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〜 雪月花 新撰組異聞 編 〜
〜 雪消え月 うつつには逢ふよしもなし 〜
「うつつには 逢ふよしもなし 夢にだに 間なく見え君 恋ひに死ぬべし」
「万葉集 第十一巻 二五四四番」より
作者:詠み人知らず
沖田総司達が京の町に着て新撰組として活動を始めてから、たくさんの月日を重ねている。
新撰組の名前は、不逞浪士の取り締まり、京の町の治安の維持など、たくさんの出来事で聞く機会が増えてきた。
そんなある雪消え月の事。
山南敬助が新撰組の屯所に文を置いて姿を消した。
文の内容からは、事件に巻き込まれた訳ではなく、自ら選んで姿を消したと読み取れた。
山南敬助の人望は厚い。
新撰組の隊士達が、山南敬助の取った行動を知った時の動揺は計り知れない。
近藤勇や土方歳三は、今回の出来事の状況が分かるまでは、ごく一部の幹部だけで事に当たると決めた。
話し合いの結果、山南敬助の追手は沖田総司が務める事となった。
山南敬助と沖田総司は、日を置かずに一緒に戻ってきた。
想像とは違い、和やかな雰囲気で戻ってきた。
山南敬助の脱走を知っているごく一部の新撰組の幹部達は、山南敬助と沖田総司の様子を戸惑いながら見た。
山南敬助の話しや状況から、今回の出来事は事件では無いと判断された。
山南敬助は、京の町にある一軒の屋敷に直ぐに幽閉された。
ここは島原の遊郭。
山南敬助が親しくしている遊女の明里が居る。
普段通りに客と親しく話しをしている。
客が帰ると、屯所の在る方向を僅かな時間だけ寂しそうに見る。
直ぐに穏やかな表情に戻ると、次の客の姿を見つけて親しげに話しを始める。
明里は山南敬助が脱走した事も幽閉された事も知らない。
その翌日の事。
遊郭が活気付くには少し早い時間。
ここは島原の遊郭。
明里の元に、武士の姿をした客が来た。
明里の前に居る武士の姿をした客は、何回か見掛けた気がする。
明里は武士の姿をした客に穏やかな微笑みで話し出す。
「先生。こんばんは。」
武士の姿をした客は、明里に普通に話し出す。
「私は新撰組二番組組長の永倉新八と申します。」
明里は永倉新八と名乗った客に微笑んで話し出す。
「永倉様のお名前やお話しは、先生から何度も聞いた事があります。直ぐに気が付かなくて申し訳ありませんでした。」
永倉新八の名乗った客は、明里に普通に話し出す。
「二人だけで話がしたい。」
明里は永倉新八と名乗った客に微笑んで話し出す。
「はい。」
永倉新八と名乗った客と明里は、遊郭内の一室へと入っていった。
ここは遊郭内の一室。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「明里さん。耳を貸して欲しい。」
明里は永倉新八に不思議そうに頷いた。
永倉新八は明里の耳元に近づくと、普通の表情で囁いた。
「山南さんが新撰組を脱走しましたが、直ぐに見付かり戻ってきました。現在は幽閉の身となっています。」
明里は驚いた表情になり動きを止めた。
永倉新八は明里の耳元に、普通の表情で囁いた。
「明里さん。山南さんと逢ってください。」
明里は永倉新八を見ると、微笑んで話し出す。
「これからお客様のお相手をしないといけません。明日でも良いですか?」
永倉新八は明里の耳元に、普通の表情で囁いた。
「このままだと山南さんは切腹になるかも知れません。」
明里は驚いた表情で動きを止めた。
永倉新八は明里の耳元から離れると、普通の表情で様子を見た。
明里は永倉新八に微笑んで話し出す。
「山南先生は大事な方ですが、お客様も大事です。お客様に迷惑を掛ける訳にはいきません。山南先生の切腹が決まったら逢いに行きます。」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「明里さんの話しはもっともだと思います。私が明里さんの客に一晩なります。それなら文句は無いですね。」
明里は永倉新八に微笑んで軽く礼をした。
永倉新八は普通に部屋を出て行った。
明里は一人になると、直ぐに不安そうな表情になった。
永倉新八は直ぐに戻ってきた。
明里は永倉新八を不安そうに見た。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「行きましょう。」
明里は永倉新八に心配そうに話し出す。
「一緒にお出掛けするのなら、着替えた方が良いですよね。」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「明里さんに任せます。」
明里は永倉新八に微笑んで話し出す。
「着替えないで、直ぐに出掛ける事にします。」
永倉新八は明里に普通の表情で頷いた。
永倉新八と明里は、山南敬助の元へと出掛けて行った。
ここは京の町の中。
永倉新八と明里は、山南敬助の元へと向かっている。
明里は永倉新八に不安そうに話し出す。
「先生はお怪我などをしていないのですか?」
