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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜
〜 文紡ぎ 神無月 遠けども心し行けば 〜
登場人物
松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、
武田信玄、菊姫[武田信玄の四女]、
「天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも」
「万葉集 第四巻 五五三番」より
作者:丹生女王(にふのおおきみ)
松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、六十の月になっている。
暦は十月になった。
季節は初冬になる。
ここは、甲斐の国。
天気の良い日も、僅かに肌寒さを感じる時がある。
天気の悪い日、陽が落ちると、肌寒さを感じるようになった。
ここは、松姫と菊姫の住む屋敷。
松姫の部屋。
松姫は考えながら居る。
菊姫は部屋の中に心配な様子で入ってきた。
松姫は菊姫を心配な様子で見た。
菊姫は松姫に心配して話し出す。
「父上が本隊を率いる上洛作戦の準備は着々と進んでいるわ。」
松姫は菊姫を不安な様子で見た。
菊姫は松姫に心配な様子で話し出す。
「武田家と徳川家の戦いは、決定的に近い状況ね。織田家は徳川家に味方する可能性は高まっているわ。」
松姫は菊姫を寂しく見た。
菊姫は松姫に心配して話し出す。
「お松。僅かだけど、武田家と織田家の戦いが回避できる可能性が残っているわ。落ち込まないで。」
松姫は菊姫に心配して話し出す。
「姉上。母上は今の状況を知らずに亡くなりました。母上は、私に、嫁ぐ先の織田家を一番に考えるように幾度も話しました。私は、織田家の信忠様と婚約中の状態が続きます。私が信忠様に嫁ぐ日取りが決まりません。私は武田家で過ごす日が続いています。母上が今も生きていたら、私に話す内容が知りたいです。」
菊姫は松姫に真剣な表情で話し出す。
「お松。お松が織田家に嫁いだ日より後は、織田家に従う者への気配り、お松に従う者への気配り、信忠様の相談に責任を持って答える、などの様々な対応が必要になるの。お松が織田家に嫁いだ日より後は、年齢を理由に対応の回避はできないし、母上に頼れないの。お松が織田家に嫁がない状況が決定的になったとしても、お松は母上に頼れないの。」
松姫は菊姫を寂しく見た。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「母上は既に亡くなっているわ。母上に頼れない状況は、私もお松も、同じよ。」
松姫は菊姫を寂しく見ている。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「今のお松の傍には、私が居るわ。私が相談に乗るわ。一緒に考えましょう。」
松姫は菊姫に心配して話し出す。
「姉上の今の話は、姉上が嫁ぐまでの限定ですよね。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「私かお松が、先に嫁ぐ時までの限定の話になるわ。」
松姫は菊姫を微笑んで見た。
菊姫も松姫を微笑んで見た。
暫く後の事。
ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。
玄関。
武田信玄は微笑んで訪れた。
菊姫は普通に来た。
松姫も普通に来た。
武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。話がある。」
菊姫は武田信玄に心配して話し出す。
「はい。」
武田信玄は松姫に心配して話し出す。
「はい。」
武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お菊。お松。説教をする訳ではない。話すだけだ。心配するな。」
菊姫は武田信玄に心配して話し出す。
「はい。」
武田信玄は松姫に心配して話し出す。
「はい。」
武田信玄は菊姫と松姫を微笑んで見た。
僅かに後の事。
ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。
一室。
武田信玄は部屋の中に微笑んで入ってきた。
菊姫は部屋の中に普通に入ってきた。
松姫は部屋の中に普通に入ってきた。
武田信玄は菊姫と松姫に微笑んで話し出す。
「お松。お菊。不安な日が続くと思う。気持ちの落ち着かない日が続くと思う。」
松姫は武田信玄を困惑して見た。
菊姫も武田信玄を困惑して見た。
武田信玄は菊姫と松姫を微笑んで手招きした。
菊姫は武田信玄の傍に不思議な様子で来た。
松姫も武田信玄の傍に不思議な様子で来た。
武田信玄は松姫に普通の表情で小さい声で話し出す。
「お松。信忠殿に文を書きたい気持ちは有るか?」
松姫は武田信玄を驚いて見た。
菊姫も武田信玄を驚いて見た。
武田信玄は菊姫と松姫に普通の表情で小さい声で話し出す。
「信忠殿に文が届く保障は無い。信忠殿から文の返事が届く保障は更に無い。信長殿の性格は、お菊もお松も、噂などで知っていると思う。信忠殿がお松の文を読んだとしても、今の状況は変わらない可能性が高い。信忠殿は織田家の嫡男だ。信忠殿の気持ちとお松の気持ちが、繋がり続ければ、今後の戦況や交渉などで、展開の変わる可能性がある。」
