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〜 雪月花 新撰組異聞 編 〜
〜 萱原の幻 遠けども面影にして見ゆ 〜
「陸奥の 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを」
「万葉集 第三巻 三九六番」より
作者:笠郎女(かさのいつらめ)
夏から秋に掛けての頃。
幕府軍と薩長中心の新政府軍の戦いが続く。
土方歳三は戦いの中で足に怪我をしたので、会津で医師の治療を受けている。
会津には良い温泉が在る。
医者の勧めで、温泉で湯治をするようになった。
今は秋。
ここは、会津。
温泉地。
川音が絶え間なく聞こえる。
滝の音も絶え間なく聞こえる。
温泉からは川が見える。
温泉からは暖かい湯気が立ち昇っている。
土方歳三は温泉に普通の表情で浸かっている。
斉藤一も温泉に普通の表情で浸かっている。
市村鉄之助は温泉に微笑んで浸かっている。
市村鉄之助は温泉に浸かりながら、土方歳三と斉藤一に微笑んで話し出す。
「私の立場では、会津藩の素晴らしい温泉に落ち着いて浸かる機会がありません。土方先生と斉藤先生のおかげです。嬉しいです。土方先生と斉藤先生と共に温泉に浸かれて嬉しいです。」
斉藤一は温泉に浸かりながら、市村鉄之助を普通の表情で見た。
土方歳三は温泉に浸かりながら、市村鉄之助に微笑んで話し出す。
「斉藤は、新撰組の立場と俺の申し出により、温泉に浸かっている。鉄之助は、俺の申し出により、温泉に浸かっている。斉藤は鉄之助が温泉に浸かる状況に、余り関係していない。」
斉藤一は温泉に浸かりながら、市村鉄之助に普通の表情で頷いた。
市村鉄之助は温泉に浸かりながら、土方歳三と斉藤一に微笑んで話し出す。
「土方先生が落ち着いて怪我の湯治が出来るのは、斉藤先生がいるからです。私が温泉に浸かれるのは、土方先生と斉藤先生のおかげです。」
土方歳三は温泉に浸かりながら、市村鉄之助を微笑んで見た。
斉藤一は温泉に浸かりながら、市村鉄之助を普通の表情で見た。
土方歳三は温泉に浸かりながら、川を微笑んで表情で見た。
斉藤一も温泉に浸かりながら、川を普通の表情で見た。
市村鉄之助は温泉に浸かりながら、土方歳三と斉藤一に微笑んで話し出す。
「温泉に浸かりながら川を見ると、楽しい気持ちになります。」
土方歳三は温泉に浸かりながら、市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助が温泉に浸かって話す内容は、毎回のように似る。俺は鉄之助に毎回のように似る内容を話す。斉藤が居れば、鉄之助の話す内容が似ても、俺の話す内容は変わる。斉藤が居て良かった。」
斉藤一は温泉に浸かりながら、土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。
土方歳三は温泉に浸かりながら、斉藤一と市村鉄之助を微笑んで見た。
市村鉄之助は温泉に浸かりながら、土方歳三と斉藤一を微笑んで見た。
暫く後の事。
ここは、会津。
宿。
土方歳三が泊まる部屋の外。
土方歳三は普通に来た。
斉藤一も普通に来た。
土方歳三は斉藤一に普通に話し出す。
「斉藤。鉄之助を探していると話したら、斉藤は鉄之助が俺の部屋に居ると話した。俺の部屋の中から物音が聞こえない。」
斉藤一は土方歳三に普通に話し出す。
「部屋の中で静かにしていると思います。」
土方歳三は斉藤一に普通に話し出す。
「斉藤の話を聞くと、鉄之助が笑顔で寝る姿を想像する。」
斉藤一は土方歳三を普通の表情で見た。
土方歳三は障子を静かに開けた。
市村鉄之助は横になって微笑んで寝ている。
土方歳三は市村鉄之助を普通の表情で見た。
斉藤一は土方歳三と市村鉄之助を普通の表情で見た。
土方歳三は斉藤一を見ると、僅かに呆れて話し出す。
「斉藤の話を信じながらも、斉藤の話は違って欲しいと思った。残念ながら、思い切り斉藤の話し通りで、思い切り俺の想像通りだな。」
斉藤一は土方歳三を見ると、普通の表情で軽く礼をした。
土方歳三は部屋の中に静かに入った。
斉藤一も部屋の中に静かに入った。
直後の事。
ここは、土方歳三が泊まる部屋の中。
土方歳三は障子を静かに閉めた。
斉藤一は土方歳三と市村鉄之助を普通の表情で見た。
市村鉄之助は横になって、微笑んで寝ている。
