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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 後の月見 見まく欲しけく 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、



「妹が目の 見まく欲しけく 夕闇の 木の葉隠れる 月待つごとし」

「万葉集 第十一巻 二六六六番」より

作者:詠み人知らず



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、五十九の月になっている。

暦は九月になっている。



季節は晩秋になる。



ここは、甲斐の国。



一日を通して過ごしやすい日が続くが、天気の悪い日は、陽が落ちると僅かに肌寒さを感じるようになった。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は考えながら居る。

菊姫は考えながら居る。



松姫は菊姫に考えながら話し出す。

「信忠様が初陣で戦った浅井長政殿が、戦いの中で自害して亡くなりました。浅井家は、織田家にも武田家にも繋がりがあります。今後、何が起きるか分かりません。不安です。」

菊姫は松姫に考えながら話し出す。

「お松が不安になる気持ちは分かるわ。」

松姫は菊姫を不安な様子で見た。



暫く後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



一室。



武田信玄は部屋の中に微笑んで入ってきた。

菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。

松姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。



武田信玄は懐から文を微笑んで取り出した。

松姫は武田信玄と文を不思議な様子で見た。

菊姫も武田信玄と文を不思議な様子で見た。

武田信玄は松姫に文を微笑んで渡した。

松姫は武田信玄から文を不思議な様子で受け取った。

菊姫は文を不思議な様子で見た。

松姫は文を持ち、文を不思議な様子で見た。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「信忠殿がお松に宛てた文だ。」

松姫は文を持ち、武田信玄を不思議な様子で見た。

菊姫は武田信玄を不思議な様子で見た。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「今は様々な思惑が乱れて時が過ぎている。お菊もお松も、不思議に思うのは当然だ。」

松姫は文を持ち、武田信玄と文を不思議な様子で見た。

菊姫は武田信玄と文を不思議な様子で見た。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「今は、信忠殿に文を届けられる状況だ。信忠殿が書いた文を直ぐに読みなさい。信忠殿が書いた文を読んだら、信忠殿に出来るだけ早く文の返事を書きなさい。」

松姫は文を持ち、武田信玄を緊張して見た。

菊姫は武田信玄を緊張して見た。

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。緊張するな。」

松姫は文を持ち、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫に微笑んで話し出す。

「お菊。今回もお松が文を書く相談に乗りなさい。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。

「お菊。お松。父は部屋で待っている。父に遠慮せずに、部屋に戻りなさい。信忠殿の書いた文を読んで、信忠殿に文の返事を書きなさい。」

松姫は文を持ち、武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は武田信玄に微笑んで話し出す。

「はい。」

武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで頷いた。


菊姫は部屋を微笑んで出て行った。

松姫は文を持ち、部屋を微笑んで出て行った。


少し後の事。


ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。


松姫の部屋。


菊姫は部屋の中に考えながら入ってきた。

松姫は文を持ち、部屋の中に考えながら入ってきた。


松姫は文を持ち、菊姫に不安な様子で話し出す。

「父上の話の内容から想像すると、今回は信忠様に文を届けられても、次回は信忠様に文を届けられない可能性があります。」

菊姫は松姫に考えながら頷いた。

松姫は文を持ち、菊姫に寂しく話し出す。

「私の書く文は、政局の一つとして利用されるのですね。」

菊姫は松姫に真剣な表情で話し出す。

「私もお松も、甲斐の国を治める武田家の当主の娘よ。私もお松も、武田家のために、甲斐の国のために、甲斐の国に住む人達のために、生きているの。お松は、武田家と織田家を繋げる役目を担うために、織田家の嫡男の信忠様と婚約したの。信忠様の書いた文からは、お松を気遣う様子が伝わるわ。信忠様は優しく素晴らしい人物だわ。お松は信忠様に逢えて幸せだわ。お松は信忠様を信じると決めたわ。お松は信忠様を信じ抜きなさい。先程の父上の話す内容から想像すると、お松の書く文の内容で、武田家と織田家の関係が好転する可能性、武田家と織田家の関係が悪化する可能性、武田家と織田家の関係は変化しない可能性、全ての可能性が考えられるわ。」

松姫は文を持ち、菊姫を真剣な表情で見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。信忠様からの文を真剣な表情で読むの?」

