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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 霞初月 愛し母にまた言とはむ 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、

油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母](名前だけの登場)、



「天地の いづれの神を 祈らばか 愛し母に また言とはむ」

「万葉集 第二十巻 四三九二番」より

作者:大伴部麻与佐(おほともべのまよさ)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十一の月になっている。

暦は一月になっている。



季節は初春になっている。



ここは、甲斐の国。



一日を通して寒さが続くが、天気の良い日は暖かさを感じるようになってきた。



昨年、武田信玄の側室であり、菊姫の母であり、松姫の母である、油川夫人が亡くなった。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



正月だが、沈んだ雰囲気になっている。



玄関。



武田信玄は普通に訪れた。



菊姫は微笑んで来た。



武田信玄は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。元気に見える。安心した。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「母上は、父上に心配掛けないように幾度も話していました。父上に心配掛けないように、侍女に心配掛けないように、甲斐の国の住人に心配掛けないように、笑顔で過ごします。」

武田信玄は菊姫に微笑んで話し出す。

「お松は元気かな?」

菊姫は武田信玄を困惑して見た。

武田信玄は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。部屋で話そう。」

菊姫は武田信玄に困惑して話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫を微笑んで見た。



武田信玄は屋敷の中に微笑んで入って行った。

菊姫は屋敷の中に困惑して入って行った。



僅かに後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



一室。



武田信玄は部屋の中に微笑んで入ってきた。

菊姫は部屋の中に困惑して入ってきた。



武田信玄は菊姫に心配して話し出す。

「お菊。お松に何か起きているのか?」

菊姫は武田信玄に心配して話し出す。

「お松は、お松の部屋の外や私の部屋の外に居る時は、普段より笑顔です。お松は、お松の部屋の中や私の部屋の中に居る時は、寂しさに覆われる様子が伝わります。私がお松を励ましても、お松は寂しさに覆われています。私はお松の姉なのに、お松の笑顔を戻せません。私は母上に遠く及ばないと実感しています。」

武田信玄は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊はしっかりとしている。お菊は母の代わりになろうと思うな。お松の姉として過ごしなさい。」

菊姫は武田信玄を寂しく話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫に微笑んで話し出す。

「私とお菊とお松で、話したい。」

菊姫は武田信玄に心配して話し出す。

「父上。戦を始めると聞きました。今は忙しいですよね。私とお菊と話して大丈夫ですか?」

武田信玄は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊とお松と共に過ごせる時は、お菊とお松と共に過ごしたい。お菊。心配するな。」

菊姫は武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄も菊姫を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



一室。



武田信玄は微笑んで居る。

菊姫は微笑んで居る。



松姫は部屋の中に笑顔で入ってきた。



武田信玄は松姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「部屋に来るのが遅れました! 申し訳ありません!」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「気にするな。」

松姫は武田信玄を笑顔で見た。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。無理をするな。」

松姫は武田信玄に笑顔で話し出す。

「大丈夫です!」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。私達は、家臣、家臣の家族、甲斐の国の住人、盟約を結ぶ国の関係者、などの、幾人の命と幾人の幸せを左右する。私達を信じて、危険な状況に挑んでくれる人達がいる。私達は、身内が亡くなっても、長く悲しむ姿は見せられない。私とお菊とお松のみが居る場所では、素直な気持ちを表そう。」

松姫は武田信玄に悲しく抱き付いた。

菊姫も武田信玄に悲しく抱き付いた。

武田信玄は菊姫と松姫を微笑んで抱いた。

松姫は武田信玄に抱き付いて、静かに泣いて話し出す。

「父上。母上に逢いたいです。」

菊姫も武田信玄に抱き付いて、静かに泣いて話し出す。

「父上。母上に逢いたいです。」

武田信玄は菊姫と松姫を抱いて、菊姫と松姫を悲しい表情で見た。

松姫は武田信玄に抱き付いて、静かに泣いた。

菊姫も武田信玄に抱き付いて、静かに泣いた。



翌日の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



机に、文が置いてある。



菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。

松姫も部屋の中に微笑んで入ってきた。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。昨日より自然な笑顔の時間が増えたわよ。」

