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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 春待月 長き命を欲りしくは 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
菊姫[武田信玄の四女]、油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母]、
「栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ」
「万葉集 第四巻 七〇四番」より
作者:巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそおとめ)
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十の月になっている。
暦は十二月になっている。
季節は晩冬になっている。
ここは、甲斐の国。
一日を通して寒さが続いている。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。
油川夫人の部屋。
油川夫人は辛い様子で床の中に居る。
菊姫は部屋を心配して訪れた。
松姫も部屋を心配して訪れた。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。心配事が有るわね。」
菊姫は油川夫人に慌てて話し出す。
「ありません!」
松姫も油川夫人に慌てて話し出す。
「ありません!」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。遠慮せずに話しなさい。」
菊姫は油川夫人に慌てて話し出す。
「ありません! 大丈夫です!」
松姫も油川夫人に慌てて話し出す。
「ありません! 大丈夫です!」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。動揺する様子が分かるわ。嘘を付く様子が分かるわ。」
松姫は油川夫人を動揺して見た。
菊姫も油川夫人を動揺して見た。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊の心配事の一つとお松の心配事の一つに、母の体調の心配があるわね。無理をせずに床の中で過ごしているわ。医師の処方した薬はしっかりと飲んでいるわ。理由が分からないけれど、体調の悪い日が長く続いているわね。ご免なさい。」
菊姫は油川夫人に慌てて話し出す。
「母上! 謝らないでください!」
松姫も油川夫人に慌てて話し出す。
「母上! 謝らないでください!」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お松。お菊。落ち着きなさい。」
松姫は油川夫人に恥ずかしく話し出す。
「はい。」
菊姫も油川夫人に恥ずかしく話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫を微笑んで見た。
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。姉上と奇妙丸様への文に添える歌を相談しています。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「文に添える歌は近い内に決まるのかしら?」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。
「お松にとって、奇妙丸様は大切な人物になるかしら?」
松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。
「はい!」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「或る歌を思い出したわ。」
松姫は油川夫人に笑顔で話し出す。
「母上! 教えてください!」
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。教えてください。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「“栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ”。歌の意味は、“栲縄のように、長く生きていたいと思うのは、あなたのことをずっ〜と見ていたいと思うからなのです。”、となるそうよ。掲載は、“万葉集 第四巻 七〇四番”。作者は、“巫部麻蘇娘子”。」
松姫は油川夫人を見ながら、考え込んで呟いた。
「“栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ”」
菊姫は油川夫人を見ながら、考え込んで呟いた。
「“栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ”」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「“栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ”。母も長く生きて、大切な人をずっと見ていたいわ。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「私も長く生きて、大切な人をずっと見ていたいです。」
菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。
「私も長く生きて、大切な人をずっと見ていたいです。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。今回の教えて頂いた歌を、奇妙丸様への文に添えて贈りたいです。」
油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで頷いた。