松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。

「笑顔で読みます。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は文を持ち、文を微笑んで広げた。

菊姫は松姫と文を微笑んで見た。



お松へ

月の綺麗な日々が続いているね。

十三夜の月を楽しむ頃になったね。

今年も、お互いに離れた場所から、十三夜の月を観る状況になるね。

お松の傍で、十三夜の月を観たい。

お松の笑顔を観ながら、十三夜の月を観たい。

今年は叶わない希望だとしても、必ず叶う希望と信じて過ごす。

お松も私と同じ気持ちだと信じて過ごす。

お松に十三夜の月に想いを重ねて歌を贈りたいと思った。

お松。

歌を受け取ってくれると嬉しい。

妹が目の 見まく欲しけく 夕闇の 木の葉隠れる 月待つごとし

お松。

文の返事を楽しみに待っている。

お松に逢う日を楽しみに待っている。

私とお松が逢う日まで、体調に気を付けて元気に過ごしてほしい。



信忠様へ

文をありがとうございます。

信忠様に逢いたい気持ちは、時を重ねる事に強まっています。

私も信忠様と同じ気持ちです。

信忠様の傍で、十三夜の月を観る日が待ち遠しいです。

信忠様。

素敵な歌の贈り物をありがとうございます。

私も信忠様と同じ気持ちです。

私も信忠様からの贈り物の歌と同じ気持ちです。

妹が目の 見まく欲しけく 夕闇の 木の葉隠れる 月待つごとし

妹、を、君、に変えると、信忠様への想いを伝えられる歌になるように感じました。

君が目の 見まく欲しけく 夕闇の 木の葉隠れる 月待つごとし

信忠様の傍で、十三夜の月を観る日を楽しみに過ごします。

信忠様に逢う日を楽しみに待ちます。

信忠様。

体調に気を付けてお過ごしください。

松より



幾日か後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



菊姫は本を普通の表情で読んでいる。



松姫が部屋の中に慌てて入ってきた。



菊姫は本を読むのを止めると、松姫を不思議な様子で見た。

松姫は菊姫に不安な様子で話し出す。

「古府中に居る山県殿の別働隊が、三河に向けて出陣したそうです。父上は上洛のための準備中のようです。」

菊姫は松姫を不安な様子で見た。

松姫は菊姫に不安な様子で話し出す。

「三河は、徳川殿が治める土地です。武田家と徳川家は、今も因縁が続いています。織田家は、徳川家と繋がっています。武田家と織田家は、表立って対立していない状況が続いていました。織田家が、徳川家に正式に味方をすれば、武田家と表立って対立する状況になります。」

菊姫は松姫に不安な様子で話し出す。

「お松。織田家が味方をする相手が、徳川家ではなく、武田家の可能性があるわ。今後の状況は確定していないわ。冷静に過ごしなさい。」

松姫は菊姫に不安な様子で話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を不安な様子で見た。

松姫も菊姫を不安な様子で見た。



「妹が目の 見まく欲しけく 夕闇の 木の葉隠れる 月待つごとし」

松姫と織田信忠が逢えない日は続く。

松姫が織田信忠に逢いたい気持ちは、時が過ぎる事に強まっていく。

松姫にとって、織田信忠にとって、大きな意味を持つ出来事が近付いている。

別な方面から見れば、松姫にとって、織田信忠にとって、大きな意味を持つ出来事は、既に訪れていたのかも知れない。

時は、松姫の想いを繋げるのか。

時は、松姫の想いを壊すのか。

時は、様々な気持ちの中で、ゆっくりと過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十一巻 二六六六番」

「妹が目の 見まく欲しけく 夕闇の 木の葉隠れる 月待つごとし」

ひらがなの読み方は「いもがめの みまくほしけく ゆふやみの このはごもれる つきまつごとし」

作者は「詠み人知らず」

歌の意味は「あの娘に逢いたいと思う気持ちは、夕闇に木陰からなかなか出てこない月を待つような気持ち。」となるそうです。

原文は「妹目之 見巻欲家口 <夕>闇之 木葉隠有 月待如」

「十三夜(じゅうさんや)」についてです。

「十三夜(じゅうさんや)」は「陰暦十三日の夜。または、陰暦九月十三日の夜。」です。

「十五夜(じゅうごや)」は「陰暦十五日の夜。または、陰暦八月十五日の夜。」です。

「十五夜」に対しての「十三夜」の場合は、どちらの意味も該当します。

この物語は「陰暦九月十三日の夜」の意味で使用しています。

陰暦八月十五日に次いで月が美しいとされています。

別名は、「後の月(のちのつき)」、「豆名月(まめめいげつ)」、「栗名月(くりめいげつ)」があります。

「十五夜」は中国から渡来した風習ですが、「十三夜」は日本独自の風習です。

十三夜の基となる風習は、戦国時代より前からありました。

江戸時代になってから、町民の間などに広まったそうです。

「十三夜」の時期に食べ頃の大豆や栗を供えるそうです。

「十五夜」だけ、「十三夜」だけ、などと片方しか行なわないのは、「片見月(かたみづき)」といって嫌われたそうです。

「十三夜」は、現在の暦にすると毎年十月頃になります。

毎年のように日付が違います。

2011年の十三夜は、2011年10月9日です。

ご確認ください。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

松姫と織田信忠の縁談が、破談なのか、続いているのか、分からなくなってしまった理由の一つに、「西上作戦(さいじょうさくせん)」があります。

西上作戦は、甲斐武田家が、元亀三年(1572年)九月から元亀四年(1573年)四月に掛けて行った遠征をいいます。

織田家が浅井家を攻めた頃は、武田家と浅井家は繋がっていて、織田信長の妹のお市の方が浅井長政に嫁いでいました。

武田軍の関連についてです。

元亀三年(1572年)九月の動きです。

元亀三年九月二十九日(1572年11月4日)に、山県昌景の別働隊が三河に向けて、古府中を出陣します。

武田信玄が将軍の足利義昭の要請を受けて、三万近くの本隊を率いて上洛戦を開始するのは、元亀三年十月三日(1572年11月7日)になります。

織田家関連について簡単に説明します。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。

ご了承ください。

織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠の「具足初め(ぐそくはじめ)の儀」が、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)に執り行われたと伝わっています。

織田信忠の初陣は、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)、または、直ぐ後の日付になるようです。

織田信忠の初陣の相手は「北近江」の「浅井家」の「浅井長政」です。

浅井長政の継室は、織田信長の妹の「お市の方」です。

織田信忠の初陣の相手は、父親(織田信長)の妹(お市の方)の嫁ぎ先になります。

浅井長政は、織田家との戦いの中で、元亀三年九月一日(1572年9月26日)に自害して亡くなります。

織田信忠にとっての次の大きな戦は、元亀三年(1572年)十二月頃の遠江の二俣城の戦いや三方ヶ原の戦いになります。

「後の月見(のちのつきみ)」は「陰暦九月十三夜の月見。陰暦八月十五夜の月見に対していう。」

秋の季語。

「晩秋(ばんしゅう)」は、「秋の終わり。秋の末。」(秋の季語)、「陰暦九月の異称」、です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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