松姫は武田信玄を真剣な表情で見た。
菊姫も武田信玄を真剣な表情で見た。
武田信玄は菊姫と松姫に普通の表情で小さい声で話し出す。
「文の内容は、父が一旦だが読む。」
松姫は武田信玄を真剣な表情で見ている。
菊姫も武田信玄を真剣な表情で見ている。
武田信玄は菊姫と松姫に普通の表情で小さい声で話し出す。
「父が出陣する日は近付いている。返事は即答になる。文を書く時間も、限られている。」
松姫は武田信玄に真剣な表情で小さい声で話し出す。
「父上。文を直ぐに書きます。」
菊姫も武田信玄に真剣な表情で小さい声で話し出す。
「お松が、父上も信忠様も、納得できる文を書けるように補助します。」
武田信玄は松姫と菊姫に普通の表情で頷いた。
少し後の事。
ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。
松姫の部屋。
松姫は文を書く準備を真剣な表情で整えた。
菊姫は真剣な表情で居る。
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「私もお松も、真剣な表情になっているわ。表情や気持ちは、文を読む相手に伝わると思うの。笑顔で文を書きましょう。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「お松、今回の書く文は、今までの中で、最も重要な意味を持つ文、最も大切な文、になると思うの。笑顔で、想いを込めて、文を書きましょう。」
松姫は菊姫に微笑んで話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は文を微笑んで書き始めた。
菊姫は松姫と文を微笑んで見た。
奇妙丸様へ
お元気ですか。
私は元気に過ごしています。
様々な出来事が起きていますね。
奇妙丸様に逢いたい気持ちは、時を重ねる度に強くなっています。
奇妙丸様への想いは、時を重ねる度に更に強くなっています。
私の奇妙丸様への想いは、一度も途切れずに続いています。
天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも
今後に幾重の幸せが訪れるように願っています。
松より
数日後の事。
ここは、甲斐の国。
武田信玄は本隊を率いて上洛作戦を実施中になる。
菊姫と松姫の住む屋敷。
松姫の部屋。
松姫は考えながら居る。
菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。
松姫は菊姫を不思議な様子で見た。
菊姫は松姫に微笑んで小さい声で話し出す。
「お松。信忠様からの文が届いたわ。」
松姫は菊姫を微笑んで見た。
菊姫は懐から文を取り出すと、松姫に文を微笑んで渡した。
松姫は菊姫から文を微笑んで受け取った。
菊姫は松姫を微笑んで見た。
松姫は文を微笑んで読み始めた。
菊姫は松姫を見ながら、文を微笑んで読み始めた。
大切な姫へ
私も元気に過ごしている。
天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも
私も姫と同じ気持ちだ。
私も姫と同じ想いだ。
私は姫への想いを繋げる。
姫の立場を考えると、姫に無理は頼めない。
姫は無理をしないでくれ。
互いの今後に数多の幸が訪れると信じて過ごそう。
奇妙より
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫に微笑んで小さい声で話し出す。
「お松。信忠様も同じ気持ちね。」
松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで小さい声で話し出す。
「はい。」
菊姫は松姫に微笑んで小さい声で話し出す。
「お松。信忠様が無理をしないように文に書いているわ。焦らずに考えて結論を出しなさい。」
松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。
「母上は何が起きても嫁ぐ人物を信じ続けるように話しました。私は今になって母上の想いが分かりました。」
菊姫は松姫を心配して見た。
松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。
「私は信忠様以外の男性に嫁ぐ気持ちは無いです。」
菊姫は松姫に心配して話し出す。
「お松。父上は戦の最中よ。母上は亡くなっているわ。信忠様は父上の戦の相手になる可能性が高まっているわ。お松を守る人物は近くに居ないわ。状況によっては、お松の身に危険が及ぶわ。焦らないで考えて。」
松姫は文を持ち、菊姫に微笑んで話し出す。
「私には姉上が居ます。大丈夫です。」
菊姫は松姫に微笑んで話し出す。
「信忠様の文が届く前から、お松の心は決まっていたのね。」
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
菊姫は松姫を微笑んで抱いた。
松姫は文を持ち、菊姫を微笑んで見た。
「天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも」
時が複雑に絡まり過ぎていく。
様々な想いが複雑に絡まり繋がっている。
松姫は織田信忠を信じ続けて想い続けている。
織田信忠も松姫を信じ続けて想い続けている。
時は更に複雑に絡まり過ぎていく気配がする。
