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新撰組異聞 〜 初見草 〜
〜 前編 〜
今は秋の季節。
残暑の名残と初秋の涼しさを、両方感じる日が続いている。
そんなある秋の日の事。
ここは屯所の中。
藤堂平助は一人で歩いている。
急に立ち止まると、普通の表情で前を見た。
藤堂平助の視線の先に居るのは、沖田総司と斉藤一だった。
沖田総司と斉藤一は、一緒に歩いている。
沖田総司は斉藤一に笑顔で話し掛けながら歩いている。
斉藤一は沖田総司を普通の表情で一瞥しながら、適当に相槌を打って歩いている。
藤堂平助は沖田総司の様子を、普通の表情のまま、視線を外さずに見続けている。
沖田総司は藤堂平助の視線に気付く事も無く、斉藤一に笑顔で話し掛けながら歩いている。
斉藤一は普段と同じ表情で、沖田総司と一緒に歩いている。
勘の鋭い人物なので、もしかしたら藤堂平助の視線に気が付いているのかもしれない。
周りの状況から判断して、危険が無いために、普段どおりに歩いているのかも知れない。
沖田総司と斉藤一の姿は、藤堂平助からは見えなくなった。
藤堂平助は何事も無かったかのように、普通に歩き出した。
そんな出来事があってから何日か後の事。
ここは京の町のとある場所。
辺りには萩の花が綺麗な色で咲いている。
少女は一人で萩の花を微笑んで見ている。
藤堂平助は少女の居る場所を通り掛った。
少女は萩の花を楽しそうに見ている。
藤堂平助は立ち止まると、少女の様子を普通の表情で見た。
少女は藤堂平助が近くに居る事に気が付かずに、微笑んで萩を見続けている。
藤堂平助は少女を真剣な表情で見始めた。
少女と話しをした回数の少ない藤堂平助から見ても、萩の花を楽しそうに見ている事がわかる。
少女に話し掛けようと思ったが、楽しそうに萩の花を見ている姿を見ると、躊躇してしまう。
藤堂平助は視線を空へと向けた。
藤堂平助と少女の上には、青い空と白い雲が広がっている。
藤堂平助は視線を戻すと、思い切った様に、少女の居る場所へと歩き始めた。
少女は誰かが近づいてくる気配を感じた。
危険な気配ではないので、慌てる様子も無く、人の気配のする方向を見た。
少女の視線の先に居るのは、藤堂平助だった。
藤堂平助は少女向かって普通に歩いてくる。
少女は藤堂平助の姿を不思議そうに見た。
藤堂平助は少女の前に来ると、微笑んで話し掛ける。
「こんにちは。」
少女は藤堂平助を不思議そうに見ながらも、微笑んで話し出す。
「こんにちは。」
藤堂平助は少女に微笑んで話し出す。
「楽しんでいるところを、いきなり押しかけてしまい、申し訳ありません。私は沖田さんと同じ新撰組の者で、藤堂平助と申します。」
少女は藤堂平助に微笑んで話し出す。
「沖田様と一緒にお仕事をしている方ですよね。八番組組長さんでよろしかったでしょうか。」
藤堂平助は少女に微笑んで話し出す。
「私の事を覚えていてくれたのですね。とても嬉しいです。」
少女は藤堂平助に微笑んで話し出す。
「藤堂様とお話しした事は覚えています。沖田様からも藤堂様のお話しを聞いた事もあります。」
藤堂平助は少女を微笑んで見ている。
少女は藤堂平助に不思議そうに話し掛ける。
「お仕事の方は、大丈夫なのですか?」
藤堂平助は少女に微笑んで話し出す。
「お気遣い頂いてありがとうございます。僅かですが時間に余裕が出来ました。なので、気にしないでください。」
少女は藤堂平助を不安そうに見た。
藤堂平助は少女に微笑んで話し出す。
「美鈴様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
少女は藤堂平助に困った表情で話し出す。
「私は、藤堂様に様と呼んで頂くほどの、身分の者ではありません。」
藤堂平助は少女に微笑んで話し出す。
「では、美鈴さんとお呼びしても良いですか?」
少女は藤堂平助に微笑んで話し出す。
「はい。」
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「美鈴さんは、山南さんが亡くなられた事は、既にご存知ですか?」
少女は藤堂平助に不安そうに話し出す。
「はい。」
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「では、山南さんが切腹をして亡くなられた事は、既にご存知ですか?」
少女は藤堂平助に不安そうに話し出す。
「はい。」
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「では、山南さんの切腹の時に、沖田さんが介錯を務めた事は、既にご存知ですか?」
少女は藤堂平助に不安そうな表情のまま、小さい声で話し出す。
「はい。」
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「私は疑問に思っている事があります。美鈴さんのお考えを知りたいと思うようになりました。」
少女は藤堂平助を不安そうに見た。
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「山南さんが切腹をした当日の事になりますが、その日の新撰組の隊士達は、悲しい様子や、悩んだ様子を見せたりしていました。」
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「沖田さんは、山南さんの切腹の当日も、翌日以降も、悲しい様子をしている姿を見た事がありません。山南さんは沖田さんの事を、いつも気に掛けていました。弟のように接していました。それなのに、なぜ沖田さんの悲しい様子をしている姿を見る事が出来ないのでしょうか?」
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「私は山南さんに切腹をして欲しくなかった。沖田さんも私と同じ考えだと思っていました。でも、沖田さんが悩んでいる姿や悲しんでいる姿を、見る事はありません。沖田さんも武士です。一々悩む事がないのかも知れません。私は山南さんに何としてでも生きていて欲しかった。今でもこの思いは変わりません。」