永倉新八は明里に普通の表情で頷いた。
明里は永倉新八に心配そうに話し出す。
「私は山南先生と逢って何をすれば良いのですか?」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「私から頼む事は何もありません。明里さんに任せます。」
明里は永倉新八に心配そうに話し出す。
「先生は私に逢いたいとお話しをされていたのですか?」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「私は聞いていません。」
明里は永倉新八に寂しそうに話し出す。
「永倉様。私は山南先生に逢うのを止めます。」
永倉新八は明里を不思議そうに見た。
明里は永倉新八に寂しそうに話し出す。
「お店の中では詳しい内容を聞く事が出来ませんでした。私は永倉様が山南先生に頼まれてお店に来たのだと思っていました。今のお話しだと、山南先生が私と逢いたいと思っていない事も考えられますよね。永倉様のご好意に物凄く感謝をしていますが、先生のお気持ちを無視して逢う事は出来ません。」
永倉新八は明里の耳元に近づくと、普通の表情で囁いた。
「先程も話しをしましたが、山南さんは切腹になるかも知れません。だからこそ、山南さんと明里さんには、何としてでも逢って欲しいと思っています。」
明里は永倉新八を寂しそうに見た。
永倉新八は明里の耳元に普通の表情で囁いた。
「私は山南さんに逃げて欲しいと話をしました。逃げるなら手伝うと話をしました。でも、山南さんは逃げないと返事をしました。明里さんと話しをしている最中に、山南さんが逃げる気持ちになったのなら、私が二人を逃がす手伝いをします。」
明里は永倉新八を心配そうに見た。
永倉新八は明里の耳元から離れると、普通に話し出す。
「山南さんは立派な方です。このまま終わるのは納得いきません。山南さんは明里さんを大切に思っています。二人は逢って話をしないといけません。」
明里は永倉新八に微笑んで話し出す。
「わかりました。先生と逢ってお話しします。」
永倉新八は明里に普通の表情で頷いた。
それから少し後の事。
ここは山南敬助が幽閉されている屋敷の近く。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「明里さんが突然に現れると、周りの者が驚くと思います。私が先に話をしてきます。」
明里は永倉新八を不安そうに見た。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「幽閉とは言いますが、私が既に会っています。明里さんが想像するほど怖い事ではありません。心配しないでくたさい。」
明里は永倉新八に心配そうに話し出す。
「はい。」
永倉新八は明里に普通の表情で頷くと、屋敷の中へと入っていった。
それから僅かに後の事。
永倉新八は明里の元に戻ってきた。
明里は永倉新八を不安そうに見た。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「行きましょう。」
明里は永倉新八に心配そうに話し出す。
「はい。」
永倉新八と明里は、山南敬助の幽閉されている屋敷の中へと入っていった。
ここは山南敬助が幽閉されている部屋の前。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「私はここで待っています。私や時間の事は気にしないでください。」
明里は永倉新八に微笑んで話し出す。
「お気遣いありがとうございます。」
永倉新八は明里に普通の表情で頷いた。
明里は山南敬助の幽閉されている部屋の中へと静かに入っていった。
ここは山南敬助が幽閉されている部屋の中。
部屋の戸が静かに開く音がした。
山南敬助は戸の方向を普通の表情で見た。
戸が開いて現れたのは、微笑んだ表情の明里だった。
山南敬助は明里を驚いた表情で見た。
明里は山南敬助に微笑んで話し出す。
「先生。お久しぶりです。お元気そうですね。安心しました。」
山南敬助は明里を驚いた様子で見ている。
明里は山南敬助に微笑んで話し出す。
「今夜一晩だけ、親切な方が私のお客様になりました。お客様が私に山南先生に逢うように何度も薦めました。」
山南敬助は明里を驚いた様子で見ている。
明里は山南敬助に抱き付くと、微笑んで話し出す。
「寂しから先生に逢いに来ました。」
山南敬助は明里を抱くと、微笑んで話し出す。
「いろいろな事が遭って、明里に逢う事が出来なかった。寂しい想いをさせて悪かったね。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「はい。とても寂しかったです。」
山南敬助は明里を微笑んで抱いている。
