このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 十三夜 我が背子その間にも見む 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む」

「万葉集 第四巻 七〇九番」より

作者:豊前國娘子大宅女(とよくにみちのくちのをとめおほけやめ)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十七の月になろうとしている。

暦は九月になろうとしている。



季節は晩秋になろうとしている。



ここは、甲斐の国。



一日を通して過ごしやすい日が続くが、天気の悪い日は、陽が落ちると僅かに肌寒さを感じるようになった。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



武田信玄は微笑んで居る。

油川夫人は床の中に微笑んで居る。



油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「床に横になったままで話して良いのですか?」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私と話すために、無理をするな。私に気を遣うな。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで頷いた。

油川夫人は床の中で、武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お菊とお松は、私を笑顔で迎えたが、奇妙丸殿への十三夜の歌の贈り物を選ぶために、部屋に戻ってしまった。日頃の教育の素晴らしさを実感して嬉しくなると同時に、お菊とお松と話す時間が減ったので寂しくなった。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お菊とお松には、父が訪ねる時は部屋に直ぐに戻らないように話します。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お菊とお松は、私達の言い付けを守っている。私がお菊とお松と楽しく話したい気持ちは、私達の言い付けを守らない程の重要な理由に該当しない。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「分かりました。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「奇妙丸殿はお松に十五夜の歌の贈り物を用意した。お松は奇妙丸殿への十三夜の歌の贈り物を選ぶために調べている。お菊はお松の相談に乗っている。お菊もお松も、母に歌の内容を質問しながら調べている。良い歌が選べるか心配になる。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お菊とお松は、私に奇妙丸様への贈り物の候補に選ぶ歌が相応しいか確認します。お菊とお松は、奇妙丸様に失礼な内容の歌を一度も選んでいません。今回も安心して待っています。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私が居る時に奇妙丸殿への歌の贈り物が決まるかな?」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お菊とお松が、お館様が居ない時に奇妙丸様への歌の贈り物を決めたら、直ぐに連絡します。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私に奇妙丸殿の歌の贈り物が決まって直ぐに連絡したと知れば、お菊とお松が不思議に思う。私への連絡は無理にしないでくれ。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お館様。様々な事情が複雑に絡む状況は分かっていますが、お松の想いを末永く繋げたいです。幾度も我がままな頼みを話して申し訳ありません。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私もお松の想いを末永く繋げたい。お松が奇妙丸殿を想い続ける。奇妙丸殿もお松を想い続ける。武田家にとって重要だ。今は様々な状況が複雑に絡んでいる。私は、お松の父であるが、甲斐の国を束ねる立場だ。明確な返事が出来ない。お松の様子を見ると、辛い気持ちになる。」

油川夫人は床の中で、武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「互いに希望を持って過ごそう。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の中で、武田信玄を微笑んで見た。



直後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



松姫の部屋。



菊姫は歌集を微笑んで読んでいる。

松姫も歌集を微笑んで読んでいる。



松姫は歌集を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。素敵な歌を見付けました。」

菊姫は歌集を持ち、松姫と歌集を微笑んで見た。

松姫は歌集を持ち、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は歌集を持ち、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。素敵な歌を見付けたわね。」

松姫は歌集を持ち、菊姫を微笑んで見ている。

菊姫は歌集を持ち、松姫に微笑んで話し出す。

「私の考えだけど、お松が奇妙丸様の傍で過ごすようになってから贈る方が相応しいと思うの。」

松姫は歌集を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「分かりました。今回の十三夜の歌の贈り物は、別な歌を選びます。」

菊姫は歌集を持ち、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。気になる歌を見付けたの。」

松姫は歌集を持ち、菊姫と歌集を微笑んで見た。

「姉上。教えてください。」

菊姫は歌集を持ち、松姫に微笑んで話し出す。

「“夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む”。お松と奇妙丸様は、離れて過ごしているわ。お松が奇妙丸様の元に嫁ぐと、奇妙丸様の傍で過ごすわ。お松と奇妙丸様には、今の歌と同じ状況が訪れないかも知れないわ。お松が今の歌の状況を想像するのも大切な歌の勉強だと思うわ。」