様々な想いが更に複雑に絡まり繋がる気配がする。
秋の季節は、時も想いも、複雑に絡まり過ぎていく。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第四巻 五五三番」です。
「天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも」
ひらがなの読み方は「あまくもの そくへのきわみ とおけども こころしいけば こいふるものかも」
作者は「丹生女王(にふのおおきみ)」
歌の意味は「空の雲が遠ざかってゆく彼方に在るあなたの所は、とても遠いけれども、心が通じあえるのであなたのことをこうして恋しく思っていられるのですよね。」となるそうです。
原文は「天雲乃 遠隔乃極 遠鷄跡裳 情志行者 戀流物可聞」
「大伴家持(おおとものやかもち)」に贈った歌だそうです。
「天雲(あまくも)」は「あまぐも」とも読みます。
「空の雲」の意味です。
「天雲の(あまくもの)」は「枕詞です。雲が浮かび漂うところから、“たゆたふ(ゆらゆらと揺れ動いて定まらない。気持ちが定まらずためらう。心を決めかねる。)”、“ゆくらゆくら(揺れ動くさま。ゆらりゆらり。)”、“別る”、などにかかります。」
武田家についての補足です。
油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。
松姫と織田信忠の縁談が、破談なのか、続いているのか、分からなくなってしまった理由の一つに、「西上作戦(さいじょうさくせん)」があります。
西上作戦は、甲斐武田家が、元亀三年(1572年)九月から元亀四年(1573年)四月に掛けて行った遠征をいいます。
織田家が浅井家を攻めた頃は、武田家と浅井家は繋がっていて、織田信長の妹のお市の方が浅井長政に嫁いでいました。
武田軍の関連についてです。
元亀三年(1572年)九月から十月の動きです。
元亀三年九月二十九日(1572年11月4日)に、山県昌景の別働隊が三河に向けて、古府中を出陣します。
武田信玄が将軍の足利義昭の要請を受けて、三万近くの本隊を率いて上洛戦を開始するのは、元亀三年十月三日(1572年11月7日)です。
武田信玄の本隊が犬居城に着陣します。
武田信玄は、馬場信春に二俣城の攻撃に向かわせて、本隊は木原に着陣します。
後に、一言坂で、武田軍と徳川軍による「一言坂の戦い」が起きます。(武田軍が浜松城へ敗走中の徳川軍に追いついて、一言坂で起きた合戦)
十月の間に、武田軍は二俣城を包囲します。
織田家関連について簡単に説明します。
織田信忠(幼名“奇妙丸”)の母と伝わる生駒(いこま)家の吉乃(きつの)が亡くなったのは、永禄九年五月十三日(1566年5月31日)と伝わっています。
織田信忠(幼名“奇妙丸”)が元服するのは、元亀三年(1572年)と伝わっています。
織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。
元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。
織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。
「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。
ご了承ください。
織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)と伝わっています。
織田信忠の「具足初め(ぐそくはじめ)の儀」が、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)に執り行われたと伝わっています。
織田信忠の初陣は、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)、または、直ぐ後の日付になるようです。
織田信忠の初陣の相手は「北近江」の「浅井家」の「浅井長政」です。
浅井長政の継室は、織田信長の妹の「お市の方」です。
織田信忠の初陣の相手は、父親(織田信長)の妹(お市の方)の嫁ぎ先になります。
浅井長政は、織田家との戦いの中で、元亀三年九月一日(1572年9月26日)に自害して亡くなります。
織田信忠にとっての次の大きな戦は、元亀三年(1572年)十二月頃の遠江の二俣城の戦いや三方ヶ原の戦いになります。
「神無月」についてです。
「かんなづき」、「かみなづき」、「かむなづき」、「かみなしづき」、と読みます。
「陰暦十月の異称」です。
「神様がこの時期になると出雲の国に行く」という意味から呼ばれる異称です。
冬の季語です。
陰暦十月の一つに、「神有月」、または、「神在月」、があります。
「かみありづき」と読みます。
「出雲国(現在の島根県)での陰暦十月の異称」です。
簡単ですが説明すると、「神様がこの時期になると出雲の国に行くので、出雲以外の国では“神無月”」、「神様は出雲の国に集まるので、出雲の国では“神有月”」、となるそうです。
「晩秋(ばんしゅう)」は、「冬の初め。(←冬の季語)、陰暦十月の異称。」です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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