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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 中秋 天つみ空に照る月 我が恋 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、



「久方の 天つみ空に 照る月の 失せなむ日こそ 我が恋止まめ」

「万葉集 第十二巻 三〇〇四番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十八の月になっている。

暦は八月になっている。



季節は仲秋になる。



ここは、甲斐の国。



日中は暑さを感じる時があるが、陽が沈むと涼しさを感じるようになってきた。



松姫と菊姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



菊姫は本を普通の表情で読んでいる。

松姫も本を普通の表情で読んでいる。



菊姫は本を普通の表情で閉じた。

松姫は菊姫を普通の表情で見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。本を読んで勉強する時間は終わりましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「次は、姉上と一緒に長刀の稽古ですね。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「長刀の稽古を始める前に、少しだけ休憩しましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。気になる出来事や心配事があるわね。遠慮せずに話しなさい。」

松姫は菊姫を考えながら見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫に考えながら話し出す。

「信忠様は初陣の最中です。信忠様の初陣の相手は、父上の信長様の妹君のお市様の嫁ぎ先です。信忠様が悩みながら初陣を務めていないか心配です。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「相手を強く想うと、相手に想いが通じるそうよ。お松が信忠様を強く心配しながら想い続けると、信忠様にお松の心配する想いが伝わる可能性があるわ。信忠様の戦の最中に、お松の心配する気持ちが通じると困るわ。お松は、信忠様のために、信忠様を信じて、しっかりと過ごしなさい。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。



翌日の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



玄関。



武田信玄が微笑んで来た。



菊姫は笑顔で来た。

松姫は笑顔で来た。



武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。元気だな。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「父上の元気な姿が見られました。嬉しいです。」

松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「私も父上の元気な姿が見られました。嬉しいです。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。

菊姫は武田信玄を微笑んで見た。

松姫も武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お松。お菊。部屋で話そう。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫と松姫を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



一室。



武田信玄は微笑んで居る。

菊姫も微笑んで居る。

松姫も微笑んで居る。



菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「父上。戦などで忙しい時間が続きますよね。私もお松も、元気に過ごしています。余裕の出来た時間は、父上の休む時間に使ってください。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊の笑顔とお松の笑顔を見ると、元気になる。お菊とお松と共に話すと、楽しい気持ちになる。お菊とお松と逢う時間は、心を穏やかにする大切な時間だ。安心しなさい。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。

菊姫は武田信玄を微笑んで見た。

松姫も武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「信忠殿は初陣の最中だ。お松は心配事が増えていると思う。お菊も心配事が増えていると思う。」

松姫は武田信玄に申し訳なく話し出す。

「父上。戦などで忙しいのに、心配を掛けて申し訳ありません。」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「お松はしっかりとしている。父は心配せずに戦と政が出来る。信忠殿は心配せずに初陣を務めていると思う。」

松姫は武田信玄を微笑んで見た。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。今月の間に、信忠殿に文を書く考えはあるか?」

松姫は武田信玄に不思議な様子で話し出す。

「信忠様は初陣の最中ですよね。私が文を書いて良いのですか?」

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「織田家の戦況が劣勢の噂を聞かない。信忠殿が初陣を務める場所の戦況が劣勢の噂を聞かない。信忠殿に、長文の文を書かなければ、数多の文を書かなければ、問題は起きない。」

松姫は武田信玄を考えながら見た。

菊姫は武田信玄を不思議な様子で見た。

武田信玄は松姫に微笑んで話し出す。

「父が信忠殿に文を届ける手配をする。お松は安心して文を書きなさい。」

松姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。今回もお松の文を書く時の相談に乗って欲しい。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。



暫く後の事。



ここは、菊姫松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



菊姫は考えながら居る。

松姫も考えながら居る。



松姫は菊姫に考えながら話し出す。

「姉上。今は、甲斐の国を含めて、他国や他の場所などで様々な交渉中の噂を聞きます。」

菊姫は松姫に考えながら頷いた。

松姫は菊姫に不安な様子で話し出す。

「姉上。武田家の関係する国か織田家の関係する国で何か起きるのでしょうか?」

菊姫は松姫に考えながら話し出す。

「今は、様々な場所で、様々な思惑が動いているわ。父上にとって、気になる出来事があるのかも知れないわね。」

松姫は菊姫に不安な様子で話し出す。

「今後、信忠様に文を書く制限があるのでしょうか?」

菊姫は松姫に考えながら話し出す。

「可能性はあるわ。」

松姫は菊姫を不安な様子で見た。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を不安な様子で見ている。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「父上は、お松が様々な噂を聞く機会があるから、お松が動揺しないために、話しに来たのかも知れないわ。父上はお松が信忠様の初陣で心配する様子を知って励ますために逢いに来たのかも知れないわ。」

松姫は菊姫に不安な様子で話し出す。

「何かが起きているとしても、私は詳しい状況が分かりません。私の書いた文が、甲斐の国に、信忠様に、大きな影響を与える可能性があります。信忠様に宛てる文の内容が思い浮かびません。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「今後、お松が信忠様に書く文は、信忠様がお松に書く文は、重要な意味を持つ可能性があるわ。お松が気負って文を書くと、父上も信忠様も、心配するわ。お松は様々な思惑に想いを乱さずに、信忠様に今までどおりに文を書きなさい。」

松姫は菊姫に不安な様子で話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。不安な様子が伝わる返事よ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は菊姫を微笑んで見た。



