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〜 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 〜


〜 文紡ぎ 初陽 梅の花 君を思ふと 〜


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文だけの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]、



「春なれば うべも咲きたる 梅の花 君を思ふと 夜寐も寝なくに」

「万葉集 第五巻 八三一番」より

作者:壹岐守板氏安麻呂(いきのかみ はんしのやすまろ)



松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、七十五の月になっている。

暦は一月になっている。



季節は初春になる。



昨年の四月、菊姫と松姫の父の武田信玄が亡くなった。

武田信玄の遺言により、武田信玄の死は三年隠すと決まった。

様々な思惑が複雑に絡まる中の初春になる。



松姫は、十四歳になっている。

織田信忠は、十八歳になっている。



ここは、甲斐の国。



一日を通して寒さを感じる日が続く。

天気の良い日中には、僅かだが寒さが和らぐようになった。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



菊姫の部屋。



菊姫は考えながら居る。



松姫は部屋の中に普通に入った。



菊姫は松姫を考えながら見た。

松姫は菊姫を不思議な様子で見た。

菊姫は松姫に考えながら囁いた。

「今回も私だけ躑躅ヶ崎館に呼ばれたの。躑躅ヶ崎館から戻ったら、状況を教えるわ。気になると思うけれど、普通に過ごして待っていてね。」

松姫は菊姫に微笑んで囁いた。

「気遣いありがとうございます。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上と話したくて部屋に来ました。」

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。今から躑躅ヶ崎館に行くの。話しが出なくてご免なさい。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「私は大丈夫です。気を付けて出掛けてください。」

菊姫は松姫に微笑んで頷いた。



松姫は部屋を微笑んで出て行った。



菊姫は軽く息をはいた。



菊姫は部屋から微笑んで出て行った。



暫く後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は考えながら居る。



菊姫は部屋の中に微笑んで入った。



松姫は菊姫を考えながら見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「躑躅ヶ崎館から戻って直ぐに話しが出来なかったわね。ご免なさい。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「大丈夫です。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に考えながら囁いた。

「近い内に、武田軍で戦を始める様子なの。お松の言動の変化に注意するように言われたの。」

松姫は菊姫に考えながら囁いた。

「武田軍の相手。分かりますか?」

菊姫は松姫を困惑して見た。

松姫も菊姫を困惑して見た。

菊姫は松姫の手を握ると、松姫に困惑して囁いた。

「お松が、武田家の関係者以外に他言しない状況は、幾度も報告しているわ。お松は信忠様以外の縁談を断り続けているわ。武田軍の相手によっては、お松の様子が気になると思うの。」

松姫は菊姫を困惑して見ている。

菊姫は松姫の手を握り、松姫に心配して囁いた。

「お松。辛いわよね。」

松姫は菊姫に微笑んで囁いた。

「大丈夫です。」

菊姫は松姫の手を握り、松姫に微笑んで囁いた。

「私や私付きの侍女が付き添えば、外出は可能よ。武田軍は強いわ。お松が不安になると、新たな想像が増えるわ。お松は普通に過ごしなさい。」

松姫は菊姫に微笑んで囁いた。

「はい。」

菊姫は松姫の手を握り、松姫を微笑んで見た。

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫の手を握り、松姫に微笑んで話し出す。

「お松の手を握っていたら、私の手も、お松も手も、温かくなったわ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上は何時も温かいです。」

菊姫は松姫の手を握り、松姫に微笑んで話し出す。

「今は春だけど寒さを感じるわ。温かいと言われると嬉しいわ。夏になると、暑さを感じるわ。温かいと言われると、困るわ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上は温かいけれど、暑くないです。姉上は傍に居ても、暑くないです。安心して傍に居てください。」

菊姫は松姫の手を握り、松姫に微笑んで頷いた。

松姫は菊姫を微笑んで見た。



幾日か後の事。



ここは、松姫の乳母の家。



一室。



部屋の中には、商品が広げてある。



菊姫は微笑んで居る。

松姫も微笑んで居る。

商人は普通に居る。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。素敵な商品がたくさんあるわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は商人に微笑んで話し出す。

「一年の新しい月に、素敵な商品を揃える。大変よね。」

商人は菊姫に普通に話し出す。

「ご贔屓のお客様のために、喜んで頂ける商品を用意しました。一年の新しい月だから用意できる商品も有ります。」

菊姫は商人に微笑んで話し出す。

「気遣いありがとう。しっかりと商品を見るわ。」

商人は菊姫に普通の表情で軽く礼をした。

菊姫は商人に微笑んで頷いた。

商人は菊姫と松姫に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は商人を微笑んで見た。

菊姫は松姫と商人を微笑んで見た。

商人は懐から小さい紙を取り出すと、松姫に普通に渡した。

松姫は商人から小さい紙を微笑んで受け取った。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は小さい紙を持ち、紙を丁寧に広げた。