菊姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「母上。今回もお松の文の相談に乗ります。」
油川夫人は床の中で、菊姫に微笑んで頷いた。
菊姫は部屋を微笑んで出て行った。
松姫も部屋を微笑んで出て行った。
油川夫人は床の中で、微笑んで目を閉じた。
奇妙丸様へ
お元気にお過ごしでしょうか。
甲斐の国は、一日を通して寒さが続いています。
私は元気に過ごしています。
安心してお過ごしください。
奇妙丸様に宛てる文に歌を添えたいと思いました。
姉と歌について相談しました。
私と姉は、歌を質問する予定は無かったのですが、母の部屋に行きました。
母から良い歌を教わりました。
奇妙丸様に贈りたい歌だと思いました。
奇妙丸様。
歌を受け取って頂けると嬉しいです。
栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ
私は大切な人のために、栲縄のように長く生きたいです。
私は栲縄のように長く生きて、奇妙丸様をずっと見ていたいです。
今月は、一年の終わりの月です。
来月は、新しい一年の始まる月です。
季節は冬から春に移ろうとしていますが、暫くは寒い日が続くと思います。
体調に気を付けてお過ごしください。
松より
幾日後の事。
ここは、油川夫人、菊姫、松姫、の住む屋敷。
油川夫人の部屋。
机には、文が載っている。
油川夫人は辛い様子で床の中に居る。
菊姫の足音と松姫の足音が聞こえた。
油川夫人は床の中で、微笑んだ。
菊姫は部屋を心配な様子で訪れた。
松姫は部屋を心配な様子で訪れた。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。心配事が有るわね。」
菊姫は油川夫人に慌てて話し出す。
「ありません!」
松姫も油川夫人に慌てて話し出す。
「ありません!」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。以前と同じ返事をしているわよ。動揺する様子が分かるわ。」
松姫は油川夫人を恥ずかしく見た。
菊姫も油川夫人を恥ずかしく見た。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様からお松に宛てた文が届いたの。」
松姫は油川夫人を笑顔で見た。
菊姫は油川夫人を微笑んで見た。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様から届いた文を読む前に、大切な内容を話したいの。」
松姫は油川夫人に心配して話し出す。
「奇妙丸様に何か起きましたか?」
油川夫人は床の中で、松姫に微笑んで話し出す。
「知る限りでは、奇妙丸様に心配な出来事は起きていないわ。」
松姫は油川夫人を安心して見た。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「今は、武田家と織田家を取り巻く状況が複雑に動いているわ。武田家と織田家を取り巻く状況は、一瞬の後に変わる可能性があるわ。奇妙丸様とお松の武田家と織田家を繋ぐ大切な役目は、更に重要な意味を持ち始めているわ。お菊も婚約か縁談が決まれば、武田家と嫁ぎ先を繋ぐ大切な役目を担うわ。」
松姫は油川夫人を真剣な表情で見た。
菊姫も油川夫人を真剣な表情で見た。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊の立場とお松の立場ならば、正室として嫁ぐわ。お菊の立場とお松の立場ならば、母が気軽に逢えない場所に嫁ぐわ。正室は、嫁ぐ相手が悩まずに政治をするための環境を作る、嫁ぐ相手が落ち着いて過ごせる環境を作る、家臣や国に住む者達へ気を配る、他にもたくさんの内容を考える立場なの。正室は、本人が辛くても、笑顔で接する時や周りの人達を励ます時があるの。正室は、幼くても、決断を下す時や相談の返事をする時があるの。幼さを理由に逃げる言動は、正室として許されない言動なの。幼い間は、周りに仕える侍女などに助けを求めても良いけれど、成長したら、周りに仕える侍女などに助けを求められない時が増えるわ。正室の下した決断や相談の返事が、たくさんの人達に影響が出る時があるの。お松。決断を下す時は、焦らず落ち着いて決断を下しなさい。奇妙丸様から相談を受けた時には、周りの者達から相談を受けた時には、焦らず落ち着いて返事をしなさい。奇妙丸様がお松を心配しながら政治をしないように、しっかりと過ごしなさい。お菊も今の話を忘れずに過ごしなさい。」
松姫は油川夫人に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
菊姫も油川夫人に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お松。何が起きたとしても、奇妙丸様を信じなさい。お菊。何が起きたとしても、嫁ぐ相手を信じなさい。」
松姫は油川夫人に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
菊姫も油川夫人に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「各国の領主は、様々な思惑を含む言動をしているわ。お松の嫁ぐ国とお菊の嫁ぐ国を、お菊とお松が繋げる役目を担う可能性があるわ。お松。武田信玄公の娘として、奇妙丸様の正室として、誇りを持ち、優しさを忘れず、しっかりと生きなさい。お菊。武田信玄公の娘として、嫁いだ相手の正室として、誇りを持ち、優しさを忘れず、しっかとり生きなさい。」
松姫は油川夫人に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
菊姫も油川夫人に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「母からの大切な話は終わりよ。」
松姫は油川夫人に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
