえます。”、となるそうよ。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。素敵な歌を選んだわね。奇妙丸様も喜ぶと想うわ。」

松姫は紙を持ち、菊姫に微笑んで頷いた。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。私の婚儀が決まった時も、七夕に贈る歌を選んでください。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫に微笑んで頷いた。

松姫は紙を持ち、油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。七夕が近付いているわ。文を早く書かないと、奇妙丸様の元に七夕までに文が届かなくなるわ。」

松姫は紙を持ち、油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで頷いた。



奇妙丸様へ

七夕が近付いてきました。

甲斐の国は暑さを感じる日が続いています。

奇妙丸様は元気にお過ごしでしょうか。

私は元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

奇妙丸様に七夕を詠んだ歌を贈りたいと思いました。

母上と姉上に相談して決めました。

受け取って頂けると嬉しいです。

天の川 霧立ちわたり 彦星の 楫の音聞こゆ 夜の更けゆけば

奇妙丸様と共に彦星が漕ぐ楫の音が聞きたいです。

奇妙丸様が素敵な七夕を過ごせるように、甲斐の国から祈っています。

松より



幾日か後の事。



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十五の月になる。

暦は七月になる。



季節は初秋になる。



今日は七夕。



今は夜。



ここは、甲斐の国。



たくさんの星が綺麗に輝いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



縁の傍。



油川夫人は床の上に体を起こして、微笑んで居る。

菊姫は微笑んで居る。

松姫は微笑んで居る。



菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。たくさんの星が綺麗に輝いています。」

油川夫人は床の上に体を起こして、菊姫に微笑んで頷いた。

松姫は星を寂しく見た。

油川夫人は床の上に体を起こして、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。何か遭ったの?」

松姫は油川夫人に寂しく抱き付いた。

油川夫人は床の上に体を起こし、松姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を心配して見た。

松姫は油川夫人に抱き付いて、油川夫人に寂しく話し出す。

「母上とたくさんの七夕を過ごしたいです。」

油川夫人は床の上に体を起こし、松姫に微笑んで話し出す。

「お松は武田家と織田家を繋ぐ大切な役目があるの。お松がたくさんの七夕を過ごす相手は、母ではなく、奇妙丸様よ。」

松姫は油川夫人に抱き付いて、油川夫人を寂しく見た。

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「母とお菊とお松は、離れて過ごす日が必ず訪れるわ。幾里もの距離が離れても、母はお菊とお松と同じ星を見て七夕を過ごすわ。彦星と織姫星のために、母とお松とお菊のために、大切に想う人達のために、笑顔で七夕を過ごしましょう。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は油川夫人に抱き付いて、油川夫人と菊姫を寂しく見た。

油川夫人は床の上に体を起こし、松姫に微笑んで話し出す。

「お松が寂しい姿を見せると、たくさんの人達が心配するの。お松は寂しくても笑顔で過ごして、たくさんの人達を安心させなさい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。母上の話すとおりよ。母上がたくさんの七夕を笑顔で過ごせるように、たくさんの人達が七夕を笑顔で過ごせるように、私もお松も、たくさんの七夕を笑顔で過ごしましょう。」

松姫は油川夫人に抱き付いて、油川夫人と菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人と松姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人から微笑んで離れた。

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。彦星が天の川で漕ぐ舟の楫の音を聞きながら、七夕を過ごしましょう」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。

