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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 中秋の月 高々に君をいませて 〜



登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「十五日に 出でにし月の 高々に 君をいませて 何をか思はむ」

「万葉集 第十二巻 三〇〇五番」

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十六の月になる。

暦は八月になる。



季節は仲秋になる。



ここは、甲斐の国。



日中は暑さを感じても、陽が沈むと暑さを感じなくなった。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



菊姫の部屋。



菊姫は微笑んで居る。

松姫も微笑んで居る。



松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。今月は十五夜を楽しめます。奇妙丸様に贈る月を詠んだ歌の候補を決めました。姉上に最初に相談したいです。母上には次に相談したいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松が奇妙丸様への歌の贈り物を考えていると知ったら、母上は喜ぶわ。」

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様の十五夜に贈る歌の候補を教えて。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の中で僅かに辛い様子で居る。

机の上に、文が置いてある。



菊姫の足音と松姫の足音が聞えた。



油川夫人は床の上にゆっくりと微笑んで体起こした。



菊姫は部屋の中に微笑んで入った。

松姫も部屋の中に微笑んで入った。



油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫も油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様からお松宛ての文が届いたの。お菊とお松を呼びたいと思っていたの。」

菊姫は油川夫人を微笑んで見ている。

松姫も油川夫人を微笑んで見ている。

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お松。お菊と相談して文の返事を書きなさい。お菊。今回もお松の文の返事を相談にのってあげなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の上に体を起こし、菊姫と松姫を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は文を持ち、部屋の中に微笑んで入った。

菊姫は部屋の中に微笑んで入った。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「母上に月を詠んだ歌について相談する前に、奇妙丸様からお松宛ての文が届いたのね。文を読んだ後に、母上に月を詠んだ歌について質問するか決めましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を丁寧に開くと、文を微笑んで読み始めた。

菊姫は松姫を一瞥しながら、文を微笑んで読み始めた。



お松へ

岐阜は、日中は暑さを感じる時があっても、陽が沈むと暑さを感じなくなる。

暑さが落ち着き始めているが、暑さが長く続いたので、お松が体調を悪くしていないか心配になる。

私は元気に過ごしている。

安心して過ごして欲しい。

十五夜を楽しめる月になったね。

お松が十五夜を楽しみに待つ姿を想像した。

お松が十五夜を楽しめるように、素敵な十五夜を楽しめるように、朝も夜も空を見て祈っている。

お松への十五夜の歌の贈り物を探す時に、素敵な歌を見付けた。

お松。

受け取ってくれると嬉しい。

十五日に 出でにし月の 高々に 君をいませて 何をか思はむ

今年の十五夜は、別々な場所で過ごす。

来年の十五夜は、共に過ごしたいと願う。

私とお松が傍で共に過ごす十五夜は、私は歌と同じ気持ちになるはずだ。

私とお松が傍で共に過ごす日を、お松と傍で共に過ごす十五夜を、楽しみに待つ。

お松が素敵な十五夜を過ごせるように、岐阜から祈っている。

奇妙丸より



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松と奇妙丸様の繋がる想いが伝わるわ。素敵だわ。」

松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様に十五夜までに届くように、文の返事を書きましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

奇妙丸様は元気に過ごされているのですね。

安心しました。

私は元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

素敵な十五夜の歌の贈り物をありがとうございます。

とても嬉しいです。

十五夜に奇妙丸様から頂いた歌を詠みます。

姉が奇妙丸様を褒めていました。

母上も奇妙丸様から頂いた文と奇妙丸様からの歌の贈り物を知れば、褒めるはずです。

今回は、母上にも素敵な十五夜を楽しんで頂くために、十五夜に奇妙丸様からの歌の贈り物について話します。

母上と姉と共に、素敵な十五夜を過ごしたいです。

来年は、奇妙丸様の傍で素敵な十五夜を過ごせるように願っています。

奇妙丸様が素敵な十五夜を過ごせるように、朝も夜も空に向かって奇妙丸様から頂いた歌を詠みます。

奇妙丸様。

いつもお気遣いをありがとうございます。

奇妙丸様が元気に過ごせるように、奇妙丸様が素敵な十五夜を過ごせるように、甲斐の国から祈っています。

松より



数日後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は床の中で微笑んで居る。

武田信玄は微笑んで居る。



武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お菊とお松は、奇妙丸殿がお松に宛てた文の内容も、奇妙丸殿がお松に贈った歌も、教えないのか。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お菊もお松も、十五夜まで秘密だと話します。私を元気付けて喜ばせたいと考えているようです。十五夜まで楽しみに待ちます。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿がお松に贈った歌が分かったら、お菊とお松に歌の関する説明を頼みたい。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「十五夜の後で構わないから、私にも奇妙丸殿がお松に贈った歌を教えてくれ。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の中で武田信玄を微笑んで見た。