菊姫は松姫を微笑んで見た。



紙には、織田信忠の筆跡で歌が書いてある。



「春なれば うべも咲きたる 梅の花 君を思ふと 夜寐も寝なくに」



松姫は小さい紙を持ち、商人を微笑んで見た。

菊姫は商人を微笑んで見た。

商人は菊姫と松姫に普通の表情で小さい声で話し出す。

「警戒は今も強いです。奇妙殿が頼んだ状況を信じて頂くために、奇妙殿が自筆で歌を書きました。奇妙殿から伝言を預かっています。」

松姫は小さい紙を持ち、商人に微笑んで小さい声で話し出す。

「伝言を教えてください。お願いします。」

商人は松姫に普通の表情で静かに話し出す。

「お松。新しい一年を迎えた。季節は春になったが、寒さを感じる日が続くと思う。元気で過ごしているだろうか? 今回の歌は、一月に詠んだ歌を選んだ。私も、お松を想う間は、夜も寝られなくなりそうな時がある。私が体調を悪くすると、家臣が心配して、お松も心配する、と思う。しっかりと寝るようにしている。私は元気に過ごしている。安心してくれ。寒さを感じる日が続くと思う。寒さに気を付けて過ごしてくれ。今年は、二人にとって良い一年になるように願う。」

松姫は文を持ち、商人微笑んで小さい声で話し出す。

「長い伝言を覚える行為。大変ですよね。ありがとうございます。」

菊姫は商人に微笑んで小さい声で話し出す。

「凄い記憶力です。何時も感心します。」

商人は菊姫と松姫に普通の表情で小さい声で話し出す。

「奇妙様からはたくさんの恩を受けています。私に出来る内容で感謝の気持ちを伝えています。」

菊姫は商人を微笑んで見た。

松姫も商人を微笑んで見た。

商人は松姫と菊姫に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は文を持ち、商人に微笑んで小さい声で話し出す。

「私からの返事を奇妙様に伝えてください。願いします。」

商人は松姫に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は文を持ち、商人に微笑んで小さい声で話し出す。

「元気に過ごされているのですね。安心しました。私も元気に過ごしています。安心してお過ごしください。一月に詠んだ歌の贈り物。ありがとうございます。私も奇妙様を想う時に、夜も寝られなくなりそうな時があります。奇妙様に迷惑を掛けないため、姉上に迷惑を掛けないため、しっかりと寝るようにしています。一月の間に、今回の歌の贈り物を詠みたいと思います。体調に気を付けてお過ごしください。命を大切にお過ごしください。今年は、二人にとって良い一年になるように願います。」

商人はお松に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は文を持ち、菊姫と商人を微笑んで見た。

菊姫は商品を持つと、商人に微笑んで話し出す。

「素敵な商品ね。購入するわ。」

商人は菊姫に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は文を懐に微笑んで仕舞った。

菊姫は商品を持ち、松姫を微笑んで見た。

松姫は商品を持つと、商人に微笑んで話し出す。

「素敵な商品です。購入します。」

商人は松姫に普通の表情で軽く礼をした。

菊姫は商品を持ち、松姫と商人を微笑んで見た。

松姫も商品を持ち、菊姫と商人を微笑んで見た。

商人は菊姫と松姫に普通の表情で軽く礼をした。



翌日の事。



ここは、躑躅ヶ崎館。



一室の中から、一人の男性の声と菊姫の声が聞こえる。

「お菊。報告は終わりか?」

「はい。」

「今後も報告を頼む。」

「はい。」



少し後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は不安な様子で居る。



菊姫が部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は菊姫を不安な様子で見た。

菊姫は松姫を抱くと、松姫に微笑んで囁いた。

「お松。無難な内容で報告したわ。安心して。」

松姫は菊姫に不安な様子で囁いた。

「姉上。迷惑を掛けます。申し訳ありません。」

菊姫は松姫を抱いて、松姫に微笑んで囁いた。

「私はお松の姉よ。大丈夫よ。迷惑に思わないで。」

松姫は菊姫に微笑んで囁いた。

「姉上。ありがとうございます。」

菊姫は松姫を抱いて、松姫に微笑んで頷いた。

松姫は菊姫を微笑んで見た。



「春なれば うべも咲きたる 梅の花 君を思ふと 夜寐も寝なくに」

今は、一月。

季節は、春になっている。

様々な思惑の中で、戦いが続く。

様々な思惑の中で、攻略が続く。

松姫と織田信忠は、想いを紡ぐ。

一月の日々も、強い想いの中で、様々な思惑の中で、ゆっくりと過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第五巻 八三一番」