土方歳三は市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。起きろ。」
市村鉄之助は横になって、微笑んで寝ている。
土方歳三は斉藤一に普通に話し出す。
「斉藤。手伝え。」
斉藤一は市村鉄之助を普通の表情で軽く揺すった。
市村鉄之助は横になって、微笑んでゆっくりと目を開けた。
土方歳三は斉藤一に感心して話し出す。
「さすが。斉藤。」
斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。
市村鉄之助は慌てて体を起こした。
土方歳三は市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。気持ち良く寝ていた様子に見えたが、万が一の時のために確認する。調子が悪いのか? 怪我をしたのか? 疲れているのか?」
市村鉄之助は土方歳三に慌てて話し出す。
「調子は悪くありません! 怪我はしていません! 疲れていません!」
土方歳三は斉藤一に普通に話し出す。
「鉄之助は、調子が悪くない、怪我はしていない、疲れていない。俺は鉄之助が寝る他の理由が想像できない。斉藤が想像できる他の理由があれば教えてくれ。」
斉藤一は土方歳三に普通に話し出す。
「ありません。」
市村鉄之助は土方歳三と斉藤一を困惑して見た。
土方歳三は市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。俺の部屋で寝ていた理由を教えてくれ。」
市村鉄之助は土方歳三に困惑して話し出す。
「すいません。」
土方歳三は市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。俺の質問に答えていない。早く答えろ。」
市村鉄之助は土方歳三に困惑して話し出す。
「すいません。」
土方歳三は市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。今の俺は、怪我の治療中だ。斉藤などが新撰組の指揮を代わりに務めている。俺の復帰の時期に関係なく、新撰組の隊士に無駄な無理をさせて失う訳にはいかない。鉄之助が辛さを我慢して倒れたら、俺の管理能力不足になる。鉄之助の体調に気付かない程度の管理能力ならば、新撰組の隊士達は俺の指揮に従わない。」
市村鉄之助は土方歳三に困惑して話し出す。
「すいません。」
土方歳三は市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。明日は、俺が医師に診てもらう前に、鉄之助を診て欲しいと頼む。」
市村鉄之助は土方歳三を驚いた表情で見た。
土方歳三は市村鉄之助を普通の表情で見た。
斉藤一は土方歳三と市村鉄之助を普通の表情で見た。
市村鉄之助は部屋を悲しい表情で勢い良く出て行った。
土方歳三は斉藤一に普通に話し出す。
「斉藤。鉄之助は悲しい様子で勢い良く部屋を出て行ったな。鉄之助に俺の話す意味が伝わらなかったのだろうか?」
斉藤一は土方歳三に普通に話し出す。
「土方さんの話す意味が伝わったので、悲しく勢い良く部屋を出て行ったと思います。」
土方歳三は斉藤一に普通に話し出す。
「鉄之助の様子を見た後に、斉藤の話を聞くと、俺は嬉しさと悲しさの両方を抱く。」
斉藤一は土方歳三を普通の表情で見た。
土方歳三も斉藤一を普通の表情で見た。
斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。
土方歳三は斉藤一に普通の表情で頷いた。
斉藤一は部屋を普通に出て行った。
土方歳三は普通の表情で軽く息をはいた。
暫く後の事。
ここは、会津。
寺の近くに在る山。
近藤勇の墓が在る場所。
市村鉄之助は近藤勇の墓を寂しく見ている。
斉藤一の普通の声が、市村鉄之助の後ろから聞こえた。
「土方さんより立場が上の近藤さんに愚痴を言うのか?」
市村鉄之助は後ろを驚いて見た。
斉藤一は市村鉄之助を普通の表情で見ている。
市村鉄之助は斉藤一に困惑して話し出す。
「愚痴は言いません。」
斉藤一は市村鉄之助に普通に話し出す。
「土方さんより立場が上の近藤さんに、土方さんの対応が理不尽だと話すのか?」
市村鉄之助は斉藤一に大きな声で話し出す。
