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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 正陽 吾のみやかく恋すらむ杜若 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、



「吾のみや かく恋すらむ 杜若 丹つらふ妹は いかにかあるらむ」

「万葉集 第十巻 一九八六番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十四の月になっている。

暦は四月になっている。



季節は初夏になっている。



ここは、甲斐の国。



過ごしやすい日が続いている。



杜若の花が咲く姿が見える。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は歌集を微笑んで読んでいる。



菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は歌集を読むのを止めると、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。歌の勉強中だったのね。邪魔をしてご免なさい。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「今から少し休む予定でした。安心してください。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「今は杜若が咲いているわ。母上のお位牌の前に、杜若を飾りたいと思うの。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「母上が喜びます。さすが姉上です。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。早く行きましょう。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。



菊姫は部屋を微笑んで出て行った。

松姫も部屋を微笑んで出て行った。



暫く後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



油川夫人の位牌の有る部屋。



菊姫は花瓶を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。

松姫は杜若を抱いて、部屋の中に微笑んで入ってきた。



菊姫は花瓶を傍に微笑んで置いた。

松姫は杜若を花瓶に微笑んで挿した。

菊姫は油川夫人の位牌の前に杜若を挿した花瓶を微笑んで置いた。

松姫は油川夫人の位牌に微笑んで話し出す。

「母上。杜若を用意しました。」

菊姫は油川夫人の位牌を微笑んで見た。

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫も松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「部屋を直ぐに出るのは寂しいです。部屋の中で少し話したいです。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私も部屋を直ぐに出るのは寂しいわ。部屋の中で少し話しましょう。」

松姫は考え込んだ。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「考えましたが、何を話して良いのか分かりません。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私からお松に話すわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「お願いします。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様は元服を済ませたわ。信忠様の次に大切な行事は、お松との祝言、と言いたいけれど、初陣が先になる可能性が高いわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を考えながら見た。

菊姫松姫を不思議な様子で見た。

松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「信忠様の元服を済まされた月から考えると、今から遠くない頃に初陣に向かいますね。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「初陣は、余程の状況で無い限り、今後の戦いのため、験を担ぐため、危険な戦いを選ばないわ。今の織田家に危険が迫る噂は聞かないわ。心配しなくて大丈夫よ。」

松姫は菊姫を考え込んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様が、お松は初陣の心配をして長く考え込んでいると知ったら、困惑するわ。母上が、お松の長く考え込む姿を見たら、心配するわ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。



数日後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



油川夫人の位牌の有る部屋。



油川夫人の位牌の前に、杜若が花瓶に挿して飾ってある。



松姫は文を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。

菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は文を持ち、油川夫人の位牌に微笑んで話し出す。

「母上。信忠様から文が届きました。母上の傍で文が読みたいと思いました。」

菊姫は松姫と油川夫人の位牌を微笑んで見た。

松姫は文を丁寧に広げると、文を微笑んで読み始めた。

菊姫は文を微笑んで読み始めた。



お松へ

元気に過ごしているだろうか。

今の甲斐の国は、過ごし易い日が続いている頃だろうか。

お松が笑顔で過ごす姿を想像しながら過ごしている。

岐阜では杜若の花の咲く姿を見る。

杜若の花を見ると、お松の姿を想像する。

杜若の花を見ると、お松の笑顔を想像する。

杜若を見る時も、杜若を見ない時も、お松に早く逢いたいと思いながら過ごしている。

杜若を詠んだ歌をお松に贈りたいと思った。

杜若を詠んだ歌を探した。

お松に杜若を詠んだ歌を贈る。

歌を受け取ってくれると嬉しい。

吾のみや かく恋すらむ 杜若 丹つらふ妹は いかにかあるらむ

お松と共に、杜若の花を見る日を楽しみに待っている。

今は過ごし易い日が続く。

暫く経つと、天気の落ち着かない日が続く頃になっていく。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

信忠より



菊姫は松姫を見ると、松姫に微笑んで話し出す。

「“吾のみや かく恋すらむ 杜若 丹つらふ妹は いかにかあるらむ”。歌の意味は、“こんな風に恋をしているのは私だけなのでしょうか。杜若のようにきれいなあの子はどうなのでしょうか。”、となるわね。信忠様は素敵な歌を選んだわね。」

