このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 松風月 富士の嶺に降り続く雪は 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、



「富士の嶺に 降り続く雪は 六月の 十五日に消ぬれば その夜降りけり」

「万葉集 第三巻 三二〇番」より

作者:高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十六の月になっている。

暦は六月になっている。



季節は晩夏になる。



ここは、甲斐の国。



暑さを感じる時間が続くようになった。



菊姫と松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



菊姫は微笑んで居る。

松姫も微笑んで居る。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「今の時季は暑いわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「食べ物を作る人達。甲斐の国を護る人達。多くの人達が甲斐の国のために暑い中で働いているわ。私達は暑さについて話す時も、甲斐の国のために働く人達の想いを考えて話さなければならないわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松は暑さについて話す時も、信忠様の想いも考えて話さなければならないわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。



数日後の事。



ここは、甲斐の国。



暑さを感じる時間が続いている。



菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は文を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。

菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様は文の中に歌の贈り物を書く機会が多いわ。今回の文の中に歌の贈物があれば、夏の終わり頃の歌の贈り物になるわね。気になるわ。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。信忠様の撰んだ歌の贈り物が気になるのですか?」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様がお松のために贈る歌を通して、信忠様のお松への想いが伝わるの。私は祝言を挙げる相手が決まっていないから、信忠様とお松を通して想像するの。」

松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を微笑んで丁寧に広げた。

菊姫は松姫と文を微笑んで見た。

松姫は文を持ち、文を微笑んで読み始めた。

菊姫は松姫の様子を見ながら、文を微笑んで読み始めた。



お松へ

岐阜は暑い日が続く。

甲斐の国も暑い日が続いていると思う。

お松が元気に過ごしているか気になる。

私は元気に過ごしている。

私の心配はせずに安心して過ごしてくれ。

暑い日が続くので、お松が涼しさを感じられる贈り物を用意したいと思った。

私は岐阜に住んでいる。

お松は甲斐の国に住んでいる。

お松への想いは募るが、贈り物を届ける者達が負担になる物は用意できない。

考えた結果、夏を詠んだ歌で涼しさを感じる歌を贈り物にすると決めた。

今は晩夏の頃だ。

秋の季節の気配を感じる内容の歌を含めた、今の季節に合う涼しさを感じられる歌はある。

私は夏を詠んだ歌で涼しさを感じる歌を贈り物にしたいと思った。

私は夏を詠んだ歌で涼しさを感じる歌を探した。

六月を詠んだ歌で涼しさを感じる歌を見付けた。

六月の異称の一つに、松風月、がある。

お松への歌の贈り物に決めた。

お松。

歌の贈り物を受け取って欲しい。

富士の嶺に 降り続く雪は 六月の 十五日に消ぬれば その夜降りけり

歌を詠んだ当時も、暑さを感じる頃と思われる六月の歌。

六月の雪が登場する歌。

珍しい歌だと思った。

私は歌についても更に勉強を続ける。

お松。

暑さを感じる日は暫く続くと思う。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

信忠より



菊姫は松姫を見ると、松姫に微笑んで話し出す。

「“富士の嶺に 降り続く雪は 六月の 十五日に消ぬれば その夜降りけり”。“六月”の夏の季節に、“富士の嶺に降り続く雪”。一首の歌の中に、夏と雪を詠んだ歌があるのね。夏の六月を詠んだ歌なのに涼しさを感じる歌ね。」

松姫は文を持ち、菊姫を見ると、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「“六月”の異称の一つに、“松風月”、があるわ。“富士の嶺”は、お松への想いの大きさを重ねたのね。“降り続く雪は 六月の 十五日に消ぬれば その夜降りけり”は、お松への想いが途切れない気持ちと重ねたのね。お松への想いを重ねた歌の贈物だと分かるわ。」

松姫は文を持ち、菊姫に恥ずかしく話し出す。

「姉上。照れます。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「照れないで。」

松姫は文を持ち、菊姫を恥ずかしく見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様のお松への贈物の歌は、歌集に掲載している歌だと思うの。調べましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「歌を調べ終わったら、信忠様にお礼の文を書きましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を微笑んで丁寧にたたんだ。



信忠様へ

岐阜の国は暑い日が続いているのですね。

甲斐の国も暑い日が続いています。

信忠様が元気に過ごしていると分かりました。

安心しました。

信忠様。

一首の歌の中に、夏の季節と雪を詠んだ歌の贈り物。

ありがとうございます。

夏の六月に観る雪。

富士の嶺に降る雪を詠んだ歌なので、一首の歌の中に夏と雪が合わせて登場しても不思議な感じになりません。

信忠様の豊富な知識が伝わります。

姉と私で、信忠様の今回の歌の贈り物を詠みました。

姉も私も、涼しさを感じました。

姉が信忠様にお礼を伝える文章を加えて欲しいと頼みました。

姉も私も、感謝しています。

ありがとうございます。

信忠様に相応しい正室になれるように、更に歌を含める勉強に励みます。

暑い日が暫く続きます。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



「富士の嶺に 降り続く雪は 六月の 十五日に消ぬれば その夜降りけり」

六月に降る雪。

富士の嶺に降る雪。

六月十五日に消えても、その夜には雪が降る。

一首の歌の中に、夏と雪が登場する歌。

松姫は、織田信忠の想いに包まれて、暑さを感じる時間なのに、涼しい時間が過ごせた。

松姫は織田信忠への想いは、出来事が複雑に絡まる時の中で、富士の嶺に降る雪のように、絶えずに途切れず続いている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第三巻 三二〇番」

「富士の嶺に 降り続く雪は 六月の 十五日に消ぬれば その夜降りけり」

ひらがなの読み方は「ふじのみねに ふりつづくゆきは みなづきの もちにきぬれば そのよるふりけり」

作者は「高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)」

歌の意味は「富士山に降る雪は、六月十五日に消えるのですが、その夜からまた降り始めるのです。」となるそうです。

原文は「不盡嶺尓 零置雪者 六月 十五日消者 其夜布里家利」

富士山を詠んだ歌は、十一首あります。

第三巻、第四巻、第十一巻、に限定されています。

富士山は、宝永四年(1707年)の噴火以来、活動を休止しています。(※物語掲載時点)

900年頃までは、活動をしていたようです。

「竹取物語(かぐや姫)」の最後にも、富士山ら煙が昇っていることが書かれています。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田軍の関連についてです。

元亀三年(1572年)六月には、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)七月と伝わっています。

織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。

ご了承ください。

「晩夏(ばんか)」は、「夏の終わり(←夏の季語)」、「陰暦六月の異称」、です。

「松風月(まつかぜづき)」は「(風を待つ[松]月の意味から)陰暦六月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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