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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 月不見月 おほほしく相見し子 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
菊姫[武田信玄の四女]、
「雲間より さ渡る月の おほほしく 相見し子らを 見むよしもがも」
「万葉集 第十一巻 二四五十番」より
作者:詠み人知らず
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十五の月になっている。
暦は五月になっている。
季節は仲夏になっている。
ここは、甲斐の国。
蒸し暑さを感じる時が少しずつ増えている。
雨の降る日が続いている。
菊姫と松姫の住む屋敷。
松姫の部屋。
松姫は文を持ち、部屋の中に微笑んで入った。
菊姫は部屋の中に微笑んで入った。
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。信忠様の文を直ぐに読みたい様子が伝わるわ。」
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「私の話す時間が長くなると、お松が信忠様の文を読む時間が遅くなるわね。直ぐに気付かなかったわ。ご免なさい。」
松姫は文を持ち、菊姫に慌てて話し出す。
「信忠様は大切です! 姉上も大切です! 姉上は、信忠様の文の相談以外にも、たくさんの相談に乗ってくれます! 私に遠慮しないで話してください!」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。気を遣ってくれてありがとう。」
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「話の続きは、信忠様の文を読んだ後にしましょう。」
松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は文を持ち、文を広げると、文を微笑んで読み始めた。
菊姫は松姫を見ながら、文を微笑んで読み始めた。
お松へ
梅雨が始まっているね。
雨の降る日が続いているね。
季節は夏だが、涼しさ感じる時があり、蒸し暑さを感じる時がある。
お松が体調を崩していないか気になる。
お松は、私がお松を心配する時があると知れば、お松が私を心配して、体調を崩す可能性があると考えた。
お松が他の人物から話を聞く前に、お松に先に伝えたいと思った。
お松。
体調が悪い時は、隠さずに伝えよう。
共に元気になる方法を考えよう。
悩みがある時は、隠さずに伝えよう。
共に悩みの解決の方法を考えよう。
悲しい時は、隠さずに伝えよう。
共に悲しみを分け合おう。
私とお松。
共に支え合って過ごそう。
昨日、夢を見た。
夢の中で月を見た。
夢の中で見た月は、“雲の間から渡ってゆく月”だった。
夢の中で、素敵な女性の後ろ姿を見た。
夢の中の素敵な女性の後ろ姿は、“雲の間から渡ってゆく月のように、おぼろげに見えただけ”だった。
“雲の間から渡ってゆく月のように、おぼろげに見えただけ”だったが、素敵な女性は、お松だと直ぐに分かった。
お松の姿を見た時は無いが、お松だと分かった。
お松には不思議に感じるかも知れないが、私は不思議に感じなかった。
お松の姿を永く見たいと思ったのに、お松の姿はおぼろげなまま、直ぐに見えなくなった。
お松の姿を早く見たい。
お松の姿を永く見たい。
私の見た夢の中に似た内容の歌を見付けた。
お松への歌の贈り物に決めた。
お松。
歌を受け取ってくれると嬉しい。
雲間より さ渡る月の おほほしく 相見し子らを 見むよしもがも
お松。
寄り添いながら、様々な姿の月を見たい。
寄り添いながら、様々な姿の月を見る日を楽しみに、更に精進を重ねる。
体調に気を付けて過ごしてくれ。
信忠より
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫を見ると、松姫に微笑んで話し出す。
「梅雨の時季は、月が綺麗に見えない日が多くて、月が見られない日も多いわ。今月の異称の一つに、“月不見月”、があるわ。お松への想いと月を見たい想いを重ねて、夢の中にお松と月が現れたと表現したのね。実際に、信忠様の夢の中にお松と月が現れているかも知れないわ。信忠様は、お松の姿を知らないから、素敵な後ろ姿の女性の姿は直ぐに見えなくなったのね。信忠様がお松に早く逢いたい気持ちが伝わるわ。」
松姫は文を持ち、菊姫に恥ずかしく話し出す。
「素敵な女性と表現されるのは照れます。」
菊姫は松姫を見ると、松姫に微笑んで話し出す。
「素敵な容姿を目指して努力する気持ちは大切だけど、素敵と表現する内容は、容姿の他にもあるわ。」
松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「信忠様は嫡男よ。嫡男の正室の立場は責任重大よ。お松は信忠様の正室になるわ。嫡男の正室が素敵なのは容姿のみ、と表現されたら、信忠様の評価が下がってしまうわ。お松は武田家と織田家を繋ぐ役目があるの。しっかりと過ごす必要があるわ。」