松姫は文を持ち、菊姫を見て、微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様は、お松を“杜若のようにきれいなあの子”、に重ねて歌を選んだのね。お松の文の返事の内容によって、お松は“杜若のようにきれいなあの子”、だと認める状況になるわ。お松が舞い上がって文の返事を書いたと思われないように、気を付けて文の返事を書きましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ち、油川夫人の位牌に微笑んで話し出す。

「母上。姉上と相談しながら、信忠様への文の返事を書きます。」

菊姫は油川夫人の位牌を見ると、油川夫人の位牌に微笑んで話し出す。

「母上。今回もお松の文の相談にしっかりと答えます。」

松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ち、油川夫人の位牌に微笑んで軽く礼をした。

菊姫は油川夫人の位牌に微笑んで軽く礼をした。



菊姫は部屋を微笑んで出て行った。

松姫は文を持ち、部屋を微笑んで出て行った。



信忠様へ

いつも素敵な文をありがとうございます。

信忠様の文を読む時間は、とても嬉しい時間です。

信忠様の文を読む時間は、とても楽しい時間です。

信忠様が無事に過ごされていると分かり安心しました。

私は元気に過ごしています。

安心してお過ごしください。

素敵な歌の贈り物が届きました。

とても嬉しいです。

ありがとうございます。

甲斐の国にも杜若が咲いています。

信忠様の文を読みながら、杜若の花に喩えられる女性になりたいと思いました。

杜若の花を見ながら、信忠様を想い過ごします。

杜若の花を見ながら、信忠様の傍で過ごす日を楽しみに待ちます。

杜若の花を見る時も、杜若を見ない時も、信忠様にとって相応しい正室になれるように、様々な内容を学びます。

今は過ごし易い日が続きますね。

暫く経つと、天気の落ち着かない日が始まる頃になりますね。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



「吾のみや かく恋すらむ 杜若 丹つらふ妹は いかにかあるらむ」

松姫と信忠は、文を通じて、お互いの想いを確認できる。

松姫と信忠は、文を通じて、お互いの想いを幾重にも重ねている。

松姫と信忠は、杜若の花を見ながら、お互いを想う。

強く繋がる想いの中で、様々な想いの中で、様々な出来事の中で、初夏の時が過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十巻 一九八六番」

「吾のみや かく恋すらむ 杜若 丹つらふ妹は いかにかあるらむ」

ひらがなの読み方は「われのみや かくこひすらむ かきつはた につらふいもは いかにかあるらむ」

作者は「詠み人知らず」

歌の意味は「こんな風に恋をしているのは私だけなのでしょうか。杜若(かきつばた)のようにきれいなあの子はどうなのでしょうか。」となるそうです。

原文は「吾耳哉 如是戀為良武 垣津旗 丹頬合妹者 如何将有」

「杜若(かきつばた)」は、アヤメ科です。

池や川辺などの湿地に生え、紫色や白色の花を咲かせます。

白色の花も、紫色の花も、花弁の真ん中は白色です。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

松姫と織田信忠の縁談が、破談なのか、続いているのか、分からなくなってしまった理由の一つに、「西上作戦(さいじょうさくせん)」があります。

「西上作戦」は、甲斐武田家が、元亀三年(1572年)九月から元亀四年(1573年)四月に掛けて行った遠征をいいます。

武田軍の関連についてです。

元亀三年(1572年)四月には、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。

ご了承ください。

織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠の「具足初め(ぐそくはじめ)の儀」が、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)に執り行われたと伝わっています。

織田信忠の初陣は、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)、または、直ぐ後の日付になるようです。

織田信忠の初陣の相手は「北近江」の「浅井長政」です。

浅井長政の継室は、織田信長の妹の「お市の方」です。

「初夏」は、「しょか」、または、「はつなつ」、と読みます。

「しょか」と読むと、「夏の初め。はつなつ。」(←夏の季語)、「陰暦四月の異称」、です。

「はつなつ」と読むと「夏の初め。しょか。」(←夏の季語)です。

「正陽(せいよう)」は「陰暦四月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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