菊姫も油川夫人に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。母からの話は終わったのよ。気を楽にしなさい。」
松姫は油川夫人を恥ずかしく見た。
菊姫も油川夫人を恥ずかしく見た。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「奇妙丸様からお松に宛てた文は、机に置いてあるわ。お松の部屋かお菊の部屋で、文を読みなさい。」
松姫は油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫も油川夫人に微笑んで話し出す。
「はい。」
松姫は文を微笑んで持った。
油川夫人は床の中で、菊姫と松姫を微笑んで見た。
菊姫は部屋を微笑んで出て行った。
松姫は文を持ち、部屋を微笑んで出て行った。
油川夫人は床の中で、微笑んで呟いた。
「“栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ”」
油川夫人は床の中で、微笑んでゆっくりと目を閉じた。
お松へ
岐阜も、寒さを感じる日が続く。
私は元気に過ごしている。
安心して過ごしてくれ。
お松。
文を読んだ。
お松が元気に過ごす様子が伝わった。
安心した。
素敵な歌の贈り物をありがとう。
素敵な歌を教えてくる人物が傍に居る。
お松の傍には、母上が居る。
お松が羨ましい。
栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ
私も栲縄のように長く生きて、大切な人をずっと見ていたい。
私も栲縄のように長く生きて、お松の傍でお松をずっとずっと見ていたい。
私の願いとお松の願いが、一日も早く叶うように、互いを信じ、たくさんの内容を学ぼう。
今月は一年の終わりの月だね。
次は新しい一年の始まる月だね。
季節は冬から春に移ろうとしているね。
体調に気を付けて過ごしてくれ。
奇妙丸より
「栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ」
菊姫の母であり、松姫の母であり、武田信玄の側室である、女性が居た。
油川夫人と呼ばれていたが、名前は記録に残っていない。
油川夫人は、美しく聡明な女性と伝わっている。
油川夫人は、武田信玄が一番に信頼する女性として、武田信玄が一番に愛した女性として、伝わっている。
油川夫人の生まれた正確な年月日は、記録に残っていない。
油川夫人が亡くなった月日は、記録に残っていない。
元亀二年に、油川夫人は亡くなった記録が残っている。
油川夫人が亡くなった翌年から、武田家は更に複雑な決断や更に複雑な状況を迎える。
油川夫人も長く生きて、大切な人達をずっと見ていたいと願って過ごしていたと思う。
松姫にとって、菊姫にとって、奇妙丸にとって、複雑な状況を迎える日々が、重要な決断を下す時が、始まろうとしている。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第四巻 七〇四番」
「栲縄の 長き命を 欲りしくは 絶えずて人を 見まく欲りこそ」
ひらがなの読み方は「たくなわの ながきいのちを ほりしくは たえずてひとを みまくほりこそ」
作者は「巫部麻蘇娘子(かむなぎべのまそおとめ)」
歌の意味は「栲縄(たくなは)のように、長く生きていたいと思うのは、あなたのことをずっ〜と見ていたいと思うからなのです。」となるそうです。
原文は「栲縄之 永命乎 欲苦波 不絶而人乎 欲見社」
「栲縄(たくなわ)」は「コウゾの繊維で作った縄。」
「こうぞ」は「クワ科の落葉低木。山野に自生。」
季語は、花が春です。
「栲縄の(たくなわの)」は「(長い栲縄の意から)長き、千尋(ちひろ)、にかかる枕詞」です。
武田家についての補足です。
油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。
武田軍の関連についてです。
元亀二年(1571年)十二月に起きた出来事について簡単に説明します。
甲斐武田家と相模北条家の同盟が復活しました。
「甲相同盟(こうそうどうめい)」と呼ばれています。
以前に、甲斐武田家と相模北条家と駿河今川家が、三国同盟を結びました。
甲斐武田家と相模北条家と駿河今川家は、三家で婚姻関係を結びました。
甲相同盟は三国同盟の一角になります。
後に、三国同盟も甲相同盟も破綻します。
元亀二年(1571年)十二月に、甲相同盟が復活します。
和睦の交渉が秘密裏に行われたためか、書面などは見付からないそうです。
そのため、武田の軍記物では、北条家から武田家に和睦を持ちかけたとの記載があり、北条の軍記物では、武田家から北条家に和睦を持ちかけたとの記載があるそうです。
天正五年(1577年)一月に、北条氏政の妹(氏名不明。“北条夫人”・“桂林院殿”・と呼ばれる)が、武田勝頼の継室になります。
更に後の出来事になりますが、上杉景勝(上杉謙信の姉の子。上杉謙信の養子。)と上杉景虎(北条氏康の子。上杉謙信の養子。上杉謙信の姉の娘の夫。)の間で跡継ぎを巡る争いが起こり、武田家と越後の上杉景勝は「甲越同盟」を結び、上杉景虎が跡継ぎを巡る争いの中で亡くなります。
一連の出来事によって、甲相同盟は再び破綻して、武田家と北条家は緊張状態になります。
織田家関連について簡単に説明します。
奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。
奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。
「晩冬(ばんとう)」は、「冬の終わり。陰暦十二月の異称。」です。
冬の季語です。
「春待月(はるまちづき)」、または、「春待ち月(はるまちづき)」は、「陰暦十二月の異称」です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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