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。父上から、奇妙丸様がお松に宛てた文を預かったの。」

松姫は菊姫に不思議な様子で話し出す。

「父上は今日も来たのですか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「父上から文を預かったのは、昨日なの。父上は、お松と私が、文を落ち着いて読むために、文の返事を落ち着いて書くために、翌日以降に文を読むように話したの。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「父上は凄いです。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「今回から、母上に質問も相談もできません。父上に文の返事の確認を常に頼めません。緊張してきました。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私の縁談が決まって屋敷を去るまで、私が居るわ。お松は織田家に嫁ぐ日が正式に決まったら、奇妙丸様の傍で過ごすわ。緊張しないで。」

松姫は菊姫を恥ずかしく見た。

菊姫は文を微笑んで取った。

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に文を微笑んで渡した。

松姫は文を微笑んで受け取った。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を丁寧に広げると、文を微笑んで読み始めた。

菊姫は松姫と文を微笑んで見た。



お松へ

初春になったね。

岐阜は、寒さの感じる日が続くね。

岐阜は、天気の良い日は僅かだが暖かさを感じる時がある。

甲斐の国も同じなのだろうか。

母上に関する連絡が届いた。

お松の気持ちを想像すると辛くなる。

お松の気持ちを想像すると悲しくなる。

私はお松の傍に居られない。

辛さ、悲しさ、悔しさ。

様々な想いを抱いている。

今の私が、お松のために何が出来るか考えた。

私はお松のために文を書くと決めた。

お松に宛てる文に、歌を添えたいと考えた。

お松に贈りたい思う歌がたくさんあるのに、お松に贈る歌に決めようとすると悩んでしまう。

お松に贈りたい歌を再び探した。

お松と語り合いたい歌を見付けた。

天地の いづれの神を 祈らばか 愛し母に また言とはむ

母上と遠く離れた後に、母上と話したいと思った時が幾度もある。

今の私には、歌の質問の答えが分からない。

お松。

共に考えて欲しい。

共に考えた後は、共に笑顔で過ごそう。

暫くは、暖かさを感じる時があっても、寒さを感じる時が多いと思う。

無理をせずに過ごしくれ。

奇妙丸より



松姫は文を持ち、菊姫を考え込んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「“天地の いづれの神を 祈らばか 愛し母に また言とはむ”。歌の意味は、“天の神、地の神、どの神に祈ったら、いとしい母に、また話しができるのでしょうか。”、になると思うわ。」

松姫は文を持ち、悲しく呟いた。

「“天地の いづれの神を 祈らばか 愛し母に また言とはむ”。」

菊姫は松姫を心配して見た。

松姫は文を持ち、悲しく呟いた。

「私も歌の質問の答えが分かりません。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は歌の質問の答えが分からないと文に書いているわ。私も歌の質問の答えが分からないわ。一緒に考えましょう。」

松姫は文を持ち、悲しく呟いた。

「母上と話したいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様も母上を亡くしているわ。私もお松も、母上を亡くしているわ。奇妙丸様も私も、お松の気持ちが分かるわ。」

松姫は文を持ち、菊姫を悲しく見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「父上は、父上と私とお松で、悲しもうと話していたわ。父上に心配を掛けられないから、私とお松で悲しみましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫を悲しく見ている。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「今の母上は、私もお松も慰められないわ。今の奇妙丸様は、お松を慰められないわ。」

松姫は文を持ち、菊姫を悲しく見ている。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松は奇妙丸様の許婚よ。お松は奇妙丸様に心配を掛けないために、悲しい内容の文は書けないのよ。お松。泣きたい時は、私の傍で泣いてから、文の返事を書きなさい。」

松姫は文を持ち、菊姫に悲しく話し出す。

「姉上。私を励ましています。辛くないですか? 悲しくないですか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私も辛くて悲しいわ。辛くて悲しいけれど、お松がいるから、辛さと悲しさを堪えようとしていたの。父上に抱き付いて泣いたら、辛さと悲しさが僅かずつ落ち着き始めたの。」

松姫は文を持ち、菊姫に悲しく話し出す。

「私は奇妙丸様の許婚です。私は奇妙丸様を支える立場です。私が泣き続ける訳にはいきません。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。今回も文の返事の相談に乗ってください。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。