松姫は歌集を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。素敵な歌です。奇妙丸様への今回の歌の贈り物にします。」

菊姫は歌集を持ち、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。母上の考えを聞きましょう。」

松姫は歌集を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「今は父上が居ます。父上は母上と話しています。父上と母上が話す邪魔をすると悪いです。父上が帰った後に、母上に相談したいと思います。」

菊姫は歌集を持ち、松姫に微笑んで話し出す。

「私もお松の意見に賛成よ。」

松姫も歌集を持ち、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

お元気にお過ごしでしょうか。

私は元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

素敵な十五夜の歌の贈り物をありがとうございました。

十三夜の歌の贈り物は、私から奇妙丸様に贈りたいと思いました。

最初は私と姉で相談して、次に母と姉と私で相談して、贈り物の歌を決めました。

姉と私で贈り物の歌を選ぶ最中に、綺麗な月を見ながら贈りたい素敵な歌を見付けました。

私が奇妙丸様の傍で綺麗な月を見る日に贈りたいと思います。

姉と再び相談して、奇妙丸様への十三夜の贈り物の歌を決めました。

私から奇妙丸様への十三夜の歌の贈り物を受け取って頂けると嬉しいです。

夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む

私は奇妙丸様の許婚です。

姉は、私が奇妙丸様の元に嫁げば、今回の歌の贈り物の状況を経験する機会は無いと思う、と話しました。

姉と話す最中に、同じ館に住んでも今回の歌を贈る機会があるかも知れないと思いました。

奇妙丸様が私の部屋を訪れて、私が奇妙丸様の傍で過ごす様子を想像しました。

私は、夕闇に包まれる中、月が出るまで、奇妙丸様をずっと見たいです。

私は至らないところがたくさんあります。

奇妙丸様に相応しい正室になるために、たくさんの内容を学び続けます。

奇妙丸様が素敵な十三夜を過ごせるように、甲斐の国から祈っています。

松より



数日後の事。



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十七の月になっている。

暦は九月になっている。



季節は晩秋になっている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



武田信玄は微笑んで居る。

油川夫人は床の中に微笑んで居る。



武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「“夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む”。お松は奇妙丸殿への十三夜の贈り物に合う歌を選んだな。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「お菊とお松は、贈り物の歌の候補にしたいと思ったが止めた歌があるそうだな。」

油川夫人は床の中で、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お松は奇妙丸様の傍で過ごすようになってから、奇妙丸様に贈りたい歌だと話しました。お菊は嫁ぐ相手に贈りたい歌だと話しました。お菊とお松は、秘密にしたいと話しました。お菊もお松も、願掛けとして秘密にしていると思います。」

武田信玄は油川夫人を考え込んで見た。

油川夫人は床に横になり、武田信玄に微笑んで話し出す。

「お菊とお松には、武田家と嫁ぐ家を繋ぐ役目があると話しています。お菊とお松には、武田家の娘としての自覚を常に持って生きるように話しています。お菊もお松も、私の話を理解してしっかりと過ごしています。お松は奇妙丸様を慕っています。お松は奇妙丸様を慕い続けているのに傍で過ごせません。私は慕い続けるお館様の傍で過ごしています。母としてお菊とお松に様々な内容を説明しながら、母は幸せに過ごしています。矛盾が心の中を覆います。辛い気持ちになります。」

