このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 鴨月 羽交ひに霜降りて 思ほゆ 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、



「葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ」

「万葉集 第一巻 六十四番」より

作者:志貴皇子(しきのみこ)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、四十九の月になっている。

暦は十一月になっている。



季節は仲冬になっている。



ここは、甲斐の国。



陽の高い時間も陽の沈んだ時間も寒さを感じる。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は辛い様子で床の中に居る。



僅かに後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



松姫の部屋。



菊姫は考え込んで居る。

松姫も考え込んで居る。

菊姫の傍と松姫の傍には、数冊の歌集が置いてある。



松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「歌について考えているのに、気付くと母上の体調を考えています。」

菊姫は松姫を考え込んで見た。

松姫は歌集を考え込んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私とお松が落ち込んで過ごすと、母上が心配するわ。母上は体調が悪い日が続くのに、お松を励ますために無理をする可能性があるわ。母上の体調に影響が出る可能性があるわ。私とお松が落ち込んで過ごすと、侍女が心配するわ。父上が私とお松が落ち込んで過ごしていると知ると、父上が心配して政が落ち着いて出来ないわ。」

松姫は菊姫に落ち込んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様はお松を傍で励ませないわ。奇妙丸様はお松を心配して悩んで過ごす状況になるよ。」

松姫は菊姫を考え込んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。私も辛くても笑顔で過ごすわ。お松も辛くても笑顔で過ごしなさい。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



数日後の事。



ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。



油川夫人の部屋。



油川夫人は辛い様子で床の中に居る。

机には文が置いてある。



菊姫の明るい足音が聞こえる。

松姫の明るい足音も聞こえる。



油川夫人は床の中で微笑んだ。



菊姫が部屋を微笑んで訪れた。

松姫も部屋を微笑んで訪れた。



油川夫人は床の中で、菊姫と松姫を微笑んで見た。

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫も油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。部屋まで来てくれてありがとう。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上と話が出来ます。嬉しいです。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「私もお松と同じ気持ちです。嬉しいです。」

油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「体調が悪い日が続くために、お菊とお松と話す時間が減っているわ。お菊とお松の嬉しい時間を減らしているわね。ごめんなさい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上の笑顔が見られます。母上には早く元気になって欲しいです。私とお松を気にせずに療養を続けてください。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「姉上の話すとおりです。姉上と私を気にせずに療養を続けてください。」

油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。ありがとう。」

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫も油川夫人を微笑んで見た。

油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お松。お菊。奇妙丸様からの文が届いているの。お松。今回もしっかりと文の返事を書きなさい。お菊。今回もお松の文を書く相談に乗ってあげなさい。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。大切な内容を話していなかったわ。」

松姫は油川夫人を不思議な様子で見た。

油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様とお松が婚約を交わした月になったわね。」

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の中で、松姫を微笑んで見た。

松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。母上の部屋で文を読みたいです。」

油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで頷いた。

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。机の上の文が、奇妙丸様の文ですよね。」

油川夫人は床の中で、菊姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を微笑んで取った。

油川夫人は床の中で松姫を微笑んで見た。

松姫は文を丁寧に広げると、文を微笑んで読み始めた。

菊姫は松姫と文を微笑んで見た。

油川夫人は床の中で、松姫、菊姫、文、を微笑んで見た。



お松へ

寒さを感じる時間が増えているね。

お松は元気に過ごしているか心配になる時がある。

私は元気に過ごしている。

安心して過ごしてくれ。

お松。

婚約を交わした月が訪れたね。

お松の傍で過ごせない日が続く。

お松が傍に居ないので寂しい気持ちになる時がある。

寂しさを感じる時間が増えるのは、寒さのためかも知れない。

お松を想いながら歌を選んだ。

受け取ってくれると嬉しい。

葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ

お松を見ながら過ごす日々を楽しみに待っている。

寒さの厳しい日が増えていく。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

私の分まで、母を想い、姉を想い、過ごしてくれ。

奇妙丸より



お松は文を持ち、油川夫人と菊姫を微笑んで見た。

油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。

「“葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ”。歌の意味は、“葦の生えた水辺を行く鴨の羽に霜が降って、こんな寒い夕暮れには大和のことを思います。”、となるそうよ。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「季節とお松への想いを重ねて歌を選んだのね。さすが奇妙丸様ね。」

松姫は文を持ち、油川夫人と菊姫を微笑んで見た。

油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。

「お松が羨ましいわ。」

松姫は文を持ち、油川夫人を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様への文の返事を書きましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫を見ると、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人を微笑んで見た。

松姫は文を持ち、油川夫人に微笑んで話し出す。

「母上。次回は、私から奇妙丸様に歌を贈りたいです。」

油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。一緒に歌を選びましょう。」

松姫は文を持ち、油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。

「はい。」

油川夫人は床の中で、菊姫と松姫を微笑んで見た。



菊姫は部屋から微笑んで出て行った。

松姫は文を持ち、部屋から微笑んで出て行った。



油川夫人は床の中で、微笑んでゆっくりと目を閉じた。



奇妙丸様へ

寒い時間が増えていく頃になりました。

奇妙丸様が元気に過ごしていると分かり安心しました。

私も元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

奇妙丸様と婚約を交わした月になりました。

奇妙丸様の傍で過ごせない日々か続きます。

私も寂しいです。

私は、奇妙丸様が寂しさを増さないように、奇妙丸様が笑顔で過ごせるように、笑顔で過ごします。

奇妙丸様。

素敵な歌の贈り物をありがとうございます。

更に笑顔で過ごせます。

寒さの厳しい日が増えていきます。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



「葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ」

鴨の羽に霜が降る頃になっている。

松姫にとっての奇妙丸。

奇妙丸にとっての松姫。

鴨の羽が交わるように、大切な存在になっている。

葦の生えた水辺を行く鴨の羽に霜が降る頃。

様々な状況が複雑に絡みながら時が過ぎている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第一巻 六十四番」

「葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕は 大和し思ほゆ」

ひらがなの読み方は「あしへゆく かものはがひに しもふりて さむきゆふへは やまとしおもほゆ」

作者は「志貴皇子(しきのみこ)」

歌の意味は「葦の生えた水辺を行く鴨の羽に霜が降って、こんな寒い夕暮れには大和のことを思います。」となるそうです。

原文は「葦邊行 鴨之羽我比尓 霜零而 寒暮夕 倭之所念」

「羽交い(はがい)」は、鳥の左右の羽が重なり合ったところです。

慶雲三年(706年)に、難波宮(なにわのみや)にいた志貴皇子(しきのみこ)が、京(みやこ)のことを思って詠んだ歌です。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀二年(1571年)十一月は、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

ご了承ください。

「仲冬(ちゅうとう)」は「(冬3ヶ月の真ん中の意味から)陰暦十一月の異称」です。

冬の季語です。

「鴨月(かもづき)」は「陰暦十一月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





←前            目次            次→


このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください