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~ 雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編 ~


~ 文紡ぎ 陽春 松陰に出でてぞ見つる ~


登場人物

松姫[武田信玄の五女]、織田信忠(幼名:奇妙丸)[織田信長の嫡男](文のみの登場)、

菊姫[武田信玄の四女]




「馬の音の とどともすれば 松陰に 出でてぞ見つる けだし君かも」

「万葉集 第十一巻 二六五三番」より

作者:詠み人知らず




松姫と奇妙丸の縁談が調ってから、八十七の月になっている。

暦は一月になっている。



季節は初春になっている。



一昨年の四月、菊姫と松姫の父の武田信玄が亡くなった。

武田信玄の遺言により、武田信玄の死は三年隠すと決まった。

様々な思惑が複雑に絡まる中の初春になる。



松姫は、十五歳になっている。

織田信忠は、十九歳になっている。



ここは、甲斐の国。



一日を通して寒さを感じる日が続いている。

天気の良い日中には、僅かだが寒さが和らぐようになった。



一月に行われる行事は、無事に進んでいる。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は普通に居る。



菊姫は部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。少し疲れを感じる表情に見えるわ。お正月の行事が続くから、疲れたのかしら?」

松姫は菊姫に困惑して小さい声で話し出す。

「お正月の行事に出席すると、参加者が私の言動を注視している様子に感じます。疲れます。」

菊姫は松姫を微笑んで抱いた。

松姫は菊姫を不思議な様子で見た。

菊姫は松姫を抱いて、松姫に微笑んで小さい声で話し出す。

「お松。私が傍に居るわ。疲れた時は、無理をしないで。教えて。」

松姫は菊姫に微笑んで小さい声で話し出す。

「姉上。ありがとうございます。」

菊姫は松姫を抱いて、松姫に微笑んで小さい声で話し出す。

「近い内に、気晴らしを兼ねて外出しましょう。」

松姫は菊姫に微笑んで小さい声で話し出す。

「はい。」

菊姫は松姫を抱いて、松姫を微笑んで見た。



数日後の事。



ここは、松姫の乳母の住む家。



一室。



部屋の中には、商品が広げてある。



菊姫は微笑んで居る。

松姫も微笑んで居る。

商人は普通に居る。



菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。素敵な商品がたくさんあるわね。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「はい。」

菊姫は商人に微笑んで話し出す。

「一年の初めの月に、素敵な商品を揃えてあります。大変だと思います。」

商人は菊姫に普通に話し出す。

「ご贔屓のお客様のために、喜んで頂ける商品を用意しました。一年の初めの月だからこそ用意できる商品が有ります。」

菊姫は商人に微笑んで話し出す。

「気遣い感謝します。しっかりと商品を見ます」

商人は菊姫に普通の表情で軽く礼をした。

菊姫は商人に微笑んで頷いた。

商人は菊姫と松姫に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は商人を微笑んで見た。

菊姫は松姫と商人を微笑んで見た。

商人は懐から小さい紙を取り出すと、松姫に小さい紙を普通に渡した。

松姫は商人から小さい紙を微笑んで受け取った。

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫は小さい紙を持ち、小さい紙を丁寧に広げた。

菊姫は松姫を微笑んで見た。



小さい紙には、織田信忠の筆跡で歌が書いてある。



馬の音の とどともすれば 松陰に 出でてぞ見つる けだし君かも



松姫は小さい紙を持ち、商人を微笑んで見た。

菊姫は商人を微笑んで見た。

商人は菊姫と松姫に普通の表情で小さい声で話し出す。

「警戒は今も強いです。奇妙殿が頼んだ状況を信じて頂くために、奇妙殿が自筆で歌を書きました。奇妙殿から伝言を預かっています。」

松姫は小さい紙を持ち、商人に微笑んで小さい声で話し出す。

「伝言を教えてください。お願いします。」

商人は松姫に普通の表情で静かに話し出す。

「お松。新しい年を迎えている。季節は春になったが、寒さを感じる日が続く。元気で過ごしているだろうか? 私は元気に過ごしている。安心してくれ。今回の歌は、お松を想いながら、お松の一年の無事を願いながら、選んだ。穏やかな時間の中で、私が馬に乗り訪れて、お松が私の馬の足音を聞いて、お松が松陰に現れる姿を想像した。穏やかな時間の中で、お松が馬に乗り訪れて、私がお松の馬の音を聞いて、私が松陰に現れる姿を想像した。お松が心配しないように、体調に気を付けて過ごす、命を大事に過ごす。少しの間になると思うが、寒さを感じる日が続く。寒さに気を付けて過ごしてくれ。今年は、互いにとって良い一年になるように願う。」

松姫は小さい紙を持ち、商人微笑んで小さい声で話し出す。

「長い伝言を覚える行為。大変ですよね。ありがとうございます。」

菊姫は商人に微笑んで小さい声で話し出す。

「凄い記憶力です。何時も感心します。」

商人は菊姫と松姫に普通の表情で小さい声で話し出す。

「奇妙様からはたくさんの恩を受けています。私に出来る内容で感謝の気持ちを伝えています。」

菊姫は商人を微笑んで見た。

松姫は小さい紙を持ち、商人を微笑んで見た。

商人は松姫と菊姫に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は小さい紙を持ち、商人に微笑んで小さい声で話し出す。

「私からの返事を奇妙様に伝えてください。願いします。」

商人は松姫に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は小さい紙を持ち、商人に微笑んで小さい声で話し出す。

「元気に過ごされているのですね。安心しました。私も元気に過ごしています。安心してお過ごしください。一年の初めの月の歌の贈り物。ありがとうございます。私も、穏やかな時間の中で、奇妙様が馬に乗り訪れて、私が奇妙様の馬の音を聞いて、私が松陰に現れる姿を想像しました。私も、穏やかな時間の中で、私が馬に乗り訪れて、奇妙様が私の馬の音を聞いて、奇妙様が松陰に現れる姿を想像しました。私が馬に乗り訪れる時は、奇妙様が呆れないように、奇妙様が驚かないように、気を付けます。奇妙様の想い、私の想い、叶う日が訪れると信じます。叶う日が今年の間に訪れるならば、更に嬉しいです。奇妙様が心配しないように、体調に気を付けて過ごします、命を大事に過ごします。奇妙様。寒さに気を付けて過ごしてください。今年は、二人にとって良い一年になるように願います。」

商人はお松に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は小さい紙を持ち、菊姫と商人を微笑んで見た。

菊姫は商品を持つと、商人に微笑んで話し出す。

「素敵な商品ね。購入するわ。」

商人は菊姫に普通の表情で軽く礼をした。

松姫は小さい紙を懐に微笑んで仕舞った。

菊姫は商品を持ち、松姫を微笑んで見た。

松姫は商品を持つと、商人に微笑んで話し出す。

「素敵な商品です。購入します。」

商人は松姫に普通の表情で軽く礼をした。

菊姫は商品を持ち、松姫と商人を微笑んで見た。

松姫も商品を持ち、菊姫と商人を微笑んで見た。

商人は菊姫と松姫に普通の表情で軽く礼をした。



翌日の事。



ここは、躑躅ヶ崎館。



一室の中から、一人の男性の声と菊姫の声が聞こえる。

「昨日、お松と共に外出したのか。」

「私がお松の傍に居ました。お松が長い時間を一人で居る状況にしていません。」

「今は一月の行事が続いている。昨日、外出した理由は何だ?」

「お松が新年の行事に参加する機会が増えています。お松が監視されていると思う時間が増えています。お松が気疲れを感じる時が増えています。不安な気持ちが強くなれば、疲れが増せば、体調を悪くする可能性が有ります。適度に気晴らしをさせたいと思いました。お松の乳母の家に行き買い物をしました。お松が不安になる時間を少ない状態にして過ごさせています。」

「今の織田家は、相変わらずの状況だ。安心しているのか、思惑があるのか、分からない。お松の言動に変化が現れる可能性が有る。今後も確認を頼む。」

「はい。」

「今後も報告を頼む。」

「はい。」



少し後の事。



ここは、菊姫と松姫の住む屋敷。



松姫の部屋。



松姫は不安な様子で居る。



菊姫が部屋の中に微笑んで入ってきた。



松姫は菊姫を不安な様子で見た。

菊姫は松姫を抱くと、松姫に微笑んで囁いた。

「お松。無難な内容で報告したわ。大丈夫。安心して。」

松姫は菊姫に不安な様子で囁いた。

「姉上。迷惑を掛けます。申し訳ありません。」

菊姫は松姫を抱いて、松姫に微笑んで囁いた。

「私はお松の姉よ。迷惑に思わないで。安心して。」

松姫は菊姫に微笑んで囁いた。

「姉上。ありがとうございます。」

菊姫は松姫を抱いて、松姫に微笑んで頷いた。

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫を抱いて、松姫に微笑んで囁いた。

「お松。今年は良い一年になると信じて過ごしましょう。」

松姫菊姫に微笑んで囁いた。

「はい。」

菊姫は松姫から微笑んで離れた。

松姫は菊姫を微笑んで見た。

菊姫は松姫に微笑んで話し出す。

「お松。お正月に繋がる縁起の良い物を詠んだ歌を探したの。松を詠んだ歌を見付けたの。お松に松を詠んだ歌を教えたいと思ったの。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上の見付けた松を詠んだ歌を知りたいです。」

菊姫は松姫に微笑んで囁いた。

「明日、松を見ながら、松を詠んだ歌について説明するわ。」

松姫は菊姫に微笑んで話し出す。

「姉上。ありがとうございます。」

菊姫は松姫を微笑んで見た。

松姫も菊姫を微笑んで見た。



「馬の音の とどともすれば 松陰に 出でてぞ見つる けだし君かも」

寒さを感じる日の続く春の初めの頃。

松姫と織田信忠は、様々な思惑の乱れる中でも、想いを紡いでいる。

松姫と織田信忠は、今年は逢える日が訪れると信じて、想いを紡いでいる。

初春の時間は、様々な想いの中でも、様々思惑の中でも、同じ時間の中で過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十一巻 二六五三番」