「春なれば うべも咲きたる 梅の花 君を思ふと 夜寐も寝なくに」

ひらがなの読み方は「はるなれば うべもさきたる うめのはな きみをおもふと よいもねなくに」

作者は「壹岐守板氏安麻呂(いきのかみ はんしのやすまろ)」

歌の意味は「春になったので梅の花が咲くのも当然ですね。あなた(梅)のことを思うと、夜も寝られません。」となるそうです。

原文は「波流奈例婆 宇倍母佐枳多流 鳥梅能波奈 岐美乎於母布得 用伊母祢奈久尓」

天平二年一月十三日(730年2月4日)、大伴旅人(おおとものたびと)の邸宅で催された宴会のときに詠まれた歌の一つです。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田信玄は、元亀四年四月十二日(1573年5月13日)に信濃の駒場で亡くなります。

享年は、五十三歳と伝わっています。

死因は、肺結核、胃癌、食道癌、などの説が有力です。

他の死因には、武田信玄は敵が籠城中の野田城から聞こえる笛の音に惹かれて本陣から出て行き、本陣の外に居る時に鉄砲で撃たれて、その傷がもとで亡くなる、があります。(掲載日現在は、この説は俗説として考えられています。)

更に他の死因には、織田家の毒殺、もあります。(掲載日現在は、この説も俗説として考えられています。)

武田信玄は、武田勝頼と重臣に遺言を残したと伝わっています。

三つの遺言の内容が広く知られています。

800枚の白紙に武田信玄の花押を書いたから返礼などの時に使うように。

武田信玄の死を三年隠すように。

三年後に、武田信玄の死体に甲冑を着せて諏訪湖に沈めるように。

遺言の内容が事実だとすると、武田信玄は以前から亡くなる事を分かっていて、甲斐の国を守るために前から考えていた事が分かります。

武田信玄の葬儀は、天正四年(1576年)四月に行われたそうです。

武田信玄の死が三年隠せたかについてですが、三年より前に人数等は不明ですが、気付かれた形跡があるようです。

当時は忍者などを使った情報戦が激しかった事があり、武田信玄の死が知られてしまった可能性はあります。

後の出来事になりますが、松姫は織田信忠と婚約している経過などから、辛い立場になっていったようです。

天正元年(1573年)の秋に、武田盛信が松姫を引き取って暮らすようになります。

「雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編」では、物語の展開から、秋より後の季節では、武田盛信が松姫を引き取って暮らす設定にします。

ご了承ください。

松姫と織田信忠の縁談が、破談なのか、続いているのか、分からなくなってしまった理由の一つに、「西上作戦(さいじょうさくせん)」があります。

西上作戦は、甲斐武田家が、元亀三年(1572年)九月から元亀四年(1573年)四月に掛けて行った遠征をいいます。

西上作戦は、武田信玄の体調と武田信玄の死によって終わった状況になります。

武田軍の関連についてです。

天正二年(1574年)一月〜二月の動きです。

武田勝頼は一万五千の兵で明知城を攻めます。

明知城は、美濃、尾張、三河、遠江、駿河、攻略の拠点になります。

明知城主の遠山一行、叔父の遠山利景は、五百の兵で防ぎます。

織田信長は、明知城を助けるために、織田信忠、明知光秀、と共に、三万の兵で西方の城に布陣します。

武田軍は織田信長軍の退路を断ちます。

織田信長軍は撤退する状況になります。

明知城主の遠山一行、叔父の遠山利景は、援軍を失った状態で篭城して奮戦します。

しかし、明知城は、落城する事になります。

明知城主の遠山一行、叔父の遠山利景は、城を脱出します。

武田軍は、明知城を攻略します。

織田家関連について簡単に説明します。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)の元服は、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠は、実弟の「茶筅丸(ちゃせんまる)(織田信雄[おだのぶかつ])」、実弟の「三七丸(神戸三七郎信孝[かんべさんしちろうのぶたか]、織田信孝[おだのぶたか])」、と共に元服したと伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」と改名するのは後の出来事になりますが、名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。

ご了承ください。

織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠の「具足初め(ぐそくはじめ)の儀」が、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)に執り行われたと伝わっています。

織田信忠の初陣は、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)、または、直ぐ後の日付になるようです。

織田信忠の初陣の相手は「北近江」の「浅井家」の「浅井長政」です。

浅井長政の継室は、織田信長の妹の「お市の方」です。

織田信忠の初陣の相手は、父親(織田信長)の妹(お市の方)の嫁ぎ先になります。

織田信忠にとって、初陣の次の大きな戦は、元亀三年(1572年)十二月頃の遠江の二俣城の戦いや三方ヶ原の戦いになります。

天正二年(1573年)一月から二月の織田家の動きを簡単に説明します。

上記の武田軍の内容を参照願います。

「初春」についてです。

「しょしゅん」と読むと、「春の初め。」(←春の季語)、「陰暦正月の異称」、です。

「はつはる」と読むと、「春の初め。新春。新年。」(←新年の季語)、です。

「初陽(しょよう)」についてです。

二つの意味があります。

「朝日。日の出。」、です。

「春の初め。陰暦正月の異称。」、です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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