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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 鴨月 羽交ひに霜降りて 思ほゆ 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ」
「万葉集 第一巻 六十四番」より
作者:志貴皇子(しきのみこ)
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十九の月になっている。
暦は十一月になっている。
季節は仲冬になっている。
ここは、甲斐の国。
陽の高い時間も陽の沈んだ時間も寒さを感じる。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。
油川夫人の部屋。
油川夫人は辛い様子で床の中に居る。
僅かに後の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。
松姫の部屋。
菊姫は考え込んで居る。
松姫も考え込んで居る。
菊姫の傍と松姫の傍には、数冊の歌集が置いてある。
松姫は菊姫に考え込んで話し出す。
「歌について考えているのに、気付くと母上の体調を考えています。」
菊姫は松姫を考え込んで見た。
松姫は歌集を考え込んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「私とお松が落ち込んで過ごすと、母上が心配するわ。母上は体調が悪い日が続くのに、お松を励ますために無理をする可能性があるわ。母上の体調に影響が出る可能性があるわ。私とお松が落ち込んで過ごすと、侍女が心配するわ。父上が私とお松が落ち込んで過ごしていると知ると、父上が心配して政が落ち着いて出来ないわ。」
松姫は菊姫に落ち込んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様はお松を傍で励ませないわ。奇妙丸様はお松を心配して悩んで過ごす状況になるよ。」
松姫は菊姫を考え込んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。私も辛くても笑顔で過ごすわ。お松も辛くても笑顔で過ごしなさい。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
数日後の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。
油川夫人の部屋。
油川夫人は辛い様子で床の中に居る。
机には文が置いてある。
菊姫の明るい足音が聞こえる。
松姫の明るい足音も聞こえる。
油川夫人は床の中で微笑んだ。
菊姫が部屋を微笑んで訪れた。
松姫も部屋を微笑んで訪れた。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫を微笑んで見た。
菊姫は油川夫人を微笑んで見た。
松姫も油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。部屋まで来てくれてありがとう。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上と話が出来ます。嬉しいです。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「私もお松と同じ気持ちです。嬉しいです。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「体調が悪い日が続くために、お菊とお松と話す時間が減っているわ。お菊とお松の嬉しい時間を減らしているわね。ごめんなさい。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上の笑顔が見られます。母上には早く元気になって欲しいです。私とお松を気にせずに療養を続けてください。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「姉上の話すとおりです。姉上と私を気にせずに療養を続けてください。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。ありがとう。」
菊姫は油川夫人を微笑んで見た。
松姫も油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お松。お菊。奇妙丸様からの文が届いているの。お松。今回もしっかりと文の返事を書きなさい。お菊。今回もお松の文を書く相談に乗ってあげなさい。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。
「お松。大切な内容を話していなかったわ。」
松姫は油川夫人を不思議な様子で見た。
油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様とお松が婚約を交わした月になったわね。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、松姫を微笑んで見た。
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。母上の部屋で文を読みたいです。」
油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで頷いた。
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。机の上の文が、奇妙丸様の文ですよね。」
油川夫人は床の中で、菊姫に微笑んで頷いた。
松姫は文を微笑んで取った。
油川夫人は床の中で松姫を微笑んで見た。
松姫は文を丁寧に広げると、文を微笑んで読み始めた。
菊姫は松姫と文を微笑んで見た。
油川夫人は床の中で、松姫、菊姫、文、を微笑んで見た。
お松へ
寒さを感じる時間が増えているね。
お松は元気に過ごしているか心配になる時がある。
私は元気に過ごしている。
安心して過ごしてくれ。
お松。
婚約を交わした月が訪れたね。
お松の傍で過ごせない日が続く。
お松が傍に居ないので寂しい気持ちになる時がある。
寂しさを感じる時間が増えるのは、寒さのためかも知れない。
お松を想いながら歌を選んだ。
受け取ってくれると嬉しい。
葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ
お松を見ながら過ごす日々を楽しみに待っている。
寒さの厳しい日が増えていく。
体調に気を付けて過ごしてくれ。
私の分まで、母を想い、姉を想い、過ごしてくれ。
奇妙丸より
お松は文を持ち、油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。
「“葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ”。歌の意味は、“葦の生えた水辺を行く鴨の羽に霜が降って、こんな寒い夕暮れには大和のことを思います。”、となるそうよ。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「季節とお松への想いを重ねて歌を選んだのね。さすが奇妙丸様ね。」
松姫は文を持ち、油川夫人と菊姫を微笑んで見た。
油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。
「お松が羨ましいわ。」
松姫は文を持ち、油川夫人を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。奇妙丸様への文の返事を書きましょう。」
松姫は文を持ち、菊姫を見ると、菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は油川夫人を微笑んで見た。
松姫は文を持ち、油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。次回は、私から奇妙丸様に歌を贈りたいです。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。一緒に歌を選びましょう。」
松姫は文を持ち、油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫を微笑んで見た。
菊姫は部屋から微笑んで出て行った。
松姫は文を持ち、部屋から微笑んで出て行った。
油川夫人は床の中で、微笑んでゆっくりと目を閉じた。
奇妙丸様へ
寒い時間が増えていく頃になりました。
奇妙丸様が元気に過ごしていると分かり安心しました。
私も元気に過ごしています。
安心してお過ごしください。
奇妙丸様と婚約を交わした月になりました。
奇妙丸様の傍で過ごせない日々か続きます。
私も寂しいです。
私は、奇妙丸様が寂しさを増さないように、奇妙丸様が笑顔で過ごせるように、笑顔で過ごします。
奇妙丸様。
素敵な歌の贈り物をありがとうございます。
更に笑顔で過ごせます。
寒さの厳しい日が増えていきます。
体調に気を付けてお過ごしください。
松より
「葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ」
鴨の羽に霜が降る頃になっている。
松姫にとっての奇妙丸。
奇妙丸にとっての松姫。
鴨の羽が交わるように、大切な存在になっている。
葦の生えた水辺を行く鴨の羽に霜が降る頃。
様々な状況が複雑に絡みながら時が過ぎている。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第一巻 六十四番」
「葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ」
ひらがなの読み方は「あしへゆく かものはがひに しもふりて さむきゆふへは やまとしおもほゆ」
作者は「志貴皇子(しきのみこ)」
歌の意味は「葦の生えた水辺を行く鴨の羽に霜が降って、こんな寒い夕暮れには大和のことを思います。」となるそうです。
原文は「葦邊行 鴨之羽我比尓 霜零而 寒暮夕 倭之所念」
「羽交い(はがい)」は、鳥の左右の羽が重なり合ったところです。
慶雲三年(706年)に、難波宮(なにわのみや)にいた志貴皇子(しきのみこ)が、京(みやこ)のことを思って詠んだ歌です。
武田家についての補足です。
油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。
武田軍の関連についてです。
元亀二年(1571年)十一月は、大きな動きはありません。
織田家関連について簡単に説明します。
奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。
奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。
ご了承ください。
「仲冬(ちゅうとう)」は「(冬3ヶ月の真ん中の意味から)陰暦十一月の異称」です。
冬の季語です。
「鴨月(かもづき)」は「陰暦十一月の異称」です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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