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生が部屋で謹慎されていると聞きました。この時期に蝉の鳴き声を聞いたという話くらい信じる事が出来ませんでした。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「私は明里が思っているほど優秀ではないよ。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「はい。先生の事を買い被っていた事が分かりました。」
山南敬助は明里を抱きながら、苦笑して話し出す。
「手厳しいな。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「これから挽回する機会は何度でもあります。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「ありがとう。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、寂しそうに話し出す。
「山南先生。私を一人にしないでください。」
山南敬助は明里を抱きながら、寂しそうな表情になった。
明里は山南敬助に抱き付きながら、寂しそうに話し出す。
「先生。一人は嫌です。ずっと傍に居てください。」
山南敬助は明里を寂しそうに抱いている。
明里は山南敬助に抱き付きながら、寂しそうに話し出す。
「先生のお傍にずっと居ても良いですか?」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「ずっと一緒に居るのは無理かも知れない。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、寂しそうに話し出す。
「私は先生の行く所なら、どこにでも付いて行きます。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「私のこれから行く所は、怖い所かも知れないよ。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、寂しそうに話し出す。
「先生の居る所なら、どんな所でも怖くありません。もし先生が連れて行ってくださらないのなら、私は先生の後を追い掛けて行きます。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「明里は私の元に直ぐに来てはいけない。楽しい事をたくさん見付けて過ごしてくれ。」
明里は山南敬助に強く抱き付くと、寂しそうに話し出す。
「私は先生にお逢いするまでは一人でした。先生にお逢いしてからは、一人だと思う事が少なくなりました。先生とお逢いする事が出来なくなると、また一人戻ってしまいます。寂しい思いをするのは嫌です。私は先生の傍に何としてでも居続けます。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「明里には幸せになってもいたい。だから無理をしないでくれ。」
明里は山南敬助に強く抱き付きながら、寂しそうに話し出す。
「先生は大切な一言を言ってくださいません。今も大切な一言を言ってくださいません。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「明里は私とずっと一緒に居てくれたね。とても感謝をしている。今の私に出来る限りのお礼をしたいと思っている。」
明里は山南敬助に強く抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生。もし二度とお逢いする事が出来ないのなら、物凄いお礼をくださいね。変な贈り物だったら、先生の元に文句を言いに行きますよ。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「今日の明里は怖いな。」
明里は山南敬助に強く抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「私はとても怖い性格なんですよ。今まで気が付かなかったのですか?」
山南敬助は明里を抱きながら、苦笑して話し出す。
「気が付かなかった。私も修行が足りないな。」
明里は山南敬助に強く抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生はまだまだ修行が足りません。更なる修行をしてください。」
山南敬助は明里を苦笑した表情で抱いている。
明里は山南敬助に抱き付く力を少し弱めた。