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「沖田さんは、今回の件を、どの様に考えているのでしょうか?」
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「美鈴さんは、沖田さんの悩んでいる姿や悲しんでいる姿を、見た事はありませんか?」
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「私は、いつも明るい沖田さんが、何を考えているのか、知りたいと思い続けています。」
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「沖田さんは、近藤さんや土方さんと、親しくしています。山南さんは最期の方は、近藤さんや土方さんと意見が合わなくて、組の中で居場所が無くて居心地が悪そうでした。三人の仲は、山南さんの最期の方には、完全におかしくなっていたようです。沖田さんも山南さんの事は、途中からどうでも良くなっていたのでしょうか? だから山南さんが亡くなっても、毎日明るく過ごしているのでしょうか?」
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助は少女に真剣な表情で話し出す。
「私は山南さんの辛い立場を、少しは理解を出来ていると思っていました。でも、何も理解していませんでした。私は、山南さんが新撰組を抜ける前に、何か出来る事はなかったのかと、後悔しています。沖田さんは山南さんと親しくしていたのに、本当に何も気が付かなかったのでしょうか? 後悔もしていないのでしょうか?」
少女は藤堂平助に不安そうに話し出す。
「私は、沖田様から詳しいお話しを、何も聞いておりません。藤堂様のご希望に添えるお返事は、出来そうにありません。申し訳ありません。」
藤堂平助は少女を真剣な表情で見ている。
少女は藤堂平助に不安そうに頭を下げた。
藤堂平助は少女に微笑んで話し出す。
「美鈴さん。頭を上げてください。」
少女は顔を上げると、藤堂平助を不安そうに見た。
藤堂平助は少女に微笑んで話し出す。
「楽しんでいるところにお邪魔してしまい、ご迷惑をお掛けしました。私はこれで失礼させて頂きます。」
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助は少女に微笑んで軽く礼をすると、直ぐにその場から居なくなった。
少女は藤堂平助の姿が見えなくなると、辛そうに軽く息を吐いた。
視線の中に赤紫色の萩の花が見えた。
理由がわからないが、赤紫色の萩の花から視線を外す事が出来ない。
少女は辛そうな様子で、地面に座り込んでしまった。
藤堂平助と少女が話しをしているのと、ちょうど同じ頃。
沖田総司と良く一緒に遊んでいる子供達が、萩を見ながら楽しそうに話しをしていた。
一人の子供が前の方向を指すと、他の子供達に心配そうに話し出す。
「ねぇ、みんな。お姉ちゃんと一緒に居る人は、総司お兄ちゃんの仕事の仲間の人だよね。」
別な子供が指している方向を見ながら、話し掛けてきた子供に普通に話し出す。
「総司お兄ちゃんと一緒に仕事をしている、平助という名前のお兄ちゃんだと思う。」
別な子供が他の子供達に心配そうに話し出す。
「お姉ちゃん。困っているみたいだね。辛そうに見えるよ。大丈夫かな?」
子供達は藤堂平助と少女の様子を、心配そうに見始めた。
藤堂平助は少女のもとから歩きながら去っていった。
少女は藤堂平助を不安そうに見ている。
藤堂平助の姿は見えなくなった。
少女が今にも倒れそうな様子になった。
子供達は少女のもとへ慌てた様子で走っていった。
少女は辛そうに地面に座り込んでいる。
子供達は少女の前に心配そうにやってきた。
少女は子供達を見る事なく、辛そうに地面に座り込んでいる。
子供達は少女に心配そうに話し掛ける。
「お姉ちゃん。大丈夫?」
少女は子供達を見る事なく、辛そうに地面に座り込んだまま、小さく頷いた。
何人かの子供達が、どこかへと走って居なくなった。
ここは京都の町のとある場所。
沖田総司は厳しい表情で、一番組の隊士達と共に、京の町を歩いている。
子供達は沖田総司を見つけた。
沖田総司の周りには、他の隊士達も一緒に居る。
町中のため、たくさんの人達が往来している。
沖田総司に直ぐに話し掛ける訳にはいかない。
子供達は沖田総司と距離を置きながら、話し掛ける機会を待つ事にした。
沖田総司は任務中のために、話し掛ける機会は簡単には訪れない。
子供達は沖田総司を困った様子で見始めた。
沖田総司は自分に向けられた強い視線を感じた。
強い視線ではあるが、危険は感じない。
何かを訴えたいのか、必死さを感じる視線に思えた。
沖田総司は視線の感じる方向を厳しい表情で見た。
沖田総司の視線の先に、子供達の姿が見えた。
子供達は沖田総司を困った表情で見ている。
沖田総司は直ぐに辺りの様子を確認した。
危険な事が起こる様子は感じられない。
怪しい気配も感じない。
黙って立ち止まると、一番組の隊士達を見た。
一番組の隊士達も沖田総司に続いて立ち止った。
沖田総司は一番組の隊士達に何かを話しかけ始めた。
子供達は沖田総司と一番組の隊士達の姿を、少し離れた場所から困った様子で見ている。
一番組の隊士達は沖田総司を残して歩き出した。
沖田総司は子供達の居る方向に向かって、一人で歩き出した。
沖田総司は子供達の前に来た。
子供達は沖田総司を困った表情で黙って見ている。
沖田総司は子供達に微笑んで話か掛ける。
「何かあったのかな?」
子供達は沖田総司に心配そうに話し出す。
「お姉ちゃんが、総司お兄ちゃんと一緒に仕事をしている人と、話しをしていたんだ。その人が居なくなったら、急に辛そうにしゃがみ込んだんだ。」
沖田総司は子供達に心配そうに話し出す。
「彼女の居る場所に、直ぐに案内してくれるかな?」
子供達は沖田総司を見ながら心配そうに頷いた。
沖田総司と子供達は、少女の居る場所へと急いで向かった。
はじめに
後編
後書き
目次
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