「土方先生は立派な方です! 新撰組の隊士は戦いを続けています! 土方先生は新撰組の隊士達の心配をしなければなりません! 土方先生が土方先生本人の立場を重視して話すのは当然です! 土方先生は私に理不尽な言動をしていません! 土方先生は私を心配しても、私に厳しい内容を話す立場です! 私は、土方先生に、斉藤先生に、新撰組の隊士達に、失礼な行動をしました! 私は自分が悲しくて情けないです!」
斉藤一は市村鉄之助を普通の表情で見た。
市村鉄之助は斉藤一に慌てて話し出す。
「私は斉藤先生に失礼な内容を話しました! 申し訳ありません!」
斉藤一は市村鉄之助に普通に話し出す。
「俺には失礼な内容を話していない。」
鉄村鉄之助は斉藤一を申し訳なく見た。
斉藤一は市村鉄之助に普通に話し出す。
「戦いの地で、疲れて場所を考えずに寝たら、取り返しの付かない状況になる可能性があるが、今の会津は戦いの地ではない。病気や怪我のために寝たのならば、医師の治療を受けて戦うまでに治せ。土方さんを安心させろ。」
市村鉄之助は斉藤一に真剣な表情で話し出す。
「はい!」
斉藤一は市村鉄之助を普通の表情で見た。
斉藤一は普通に歩き出した。
市村鉄之助は真剣な表情で歩き出した。
翌日の事。
ここは、会津。
温泉地。
川音が絶え間なく聞こえる。
滝の音も絶え間なく聞こえる。
土方歳三は温泉に普通の表情で浸かっている。
斉藤一も温泉に普通の表情で浸かっている。
市村鉄之助は温泉に微笑んで浸かっている。
土方歳三は温泉に浸かりながら、斉藤一に普通に話し出す。
「医師は鉄之助が疲労を溜めていると診立てた。俺は医師の診立てを聞いて恥ずかしくなった。」
市村鉄之助は温泉に浸かりながら、土方歳三に申し訳なく話し出す。
「すいません。」
土方歳三は温泉に浸かりながら、市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助が無理をする時は、今ではない。鉄之助が疲れを溜めたまま無理をして倒れたら、俺が困る。辛い時は、俺に隠さずに言え。」
市村鉄之助は温泉に浸かりながら、土方歳三に真剣な表情で話し出す。
「はい!」
土方歳三は温泉に浸かりながら、市村鉄之助を普通の表情で見た。
斉藤一は温泉に浸かりながら、土方歳三と市村鉄之助を普通の表情で見た。
暫く後の事。
ここは、会津。
一軒の宿。
土方歳三が泊まる部屋。
土方歳三は普通に居る。
斉藤一も普通に居る。
市村鉄之助は微笑んで居る。
土方歳三は斉藤一と市村鉄之助に普通に話し出す。
「万葉集に北の地が登場する歌がある。万葉集に“会津”が登場する歌がある。」
市村鉄之助は土方歳三に微笑んで話し出す。
「土方先生。ぜひ教えてください。」
土方歳三は斉藤一と市村鉄之助に微笑んで話し出す。
「“陸奥の 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを”。歌の意味は、“みちのくの真野の萱原が遠くたって、心に思えば面影に見えるっていうのに・・・ どうして近くのあなたさまを見る事ができないの?”、となるそうだ。恋の歌だ。」
斉藤一は土方歳三を普通の表情で見た。
市村鉄之助は土方歳三を不思議な様子で見た。
土方歳三は斉藤一と市村鉄之助に微笑んで話し出す。
「斉藤も鉄之助も直ぐに気付いた通り、俺が詠んだ今の歌に、“会津”は登場しない。」
斉藤一は土方歳三を普通の表情で見ている。
市村鉄之助は土方歳三を不思議な様子で見ている。
土方歳三は市村鉄之助に微笑んで話し出す。
「“真野”は、“会津”より海に近い。“真野”は、“磐梯山”より更に遠い“安達太良山”より更に遠い“阿武隈川”より更に遠い。」
市村鉄之助は土方歳三を考え込んで見た。
土方歳三は市村鉄之助に微笑んで話し出す。
「万葉集に“安達太良”が登場する歌がある。次に北の地が登場する歌について話す時は、“安達太良”だ。更に次の北の地が登場する歌について話す時は“会津”だ。」
市村鉄之助は土方歳三に微笑んで話し出す。
「楽しみです。」
土方歳三は市村鉄之助を微笑んで見た。
斉藤一は土方歳三と市村鉄之助を普通の表情で見ている。
土方歳三は斉藤一を微笑んで見た。
斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。
市村鉄之助は土方歳三と斉藤一を微笑んで見た。
幾つかの季節が過ぎた。
今は明治と呼ぶ時代になっている。