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「明里に自由をあげます。でも私一人の力では無理なので、誰かに手伝ってもらいます。少し時間が掛かりますが、待っていてください。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「自由ですか?」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「はい。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生。先程話をしましたが、気に入らない贈り物なら文句を言いに行きますよ。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「この贈り物は、明里が喜んでくれる自信がある。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生のお話しを聞いているうちに、期待が膨らんできました。余程の贈り物でないと、文句を言いに行きますよ。大丈夫ですか?」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「大丈夫だ。」
明里は山南敬助に微笑みながら強く抱き付いた。
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「明里。そろそろ帰りなさい。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、寂しそうに話し出す。
「嫌です。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「私と明里を逢わせてくれたのは、永倉君だね。」
明里は山南敬助に寂しそうに抱き付いている。
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「永倉君も含めて、隊士は決まった時間までに屯所に戻らないといけない。間に合わない時は切腹になってしまう。永倉君は幹部だから屯所に戻る時間は遅くても構わないが、間に合わなければ他の隊士と同じく切腹になってしまう。永倉君に迷惑を掛けてはいけない。」
明里は山南敬助に寂しそうに抱き付いている。
山南敬助に明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「明里。幸せになってくれ。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生に言われなくても、必ず幸せになります。先生の傍に居る事も出来なくて、お逢いする事も出来ないのなら、先生より素敵な人を見付けます。だから先生はどこにでも好きな所に行ってください。」
山南敬助は明里を微笑んだ表情で抱いている。
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生。ずっとお逢いしたいです。」
山南敬助は明里を微笑んだ表情で抱いている。
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生と私が逢う時は、先生はいつもお客様でした。でも、今日はお客様ではありませんね。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「確かに今日は違うね。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「先生。滅多にない機会だから、私を名前で呼んでください。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「明里が名前を教えてくれるんだね。楽しみだな。」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「“里”と言います。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「里。せっかくだから私の事も名前で呼んでくれないか?」
明里は山南敬助に抱き付きながら、微笑んで話し出す。
「敬助さん。嬉しいです。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「里。本当にありがとう。」
明里は山南敬助に強く抱き付くと、微笑んで話し出す。
「敬助さんの言う通りお客様に迷惑を掛ける訳には行きません。こんな仕事をしていますが、私にも意地と誇りがあります。お客様の元に戻る事にします。」
山南敬助は明里を抱きながら、微笑んで話し出す。
「里。本当にありがとう。」
明里は山南敬助からゆっくりと離れた。
山南敬助は明里に微笑んで話し出す。
「里。本当にありがとう。」
明里は山南敬助に微笑んで礼をすると、部屋から出て行った。
ここは山南敬助が幽閉されている部屋の外。
明里は部屋から出ると、悲しそうな表情になった。
永倉新八が明里の前に普通の表情で来た。
明里は永倉新八を悲しそうな表情で見た。
永倉新八は明里を普通の表情で見た。
明里は永倉新八に寂しそうに話し出す。
「お気遣いありがとうございました。戻ります。」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「送ります。」
明里は永倉新八に悲しそうに話し出す。
「お願いします。」