信忠様へ

信忠様が初陣を務めていると聞きました。

信忠様の立派な初陣の姿を想像して過ごしています。

今月は中秋の名月が観られますね。

信忠様の初陣が中秋の名月を観る日より前に終わったとしても、たくさんの忙しい出来事が続いて、中秋の名月を落ち着いて観る時間は少ない可能性がありますね。

姉と共に、信忠様に十五夜の宴を楽しんで頂きたいと思って、歌を探しました。

歌の贈り物を受け取って頂けると嬉しいです。

久方の 天つみ空に 照る月の 失せなむ日こそ 我が恋止まめ

私は信忠様の傍で過ごせる日を楽しみに待ちながら過ごしています。

信忠様に迷惑を掛けないために、短い文を書く考えでいました。

気付いたら、長い文になっていました。

申し訳ありません。

信忠様の御武運を信じて、信忠様の御無事を信じて、過ごします。

信忠様の御武運を信じて、信忠様の御無事を信じて、中秋の名月を観ながら歌を詠みます。

松より



お松へ

文をありがとう。

歌の贈り物をありがとう。

お松が元気に過ごす様子が伝わる。

安心した。

戦いは常に油断が出来ない。

私は、織田家一族や家臣を含めた多くの命を預かって戦っている。
一日も早く立派に成長したいと思う時が続く。

十五夜の宴を落ち着いて楽しむ時間は作れないかも知れないが、中秋の名月は必ず観る。

中秋の名月以外になるかも知れないが、月を観ながら、お松からの歌の贈り物を詠む。

久方の 天つみ空に 照る月の 失せなむ日こそ 我が恋止まめ

私もお松と同じ想いだ。

お松。

体調に気を付けて過ごして欲しい。

信忠より



「久方の 天つみ空に 照る月の 失せなむ日こそ 我が恋止まめ」

今月は、中秋の名月が観られる。

今月も、様々な場所で、様々な思惑が入り乱れている。

松姫と織田信忠は、中秋の名月に想いを重ねて、文に想いを重ねて、想いを通わせている。

松姫と織田信忠は、様々に流れる時の中で、様々な想いの中で、複雑に絡まる思惑の中で、過ごしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十二巻 三〇〇四番」

作者は「詠み人知らず」

「久方の 天つみ空に 照る月の 失せなむ日こそ 我が恋止まめ」

ひらがなの読み方は「ひさかたの あまつみそらに てるつきの うせなむひこそ あがこひやまめ」

歌の意味は「空に照る月がなくなる日があるのなら、そのときこそ私の恋心が無くなるでしょう。」となるそうです。

原文は「紅之 淺葉乃野良尓 苅草乃 束之間毛 吾忘渚菜」

「久方の(ひさかたの)」は、「天(あま)」を導く枕詞です。

「月がなくなる日は来ないでしょう。だから、私があなたを思う気持ちがなくなるなんて事はありえないですよ。」という気持ちを表わしています。

「十五夜(じゅうごや)」と「中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)」についてです。

「陰暦の八月十五日の夜。満月の夜。」をいいます。

別名には「芋名月(いもめいげつ)」があります。

この時期は、古来より観月に最も良い時節とされています。

秋や冬は空気が乾燥して月が鮮やかに見える事、それに、夜でもそれほど寒くないために、名月として観賞されるようになったそうです。

中国にも同様の風習が唐の時代に確認されているそうです。

更に古くからある事も考えられます。

日本には九世紀から十世紀の頃に渡来したそうです。

貴族を中心に行なっていたそうですが、後に武士や町民にも広まったそうです。

酒宴を開いたり、詩や歌を詠んだり、薄を飾ったり、月見団子・里芋・枝豆・栗などを持ったり、お酒を供えて月を眺めたそうです。

「お月見料理」というそうです。

中国では「月餅」を作ってお供えするそうです。

「月餅」が日本に来て「月見団子」に変わったそうです。

お月見が一般的に行なわれるようになったのは、江戸時代からだそうです。

お月見団子は一般的には自分の家庭で作るそうです。

お月見団子の数は、その年の月の数だけ供えるそうです。

2011年の「中秋の名月・十五夜」は、「2011年9月12日」だそうです。

ご確認ください。

風習の関係から、今回の「十五夜」の他に「十三夜」の物語も掲載予定です。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

松姫と織田信忠の縁談が、破談なのか、続いているのか、分からなくなってしまった理由の一つに、「西上作戦(さいじょうさくせん)」があります。

西上作戦は、甲斐武田家が、元亀三年(1572年)九月から元亀四年(1573年)四月に掛けて行った遠征をいいます。

武田軍の関連についてです。

元亀三年(1572年)八月は、大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。

ご了承ください。

織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠の「具足初め(ぐそくはじめ)の儀」が、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)に執り行われたと伝わっています。

織田信忠の初陣は、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)、または、直ぐ後の日付になるようです。

織田信忠の初陣の相手は「北近江」の「浅井家」の「浅井長政」です。

浅井長政の継室は、織田信長の妹の「お市の方」です。

織田信忠の初陣の相手は、父親(織田信長)の妹(お市の方)の嫁ぎ先になります。

「天つ空(あまつそら)」には、「大空。天上の世界。手の届かない遠い所。」、「皇居。宮中。天皇。」、「心が落ち着かぬこと。うわのそら。」、の意味があります。

「仲秋(ちゅうしゅう)」は「(秋の三ヶ月の真ん中の意味から)陰暦八月の異称」です。

秋の季語です。

「中秋(ちゅうしゅう)」は「陰暦八月十五日」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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