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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 恵風 われにこそは告らめ 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、奇妙丸・織田信忠[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、

油川夫人[武田信玄の側室、菊姫と松姫の母](名前だけの登場)、



「籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち この岳に菜摘ます兒 家聞かな 告らさね
 そらみつ大和の国は おしなべてわれこそ居れ しきなべてわれこそ座せ
 われにこそは告らめ 家をも名をも」

「万葉集 第一巻 第一番」より

作者:雄略天皇(ゆうりゃくてんのう)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十二の月になっている。

暦は二月になっている。



季節は仲春になっている。



ここは、甲斐の国。



寒さの中に暖かさの気配が現れ始めた。



昨年、武田信玄の側室であり、菊姫の母であり、松姫の母である、油川夫人が亡くなった。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



沈んだ雰囲気は少しずつ減っている。



松姫の部屋。



菊姫は微笑んで居る。

松姫も微笑んで居る。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は年が明けた月に元服を行ったわね。お松の様子を見ると、お松にとっても大切な出来事だと分かるわ。お松の嬉しい様子が伝わるわ。」

松姫は菊姫を微笑んで見ている。

菊姫も松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を不思議な様子で考えながら見た。

菊姫は松姫を不思議な様子で見た。

松姫は菊姫に不思議な様子で話し出す。

「奇妙丸様から頂いた以前の文には、元服について書いてありませんでした。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松は母上が亡くなった時から気持ちが落ち込んでいたわ。奇妙丸様も、お父様も、お松に直ぐに伝えられなかったかも知れないわね。」

松姫は菊姫に落ち込んで話し出す。

「元服は大切な行事です。奇妙丸様にとって大事な行事です。奇妙丸様は私に早く伝えたかったと思います。私が落ち込んでいたから、奇妙丸様が私に伝えたかったかも知れません。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様はお松が母上を亡くして悲しむ気持ちを理解しているわ。お松が奇妙丸様への気持ちをしっかりと文で書けば、奇妙丸様に伝わるわ。落ち込まないで。」

松姫は菊姫に落ち込んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を落ち込んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。母上が生きていれば、今のお松に話す内容があると思うの。話しても良いかしら。」

松姫は菊姫に不思議な様子で話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。奇妙丸様は織田家の嫡男なの。奇妙丸様は織田家の最有力の跡継ぎなの。奇妙丸様は元服を行ったわ。奇妙丸様は年内に初陣に向かう可能性が高いわ。奇妙丸様が戦に係わる機会は増えるわ。今は様々な状況が複雑に絡んでいるわ。今回の奇妙丸様に書く文から、今回の奇妙丸様からお松が受け取る文は、一通一通が重要になるわ。」

松姫は菊姫を不思議な様子で見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に真剣な表情で話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を真剣な表情で見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「奇妙丸様は元服を行ったわ。奇妙丸様は幼名になるわね。元服名で呼ばないと失礼になるわね。」

松姫は菊姫に真剣な表情で話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。落ち着いて。」

松姫は菊姫を見ながら、軽く息をはいた。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は考え込んで居る。

菊姫も考え込んで居る。

菊姫の傍と松姫の傍には、数冊の歌集が置いてある。



松姫は歌集を見ると、菊姫に考え込んで話し出す。

「姉上。信忠様に贈る歌が決まりません。」

菊姫は歌集を見ると、松姫に考え込んで話し出す。

「信忠様の元服を行ったお祝いを表現できる歌を贈りたいわよね。」

松姫は菊姫を見ると、菊姫に考え込んで話し出す。

「はい。」

菊姫は歌集を考え込んで見た。

松姫も歌集を考え込んで見た。

菊姫は松姫を見ると、松姫に微笑んで話し出す。

「お松。歌集の一番の歌を贈りましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。良い考えです。さすがです。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。



信忠様へ

元服の儀を行ったと聞きました。

おめでとうございます。

お祝いの言葉が遅れてしまいました。

私は、私の気持ちでいっぱいで、信忠様のお気持ちを気遣えませんでした。

私は信忠様の正室に相応しい人物になれるように、更なる努力を続けます。

信忠様に歌を贈りたいと考えました。

信忠様への大切な贈り物です。

姉と相談しながら、信忠様への歌の贈り物を決めました。

受け取って頂けると嬉しいです。

籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち この岳に菜摘ます兒 家聞かな 告らさね そらみつ大和の国は おしなべてわれこそ居れ しきなべてわれこそ座せ われにこそは告らめ 家をも名をも