松姫は星空を微笑んで見た。

菊姫も星空を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫と星空を微笑んで見た。



お松へ

文と七夕の歌の贈り物をありがとう。

お松の元気に過ごす様子が伝わる。

私は元気に過ごしている。

安心して過ごしてくれ。
素敵な七夕の歌の贈り物を幾度も詠んでいる。

天の川から聞こえる彦星が船を漕ぐ楫の音を早く聞きたい。

お松と共に、天の川から聞こえる彦星が船を漕ぐ楫の音を早く聞きたい。

七夕は、天の川を見ながら、お松からの贈り物の歌を詠む。

七夕は、天の川を見ながら、お松を想う。

お松。

傍で過ごす日が訪れたら、天の川を見ながら、今回のお松からの贈り物の歌を詠もう。

お松。

母上を大事にして欲しい。

母上と姉上と共に、素敵な七夕を過ごしてくれ。

素敵な七夕が過ごせるように、岐阜から祈っている。

奇妙丸より



「天の川 霧立ちわたり 彦星の 楫の音聞こゆ 夜の更けゆけば」

油川夫人、菊姫、松姫、奇妙丸は、たくさんの想いを抱え、七夕を過ごしている。

油川夫人、菊姫、松姫、奇妙丸は、天の川から彦星が船を漕ぐ楫の音が聞こえる時を待っている。

七夕が静かに過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十巻 二〇四四番」

「天の川 霧立ちわたり 彦星の 楫の音聞こゆ 夜の更けゆけば」

ひらがたの読み方は「あまのがわ きりたちわたり ひこぼしの かぢのおときこゆ よのふけゆけば」

作者は「詠み人知らず」

歌の意味は「天の川に霧が立ち渡って夜がふけてゆくと、彦星が漕ぐかじの音が聞こえます。」となるそうです。

原文は「天漢 霧立度 牽牛之 楫音所聞 夜深性」

今夜は七夕の夜。

彦星が天の川を舟で渡って織姫星に逢いにいく。

以上の内容を詠んだ歌のようです。

「七夕(たなばた)」についてです。

旧暦の七月十五日の夜に戻って来る先祖の霊に着せる衣服を機織して棚に置いておく風習があり、棚に機で織った衣服を備える事から「棚機(たなばた)」という言葉が生まれたそうです。

その後、仏教が伝来すると七月十五日は仏教上の行事の「盂蘭盆(うらぼん)」となり、棚機は盆の準備をする日ということになって、七月七日に繰り上げられたそうです。

これに中国から伝わった織女・牽牛の伝説が結び付けられ、天の川を隔てた織姫(織姫星・琴座のベガ)と彦星(牽牛星・鷲座のアルタイル)が年に一度の再開を許される日となったそうです。

元は宮中行事だったそうです。

現在の様に一般的に行われるようになったのは、江戸時代からだそうです。

そして、現在の「七夕」の形に近くなってきたのも江戸時代からだそうです。

笹などを飾り付ける風習は、江戸時代頃から始まり、日本だけに見られる風習だそうです。

「陰暦」を基にして物語を書いているので、現在の暦と少しずれています。

陰暦の「七夕」は、現在の暦で七月中旬から八月下旬の間になるので、落ち着いた天気の日が増えていると思います。

現在の暦の七月七日の「七夕」は、天気の悪い日や雨が降る日が多いと思います。

武田信玄の正室の三条夫人は公家の出身です。

織田信長も京の都を意識していたと思います。

「七夕」の行事の内容や規模など、詳しい事は分かりませんが、「七夕」の行事を行っていた可能性はあると思います。

この物語は、時期に関しては、陰暦の七月七日を元にして書きましたが、行事の内容は、現在の「七夕」を少し元にして書きました。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

この物語に登場する「五郎」は、「仁科五郎盛信(にしなごろうもりのぶ)」(父:武田信玄、母:油川夫人、武田信玄の“五男”)です。

葛山十郎信貞、菊姫、松姫、の兄です。

物語に登場する「十郎」は、「葛山十郎信貞」(父:武田信玄、母:油川夫人、武田信玄の“六男”、通称:十郎)です。

葛山信貞は生年がはっきりとません。

生年の説の一つから考えると、菊姫と松姫の兄になります。

武田軍の関連についてです。

元亀二年(1571年)七月は、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

元亀四年七月二十八日に天正元年に改元するため、1573年は「元亀四年」と「天正元年」の二つの年号があります。

詳細な月が分からない場合は、「元亀四年」と「天正元年」が混在する可能性があります。

ご了承ください。

「初秋」は、「しょしゅう」、「はつあき」、の読み方があります。

この物語では「しょしゅう」で読んでいます。

「しょしゅう」は、「秋の初め」(秋の季語)、「陰暦七月の異称」、などの意味です。

「愛逢月(あいぞめづき)」は「陰暦七月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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