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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 愛逢月 汝が恋ふる 袖振る 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、



「汝が恋ふる 妹の命は 飽き足らに 袖振る見えつ 雲隠るまで」

「万葉集 第十巻 二〇〇九番」

作者:柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十七の月になっている。

暦は七月になっている。



季節は初秋になる。



七夕の行われる月になる。



ここは、甲斐の国。



暑さを感じる日が続いている。



ここは、菊姫と松姫が住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は文を持ち、部屋の中に微笑んで入った。

菊姫は部屋の中に微笑んで入った。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「今月は七夕が行われる月ね。信忠様は、七夕が行われる前に、お松に七夕を詠んだ歌の贈り物を用意した可能性があるわ。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「信忠様から素敵な歌の贈り物をたくさん頂きます。姉上の話を聞いて、期待が高まってきました。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様が七夕を詠んだ歌の贈り物を用意していない場合は、お松が信忠様に七夕を詠んだ歌の贈り物を用意しましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「七夕を詠んだ歌の贈り物を用意する場合は、決めるまでに時間が掛かると思います。信忠様からの文を早く読みたいです。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を丁寧に微笑んで広げた。

菊姫は松姫と文を微笑んで見た。



お松へ

元気に過ごしているだろうか。

七夕の行われる前に届いて欲しいので、急いで文を書いた。

お松が文を読む時は七夕の行われる月になっていると思う。

お松が七夕の行われる月に文を読むと信じて、文を書く。

甲斐の国も暑さを感じる日が続いていると思う。

綺麗な青空を見る時、青空に浮かぶ白い雲を見る時、お松と共に同じ光景を見たいと思う。

七夕の行われる月は、綺麗な青空を見る時間が増えていく、青空に浮かぶ白い雲を見る時間も増えていく。

私がお松を想う時間は更に増えていく。

文を書きながら恥ずかしくなってしまった。

今回もお松に歌の贈り物を用意した。

受け取ってくれると嬉しい。

汝が恋ふる 妹の命は 飽き足らに 袖振る見えつ 雲隠るまで

今回の歌は万葉集に掲載されている歌だ。

袖振る、行為には、親しい人に自分の気持ちを伝える事が出来ると信じられていたそうだ。

私は、相手が袖振らなくても、相手の気持ちに気付きたい。

私は未熟なところが多いため、様々な精進が必要だ。

今回は短い文になって申し訳ない。

暫く暑さを感じる日が続くと思う。

体調に気を付けて過ごしてくれ。

素敵な七夕を過ごしてくれ。

織田信忠より



松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「“汝が恋ふる 妹の命は 飽き足らに 袖振る見えつ 雲隠るまで”。信忠様の文の内容から想像すると、七夕に関連した歌のようね。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様からの歌の贈り物のお礼を文に書くために、信忠様がお松に贈った歌について調べましょう。信忠様への感謝の気持ちを表わすために、文の返事が七夕の行われる前に届くように書きましょう。」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。



信忠様へ

私は元気に過ごしています。

信忠様が元気に過ごしていると分かり安心しました。

七夕の行事より前に文が届きました。

嬉しいです。

ありがとうございます。

姉と共に歌について調べました。

信忠様からの七夕を詠んだ歌の贈り物。

嬉しいです。

ありがとうございます。

信忠様の教養の深さを実感する出来事が更に増えました。

私は信忠様の正室として過ごす素晴らしさを更に実感しました。

私は信忠様の正室に相応しい女性と喩えられるように、更に努力します。

私は、彦星と織姫は、離れて過ごす日が多いけれど、想いは通じ合っている、と思っています。

私は、想いは通じ合っているとしても、織姫が彦星のために袖振る気持ちが分かるように思います。

私は、七夕の夜空に輝く星を見ながら、信忠様を想い、袖振りたいと思いました。

姉が、信忠様は私の気持ちを分かっているから、袖振らなくても大丈夫だと話しました。

私は、織姫が彦星を想いながら袖振る気持ちを想像しながら、七夕の夜空に輝く星に袖振りたいと思います。

暑さを感じる日が暫く続くと想います。

体調に気を付けてお過ごしください。

素敵な七夕をお過ごしください。

松より



幾日か後の事。



ここは、甲斐の国。



星が輝く姿が見える。



菊姫と松姫が住む屋敷。



松姫の前に在る庭。



菊姫は星を微笑んで見ている。

松姫も星を微笑んで見ている。



松姫は袖を振り、星を微笑んで見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は袖を振り、星を微笑んで見ている。

菊姫は袖を振り、星を微笑んで見た。

松姫は袖を振るのを止めると、菊姫を微笑んで見た。

菊姫は袖を振るのを止めると、松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松を見る間に、七夕の夜空に輝く星に袖振りたいと思ったの。」

松姫は菊姫を微笑んで見ている。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「私とお松が、七夕の夜空に輝く星に袖振り続けると、彦星にも織姫にも、迷惑になるわね。七夕の夜空に輝く星は、袖振らず、見ましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は星を微笑んで見た。

松姫も星を微笑んで見た。



幾日か後の事。



ここは、甲斐の国。



暑さを感じる日が続いている。



菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は考え込んで居る。



菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は菊姫を考え込んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。たくさん考えている様子ね。」

松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「姉上。初陣は立派な武将になるために大切な出来事です。信忠様は織田家の嫡男です。信忠様には初陣を立派に務めて欲しいです。信忠様の初陣の相手を知るまでは、以上の内容を思っていました。」