幾日か後の事。



ここは、甲斐の国。



綺麗な月が輝いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。




油川夫人の部屋。



縁の傍。



油川夫人は床の上に、微笑んで体を起こしている。

菊姫は微笑んで居る。

松姫は文を持ち、微笑んで居る。



松姫は油川夫人に文を差し出すと、油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様から頂いた文と奇妙丸様から頂いた歌です。母上にも素敵な気持ちになって欲しいです。」

油川夫人は床の上に体を起こし、松姫から文を受け取ると、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。ありがとう。」

松姫は油川夫人を微笑んで見た。

菊姫も油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こし、文を微笑んで読んだ。

松姫は油川夫人と菊姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人を松姫を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



縁の傍。



油川夫人は床の上に、文を微笑んで読んでいる。

菊姫は微笑んで居る。

松姫も微笑んで居る。



油川夫人は床の上に体を起こし、文を持ち、松姫と菊姫に微笑んで話し出す。

「“十五日に 出でにし月の 高々に 君をいませて 何をか思はむ”。十五日に出る月を詠んだ歌ね。素敵な歌ね。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上も素敵な歌だと思ったのですね。嬉しいです。」

油川夫人は床の上に体を起こし、文を持ち、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。素敵な十五夜を過ごせるわ。ありがとう。」

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫も油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の上に体を起こし、文を持ち、菊姫と松姫を微笑んで見た。



「十五日に 出でにし月の 高々に 君をいませて 何をか思はむ」

たくさんの人達が、十五夜に輝く月を楽しみに過ごしている。

松姫は、油川夫人と菊姫と共に、十五夜に輝く月を楽しんで見ている。

松姫は、来年の十五夜は奇妙丸の傍で過ごしたいと願っている。

十五夜に輝く月は、たくさんの想いの中で輝いている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十二巻 三〇〇五番」

「十五日に 出でにし月の 高々に 君をいませて 何をか思はむ」

ひらがたなの読み方は「もちのひに いでにしつきの たかたかに きみをいませて なにをかおもはむ」

作者は「詠み人知らず」

原文は「十五日 出之月乃 高々尓 君乎座而 何物乎加将念」

歌の意味は「十五日に出てきた月のように、いまかいまかとお待ちしたあなた様をお迎えし、なにも思い煩うことなどございません」となるそうです。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀二年(1571年)八月は、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

「十五夜(じゅうごや)」と「中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)」についてです。

「陰暦の八月十五日の夜。満月の夜。」をいいます。

別名には「芋名月(いもめいげつ)」があります。

この時期は、古来より観月に最も良い時節とされています。

秋や冬は空気が乾燥して月が鮮やかに見える事、それに、夜でもそれほど寒くないために、名月として観賞されるようになったそうです。

中国にも同様の風習が唐の時代に確認されているそうです。

更に古くからある事も考えられます。

日本には九世紀から十世紀の頃に渡来したそうです。

貴族を中心に行なっていたそうですが、後に武士や町民にも広まったそうです。

酒宴を開いたり、詩や歌を詠んだり、薄を飾ったり、月見団子・里芋・枝豆・栗などを持ったり、お酒を供えて月を眺めたそうです。

お月見料理というそうです。

中国では「月餅」を作ってお供えするそうです。

「月餅」が日本に来て「月見団子」に変わったそうです。

お月見が一般的に行なわれるようになったのは、江戸時代からだそうです。

お月見団子は一般的には自分の家庭で作るそうです。

お月見団子の数は、その年の月の数だけ供えるそうです。

2010年の「中秋の名月・十五夜」は、「2010年9月22日」だそうです。

ご確認ください。

風習の関係から、今回の「十五夜」の他に「十三夜」の物語も掲載予定です。

「仲秋(ちゅうしゅう)」は「(秋の三ヶ月の真ん中の意味から)陰暦八月の異称」です。

秋の季語です。

「中秋(ちゅうしゅう)」は「陰暦八月十五日」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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