「馬の音の とどともすれば 松陰に 出でてぞ見つる けだし君かも」

作者は「詠み人知らず」

ひらがらの読み方は「うまのおとの とどともすれば まつかげに いでてぞみつる けだしきみかも」

歌の意味は「馬の音がどどどってするので、松陰に出てみました。もしかして、あなたかも知れないと思って。」となるそうです。

原文は「馬音之 跡杼登毛為者 松陰尓 出曽見鶴 若君香跡」

「とど」は、大きく響く音を表します。

「松陰(まつかげ)(“松影”、とも書く)」は、「松の木かげ」、「松の木の水面などに写った姿」、の意味があります。

日本の古代の馬は、モンゴルから朝鮮半島を経由して日本にもたらされたそうです。

良く知られるサラブレッドと違って、背丈は130cm程度で、余り大きくなかったようです。

武田家についての補足です。

油川夫人は、元亀二年(1571年)(※月日は不明)に亡くなったそうです。

武田信玄は、元亀四年四月十二日(1573年5月13日)に信濃の駒場で亡くなります。

享年は、五十三歳と伝わっています。

武田信玄の死因は、肺結核、胃癌、食道癌、などの説が有力です。

武田信玄の他の死因には、武田信玄は敵が籠城中の野田城から聞こえる笛の音に惹かれて本陣から出て行き、本陣の外に居る時に鉄砲で撃たれて、その傷がもとで亡くなる、があります。(掲載日現在は、この説は俗説として考えられています。)

更に武田信玄の他の死因には、織田家の毒殺、もあります。(掲載日現在は、この説も俗説として考えられています。)

武田信玄は、武田勝頼と重臣に遺言を残したと伝わっています。

三つの遺言の内容が広く知られています。

800枚の白紙に武田信玄の花押を書いたから返礼などの時に使うように。

武田信玄の死を三年隠すように。

三年後に、武田信玄の死体に甲冑を着せて諏訪湖に沈めるように。

遺言の内容が事実だとすると、武田信玄は以前から亡くなる事を分かっていて、甲斐の国を守るために前から考えていた事が分かります。

武田信玄の葬儀は、天正四年(1576年)四月に行われたそうです。

武田信玄の死が三年隠せたかについてですが、三年より前に人数等は不明ですが、気付かれた形跡があるようです。

当時は忍者などを使った情報戦が激しかった事があり、武田信玄の死が知られてしまった可能性はあります。

後の出来事になりますが、松姫は織田信忠と婚約している経過などから、辛い立場になっていったようです。

天正元年(1573年)の秋に、武田盛信が松姫を引き取って暮らすようになります。

「雪月花 戦国恋語り 信玄の娘 松姫 編」では、物語の展開から、秋より後の季節では、武田盛信が松姫を引き取って暮らす設定にします。

ご了承ください。

松姫と織田信忠の縁談が、破談なのか、続いているのか、分からなくなってしまった理由の一つに、「西上作戦(さいじょうさくせん)」があります。

西上作戦は、甲斐武田家が、元亀三年(1572年)九月から元亀四年(1573年)四月に掛けて行った遠征をいいます。

西上作戦は、武田信玄の体調と武田信玄の死によって終わった状況になります。

武田勝頼について、天正二年(1574年)六月の高天神城の攻略に関する話があります。

高天神城は、武田信玄が大軍を率いても落城できませんでした。

武田勝頼は高天神城を攻略した頃から、過信などの意見を聞かないようになったそうです。

理由は二つの説が考えられています。

一つの説、自信過剰になった。

一つの説、父親の武田信玄に勝る武略を持っている実績を示せた事から、家臣の統制を強めた。

以上の二つの説が有ります。

武田軍の関連についてです。

天正三年(1575年)一月についてです。

大きな動きはありません。

織田家関連について簡単に説明します。

織田信忠(幼名“奇妙丸”)の元服は、元亀三年(1572年)と伝わっています。

元亀三年(1572年)一月に元服した説があります。

織田信忠が元服時に改名した名前は「織田勘九郎信重(おだかんくろうのぶしげ)」です。

「織田信忠」に改名するのは後の出来事になります。

名前が幾度も変わると分かり難くなるため、元服後の名前は「織田信忠」で統一します。

ご了承ください。

織田信忠の初陣は、元亀三年(1572年)と伝わっています。

織田信忠の初陣は、元亀三年七月十九日(1572年8月27日)「具足初め(ぐそくはじめ)の儀」の日付、または、直ぐ後の日付になるようです。

織田信忠にとって、初陣の次の大きな戦は、元亀三年(1572年)十二月頃の遠江の二俣城の戦いや三方ヶ原の戦いになります。

天正三年(1575年)一月の織田家の動きを簡単に説明します。

大きな動きはありません。

「初春」についてです。

「しょしゅん」と読むと、「春の初め。」(←春の季語)、「陰暦正月の異称」、です。

「はつはる」と読むと、「春の初め。新春。新年。」(←新年の季語)、です。

「陽春(ようしゅん)」についてです。

二つの意味があります。

「陽気の満ちた春」です。

「陰暦正月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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