奇妙丸様へ

文を読みました。

奇妙丸様の気遣いが伝わる文でした。

奇妙丸様の優しさが伝わる文でした。

ありがとうございます。

歌の贈り物をありがとうございます。

天地の いづれの神を 祈らばか 愛し母に また言とはむ

私も歌の質問の答えが分かりません。

奇妙丸様が一緒に考えて頂けると文に書いてありました。

奇妙丸様の傍で一緒に考えたいです。

奇妙丸様の傍で過ごす日が待ち遠しいです。

奇妙丸様が元気に過ごされていると分かり安心しました。

私も元気に過ごせます。

暫くは、暖かさを感じる時があっても、寒さを感じる時が多いと思います。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



「天地の いづれの神を 祈らばか 愛し母に また言とはむ」

「天の神、地の神、どの神に祈ったら、いとしい母に、また話しができるのでしょうか。」

今の奇妙丸には、歌の質問の答えが分からない。

今の菊姫にも、歌の質問の答えが分からない。

今の松姫にも、歌の質問の答えが変わらない。

歌の質問の答えが分かる日が訪れるのか。

答えを知る人物は、誰なのか。

菊姫と松姫は、油川夫人ならば答えが分かるように思う。

菊姫も松姫も、油川夫人に話しは出来ない。

奇妙丸、菊姫、松姫は、様々な想いの中で、歌の質問の答えを考えている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第二十巻 四三九二番」

「天地の いづれの神を 祈らばか 愛し母に また言とはむ」

ひらがなの読み方は「あめつしの いづれのかみを いのらばか うつくしははに またこととはむ」

作者は「大伴部麻与佐(おほともべのまよさ)」

歌の意味は「天の神、地の神、どの神に祈ったら、いとしい母に、また話しができるのでしょうか。」となるそうです。

原文は「阿米都之乃 以都例乃可美乎 以乃良波加 有都久波々尓 麻多己等刀波牟」

この歌は、いわゆる「防人の歌」で、天平勝宝七年(755年)二月十六日に、下総國(しもふさのくに)の防人部領使(さきもりぶりょうし)である少目(しょうさかん)従七位下の懸犬養宿祢浄人(あがたのいぬかいのすくねきよひと)が提出した22首のひとつです。

なお、つたない歌は載せられなかったそうです。

この歌の注に、「右の一首、埴生郡(はにふのこほり)大伴部麻与佐(おほともべのまよさ)」となるそうです。

埴生郡(はにふのこほり)は、現在の千葉県成田市付近にあたります。

「防人(さきもり)」について簡単に説明します。

防人は、筑紫(つくし)・壱岐(いき)などの北九州の防衛にあたった兵士達の事です。

一説には、崎守(さきもり)の意味があるそうです。

防人には東国の人達が選ばれたそうです。

東国の人達が選ばれた理由については、よく分かってないそうです。

一説には、東国の力を弱めるためともいわれているそうです。

任期は三年で、毎年二月に兵員の三分の一が交替となっていたそうですが、実際には簡単には国に帰してもらえなかったそうです。

東国から行く時は、部領使(ぶりょうし)という役割の人が連れて行ったそうです。

北九州へは徒歩で行ったそうです。

稀な場合だと思いますが、幸運な場合は、船で行く事もあったようです。

帰りは自費だったそうです。

そのため、故郷に帰りたくても帰れない人、無理に帰ろうとして故郷まで帰れずに行き倒れとなる人がいたそうです。

防人の詳細は各自でご確認ください。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀三年(1572年)一月に起きた出来事について簡単に説明します。

上杉謙信が関東に出撃します。

上杉謙信は箕輪城の出城である戸倉城を攻略します。

武田信玄は箕輪城に出陣します。

上杉謙信と武田信玄は対峙する事になります。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

奇妙丸は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

奇妙丸の初陣は、元亀三年(1572年)七月と伝わっています。

初陣の月などから考えて、一月〜二月の間に元服した設定にしました。

松姫に文を書いた後に元服した、松姫が母親の油川夫人を亡くした関係で気遣った、などの理由で、この後の文から名前が変わると考えてください。

奇妙丸が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」と改名するのは後の出来事になります。

元亀四年七月二十八日に天正元年に改元するため、1573年は「元亀四年」と「天正元年」の二つの年号があります。

詳細な月が分からない場合は、「元亀四年」と「天正元年」が混在する可能性があります。

ご了承ください。

「初春」は「しょしゅん」と読むと、「春の初め(←春の季語)。陰暦正月の異称」です。

「[霞初月]、または、[霞初め月]」は、「[かすみそめづき]、または、[かすみぞめづき])」と読みます。

「陰暦正月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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