永倉新八は明里に普通の表情で頷いた。
永倉新八と明里は、吉原の遊郭へと戻っていった。
それから少し後の事。
ここは島原の遊郭。
明里は立ち止まると、永倉新八を微笑んで見た。
永倉新八は立ち止まると、明里を普通の表情で見た。
明里は微笑んだ表情で歩き出した。
永倉新八は明里の横を普通の表情で歩き出した。
ここは遊郭。
永倉新八と明里は、遊郭に戻ると、直ぐに部屋の中へと入っていった。
ここは遊郭の一室。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「今日は出掛けたので疲れたと思います。私は屯所に戻ります。今夜の明里さんの客は私一人だけです。ゆっくりと休んでください。」
明里は永倉新八に微笑んで礼をした。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「無理しないでくだざい。」
明里は永倉新八に微笑んで礼をした。
永倉新八は普通の表情のまま部屋から出て行った。
明里は一人になると、急に涙が出てきた。
涙が止まらない。
部屋の中に敷いてある床に横になった。
横になっても涙が止まらない。
部屋の外からは、賑やかな声がうるさいくらいに聞こえてくる。
明里と床に横になったまま、涙を流し続けた。
それから少し後の事。
ここは屯所。
永倉新八が屯所に戻ってきた。
視線の先に、斉藤一が自分の事を普通の表情で見ている姿があった。
永倉新八は斉藤一を普通の表情で見た。
斉藤一は永倉新八に話し掛ける事なく、黙って居なくなった。
永倉新八は自分の部屋へと戻っていった。
それから何日か後の事。
二月二十三日を迎えた。
山南敬助は切腹をした。
介錯人は沖田総司が務めた。
ここは島原の遊郭。
客で活気付くにはもう少しだけ早い時間。
明里の元に永倉新八が来た。
永倉新八と明里は、部屋の中へと入っていった。
ここは遊郭の一室。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「今日の事になりますが、山南さんが切腹をしました。」
明里は永倉新八を驚いた表情で見た。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「今日は客の相手をする気分でないかと思って、私が一晩客になりました。迷惑なら言ってください。」
明里は永倉新八に寂しそうな微笑みを浮かべながら、小さく首を横に振った。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「質問があるなら言ってください。出来る限りお答えします。」
明里は永倉新八に寂しそうに微笑みながら話し出す。
「なぜ私にここまで親切にしてくださるのですか?」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「山南さんは素晴らしい人でした。山南さんの助命を願いでたが、受け入れてもらえませんでした。山南さんを助ける事が出来ないのなら、今の私に出来る事は何かと考えました。それだけの事です。」
明里は永倉新八に寂しそうな微笑みで話し出す。
「切腹には介錯をする方がいると聞きました。」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「山南さんの希望で沖田君が務めました。」
明里は永倉新八に寂しそうな微笑みで話し出す。
「そうですか。」
永倉新八は明里を普通の表情で見た。
明里は永倉新八を寂しそうな微笑みで見た。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「私と明里さんは、話しをした事がほとんどないから、お互いに気を遣いますよね。私は屯所に戻ろうと思います。もし誰か傍に居た方が良ければ呼んできます。」
明里は永倉新八に寂しそうな微笑みで話し出す。
「私は一人で大丈夫です。でも気になる方が居ます。」
永倉新八は明里を普通の表情で見た。
明里は永倉新八に寂しそうな微笑みで話し出す。
「沖田様です。」
永倉新八は明里を不思議そうに見た。
明里は永倉新八に寂しそうな微笑みで話し出す。
「山南先生は沖田様の事をいつも気に掛けていました。沖田様も山南先生の事を慕われていました。山南先生は最期の望みを叶えられました。介錯人を勤めた沖田様は辛かったと思います。」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「武士ならば、切腹も介錯も当然の事です。」
明里は永倉新八を寂しそうな微笑みで見た。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「明里さんが心配する気持ちも分かります。沖田君の気持ちが分かる人に話をしておきます。」
明里は永倉新八に寂しそうな微笑みで話し出す。