幕府と新政府の戦いは、新政府の勝利で終わったと発表された。
今は秋。
ここは、北の地の或る場所。
夜空には月が浮かんでいる。
ここは、一軒の家。
一室。
武士姿の男性が横になって静かに寝ている。
沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。
「斉藤さん。土方さんが、“陸奥の 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを”、という歌を突然に話しました。“陸奥の真野”は、会津に近いのですか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「江戸と京の町の距離より近い。総司の住む場所と美鈴さん住む場所より遠い。」
沖田総司は斉藤一に不思議な様子で話し出す。
「斉藤さんの話す意味が分かりません。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「会津と“陸奥の真野”は、俺の話す内容の距離が離れている。俺は嘘を付いていない。」
沖田総司は斉藤一に心配して話し出す。
「斉藤さん。怒りましたか?」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「怒っていない。」
沖田総司は斉藤一を安心した表情で見た。
斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。
「斉藤さん。歌の意味を知っていたら教えてください。」
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「歌の意味は、“みちのくの真野の萱原が遠くたって、心に思えば面影に見えるっていうのに・・・ どうして近くのあなたさまを見る事ができないの?”、となるそうだ。恋の歌だ。」
沖田総司は顔を赤くして、斉藤一を見た。
斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。
「土方さんが総司に今の歌を話した理由が分かるか?」
沖田総司は顔を赤くして、走って居なくなった。
武士姿の男性はゆっくりと体を起こした。
武士姿の男性は部屋の中を普通の表情で見た。
部屋の中に変わった様子はない。
武士姿の男性は静かに障子を開けると、周りを普通の表情で見た。
辺りに変わった様子はない。
武士姿の男性は夜空を見ると、普通の表情で呟いた。
「大事な寝る時間を邪魔するほどに寂しいのか? 俺は暫く向こうに行く考えが無い。俺が向こうに行ったら、暇な時は付き合う。我慢して待て。」
武士姿の男性は横になると、直ぐに目を閉じた。
同じ頃。
ここは、多摩。
市村鉄之助は危険な状況が続くため、土方歳三の身内の世話になって過ごしている。
市村鉄之助は気軽に外出できない日が続いている。
夜空には月が浮かんでいる。
ここは、萱原。
市村鉄之助が微笑んで居る。
市村鉄之助は萱原を見ながら、微笑んで呟いた。
「“陸奥の 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを”」
市村鉄之助の聞き慣れた男性の声が、市村鉄之助の傍から聞こえた。
「鉄之助。何をしている。」
市村鉄之助は萱原を見ながら、微笑んで話し出す。
「“陸奥の 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを”の歌を思い出しました。萱原が見たくなったので来ました。」
市村鉄之助の聞き慣れた男性の声が、市村鉄之助の傍から聞こえた。
「鉄之助。今は、夜でも気軽に外出できる状況ではない。鉄之助が安易な言動をすれば、多くの人物の迷惑になる。気を引き締めろ。」
市村鉄之助は萱原を見ながら、真剣な表情で話し出す。
「はい。」
市村鉄之助は真剣な表情で去って行った。
「陸奥の 真野の草原 遠けども 面影にして 見ゆといふものを」
市村鉄之助は、函館から遠く、会津からも遠い、多摩に居る。
市村鉄之助は、多摩の萱原を見た時に、心に思う面影を見て、近くの思い人も見た、ように感じた。
〜 完 〜
はじめに
本編
後書き
目次
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