松姫は文を持ち、菊姫に緊張して話し出す。
「緊張してきました。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松。織田家で緊張して過ごさないために、今はたくさんの内容を勉強しているのよ。気持ちを楽にしなさい。」
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「“雲間より さ渡る月の おほほしく 相見し子らを 見むよしもがも”。今は、様々な思惑が入り乱れて時が動いているわ。信忠様は様々な思惑が入り乱れて時が動いているけれど、お松に逢えると信じて過ごしているわ。お松も信忠様に逢えると信じて過ごしなさい。」
松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。
「姉上。今回も信忠様の文の返事の相談に乗ってください。」
菊姫は松姫に微笑んで頷いた。
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
信忠様へ
素敵な文をありがとうございます。
梅雨の季節の頃は、雨の降る日が多いですね。
信忠様が元気に過ごされていると分かり安心しました。
私は元気に過ごしています。
安心して過ごしてください。
文と共に、素敵な歌の贈り物が届きました。
ありがとうございます。
信忠様の夢の中に私が現れたと知って嬉しくなりました。
今の私は到らないところが多いので、素敵な女性には遠い場所にいると思います。
信忠様が私を見た時に、夢の中に現れたとおりの素敵な女性だと思うように、様々な内容をしっかりと学びます。
私も信忠様に逢いたいです。
私も信忠様に逢える日が楽しみです。
梅雨が明ければ、暑さが続く夏が始まります。
体調に気を付けてお過ごしください。
松より
「雲間より さ渡る月の おほほしく 相見し子らを 見むよしもがも」
「雲の間から渡ってゆく月のように、おぼろげに見えただけのあの娘を見る方法があればいいのになぁ。」と思う気持ち。
松姫の元に届いた文から、織田信忠の歌に重ねる想いが伝わる。
松姫の元に届いた文から、織田信忠の優しさ伝わる。
今は様々な思惑が入り乱れて時が動いている。
松姫と織田信忠は、お互いの姿を見た時は無いが、文を通じて想いを確かめ合っている。
松姫と織田信忠は、逢う日を待ちながら過ごしている。
松姫と織田信忠は、お互いを信じて過ごしている。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第十一巻 二四五〇番」
「雲間より さ渡る月の おほほしく 相見し子らを 見むよしもがも」
ひらがなの読み方は「くもまより さわたるつきの おほほしく あいみしこらを みむよしもがも」となるうです。
作者は「詠み人知らず」
歌の意味は「雲(くも)の間から渡ってゆく月(つき)のように、おぼろげに見えただけのあの娘を(また)見る方法があればいいのになぁ。」となるそうです。
原文は「雲間従 狭■月乃 於保々思久 相見子等乎 見因鴨」
「■」は文字変換が出来ない可能性があるため、「■」にしました。
「おほほしく」は「ぼんやりと。おぼろげに。」の意味です。
武田家についての補足です。
油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。
武田軍の関連についてです。
元亀三年(1572年)五月には、大きな動きはありません。
織田家関連について簡単に説明します。
織田信忠(幼名“奇妙丸”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。
織田信忠(幼名“奇妙丸”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。
織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。
元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。
織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)七月と伝わっています。
織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。
「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。
ご了承ください。
「仲夏(ちゅうか)」は「夏の半ば。陰暦五月の異称。中夏。」です。
夏の季語です。
「月不見月(つきみずづき)」は「(五月雨[さみだれ]のために月がめったに見られないところから)陰暦五月の異称」です。
夏の季語です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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