菊姫は松姫に考えながら話し出す。

「信忠様の初陣の相手は、浅井家だと聞いたわ。浅井家は、信長様の妹君のお市様の嫁ぎ先ね。信忠様の初陣の相手は、父上の妹君の嫁ぎ先になるのね。」

松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「信忠様は複雑な気持ちの中で初陣を務めているかも知れません。信忠様が心配です。」

菊姫は松姫に考えながら話し出す。

「お松の気持ちは分かるわ。」

松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「次回の信忠様への文を書く時には、初陣の内容は避けて通れません。信忠様の初陣について何を書いて良いのか分かりません。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松は信忠様の初陣を無事に務めて欲しいと願っているわ。お松は信忠様に初陣を無事に務めて欲しいと書いて良いと思うわ。」

松姫は菊姫を考えながら見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「姉上。信忠様の初陣が終わるまで、文を書くのは止める方が良いですよね。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「信忠様からお松への文が届いて、文の中に返事の期日の指定が無ければ、お松は遠慮せずに文の返事を書いて良いと思うわ。信忠様から長く文が届かない場合は、戦況によって、文を書く時を考える方が良いと思うわ。」

松姫は菊姫に考え込んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。信忠様は今後も戦いを経験するわ。信忠様が安心して戦えるように、笑顔でしっかりと過ごしなさい。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。



「汝が恋ふる 妹の命は 飽き足らに 袖振る見えつ 雲隠るまで」

松姫の想い。

織田信忠の想い。

彦星と織姫は、松姫と織田信忠の二つの想いを途切れず繋げられるのか。

地上で過ごす人物の中で、答えを知る人物は居ない。

答えが分かる人物は、彦星と織姫のみかも知れない。

愛逢月は様々な想いの中でゆっくりと過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十巻 二〇〇九番」

「汝が恋ふる 妹の命は 飽き足らに 袖振る見えつ 雲隠るまで」

ひらがなの読み方は「ながこふる いものみことは あきだらに そでふるみえつ くもがくるまで」

作者は「柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より」

歌の意味は「あなたが慕う織姫は、恋しい気持ちを抑えられないので、袖を振っていましたよ、雲に隠れてしまうまで。」となるそうです。

原文は「汝戀 妹足尓 袖振所見都 及雲隠」

七夕を詠んだ歌の一首です。

「袖振る(そでふる)」について補足です。

万葉の頃の衣の袖は、筒袖(つつそで)で、袖丈(そでたけ)が手よりも長いものがあったそうです。

「袖振る」は、文字通り、袖を振る事ですが、人の魂を鎮(しず)めたり、親しい人に自分の気持ちを伝える事が出来ると信じられていました。

「七夕(たなばた)」についてです。

旧暦の七月十五日の夜に戻って来る先祖の霊に着せる衣服を機織して棚に置いておく風習があり、棚に機で織った衣服を備える事から「棚機(たなばた)」という言葉が生まれたそうです。

その後、仏教が伝来すると七月十五日は仏教上の行事の「盂蘭盆(うらぼん)」となり、棚機は盆の準備をする日ということになって、七月七日に繰り上げられたそうです。

これに中国から伝わった織女・牽牛の伝説が結び付けられ、天の川を隔てた織姫(織姫星・琴座のベガ)と彦星(牽牛星・鷲座のアルタイル)が年に一度の再開を許される日となったそうです。

元は宮中行事だったそうです。

現在の様に一般的に行われるようになったのは、江戸時代からだそうです。

そして、現在の「七夕」の形に近くなってきたのも江戸時代からだそうです。

笹などを飾り付ける風習は、江戸時代頃から始まり、日本だけに見られる風習だそうです。

「陰暦」を基にして物語を書いているので、現在の暦と少しずれています。

陰暦の「七夕」は、現在の暦で七月中旬から八月下旬の間になるので、落ち着いた天気の日が増えていると思います。

現在の暦の七月七日の「七夕」は、天気の悪い日や雨が降る日が多いと思います。

武田信玄の正室の三条夫人は公家の出身です。

織田信長も京の都を意識していたと思います。

「七夕」の行事の内容や規模など、詳しい事は分かりませんが、「七夕」の行事を行っていた可能性はあると思います。

この物語は、時期に関しては、陰暦の七月七日を元にして書きましたが、行事の内容は、現在の「七夕」を少し元にして書きました。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

織田家が浅井家を攻めた頃は、武田家と浅井家は繋がりが有り、織田信長の妹のお市の方が浅井長政に嫁いでいました。

松姫と織田信忠の縁談が、破談なのか、続いているのか、分からなくなってしまった理由の一つに、「西上作戦(さいじょうさくせん)」があります。

西上作戦は、甲斐武田家が、元亀三年(1572年)九月から元亀四年(1573年)四月に掛けて行った遠征をいいます。

武田軍の関連についてです。

元亀三年(1572年)七月には、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。

ご了承ください。

織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠の「具足初め(ぐそくはじめ)の儀」が、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)に執り行われたと伝わっています。

織田信忠の初陣は、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)、または、直ぐ後の日付になるようです。

織田信忠の初陣の相手は「北近江」の「浅井家」の「浅井長政」です。

浅井長政の継室は、織田信長の妹の「お市の方」です。

織田信忠の初陣の相手は、父親(織田信長)の妹(お市の方)の嫁ぎ先になります。

「初秋(しょしゅう)」についてです。

「秋の初め(←秋の季語)」、「陰暦七月の異称」、です。

「愛逢月」についてです。

物語の掲載日まで、「あいぞめづき」の読み仮名で説明していました。

「めであいづき」の読み仮名があります。

「(牽牛と織姫が互いに愛して逢うという月のことで)陰暦七月の異称」です。

秋の季語です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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