私は信忠様の許婚です。

私は信忠様の正室になるために過ごしています。

私は信忠様の正室として恥ずかしくない女性になります。

信忠様の傍で過ごす日が楽しみです。

信忠様のたくさんの武功を願いながら、信忠様の健康を願いながら、信忠様を想いながら、甲斐の国で様々な内容を姉と共に学んで過ごします。

信忠様からの素敵な報告を、甲斐の国で姉と共に待ちます。

少しずつ春の暖かさを感じる気配が増えてきています。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



お松へ

祝いの文をありがとう。

祝いの歌をありがとう。

姿のみが一人前と言われないように、心身共に一人前と言われるように、更に精進する。

お松が私のために選んだ祝いの歌。

万葉集 第一巻 第一番。

万の言の葉。

一番。

歌の中に菜が登場する。

様々な春を想像する。

お松の歌の選び方に感心した。

私も様々な内容の知識を高めていく。

お松に逢う日が物凄く楽しみだ。

お松と共に過ごす日が物凄く楽しみだ。

これからも、万より数多の言の葉を紡ごう。

お松。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

信忠より



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は文を持ち、文を微笑んで読んでいる。

菊姫は文を微笑んで読んでいる。



松姫は文を持ち、文を微笑んで読み終わった。

菊姫は文を微笑んで読み終わった。

松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を見ると、松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様はお松が歌に込めた気持ちに気付いたわ。さすが信忠様ね。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。



「籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち この岳に菜摘ます兒 家聞かな 告らさね
 そらみつ大和の国は おしなべてわれこそ居れ しきなべてわれこそ座せ
 われにこそは告らめ 家をも名をも」

奇妙丸は今の月より一つ前の月に元服した。

奇妙丸は織田信忠へと名前が変わった。

甲斐の国も岐阜も、様々な事情が複雑に絡む日が続く。

松姫と織田信忠は、お互いを信じて春の季節を過ごしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第一巻 第一番」

作者は「雄略天皇(ゆうりゃくてんのう)」

「籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち この岳に菜摘ます兒 家聞かな 告らさね
 そらみつ大和の国は おしなべてわれこそ居れ しきなべてわれこそ座せ
 われにこそは告らめ 家をも名をも」

ひらがなの読み方は下段に書きます。

「こもよ みこもち ふくしもよ みふくしもち このをかになつますこ いえきかな
 のらさね そらみつやまとのくには おしなべてわれこそをれ
 しきなべてわれこそませ われにこそはのらめ いえをもなをも」

歌の意味は「良いかごを持って、良い串を持って、この丘で菜を摘むお嬢さん。君の家はどこかな、教えてくれないかな。私は大和の国を治めているものです。だから私には教えてくれるでしょうね。君の家も君の名前も。」となるそうです。

原文は下段に書きます。

「籠毛與 美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒 家吉閑名 告紗根
 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居 師吉名倍手 吾己曽座 我許背歯■ 告目
 家呼毛名雄母」

「■」は変換が出来ない文字でした。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀三年(1572年)二月には、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

奇妙丸(後の“織田信忠”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

奇妙丸(後の“織田信忠”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

奇妙丸は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

奇妙丸の初陣は、元亀三年(1572年)七月と伝わっています。

初陣の月などから考えて、一月〜二月の間に元服した設定にしました。

松姫に文を書いた後に元服した、松姫が母親の油川夫人を亡くした関係で気遣った、などの理由で、この時の文から名前が変わったと考えてください。

奇妙丸が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。

ご了承ください。

「仲春(ちゅうしゅん)」は「(春の三ヶ月の真ん中の意味から)陰暦二月の異称」です。

春の季語です。

「恵風(けいふう)」は、「万物を成長させる、めぐみの風。春風。」、「陰暦二月の異称」、「君主の恩恵が広く行きわたるのを風に喩えた語」、です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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