「沖田様と親しい方に、今のお話をされるのですか?」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「話しをするのは斉藤君だけです。私が斉藤君以外の沖田君と親しい人と会う理由は見付からないので、話しをするつもりはありません。」
明里は永倉新八を寂しそうな微笑みで見た。
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「そろそろ帰ります。」
明里は永倉新八に寂しそうな微笑みで話し出す。
「永倉様は大切なお客様なのに、何も出来なくて申し訳ありません。」
永倉新八は明里に普通に話し出す。
「お互い様です。気にする必要はありません。」
明里は永倉新八を微笑んで見た。
永倉新八は明里に普通の表情で軽く礼をすると、部屋から出て行った。
明里は一人になると、部屋の中に敷いてある床に横になった。
部屋の外からは、普段通りの賑やかな声が聞こえてきた。
明里は横になったまま、涙を流しながら呟いた。
「うつつには 逢ふよしもなし 夢にだに 間なく見え君 恋ひに死ぬべし」
部屋の外からの賑やかな声は止まる事がない。
明里は床に横になったまま、静かに目を閉じた。
それから少し後の事。
ここは屯所。
永倉新八が屯所に戻ってきた。
視線の先に、斉藤一が自分を普通の表情で見ている姿があった。
永倉新八は斉藤一の前に来ると、普通に話し出す。
「明里さんに会って山南さんの事を伝えてきた。」
斉藤一は永倉新八を普通の表情で見ている。
永倉新八は斉藤一に普通に話し出す。
「俺に出来るせめてもの侘びとして、今夜一晩の客になれるだけの金を店に払ってきた。一人にした方が良いと思って戻ってきた。」
斉藤一は永倉新八を普通の表情で見ている。
永倉新八は斉藤一に普通に話し出す。
「早く行かなくて良いのか?」
斉藤一は永倉新八を普通の表情で見ている。
永倉新八は斉藤一に普通に話し出す。
「部屋に戻る。」
斉藤一は永倉新八を普通の表情で見ている。
永倉新八は自分の部屋へと向かって歩き出した。
斉藤一は永倉新八の後ろ姿を普通の表情で見ている。
永倉新八の姿は見えなくなった。
斉藤一は普通の表情のまま、その場を後にした。
ここは沖田総司の部屋の前。
斉藤一は沖田総司の部屋の前に来た。
部屋の中からは明かりが見える。
斉藤一は部屋の中へと普通に入って行った。
ここは沖田総司の部屋の中。
沖田総司は斉藤一を見ると、寂しそうに微笑んだ。
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は斉藤一に寂しそうな微笑みで話し出す。
「今日は疲れました。」
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見ている。
沖田総司は斉藤一に寂しそうな微笑みで話し出す。
「鈴ちゃんに物凄く逢いたいです。鈴ちゃんの笑顔が物凄く見たいです。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「今から逢いに行くか?」
沖田総司は斉藤一に寂しそうに苦笑しながら話し出す。
「この時間に鈴ちゃんを訪ねたら心配します。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「美鈴さんに逢いたいのだろ。」
沖田総司は斉藤一に寂しそうな微笑みで話し出す。
「鈴ちゃんに物凄く逢いたいです。でも鈴ちゃんは休んでいる頃だと思います。私の我がままで鈴ちゃんに迷惑を掛ける訳にはいきません。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「総司が迷惑を掛けるのはいつもの事だろ。気にする必要は無いと思う。」
沖田総司は斉藤一に寂しそうに苦笑しながら話し出す。
「何だか酷い言い方ですね。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「本当の事だろ。」
沖田総司は斉藤一に寂しそうに苦笑しながら話し出す。
「やっぱり明日にします。」
斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。
新撰組隊士達が訪れないでほしいと願っていた元治二年二月二十三日が、ゆっくりと過ぎていく。
新撰組隊士達がいろいろな想いを抱えていた元治二年二月二十三日が、ゆっくりと過ぎていく。
山南敬助の切腹を知らない新撰組隊士と親しくしている者達にも、元治二年二月二十三日が、ゆっくりと過ぎていく。
山南敬助の切腹を知る新撰組隊士と親しくしている者達にも、元治二年二月二十三日が、ゆっくりと過ぎていく。
「うつつには 逢ふよしもなし 夢にだに 間なく見え君 恋ひに死ぬべし」
元治二年二月二十三日を境にして、夢の時だけしか逢えない人物が、また一人増えてしまった。
〜 完 〜
はじめに
後書き
目次
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