武田信玄は油川夫人に微笑んで話し出す。

「一人で辛さを抱えるな。私も辛さを抱える。」

油川夫人は床に横になり、武田信玄に微笑んで話し出す。

「私がお館様と辛さを分けたら、お菊とお松の母として過ごせません。」

武田信玄は油川夫人の手を微笑んで握った。

油川夫人は床に横になり、武田信玄を微笑んで見た。



数日後の事。



ここは、甲斐の国。



綺麗な月が輝いている。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫の住む屋敷。



妻姫の部屋の前に在る縁。



菊姫は微笑んで居る。

松姫は文を持ち、微笑んで居る。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。母上の部屋に行きましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」



菊姫は微笑んで歩き出した。

松姫は文を持ち、微笑んで歩き出した。



お松へ

私は元気に過ごしている。

安心して過ごしてくれ。

お松。

十三夜の歌の贈り物をありがとう。

素敵な十三夜が過ごせる。

夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む

夕闇に包まれ始めてから月が出るまでの間、お松に私をずっと見て欲しい。

夕闇に包まれ始めてから月が出るまでの間、私はお松をずっと見ていたい。

お松の文を読みながら、お松が私を末永く慕ってくれるように、お松が私をずっと見ていたいと思い続けてくれるように、一日も早く立派な人物になりたい。

お松。

私の分まで、母上と傍で、姉上の傍で、素敵な十三夜を過ごしてくれ。

お松が素敵な十三夜を過ごせるように、岐阜から祈っている。

奇妙丸より



「夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む」

慕う相手に、夕闇は道が暗くて見にくいから、月が出るのを待ってから帰って欲しいと思う。

慕う相手を時間の許す限り見たい気持ち。

お松と奇妙丸は、離れて過ごしている。

お松と奇妙丸は、一度も逢えない。

お松と奇妙丸が傍で過ごす日が訪れると、歌と同じ経験が出来ないかも知れない。

お松と奇妙丸だからこそ、歌に様々な想いを重ねられる。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第四巻 七〇九番」

「夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む」

ひらがなの読み方は「ゆふやみは みちたづたづし つきまちて いませわがせこ そのまにもみむ」

作者は「豊前國娘子大宅女(とよくにみちのくちのをとめおほけやめ)」

原文は「夕闇者 路多豆多頭四 待月而 行吾背子 其間尓母将見」

歌の意味は「夕闇は、道が暗くて見にくいですね。月が出るのを待ってからお帰りください、あなた様。それまでの間、あなた様を見ていましょう。」となるそうです。

「十三夜(じゅうさんや)」は「陰暦十三日の夜。または、陰暦九月十三日の夜。」です。

「十五夜(じゅうごや)」は「陰暦十五日の夜。または、陰暦八月十五日の夜。」です。

「十五夜」に対しての「十三夜」の場合は、どちらの意味も該当します。

この物語は「陰暦九月十三日の夜」の意味で使用しています。

陰暦八月十五日に次いで月が美しいとされています。

別名は、「後の月(のちのつき)」、「豆名月(まめめいげつ)」、「栗名月(くりめいげつ)」があります。

「十五夜」は中国から渡来した風習ですが、「十三夜」は日本独自の風習になります。

十三夜の基となる風習は、戦国時代より前からありました。

江戸時代になってから、町民の間などに広まったそうです。

「十三夜」の時期に食べ頃の大豆や栗を供えるそうです。

「十五夜」だけ、「十三夜」だけ、などと片方しか行なわないのは、「片見月(かたみづき)」といって嫌われたそうです。

「十三夜」は、現在の暦にすると毎年十月頃になります。

毎年のように日付が違います。

2010年の十三夜は、2010年10月20日です。

ご確認ください。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀二年(1571年)九月は、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

元亀四年七月二十八日に天正元年に改元するため、1573年は「元亀四年」と「天正元年」の二つの年号があります。

詳細な月が分からない場合は、「元亀四年」と「天正元年」が混在する可能性があります。

ご了承ください。

「晩秋(ばんしゅう)」は、「秋の終わり。秋の末。」(秋の季語)、「陰暦九月の異称」、です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





←前            目次            次→


このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください