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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 夢見月 花便り 母とふ花の 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
菊姫[武田信玄の四女]、
「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」
「万葉集 第二十巻 四三二三番」より
作者:丈部真麻呂(はせべのままろ)
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十三の月になっている。
暦は三月になっている。
季節は晩春になっている。
ここは、甲斐の国。
温かさを感じる時間が増えている。
花の咲く種類が少しずつ増えている。
ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。
庭。
花の咲く姿が増えている。
菊姫は微笑んで居る。
松姫は微笑んで居る。
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「庭に咲く花が増えています。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「楽しい時間が増えていくわね。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「母上と一緒に庭に咲くたくさんの種類の花を見たかったです。」
菊姫は松姫に微笑んで頷いた。
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「母上も春の庭を見れば、笑顔になる機会が更に増えたと思います。」
菊姫は松姫に微笑んで頷いた。
松姫は菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「母と花が登場する歌を思い出したわ。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「姉上。母と花が登場する歌を教えてください。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「良い機会だから、歌集を見ながら歌について話しましょう。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「良い歌ならば、信忠様に宛てる文の中で贈りたいです。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。良い考えね。母上も喜ぶわ。」
松姫は菊姫を微笑んで見た。
菊姫も松姫を微笑んで見た。
信忠様へ
晩春です。
甲斐の国は、暖かさを感じる日が始まっています。
信忠様はお元気に過ごされているでしょうか。
私は元気に過ごしています。
安心してお過ごしください。
庭に少しずつ花の咲く姿が見られます。
たくさんの花が見られる季節が始まっています。
信忠様の正室として過ごす日のために、たくさんの内容を学んでいます。
姉と庭の花を見て楽しく見ながら、歌などについて話しています。
姉と庭に咲く花を見る間に、姉が母と花が登場する歌を思い出しました。
姉と共に歌の確認をしました。
文に歌を書きます。
「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」
私も姉も、母、の名前の花を知りません。
私も姉も、花の咲く姿を見ると、母が花を笑顔で見る姿を、母が花を見て話した内容を、思い出します。
私も姉も、花の咲く姿を見ると、母と過ごしたたくさんの出来事を思い出します。
母が今回の歌を説明する時には、母の名前の花が有ったとしても、花を手折らずに、花を見て思い出すように、と説明すると思いました。
姉と歌について話す間に、信忠様の名前の花が有れば良いのに、奇妙丸様の名前の花が有れば良いのに、などと、思いました。
信忠様の傍で過ごす日が、一日も早く訪れるように、日々の努力を忘れずに過ごします。
体調に気を付けてお過ごしください。
松より
お松へ
お松が元気に過ごしていると分かり安心した。
私は元気に過ごしている。
安心して過ごしてくれ。
「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」
私も、母、の名前の花を知らない。
私の母も、母の名前の花が有ったとしても、花を手折らずに、花を見て思い出すように、と説明すると思う。
私の名前の花は、私も知らない。
お松の名前の花は、直ぐに分かった。
松の花の咲く時期は限られているが、松は一年を通して見られる。
私はお松を一年より永く見ていたい。
私はお松を永久に見ていたい。
照れる内容を書いてしまった。
今回の文を見せる場合は、最低限の人物にしてくれ。
体調に気を付けて過ごしてくれ。
信忠より
数日後の事。
ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。
庭。
日々、花の咲く姿が増えている。
菊姫は微笑んで居る。
松姫は微笑んで居る。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「信忠様は、元服を終えて、嫡男で、跡継ぎ最有力候補で、家臣などへの立場があるわ。信忠様は、お松への想いを直接的に文に書けないから、勢いで書いた雰囲気にしたのね。信忠様が考えてお松に宛てて文を書いた想いが伝わるわ。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「私は文に信忠様への想いを素直に書けます。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「“時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ”。歌の意味は、“季節ごとに花は咲くのに、どうして“母”という花は咲かないのだろうか。”。歌に直接的に現れない意味に、“咲くのだったら手折っていっしょに行くのに。”。母と離れて過ごさなければならなくなった想いが伝わる歌です。」
菊姫は松姫に微笑んで頷いた。
松姫は菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「私の名前の“菊”は、花の名前に有るけれど、花の咲く季節が限定されるわね。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「私の名前の“松”も、花の名前に有りますが、花の咲く季節が限定されます。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「松ぼっくり、松の葉、松の木、松の花。松は、一年を通して見られるし、一年を通して楽しめるわ。菊と違うわ。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「姉上の話すとおりです。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。花を見た時は、楽しむだけでなく、母上の教えを思い出しましょう。しっかりと過ごしましょう。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫も菊姫を微笑んで見た。
「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」
“母”の名前の花は無いかも知れない。
菊姫と松姫は、“母”の名前の花は無いけれど、花を見て、母を思い出す。
菊姫と松姫は、“母”の名前の花は無いけれど、花を見て、母の願いを思い出す。
松姫は、花を見て、織田信忠への想いを募らせていく。
松姫は、織田信忠との文を交わしながら、織田信忠への想いを募らせていく。
出来事が複雑に絡まりながら、時はゆっくりと過ぎていく。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第二十巻 四三二三番」
「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」
ひらがなの読み方は「ときどの はなはさけども なにすれぞ ははとふはなの さきでこずけむ」です。
作者は「丈部真麻呂(はせべのままろ)」
意味は「季節ごとに花は咲くのに、どうして“母”という花は咲かないのだろうか。(咲くのだったら手折っていっしょに行くのに。)」となるそうです。
原文は「等伎騰吉乃 波奈波佐家登母 奈尓須礼曽 波々登布波奈乃 佐吉泥己受祁牟」
天平勝寶(てんぴょうほうしょう)七年(755年)二月六日に、交代要員として筑紫(ちくし)に派遣された防人(さきもり)達が詠んだ歌の一首だそうです。
「防人(さきもり)」について簡単に説明します。
防人は、筑紫(つくし)・壱岐(いき)などの北九州の防衛にあたった兵士達の事です。
一説には、崎守(さきもり)の意味があるそうです。
防人には東国の人達が選ばれたそうです。
東国の人達が選ばれた理由については、よく分かってないそうです。
一説には、東国の力を弱めるためともいわれているそうです。
任期は三年で、毎年二月に兵員の三分の一が交替となっていたそうですが、実際には簡単には国に帰してもらえなかったそうです。
東国から行く時は、部領使(ぶりょうし)という役割の人が連れて行ったそうです。
北九州へは徒歩で行ったそうです。
稀な場合だと思いますが、幸運な場合は、船で行く事もあったようです。
帰りは自費だったそうです。
そのため、故郷に帰りたくても帰れない人、無理に帰ろうとして故郷まで帰れずに行き倒れとなる人がいたそうです。
防人の詳細については各自でご確認ください。
武田家についての補足です。
油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。
武田軍の関連についてです。
元亀三年(1572年)三月には、大きな動きはありません。
織田家関連について簡単に説明します。
織田信忠(幼名“奇妙丸”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。
織田信忠(幼名“奇妙丸”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。
織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。
元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。
織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)七月と伝わっています。
織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。
「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。
ご了承ください。
「晩春(ばんしゅん)」は「春の終わり。春の末。陰暦三月の異称。」です。
「夢見月(ゆめみづき)」は「陰暦三月の異称」です。
春の季語です。
「花便り(はなだより)」は「花の咲き具合を知らせる便り。特に、桜の花についていう。」
春の季語です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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